見出し画像

【#6】人生を変えるような映画は素晴らしく、その言葉を直に使う野崎まどは性格が悪い【〔映〕アムリタ】

 HELLO WORLD面白かったねー!

画像1

 まるで「夏は天気の子、秋はHELLO WORLDだよね!」みたいな、デートムービーのような面をしながら宣伝を続けていたものの、これをデートで見たら後半の方「?」が浮かび続けてデートどころではなくなりそうな感じの映画ではあったけれども、まあ青春アトラクションSFムービーではあるので、それはつまり実質天気の子で、ということはHELLO WORLDもデートムービーだと言って過言ではないだろう。彼女が背景とエンドロールを見て「うっは、早川書房の本がいっぱいじゃーん!」って爆笑したり「『正解するカド』とか『リヴィジョンズ』の時は今が布教のチャンスだと言わんばかりにアニメとは特に関係のない(ジャンルが同じではあるけどね!)短編を集めたアンソロジーは編まないのかな」とか言いだす彼女だったらいいな!

 HELLO WORLDの脚本は皆大好き野崎まど。最近は「正解するカド」でテレビアニメの脚本をしていたりしたけれども、今回はアニメ映画の脚本だ。宣伝と裏腹に、謎の圧を伴って存在していた『脚本/野崎まど』の文字に、なんとなく察した人も多いのではないだろうか。僕もそうだった。映画は一行さんが「やってやりました」って顔してて可愛いなあと思ったらその背後から巨大な野崎まどが現れて満面の笑みで「やってやりました!」って言ってるような映画だったな。やってやりましたじゃあないわ! 面白かったからいいけど!!

 こんな風に。
 「野崎まど」という作家は説明することがすごく簡単な作家だ。「野崎まど」ってどんな作家かと聞かれたら「野崎まどだよ」って答えたらいいのである。まるでメフィスト作家みたいな扱いではあるが、電撃小説大賞〈メディアワークス文庫賞〉出身である。
 小説紹介Vがそんなことを言ったら「お前ちゃんと説明しろよ」と怒られるものだけれども、僕は本読みVだ。ちゃんと説明する義理はない。

 ……いや怒られるので説明をしよう。
 野崎まどは東京都墨田区産まれ。昭和22年に当時の向島区と本所区が合併する形で誕生した*。
 *墨田区が

 これは野崎まどデビュー作の「著者紹介欄」なんだが、すごいよな。一番初めの著者紹介欄でよくもまあ、こんなふざけてるよなって。心臓鋼かよって思っちゃう。ちなみに僕の本体はふざけようとしたけどめっちゃ面白くなかった。
 これだけを語ると野崎まどとはコメディ色の強い人なのではないかと思われかねないのだけれども――あながち間違いではないのかもしれないけれども――コメディな人だと言うと、ちょっと違うって感じがある。
 野崎まどは青春を書くのが得意な人だ。最悪を書くのが得意な人だ。突飛を書くのが好きそうな人だ。猫を撮ろうとしているけど撮れない写真家の話で、猫が写っていない写真をひたすら並べて「小説です!」ってやってくる人だ。まあ、つまり。やばい人だ。

 僕らは今、恋愛の喜劇を見せられている。頭はそう理解しているんだが実はそれは脳みそに直接流し込まれたイチゴジャムが見せる幻覚だった。そんな感じの人だと思ってもらえたら幸いだ。幸いじゃあねえ。

 今回はそんな野崎まどの映画が出たので、映画の小説を紹介するとしよう。

画像2

野崎まど。〔映〕アムリタ。

画像3

 こっちは新装版。
 映画が出たり、アニメが始まったりしたので新装版が発売されている。
 個人的な意見を言うと旧版の方が好きかな。新装版はシンプルな見た目にしてるんだけど、旧版のタイトルの見せ方とかの方が結構好みっていうか。

(うつぶせくんは旧版の方を持っているので、ページ数などは旧版準拠となる。ゆえに引用のページ数が新装版持っている人とズレてしまう可能性もあるので注意だ)

 サークル棟に来てみると、誰かがうどん玉を投げ、下でそれを必死に撮影していた。見事なモラトリアムの体現に心癒やされる。(P6)

  アムリタは映画をつくる話だ。なので舞台は芸術大学だ。

「何見てたの?」
「『僕を殺す恋』ですって」
 僕はパッケージを見せた。
「男が男を好きになってずっと悩んでました。二時間」
「あー好きそう」(P.14)

 主人公である二見遭一は男が男を好きになって二時間ずっと悩んでるだけの映画が好きそうなやつ。芸術大学にわりといそうなタイプ(すごく偏見)
 そんな二見は(見た目も映画撮影技術も)魅力的な先輩、画素はこびに自主制作映画の制作を持ちかけられる。僕はずっと彼女のことを画素《がそ》さんって読んでたけど実際は画素《かくす》さんだ。映画監督は噂の天才後輩、最原最早《さいはらもはや》だ。


