見出し画像

パリの制限解除と「道飲み」現象〜仏語記事紹介①〜

 今回は5月22日にフィガロに投稿された上の記事を、説明を加えつつ訳していきます。

仲の良い友人で集まって、グラスを手にテラス席で楽しい時間を過ごすなんてことはまだまだできない。けれども歩道の上でなら、飲み会は盛り上がりの頂点に。

 パリでは5月11日から外出制限の段階的な解除が始まり、街には人が少しずつ出てきているようです。とはいえバーもカフェもレストランも相変わらず閉店中。開業の是非が決まるのは今月末を待たなければなりません。しかしながら、久しぶりに(画面越しではなく)顔を合わせた友人たちと、一杯飲まないわけにはいかないのです。この難局を乗り越えるにはどうしたら良いのでしょう。パリ民たちの出した答えは、「道飲み」でした。

 「道飲み」と私が訳したのは、"apérue" という、今回紹介する現象を指す造語です。もともと "apéritif=アペリティフ"、つまり「食前酒」あるいは「食前酒を飲む時間」という言葉があり、それを口語では "apéro=アペロ" と略して使います。現代ではアペロは、その後実際に食事をするかどうかは関係なく、軽食とともにお酒を飲みつつ会話する時間を指します。つまり「ちょい飲み」みたいなものです。ここに、さらに「道」という意味の "rue" という単語がくっついて、"apérue" となっているのだと推測できます。「宅飲み」「公園飲み」ならぬ、「道飲み」というわけです。

 そもそも5月11日の外出制限解除の日、勢い余った人々はサン=マルタン運河に集い、そこここで宴会が開かれたのでした。夥しい数の人々と、立ち退きを命じる警察の様子が、ニュースサイトの動画から見られます。

画像1

 この(ある程度予測できたはずの)事態を受けて、フランス内務大臣のクリストフ・カスタネール氏は次のように発言しました。

「#封鎖解除 の成功は、各人の慎重さと公徳心なしではあり得ません。
一部の方々の無責任な振る舞いを受けて、私はサン=マルタン運河沿いあるいは堤防上の道で酒類を消費することを禁じるよう、警視庁に要請しました。」

 "civisme=シヴィスム" という言葉を「公徳心」と訳しましたが、これは市民としての自覚や良心のようなものを指しています。日本語では「民度」という言葉を当てることもできますが、「民度」はなんだか民度低めの語彙な気がするので、違う言葉を探しました。
 シヴィスムは、辞書によれば1770年に初出のある言葉のようです(*1)。ラテン語の"civis" つまり「市民」という言葉からきていて、直訳すれば「市民主義」あるいは「市民的信条」ということでしょう。市民として共同体の善のために尽くす態度、といったところでしょうか。18世紀末といえばフランス革命ですが、市民が一体となって国家を支えなければならないという思想が広がったまさにその時、このシヴィスムが重要になったのも肯けます。
 Google Trend でフランスでの "civisme" の検索状況を調べてみると(*2)、3月ごろに明らかにこの語が関心を集めたことがわかります。(ちなみにパリの外出制限は3月17日に始まりました。)このような言葉を盛んに耳にするようになったことも、コロナウイルスによって明らかになった、現代社会の特徴のひとつと言えるでしょう。

画像2

 閑話休題。
 サン=マルタン運河での騒動の翌日、警視庁は、次のようにツイートしました。

 要約すると、公道での酒類消費は禁止ではないけれどなるべくやめてくれ、ということです。(記事によると10人以上の集会は禁止だそうです。)

 どこかの国の従順な民とは違い、こんなことで自粛する人たちではありません。「道飲み」は今が最旬とばかりに、パリ中に広がっているようで・・・

[パリ市の目安箱的なアカウントに向かって]説明していただきたいのですけど、バーを開けるのを禁止しているのに、持ち帰りのグラスドリンク、つまり道で飲む用のお酒の販売を許可する論理がわかりません。これじゃまた前みたいな#クラスターが発生するんじゃないですか?
#パリ10区 パラディ通りの「リベルティーノ」での隠れ飲み会の様子、それからオートヴィル通りの歩道でビール飲むっていうバー「ディヴィヌ」のソーシャル・ディスタンス実践。
ばかだよ。#Covid19
アペロプレートと、私たちの選んだロゼワイン「コルシカ」「ミニュティ」😋
お持ち帰りは:chezfranklin.fr か以下にお電話を ...
配達ご希望の場合:UberEats や Driver&Butler をご利用ください
ナント、フランクラン通り10

 フランスにも自粛警察はいるようです。休業中のバーが道飲み連中に対してワインやビール、おつまみを販売していることも非難の対象になっています。(引用したツイートはパリではなくナントのお店。)
 ちなみに二つ目のツイートに登場したパラディとは天国や楽園、リベルティーノとはおそらくイタリア語でリベルタン、つまり倫理的な抑制を無視し自由に快楽を追求する人、を意味します。「隠れ飲み」に使われる"clandestin" はまさに密やかな地下集会を想起させますし、「ディヴィヌ」とはフランス語だと「神の」という形容詞、英語だと同義の形容詞か、名詞であれば神学者か聖職者という意味。なんだかすごく冒涜的な世界観だということに思わず笑ってしまいます。

 道飲みには思わぬ危険もあり、、

#救出 |セーヌ川沿いで飲み過ぎるのは危険です。酔った状態で落水した男性は10分で救出されました。市の保安隊👮‍♂️👮‍♀️がアラートを鳴らし、救命綱で男性を助け、河川警察が岸まで戻してあげました!

 無邪気すぎるツイートにこれでいいのかというツッコミを入れたくなりますが、パリの日常が徐々に戻ってきていることは、確かなようです。

(伊澤拓人)

*1 : https://www.cnrtl.fr/definition/civisme
*2 : https://trends.google.co.jp/trends/explore?geo=FR&q=Civisme

次回はベラルーシの選挙の様子をまとめる予定です↓


当団体は、学生メンバーの自費と会報の売上によって運営されています。更に活動の幅を広げるには、みなさまからの応援が不可欠です。 あなたの思いを、未来の人文学のために。 ワンクリック善行、やってます。