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誰よりも遅い!キングオブコント批評

友人が先週「今年のキングオブコントはつまらんかった」と言ってたので逆に気になってしまった私は、昨日の夜、グレープフルーツシードルを片手にTVerで配信されているそれを見ることにした。

夜中だったのもあって後半すごく眠かったらしく、優勝者が決まった瞬間に意識が飛んで寝落ちしてしまったが、とりあえず全部ネタはしっかり見たので誰よりも遅い寸評をしてみようと思う。


はじめに: 審査員が優しすぎる

2021年、審査員が変わってからのキングオブコントの特徴として「採点が甘い」というのがある。

それより数年前までのキングオブコントの審査員は松本人志、バナナマンの2人、さまぁ〜ずの2人 (敬称略)。

バナナマンは「奇跡体験!アンビリバボー」「バナナマンのせっかくグルメ!!」「YOUは何しに日本へ?」など、この頃から冠番組をいくつも持っていて、年齢は40代とはいえ大御所感がある。さまぁ〜ずは冠番組こそ少ないが、二人とも50代で、ネタをする側から見れば大先輩の立ち位置

一方新生KOCの審査員は松本人志、かまいたち山内、バイきんぐ小峠、ロバート秋山、東京03飯塚 (敬称略)。

みなさんどれも好きな芸人さんばかりだが、松本さんが1つ抜けていて、他は司会業や大御所の位置を十分に確立していないイメージ。それもあってか、M-1の大御所がやるような大立ち回りができていないように見える (M-1を引き合いに出すのはナンセンスかもしれないけれど)。

かまいたちの山内さんなんて、今回優勝のサルゴリラに芸歴は勝るが年齢としては下。ある程度世間体を気にすることがあったかもしれない。

まあそんなわけで4人の点数が高めなので、松本さんもそれに飲まれてか、空気を読んでか、全体的に点数が上がっている。2020年までは80点代を何度もつけていたのに2021年からは1度も80点代をつけていない

5人全員で見ても80点代をつけることは稀で、調べてみると一番低くても89点。下に点数が振れないので平均点が大幅に上がり、この3年で平均90点を割ったコント師はいないほか、今年は2〜9位までの点差が10点以内にギッチリ収まっている。

審査員は口を揃えて「コントのレベルが上がってる」と言うけれど、たった2、3年でそこまで急激に向上することってあるんだろうか。

何か別の力が働いているような気が、個人的にはしてしまう。


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ファーストステージ寸評

せっかくなので1組ずつ批評していきたい。この章と、ファイナルステージの章について、ファイナリストのそれぞれの名前は敬称略とさせていただくことを先にことわっておく。

多少個人的な感覚が混ざるかもしれないが、偏見はないように努める。

1組目 カゲヤマ

去年のM-1の準決勝に残っていたからコンビ名とそれぞれの顔は知っていたが、コント前の煽りのとおり、良くも悪くもインパクトゴリ押し、という感じ。

大声、男性の半裸、「叱られる」というシチュエーション。単体でも十分な火力をもつ爆弾を3つ備えて会場に風穴を空けた。

漫才と異なりセットの設営を要することから芸人があらかじめ出順を知らされるキングオブコント。1組目になったがために選んだネタだったとしたら、相当の策士と言っていい。

初手で男の生尻が出てくるのは予想外だったが、大まかな展開としては尻見えの一連の流れを2回繰り返すだけ、というわりと単純な構造。それでも点数が伸びたのはやはりインパクトの勝利か。

2組目 ニッポンの社長

4年連続で決勝出場の常連コンビ。去年は10位に甘んじたが、今回は「楽しくネタをやる」との煽りから見えるように好きにやりたいだけやってるというイメージだった。

構成は単純だが切り口がありそうでなかったいい塩梅。カゲヤマの高得点で場も温まっていたので、新しい武器が出るたびに爆笑を掻っ攫っていた。

ただ個人的には、ちょっと棒読み感というか、演技下手感が抜けないよな、と常々思う。ケツは「頑張って演技をしている」感があるし、辻はどこか気の抜けた感じが否めない。それも個性、コンビの色と言われたらその通りかもしれないが、もうちょっとシリアスに、情熱的にやってもよかったのでは。

あと、小さいことだけど、グレネードの反応が若干遅れたのは痛かったかな。音響とスローイングと爆撃のリアクション、3つをうまく噛み合わせるのはやはり難しい。コントって芸人だけではなくて、暗転・明転や音響といったような、裏方の力も問われるから難しいよなと感じる。

3組目 や団

去年3位のや団。「深夜の馬鹿力」で紹介があったのでなんとなく流れを知っていたが、伊集院さんの言っていたとおり、かなりの努力が垣間見えるコントだったと思う。

意表をついてくるような流れで、「こんな大胆なコントもできますよ」と言われているような感じ。ガラスの灰皿と、置くときのその回転の度合いが肝になってくる漫才だが、本人らが「40点」と言っていたように個人的には全体的に少し長すぎた気がする。多少の沈黙は爆笑に変わるけれど、あまりに長いと逆効果。

