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(うときゅういっきの「これから」 超掌編小説「奇妙な朝」 )

2021/11/9-2
(うときゅういっきの「これから」 超掌編小説「奇妙な朝」 )
墓地公園を抜けて帰宅する折に、石畳を打ち付けるほど盛んに降る雨の中で、豪勢な水量の噴水が立ち上っておりました。
「こんなに激しい雨が降って周りに水量は溢れているのに、なんで洪水の川に放水する様な噴水を止めないんだろう?」
その先を進んで、水抜きされた池の周りにぐるり巡らされた遊歩道を歩いていると、まだ子供で羽毛がぬけかわっていないのでしょうか、体全体が淡い灰色をした鷺(さぎ)が一羽、すくっ、とした姿で立っておりました。
仲間はいないし、白い羽毛の親鳥もいません。
足下の泥中の餌を捕るでもなく、歩くでもなく、ただ立っている。
「何が目的で身動き一つせず、この激しい雨の中で独り、只々ひたすら立っているの?」
その先をさらに進んで、墓地公園を抜け、畑に出ると今度は、いつもはそんなことをして居ない多くの鳩たちが畑の中にあるのでしょうか、餌になる何かを盛んにつついています。
「よりによって前方が霞む位のこの激しい雨のこんな日に、なんで?」
何かよくわからないことだらけの奇妙な朝でした。
今朝は物と人間以外の生き物たちでしたが、
「自分も端(はた)から見ると、こんな風に奇妙に映って居るのかもしれないぞ」
ふとそんな疑念がわきました。
やっている本人はそれなりの意図があって大真面目。しかしそこだけを周りから見ると意味不明な謎の行動。
いや謎の行動どころか「無駄かむしろ逆効果」な振る舞い。馬鹿げているようにしか見えない。
「自分の想いと人の評価というものは、いつもこんなものかもしれないぞ」
ヤギさんが相手に喜んでもらえると信じて疑わずに差し出している最高の餌である紙が、狩りを仕立ての新鮮な生肉が食べたいライオンさんには意味不明の申し出にしか映っていないような行き違いばかりなのかもしれない。
そう思うと、
ボタンの掛け違いが怖いような、独り合点による勘違いが恥ずかしいような、そのはき違いを犯さずにいられるのは、針の穴を射通す程難しい業である事が途方もないような。
お互いに異なる姿の相手を思い浮かべながら求める人を必死に探しているような様な位相違いの隔たり。
この先、もし位相が合ったとしても、その上で道が交わる地点に迄たどり着けるのかどうかさえわからない、
雨が霧状に飛び散る今朝の豪雨をさらに一段と濃くしたような視界不良。
その絵姿を眼前に想像すると、
どちらが沖合方向で、どちらが辿り着きたい、自分が目指す陸地方向なのかが見えない、一つ間違うと取り返しのつかない事になりかねない焦りと困惑からでしょうか、
何か言い知れぬ不安とそれを解消できなかった場合に生起するであろう事態への胸騒ぎに
徐々に覆われていくのを止めることができませんでした。


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