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【妄想エッセイ】の古民家のモデルのゲストハウスは、多分人生を終えるときの走馬灯にも出てくるだろう

ここ数年、ずっと「いつか古民家に住みたい」と思い続けている。
耐震基準がどうとか、建付けが悪いとか、とにかく寒くて寒くて寒いとか、リノベーションなんてしたら新築よりお金がかかるとか、住むのに向かない理由を探せばきりがないけれど、何を言われても好きなのだ。懐かしいあの感じが。外の世界との境目が曖昧で、家にいても自然と一体となっているような、あの感じが。
でもやっぱりそんなことを言うと変な人認定されるのではないか、住めない理由を並べたてられて凹むんじゃないか(多分9割5分被害妄想だけれども)、というような思いから、この夢を夫以外の人に語ることはあまりない。でもやっぱり(2回目)住みたくて住みたくて諦める気にはなれず、先日書いた妄想エッセイで、古民家暮らしを思う存分妄想して楽しませてもらった。

私が住みたい古民家には、モデルがある。
それが、私たち夫婦にとって大切な思い出が詰まったこの宿。



長野県北部、新潟県との境目にある小さな村「小谷村」にある「古民家noie梢乃雪」
初めて訪れたのは社会人になって初めての夏。私はいわゆる田舎のローカル線が大好きで、そのときもふらりと鉄道に乗って一人旅に出ていた。JR大糸線に乗りたいと思って旅程を組み、その辺りで宿泊しようと宿を探したところ、HPで見た雰囲気がとっても素敵ですぐに予約を入れた。実際はかなり公共交通機関が不便な地域で、最寄りというには駅からだいぶ遠かったけれど。
訪れたのはお盆真っ只中で、小さな宿には十分すぎるくらい旅人たちが集まって賑やかだった。同年代、同性の旅人もいて、すぐに意気投合し、ずっと喋っていた覚えがある。これまでの旅のこと、仕事のこと、自分の好きなこと。そういえば当時私は彼氏もおらず、そういう浮いた話題に対しての受け答えがしどろもどろなのを永遠といじられていたことを思い出した。若かったなぁ。とにかく旅人が個性豊かで、食事がおいしくて、宿主が寡黙なのにめちゃくちゃ面白くて笑、あっという間の2連泊だった。
その後、当時宿のヘルパーをしていた方から宿でのイベントに誘われ、大雪が降る時期に再訪した。空も、川も、緑もすべてが色鮮やかで眩しかった真夏の景色とは打って変わって、しんしんと雪が降るモノトーンに包まれた世界も、なんだか凛としてとても素敵だった。室内でもコートが脱げないような環境だったけれど、やっぱり旅人たちとお酒を酌み交わし、語らう空間はあたたかかった。
宿と出会って2年ほどは一人で訪れていたけれど、その後は一緒に行く相手もできた。それが、今の夫である。
私と夫は、梢乃雪ではないけれど比較的近くの別のゲストハウスで知り合い、交際をする前からすでにお互い梢乃雪には何回か行っていたから、もちろん二人で何回でも訪れた。宿主としては「単独で来ていた二人が別のところで出会い、いつの間にか付き合っていて一緒に来るようになっていた」といったところだろうか。(でも、実際宿にいるときはそれぞれ違うところに座って別の仲間と盛り上がっていることも多かったから、周囲からは少し面白がられていた。)

そんな思い出すだけでも嬉しくなるような、心がほかほかになるような、梢乃雪での思い出全てが、その古民家で生まれている。
薄暗くて広い玄関、家全体に漂う、煤けたような香ばしい香り、何世代にも渡る人々の生き様を見てきた、威厳ある佇まい。広い縁側の先には山と川、緑の景色が広がるのみで、耳を澄ませると川が流れる音と生き物たちの声が聞こえる。いつからか、私は「こんな家に住みたい」と思うようになっていた。
そして、忘れもしない5年半ほど前の秋。稲刈りの季節に、大好きな、私の人生におけるひとつの憧れとも言えるようなその空間で、当時の人生の絶頂を迎えたことも大切な思い出である。
(詳細は最下部のnote参照。これ、めっちゃ長いのでもし読んでもらえるなら後半中心に。。)

この宿に出会えて、本当によかった。
宣言通り、息子は0歳のとき、この宿でゲストハウスデビューを果たした。1分に1回は何かをしでかし、大人の予想の斜め上の行動をする息子には、すべてを受け入れてくれるおおらかな空気が漂うこの古民家の宿がとても合っていたようだ。場所見知りなんてつゆ知らず、着いた端からいろんな部屋を探検して楽しんでいた。次に訪れた時、彼にこの宿はどんな風に映るだろう。今から楽しみである。
私にとっても、夫にとっても、息子にとっても、もしまだ見ぬ未来に生まれる子がいるとしたらその子にとっても、この宿は大切な大切な場所である。私が人生を終えるときは、ここで過ごしたあたたかくて輝かしい思い出の数々が、きっと蘇ってくるのだろう。そのときまで、思い出を紡いでいきたい。そして、いつかこんな家に住むのが、私の夢だ。

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