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ルーマニア留学へ。大らかな時間感覚の中で過ごして

「私を変えたあの時、あの場所」

~ Vol.51 ルーマニア/ブカレスト大学大学院

東京大学の先生方から海外経験談をお聞きし、紹介するこちらのコーナー。

今回は黛 秋津先生に、ルーマニアでの留学体験についてお伺いしました。取り上げた場所については こちら から。


歴史学の研究のためルーマニアの大学へ

——はじめに、留学に行かれた経緯から教えてください。

黛先生: 分野にもよりますが、歴史学を専攻する博士課程の院生は、博士論文を執筆するにあたり、必要な一次史料を調査し収集するため留学することが多く、そうした慣例に倣って自分も博士課程進学後に留学に出かけました。留学先はルーマニア国立ブカレスト大学歴史学部の大学院博士課程で、大学で授業も受けましたが、2年間の留学の多くの時間を文書館での史料調査に充てました。


バルカンの大らかな時間感覚がしっくりきた

——本企画でルーマニアの体験談についてお聞きするのは初めてなのですが、現地で印象的だったことについて教えていただけますか。

黛先生: やはり日本との違いとして感じたのは時間の感覚です。ルーマニアを含めたバルカンでは、時間に几帳面な人はそれほどおらず、かなりアバウトです。また、何事においてもあまり焦ったり急いだりしません。留学して間もなく、知人の家にみんなで遊びに行くことになったのですが、夜7時という約束だったので、おおよそその時間に行ったらまだ誰も来ていませんでした。他の人たちは7時半くらいから三々五々集まり始め、全員が揃ったのは9時頃でした。その知人の話によると、「7時に来てね」と言われて7時ちょうどに来る人は稀なのだそうです。

これは留学後の話ですが、ギリシアでの学会に参加したときのこと。プログラムでは午前10時開始となっていましたが、参加者が宿泊するホテルに送迎のバスが到着したのはすでに10時過ぎだった、などということがありました。いかにもバルカン的です。ただし、意外に公共交通機関はそれほど遅れずにやってきます。例えば、ドイツの鉄道は、イメージとは異なりしばしば遅れることで有名ですが、ルーマニアでもその他のバルカン諸国でも、鉄道のダイヤはドイツよりも正確だったという印象があります。


——「何事においてもあまり焦ったり急いだりしません」というのは、なんだかいいですね…。黛先生ご自身は、そうした環境に身を置かれていかがでしたか?

黛先生: 元来、自分は時間にはあまり几帳面ではなかったので、ルーマニアでの時間の感覚は、自分にとっては非常にしっくりきました。そうした感覚に慣れてしまったために、日本に帰国すると、1分1秒の単位での正確さを求められるような日本の時間の感覚が非常に息苦しく感じられ、現在でもそのように感じています。特に2020年以降急増したオンラインでの会議は、大体時間きっちりに始まるため、毎回緊張を強いられています。時間は貴重であり、また、皆さんお忙しいことは重々承知しているのですが、もう少し余裕があってもいいかなと感じます。


街の市場に行く楽しみ。短い期間にしか出回らない作物も

——時間に追われる日々にいると、大らかな時間感覚もいいなあと感じますよね。
他にも留学時の印象的な体験がありましたら、ぜひお聞きしたいです。

黛先生: 留学前はずっと実家での生活でしたので、海外で初めての一人暮らしをすることになりました。東南アジアなどと違って、ルーマニアには屋台街のような、一人で気軽に食事ができるような場所があまりなく、外食はファストフードかレストランのどちらかになってしまうので、必然的に自炊をすることになりましたが、ブカレストの街中にはまだ市場が各地にあって、そうした市場に頻繁に出かけ買い物をすることが日常の大きな楽しみでした。東京のスーパーでは、一年中、各種の野菜や果物が売られていて、それぞれの「旬」というものを感じにくいのですが、ルーマニアの市場ではビニールハウス栽培のものはあまりなく、ほとんどが露地栽培であるため、一年のうちほんの数週間しか出回らない野菜や果物も多く、そうしたものは値段も手頃で間違いなく美味しいものでした。こうした旬のものをいただくという生活は、日本でも地方ではあるのだと思いますが、東京生まれ東京育ちの私にとっては貴重な経験でした。


留学当時の人脈が今も生き続けている

——市場でのお話、素敵です。野菜や果物を旬にいただけるのはいいですね!
それでは次に、海外体験が帰国後も活かされているなと思うことがあれば教えてください。

黛先生: 留学時に様々な人たちと知り合いになりました。その後疎遠になってしまった人も少なからずいるのですが、今でもつきあいのある人は多く、そのときの人脈のおかげで救われた経験がこれまでに何度もありました。つい先日、ルーマニアのお隣にあるモルドヴァという国に行ったのですが、留学時に参加した若手研究者のワークショップで知り合った同年代の研究者が、現在は国立文書館の館長になっていて、彼に、モルドヴァで史料調査がしたいと伝えたところ、いろいろと便宜を図ってくれました。そのおかげで、短期間の滞在にもかかわらず期待以上の成果を上げることができたのですが、これも留学時に積極的に人脈を築いたおかげだと思います。


海外に出たら、「違い」だけではなく「共通性」にも目を向けて

——時間を経ても続くつながりができるというのはやはりいいですよね。
最後に、留学や国際交流をしたいと思っている学生へ、メッセージをお願いします!

黛先生: よく、海外での異文化体験、などのように、日本と海外との違いが強調されますが、私が留学中に強く感じたのはむしろ共通面で、「人間はどこでもやることは大して変わらないなあ」、というのが率直な感想でした。これから海外に出られる方は、「違い」を通じて自らの社会を見つめ直すことも非常に大切ですが、同時に、そうした「共通性」に共感する体験もしていただけると良いのではないかと思います。

——ありがとうございました!

黛秋津先生 編の書籍が2023年に刊行されました。あわせてご覧ください。詳細はこちら▶︎『講義 ウクライナの歴史』(山川出版社、2023年)


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