ギャンブルネタを選んだ勇気は評価したいが、結果的には去年の彼らを超えられないことになってしまった。ネタ、演技共に個人的には好きなので来年も見たい。

4組目 蛙亭

唯一の男女コンビ。とはいえこれはそこまでアドバンテージにはならない。コントでは男性がカツラをかぶって女性の演技をすることも珍しくないし、今回もラブレターズがきちんとそれをやっていた (まだ紹介してないけど)。

今年のネタはありそうな日常を描いたもの。今回で言えばニッ社のような明らかに「それおかしいだろ」というような題材なら、そのインパクトである程度演技力は大目に見てもらえるが、日常を切り取る以上いかに普通を演じられるかの力が問われるものだったと思う。

そのことを考慮すると中野の演技に若干の不安が残ったように感じる。これは個人的な感覚かもしれないが、自然体でいられているイワクラ (例えば中野が寿司を一人で食べるものだと思っていたシーンで、中野に怒られたときの謝罪の感じなど) に対し、やはりどこか「演じてる」感があった。

最後の展開も気になった。オチも大事だが、ちょっと無理やり感があったというか。見た目のインパクトと面白さはたしかにあったが、前の3組に比べると強引さが否めなかった。

5組目 ジグザグジギー

真面目な入りとは裏腹に、大いに驚かされるコントだった。本人らにとっては秘密兵器だったのかもしれないが、個人的には「禁止カード」を使ったと言ったほうが正しいような気がする。

審査員に松本さんがいる中で松本さんの真似をする (しかも若干腐すような感じで) というのは、やる方もやられる方も相当心を乱されたに違いない。あれだけ本気でやった度胸は評価したいけれど、あまりこれから仲良くはなれなさそうだな、と傍から見ていて感じた。

飯塚さんの「(IPPONグランプリのナレーションのような声が入ってくるのは) 普通に考えておかしい」というのも頷ける。コントというよりモノマネ芸人のおふざけネタに近い印象。モノマネではなくてあるあるをもっと入れてほしかった。

6組目 ゼンモンキー

全くの初見だった。審査員からの評価は総じて悪かったが、個人的にはかなり面白かったと思う。少なくともぶっちぎりの最下位だったとは思わない。

というのは、3人ともなかなかに演技が上手いからだ。芸歴5年もいっていないのにこれだけ役をおとせるというのはかなりの努力をしたと見える。真ん中のメガネ男の演技も、実際にいそうでなかなかいいと思っていたが、浜田さんの前にやってきたあたりの受け応えを見ると、どうやら素らしい。そこはちょっと残念だった。

「流れが予想できた」と誰かが言っていたが、お決まりの流れがあってもいいと思うし、もう少し上がり調子の展開のネタが書けたら見る者を虜にできたかもしれない。松本さんが「また見たい」と言っていたとおり、まだまだ伸びしろがあるように感じる。応援したいトリオ。

7組目 隣人

伊集院さんがラジオで「俺は好きだったよ」と粒立てて言っていたから気になっていたが、なるほどそういうことか。着物を着て座布団を持って、という時点で答え合わせができた感じがした。

2人のうち1人を猿にしてしまうという斬新なネタ。当然猿は猿語しか喋れないのでほとんど1人喋り。意思の疎通ができたあたりで爆笑を取れてはいたが、あまり賞レース向きではないのかな、と個人的には思った。

キングオブコントに出ることの意義って、もちろんネタを知ってもらうこともあるけれど、自分の演技のうまさや演技の中で見える人間性、表情なんかを世間に伝えてその後の仕事に繋げていく、というのもあると思う。最近でもハナコの岡部さんとか、それきっかけで売れた芸人もいたりする。そういった意味では中村遊直が猿のマスクで出たことは、かなり痛手だったんじゃないかと思ってしまった。

8組目 ファイヤーサンダー

名前は聞いたことがあったけれどネタを見るのは初めてだった。

全体の構成がおそらく今大会で1番きれいだったと思う。本人ではないというつかみが抜群によかったし、その後も少しずつ全貌が明らかになってくるような流れで見ていて心地が良かった。最終4位に食い込んだのも完成度の高さからだろう。

ただ少し厳しいことを言うなら、もう少し見たかった感がある。特にオチが落ちていない感じがしてならなかった。時間の制限などあるのかもしれないが、これだけきれいに流れを作っているんだからきれいに落とすこともできたんじゃないかと思う。惜しかった。

9組目 サルゴリラ

申し訳ないけれど名前すら知らなかった。霜降りのラジオで名前を間違えられていたことだけしか前情報になかっただけに、優勝と聞いて驚いた。穿った目で見ることがないようにと、謎の気合いが入った。

そんな心配をよそに、優勝したことを知っていてもやはり一つ抜けて面白い。どんどん様子がおかしくなっていくきれいな展開で、最後の「靴下にんじん」には思わず声をあげて笑ってしまった。

