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人の才能を邪魔しない人間とそれを可能にする環境

わたしの父親のカレー屋の2軒隣に
パン屋さんがある。
 

ここの通りは人通りが少ないので
お客さんもそれほど入っているような
雰囲気はなかった。
 

40代くらいの息子とそのお母さん(70代)そして、たまにその旦那さん(80代)をたまに見かけるくらいだった。

いつもパンを作っているのは
その息子。

たまに気が向いた時にわたしは
黒豆の入ったパンを買って食べていた。
 

たまに息子さんに話しかけても
そんな話すのが好きではなさそうな雰囲気。
 

なので、世間話程度の
必要最低限の会話だけをし
そそくさとパンをもらって
帰ってきていた。
 

パンは小振りだし
その割に値段が高いし
こんなに人通りが少ないし
特になにかを大きくアピールする
感じもないし
 

「このままで大丈夫なのかな。売る気あるのかな」

と余計な心配をしていた。

しかし、この間
 

とある若い人が多い駅前の
デパ地下の自然食を選んで集めた
集合販売のスペースにパンを出してくれないか
と、なんとスカウトされたのだ。
 

このお店はわたしが通っている時は
全然気づかなかったが、「天然酵母」を
使ったパンだけを販売していた。
 
 

だから、あんなに小振りだけど
値段が高かったのだと後で気づいた。
 

以前、わたしもりんごなどからつくった
「天然酵母」でパン作りを試みたことがあるが
 

全く小麦粉が膨らまず
焼き上がったパンはパンとは
とても呼べるものではなかった。

言うなれば

「小麦粉のかたまりを焼いて固めたもの」

しかし、その息子さんが作っている
パンはとても柔らかく弾力があった。
 

天然酵母でこれだけの柔らかさを出すのって
相当難しいはず。
 

しかし、彼は大学を卒業してから
天然酵母にこだわり、ずっとどうしたら
天然酵母で美味しいふっくらしたパンが
焼けるのか、日夜研究していたと
70代のお母さんは語っていた。
 

「自宅の冷蔵庫を開けると、
酵母を作るための容器がいっぱいになっててね〜」と

昔話を話してくれた。
 

いま、彼のパンはかなり大きな駅の近くにある人通りがとても多いスペースのいちばん目立つところに陳列されている。
 

売り上げもこの人通りの少ない
お店で売り上げていた時の何倍にもなった。
 

天然酵母はおそらく手間も掛かるだろうし
コストもそれなりに掛かるだろう。
 

でも、マーガリンや植物油脂など
の人間の体に悪いものは、断固として
使わないと彼なりの信念があった。
 

そして、そのパンを食べた人の評判を聞き
そのパン屋さんは、スカウトされたのだ。
 

このままずっと続けていたら
どうなることかと思ったけどと
お母さんは語っていたが

ある日突然なにが起こるか分からない。

息子さんもその販売所に
パンを納品するために、いままでは
いつも暇そうに店番していたのが
最近はいつも忙しそうに店の奥で
作業をしている。
 

いつもぬぼーっとしている
雰囲気の息子さんだったが
 

この前話したら
調子に乗った感じもなく
やっぱりぬぼーっとしていた。

 

たぶん、この人は
このまま欲を出さずに
いままでと変わらず、地道にやって
 

どんどんとこのパンが
多くの人に買われていくんだろうなと
予想ができた。
 

自らの信念を何年、何十年も保ちつつ
ずっとずっと天然酵母のパンの研究をしてきた彼には、物凄い量のデータの蓄積がある。
 

これは一朝一夕に
出来上がるものではない。
  

これはなにものにも変えられない価値だ。
 

そんな彼の天然酵母のパンを
今日、買ってまた食べてみた。
 

そうしたら、いままでとは
食べる思い入れが違った。
 

いま目の前にはあるものの
その裏にある膨大な背景を知って
味わうパンの味は違う体験になる。
 

彼がこれからどんどんと
成功していくのはなんとなく目に見える。

でも、なんというか
それもすごく大切なことなんだけど
わたしの中でもっと大切なことがあった。
 

それは一緒に彼と店番をしていた
お母さんの在り方。
 

ほとんど喋らず、ただただ
黙々と作業する
息子を空気のような雰囲気で
椅子に座っていたお母さんの在り方が
わたしはなんか好きだった。
 

話をしていても
いつもおっとりとしていて
自然だった。
 
  

この親子は店番としては
特に愛想がいいわけでは
全然ないけれど、なにかとても
安心する雰囲気を持っている。
 

お母さんのこの在り方が
彼に安心を与え、集中して
研究に没頭できたんだろうなと感じた。
 

ただただ、
近くにいる人の邪魔をせず
その種が勝手に開いていくのを黙って見ている。
  

それは元々、
その花が咲くのを知っているよう

だから、見ていられた。

あまり接客が良くないからと
「もっと愛想をよくしなさい」
と特に注意することもなく

いつも通りに接する

そして、息子をそのままにしておいた結果
彼のパンを焼くという才能が多くの人の目の前で、日の目を見る時が訪れる。

やはり
 

たんぽぽはたんぽぽの花を咲かせ
薔薇は薔薇の花を咲かせる。
 

トマトはトマトの実をつけ
じゃがいもはじゃがいもの実をつける。

とにかく他人が才能の邪魔をしないこと

そして

その種が十分に自らの才能をスクスクと
育つような環境を整えておくこと。
 

この2点がやはり才能を開花させるには
必要だなとこの親子を見ていてすごく感じた。
 

ほんとは研究するのが好きなタイプに
接客の愛想を良くしろと命令しても
自己否定が増すばかりで全く意味がない。
 

トマトはトマトで
じゃがいもはじゃがいも
 

人それぞれ持ってる種が元々違う。
 

どうか人の才能を自分色に染め直そうとして
邪魔したり

「俺が育ててやる」

なんて傲慢なことを考えずに
放っておいて欲しい。
  

人は適切な場所に
のびのびできる安心できる空間を
用意すれば勝手に咲く。
 

あとはそれを邪魔しないだけ。
 

この親子を見ていると
特にそれを感じた。
 

空気のようなお母さんと
人付き合いがそれほど好きではない
けれど、パンに対しては凄まじい研究心を持つ息子。
 

これからカラダにいいものを求める需要は
どんどんと増す。
 

彼のいままで培ってきた研究データが活かされる時がくる。
 

人は情熱が湧くものが全く違う。

そして、その情熱がなにに湧くのかは
本人しか知らない。
 

人が教えることはできない。
 

最も情熱の湧くこと。それが才能。
 

それをどうか邪魔しない人間と
邪魔されない環境をわたしも作っていきたいなと改めてこの親子を見ていて思った。

#才能 #情熱 #邪魔しない #安心 #研究  

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