コロナと債務、そしてMMT

コロナ対策を目的とした政府支出大幅拡大への一般的な評価

現在コロナ対策として、無尽蔵な財政出動が多くの国で行われている。アメリカではGDP 15%程度の政府支出の増加を招き、世界恐慌のときのレベルまで近づきつつある。ファイナンス先の多くは中銀である(コロナの影響を除外し、先進国全体の債務残高でみたときの中銀国債保有率は約30%程度でその他は自国居住者、非居住者で30%程度)。中銀が通貨を発行し、国債を購入している。これによって低金利が実現しているため、現在の借り入れが増える事は将来のデットサービスをそこまで増やさない。債務を見るとき、重要なのは債務残高と言うよりも債務の返済コストである。現在は金利が低いと言う点でそのコストは低くなっており、巨大な債務はそこまで問題とならないのかもしれない。去年のアメリカの利払いGDP比は1.8%に過ぎなかった。

特にアメリカで借金があまり問題にはならないのは、国債の買い手は必ず現れる点にある。現在貿易はドルで対価が支払われ、外貨準備高は米国債が多いなど、世界通貨であるドルは需要が常にある。よっていくら借りても常に買い手が現れるため借金が返せなくなるような借り換えリスクに陥る事はあまりないと考えられる。一方、他の通貨は苦労するだろう。イタリアのような巨大な債務を抱えてしまうと、ユーロ債のリスクプレミアムが上がり、金利が上昇してしまい、返済コストもそれに伴い上がることになる。その他EU諸国はこれを嫌っている。まだ不確実だが、コロナ収束後、人々の需要が急拡大すれば、金利上昇として跳ねてくることも考えられ、政府は今日の景気刺激と明日の引き締めをうまく調整する必要があるかもしれない。

第二次世界大戦後、多くの国は急ピッチで債務を減らすことに成功した。とられた方法は、自国民に低い金利で国債を所有させ、インフレーションで国債を目減りさせ、資本に対して増税を行ったことだ。加えて、ベビーブームや教育水準の向上により、GDP成長率が急激に上がったことも債務を減らした1つの要因として考えられる。しかし現在は、多くの国で、特に先進国で出生率が下がっており、高齢化が進行している。このような状況の中で多くの成長率は望めず、一方で年金補助といった社会保障費が増加していることが予想される。現在財政出動が必要とされている中ではあるが、今後の楽観的な税収を前提にしてはいけない。慎重な財政リスク管理が求められる。

現代貨幣理論(MMT)者は急激な政府支出の拡大をどう見るか。

MMTを主張する学者が疑問を呈するのは、明日の引き締めをそこまで重く考える必要があるのかということである。なぜなら、自国通貨を発行する政府はデフォルトに陥る事はありえないため、高いインフレにならない限り、財政赤字を拡大しても問題ないと考えるからだ。特に、日本は国債を全て現実通貨建てで発行しているためデフォルトする事はほぼない。したがってMMTによれば、国はデフレから脱却するまで(20%を超えるような高インフレにならない程度に)国債を発行し、財政赤字を拡大すべき(政府支出を増やすべき)だと言う結論になる。

また、金融政策と財政政策の歩調を合わせることが重要としている点も注目に値する。現在、金融緩和を行いマネーサプライ(MS)を増やそうとしているが、MSは人々や企業が借りることを繰り返す、連鎖させていくことで増加していくため、資金需要がないと増加しない。この資金需要を生み出すのが、財政政策の役割の一つであると考える。よって、金融政策が緩和局面にある際(現在)は、財政出動によって、資金需要を下支えすることは正しいということになる。また、これにより、クラウディング・アウトの心配もないとしている。政府支出がそれと同額の民間貯蓄(民間貯蓄超過=財政赤字, 経常収支がゼロと仮定した場合)を生み出すためだ(理由の詳細はこちらを参照)。大幅な政府支出の拡大が市場をゆがめることはないと考えている。

結論、コロナ下では、インフレの過度な上昇のみに気を付け、大規模な財政出動を行うべきだということになる。多くの先進国で史上まれにみる財政拡大が行われている背景にはMMTがあるのかもしれない。

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