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うとQ世話し「子、親を選べず」その2

2021/1/30
(うとQ世話し「子、親を選べず」その2 )
「真之介、お前時々、いろんな言葉が混じるな。お前、なんか変。一体どこの生まれだ?」
ある日、お金持ちの誠君に真之介君はそう訊かれて自分でも驚いてしまいました。
「えっ?」
そういえば、いつの間にかお父さんの話し言葉が自然と耳につき、それが最近口をついて出る様になっている事に、その時初めて気づいたからです。
思い出してみると、東京生まれで東京育ちのお父さんが、ある日突然関西弁を喋り出したのは、同じ関東生れのお母さんがお父さんと真之介君をおいたまま家を出て行ってからでした。
それは、突然家の中に関西のヤクザと漫才師が同居するようになったようなものでした。
元々何をしでかすか分らないお父さんだったので「又、気まぐれを始めた」理由を訊いても「相変わらず訳の分らない答えが返ってくるだけだ」と思い、放っておけばそのうち元に戻るだろうと黙っていたのですが、案に違いそれ以降、東京言葉が家の中からすっかり消えてしまい、いつの間にか、その口調の良さから自分も時折、関西弁を口にするようになっていたのに気づかなかったのです。
「そういえば、この前、お前の家に行った時に「真之介君いますか?」って訊いたらお父さんが「おらんが、苦しゅうない、近ぅ寄れ」だって。ウィルスが頭まで行っているよ、あれ」
と誠君は自分の頭を指さしました。
元々変だとは思っていたのですが、全世界的に見ても変に見えるのだとすると、いずれ自分も変な奴にみられる可能性かある事に気づいた真之介君は、之は一本釘を刺しておかずばなるまいと思い、夜の帰宅を待って「一言申し上げる」事にしました。
「おとん、東京生れのくせに関西弁なんか使うの、やめてよ。僕まで変に見られるから!!」
するとお父さんは
「常識に囚われたらあかん」
と早速訳の分らない事を言って来ました。
「何のこっちゃ?」
真之介君も負けずに言い返しました。今回ばかりは自分の利害が関わっていたからです。
「何も生涯、生れた土地の言葉を話さにゃいかん言う事はないねぇや。自分キャラの感情表現に合った話し方、言葉を使えばえぇだけや。語呂が良くて喧嘩にもならん関西弁が一番話し易いと気がついた。で、そうする事にしただけや。TPO、その時の気分で相手に伝わり易い言葉は刻一刻、変わっとぅね。
偉ぶっている奴には河内弁、ここはピシッとには九州弁、女子供には大阪弁、公の場では関東弁、漢語に時代劇言葉に外国語、あるものは何でも使ぃ、や。ほっときゃ自然に多言語になる」
真之介君は話を聞きながら、口があんぐりと開いてしまいました。
そんな意見は生れて初めて聞いたからです。
「人は常に同一である必要はなぃんやでぇ。多重人格という事ではのぅて、その時々に合せて、千変万化の多面であってえぇのよ。その方がおもろいし、楽しいやんかぁ。そう思わん?」
そう言われて真之介君は、はたと考え込んでしまいました。

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