この面白さが生まれるのは、やはりマジシャン側に巧さがあるからだろう。絶妙に胡散臭い語り口調、スピードや調子も変えながら自分の世界を作り出している。そういう意味では赤羽の演技のほうも見てみたいと思うが、完全にパワーバランスが一方に偏っているネタなのでやむをえない。

10組目 ラブレターズ

名前は知っていたがネタは初めてみた。両者上手いとは思ったが、少し気になったところがある。

それが、途中のゴタゴタしたときの音響。これに関してはラブレターズの両人自身とは直接関係ないかもしれないが、聞き心地が良くないと感じるタイミングがあった。ドカンドカンと大きな音を出しているネタだから仕方がない、というのとはまた別で、話が入ってこないような、そんな感覚だった。

ネタ自体はどこか狂気に溢れていて、個性を出せていたんじゃないかと思う。が、やはりサルゴリラを見た後だと、爆発力の高さでは及ばなかったか。「出る順番が違えば」という審査員評も納得だった。


▶︎next: ファイナルステージ寸評

ファイナルステージ寸評

今年は1組目と2組目が共にファイナルステージに残るという異例の展開だった。ざっとネットで調べたところ「賞レースの序盤の見方が変わるか」とか言っている記事があったけれど、審査員を務めた東京03飯塚さんやM-1の中川家さんが1組目で優勝しているように、本当の実力派は順番に関係なく一番をとっている。

結局は「1組目に選ばれたら、場を大いに沸かせるインパクト重視のネタをしよう」とコント師が思ったくらいだろう。M-1のファイナリストがトップバッター用ネタを用意する、なんてなったらそれこそ興味深いが、そこまでするほどの余裕はおそらくない。

ざっと3組、ファーストステージとの関係も意識しながら批評していきたい。

1組目 ニッポンの社長

ファーストステージと同様、切り口が唯一無二ではあると思う。が、ファイナルステージで披露するにしては少し静かすぎるような気がした。特に序盤、臓器を出して置いていくだけの時間は、イロモネアのサイレントでやってもいいような、それくらいの静かさがあった。

題材も医療を扱っている以上、少し重い感がある。
そこを割り切ってお笑いと捉えられない人間には見る権利がない、と言われればたしかにその通り。自分も大マジに批判する気はさらさらない。
ただ大会全体で見たとき、一番批判を受けそうなネタだったのは間違いない。何せ嫌悪感を抱きそうな人間の数が、他のネタとは段違いで多いので。

それから小さなことだが臓器を置くときの「コン」という音がどうしても気になってしまった。実際の臓器はもちろんそんな音がするはずがないので、作り物感を高める結果となってしまったように思う。辻もしゃべらないので沈黙が長いぶん、その音だけがよく目立った。
布など敷いて音を抑えられれば、もう少し世界観に入り込めたかもしれない。

2組目 カゲヤマ

ファーストステージと同じくインパクトで攻めるネタ。ウ○コネタをファイナルステージで出してくるとは、恐ろしい。そういうネタしか作っていないんじゃないかとすら思えてくる。優勝はしなかったけれど、この先深夜帯の番組なんかに呼ばれる可能性は大いに見えた。

個人的には「ウ○コをDNA鑑定した」というのがなかなかツボだった。DNA鑑定なんてできるのかよとも思ったし、何より机に置かれていたそれを大真面目に採取してDNA鑑定してもらいに行った上司のことを想像するだけで笑えてくる。こういうコントそのものでは描かれない部分が笑えてくるネタは、やはり強い。


と思ったがどうやらDNA抽出できるらしい。これは失敬。

3組目 サルゴリラ

カゲヤマでしっかり温まったところをうまく自分たちの流れに変えていったという印象。ファーストステージ同様児玉が無双するネタだった。赤羽の演技がこれまた見れず、少し残念。じゃないほう芸人にはならないでほしいところ。

ネタ内容は特に言うこともないが、ネタライブで「魚」と言うタイトルになりそうなことはたしか。ここまで1本の筋を押し通して、それで突っ切ってしまえるのは、やはり児玉の軽快な語り口の賜物であるように思えてくる。

ファーストステージから点数はずば抜けていたが、ファイナルステージも間違いなかった。まさしく優勝に値する、いいネタだったと思う。

改めて、優勝おめでとうございます。


▶︎next: おわりに

おわりに

自分勝手に書いてみたが、どうやら私は演技力に重きを置いてネタを見ているらしい。演技が下手だと入ってこない節があるので、「コントは面白ければ正義」派の方々とは真っ向から対立することにはなってしまうかもしれない。今後誰かとコントを見るときには気をつけたい。


長くなりましたが最後まで読んでいただきありがとうございました。

コメントお待ちしています。共感、ご指摘、お叱りなど、どんなことでも構いません。今後の参考にさせていただきます。

おわり。


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