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変化・成長の伴走者

人や組織はどのようにして変化・成長していくのでしょうか。

一般社会に身を置いていると、多くの人が、人や組織の「変革」や「成長」、「生産性」や「なにかを高めていくこと」を求めていることを感じます。「マインドを醸成」してみたり、「心理的安全性」を求めてみたり、「人材開発」「イネーブルメント」をやってみたり、自己成長、経験学習、組織開発…すべては前に進むこと、より高みを目指して変わっていくこと、変えていくことが目標になっています。

ところで、私の興味関心の核は、人間としての相談者に、人間としてのカウンセラーが関わることで変化・成長していくという現象そのものにあります。

特にカウンセリングにおいて、語られる言葉の内容だけでなく、声の出し方やトーン、表情や姿勢、身振り手振りなどの感情や情緒を媒介するコミュニケーションの意義や仕組み、効果について長らく考えてきました。

それは人がなかなか意識しづらい領域で、時間とともに流れていくもので記録もとりづらく、面接室のその場の「いま、ここ」にしかない対話のやり取りや主観的な感覚そのものがテーマになります。こうすればこうなる、といったシンプルな因果関係では考え尽くせない心の深い領域についての研究です。

相談に来てくれた多くの人が、話を聞くことで心を変化・成長させていくさまを、そばで見てきました。カウンセラーとしては、相手を変えようと努力するよりも、相手を理解し受け止めようとしたり、本人の「変わろうとする力」を蓄えようとしたり、「変わってしまう不安」を乗り越えられるようにしたりと、本人の生きてきたストーリーや選択についていくことをしてきました。

カウンセリングに訪れる人は、「変わりたい・成長したい」というよりも、悩みや課題から解放されたい、助けてほしいというニーズが中心になりますが、課題をクリアしたいという意味では、一般企業で既述のように求められている多くの状況と近い部分もあると思っています。理由はなんであれ、人や組織は変化・成長をせまられ、何らかの方法を模索し、実行していくのだと思います。

知識や技術の習得による変化は、誰もが手頃に経験しているものではないかと思います。新しい知識やスキルを身につけたことで、出来ることが増えて成長を自覚できた、といった経験は誰しも持っているでしょう。しかし、情緒やマインドは、なかなか知識や技術では変革しづらいものです。

それは心の無自覚で深いところが関係する現象であり、根っこには幼少期の経験や身体に刻み込まれた習慣があります。自覚的なコントロールによる変化がしづらい領域です。自分自身の特徴や偏りに気づいてすらいない人がほとんどだと思います。

人は自覚できる言葉や知識を覚えるずっとまえから、非言語的・前言語的な、プリミティブなコミュニケーションの仕方を身体で無自覚に理解しています。そこには、絶えず人間同士の関係性が関わります。赤ん坊のころ、言葉や知識を持っていない時代には、親に抱かれることで安心感を身につけます。幼少期には家族や友達との関わりの中で、他者の存在、どんなときに傷つき、どんなときに喜ぶのかを学びます。これらは、わざわざ言葉にされ知識として理解・認識するものではなく、その場にしかない対話ややり取りの中で少しづつ身体で「身につける」ものです。

このような性質の知は、多くの場合、あとの時代になって「振り返る」ことで気づき、言葉になり、一定の意味を与えられることになります。「あの時のこの経験が、自分のこういうところにつながっている」「この出来事が私をこう変化させた」と、人は過去の経験や対話に意味を見出し、変化を振り返ります。

僕は、人も組織も変革や成長という言葉に捉われるあまり、上記の事実を見失いがちなのではないかと思います。「エビデンスや効果が見られる保証があるのか」「このサービスでどれぐらいの数値的な成果が(変化が)でてるのか」。ビジネスはお金が関わるため、変化や成長の期待値が高い選択肢を常に選ぶことを求められます。そこでは「後で振り返ったらこうだったよね」という経験による学びは説得力をもたず、明確な意識的な知識・技術の習得による変化が問題にされるわけです。

しかし人も組織も、大きな変化をしていくためには、「経験し、対話する」しかありません。経験し、自ら考えて振り返る・対話することで、経験に意味が与えられます。ビジネスにとってより良い変化を生み出すためには、このトライアンドエラーの質が重要になってくるわけです。だからこそ、変化・成長のために「まずやってみる」「チャレンジする」ことも求められるのだと思います。そしてその経験の渦中に感じたことを言葉にし、自己や他者と対話することで、変化が促進されていきます。

変化や成長は、誰かに知識や技術を与えられるだけでは成し得ません。自ら考え、経験し、振り返ることが大切です。ただし、振り返ることはつらく厳しい営みでもあります。あの経験は何だったのか、あの感情はどこからくるのか、なぜうまくいかないのか、うまくいくのか。

自分自身と対話することは、相当なエネルギーを使います。ひとりだけでは決して気付けないこともたくさんあります。そのために、振り返りを一緒に寄り添って取り組んでくれる、見ていてくれる伴走者が必要なのです。振り返りながら、過去の経験やその場のいまここの感情や感覚を言葉にして、身体に知を蓄積し、更新していく。そうしたことの積み重ねにより、変わりづらい情緒的な部分、深い部分、組織のマインドも少しずつ変わっていきます。

人や組織が変わらない、どうしたらいいか悩んでいる、という人は、まずは一緒に見守ってくれる伴走者を探し、勇気を出して話して対話してみてください。「意味がない」と感じるかもしれませんが、それ自体は自然なことです。人はいろんな理由をつけて、自分との対話を避けようとするものです。

意味を見出すために対話を続けられる、逃げたい気持ちを一緒に抱えながら考えてくれるような伴走者を見つけて、対話を続けてみてください。その先に変化・成長の兆しが見えるかもしれません。

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