「役者の経験あるんですか?」
「ありません」
「ありませんって……大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ。ご覧になりますか?」
(中略)
「ええ。じゃあ見せてください」
 すると彼女は服の胸元を引っ張って下着を見せてくれた。
「なぜ下着を見せる!」
 突然のことに驚いて、つい綺麗につっこんでしまった。
 つっこんだ後でドキドキしてきた……えぇ……なにこの子……。
「なぜか……と言いますと……。今、二見さんに見せてくださいと言われて、当然演技を見せてほしいと言われたのだなぁと思いました。ですから、ここでもし下着を見せたら二見さんはとても驚かれると思ったので、そう思ったら居ても立ってもいられず……」(P36~37)
「開けてみてください」
 封を破ると、中から折りたたんだ紙が出てきた。
 開くと、”トマト”と書いてあった。
「トマトってなんですか、最原さん」
 僕が聞くと、彼女は不敵に笑った。
「兼森さんの質問を事前に予測して答えを用意しているという手品に失敗したんです」
「だったらしまっとけ!」(P46)
「それで最原さんは、新しいものってなんだと思う?」兼森さんは再び聞いた。
「多分フェムトよりもちょっと小さいサイズ、具体的には十のマイナス十八乗倍くらいの大きさだと推測できるものですね」
「アトらしいものだな!」
 僕は脳をフル回転させて必死につっこんだ。人生で一番頭を使ったかもしれない。(P47)
「最原さん、何読んでるんです?」
「HUNTER×HUNTERの三八巻です」
「出てない!」(P65)

 まだ出てないな……(最新刊36巻)
 まあ、なんていうか。ノリは軽いな。僕が好きなメディアワークス文庫だ。そうそう、そういうのでいいんだよ。(好きな類のメディアワークス文庫を置きながら)

画像4

 最原最早は天才と噂されているとはいえ、まだまだ大学一年生。まあ、若干の過大評価も含まれているだろうと思いながらも、二見は絵コンテを見た。そして一ページ半ぐらいの白紙というデカデカとした余韻をもって――二見は五十六時間も絵コンテを眺めていた。絵コンテに没入していた。彼女は、本物だった。物語に人を取りこむ天才――。
 とまあ、話の内容を語りすぎると読んだときの面白みが減るからここまでにしておくけれども、まず言えることは一つだな。

 映画の天才ってそういうことじゃあねえよ!?

 確かに画面から目を離すことができなくなってその世界にのめり込める映画っていうのは良い映画だけれども、あくまでも自然だからな?『良い映画だから→のめり込める』のであって『のめり込める→良い映画』ではないからな? 必要十分条件とかあるから!! 本当に大丈夫? OBEYとか書かれてない? シャブリミナルとかじゃない? って読者こと僕は思うものの、とうの登場人物たちはこれは凄いモノかもしれない。とワクワクしながら制作を始める。思考回路前向き人間かこいつら。

 この小説は映画の小説だ。映画というのは不思議な媒体で、家のテレビでも見れるけれども、本領を発揮するのはやはり映画館で見るときだろう。暗い――映画以外の情報を一切合切隠した部屋の中で己が存在を主張するかのように巨大な光と大音量で情報の塊をまき散らす。騒がしくない、静かな映画ですら、映画館では騒がしい。静かであることを大音量で知らしめる。そんなものを一時間半、二時間半。三時間だって椅子に固定されて見せつけられる。おそらく思想というものをひたすら見せつけて刷り込ませるには一番効率的なのではなかろうか。娯楽だからそうは見えないけれども、本当はドキュメンタリーとか思想垂れ流し映像の方が媒体としては合ってるんじゃあないのか? 正しいことが大画面で僕らに迫り、じりじりと脳みそを浸食していくのだ! まあ、そんなの観てる絵面はすげえ恐怖だけど。青春小説の面してる小説の紹介で話すことではないような気もするけれども。いや、面してるだけだしいいか。あるいは。その上でも青春小説のように振る舞える小説だからいいか。だ。
 ともかく、映画は情報の塊であり、思想の塊だ。だからこそ映画は素晴らしく、だからこそ映画は面白く、だからこそ映画は人生を変える。
 人生を変える映画に出会えたら、それは素晴らしい人生ではなかろうか?

 そんなわけで『〔映〕アムリタ』
 青春面してる嘘つき、あるいは最終的に青春していればいいのでは? みたいな小説が大好きなやつ。HELLO WORLDが面白かったから野崎まど作品を読んでみたいなあって思ってるやつにオススメだ。野崎まど劇場はやめておけ。面白いけどHELLO WORLD観た後に読むと野崎まどに混乱するから。

 ああ。あと、これは注意事項なのだがメディアワークス文庫から出ている〔映〕アムリタから『2』までの六作は出来れば刊行順に読むことをオススメするぞ。『2』から読むのはダメだ。型月作品を全く知らないままカーニバル・ファンタズムを観るようなもんだ。だから読むなら刊行順! パーフェクトフレンドから読んでしまってオチを十全に楽しめなかった僕との約束だ!

 じゃあ今回はこんな感じで。
 ああ、今回から試験的に有料のやつを使ってみるぞ。もちろん、紹介部分はタダだ。課金をしたところで読めるのは「お金ありがと!」とちょっとした一言だけだ。課金をするだけ損なのでそれよりもアムリタを買って

 それじゃ、またなー。












死なない生徒殺人事件、絶対旧装版の方がいいと僕は思うんだが!?


画像5


ここから先は

183字 / 1画像

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?