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試験中止、コロナ禍のイギリス教育界 〜英語記事紹介②〜

現在日本では「9月入学制度」の必要性が盛んに議論されていますが教育現場の混乱は日本だけではありません。イギリスでも同様に大きな混乱が起こっています。それというのも、センター試験のような全国統一試験がコロナの影響で中止されたからです。ここでの最大の問題として、学生たちがどのようにして大学に入るための点数を取ればよいのか、ということがあります。
今回はこの様子をまとめたBBCのこちらの記事を紹介したいと思います。

4月3日の記事のため情報としては古いため、さらに最新の情報が知りたい方は他の記事もぜひ読んでみてください!


記事に入る前にイングランドの教育制度について簡単に触れておきます(*1)。日本の小中高とはシステムが異なるからです。
ここでは便宜上、イングランドの教育を大まかに中等教育、高等教育の2つに分けます。ここでの中等教育と高等教育はそれぞれ日本でいう小中高と大学に相当します。

中等教育は年齢で言うと5歳から16歳までの期間であり学年をYear 1, Year 2と表します。日本だと中学校や高校に上がるたびに学年は1にリセットされますが、イングランドでは継続してカウントするためYear 1〜Year 13という捉え方をします。まとめると下の表のようになります。

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(出典:Oxford International Exchange Ltd.

この中等教育をさらに3つに細分化することができます。Year 1から順にPrimary School、Secondary School、6th Formです。
学生たちはSecondary Schoolと6th Formの終わりにそれぞれGCSEとA-levelという全国統一試験を受けます(*2)。ちなみに今回紹介する記事で争点になっているのは、この2つの試験の中止決定です。

ではこのGCSEsとA-levelがどのように大学入学に関連しているのでしょうか。まず義務教育最後のYear 11にGCSEを受験します。学生たちは日本のセンター試験のように科目を複数選択して受験します。

その後の6th Formでは専門を定めて(3〜5科目)勉強します。6th Formは2年間ありますが最初の年にAS(Advanced Subsidiary level)、翌年にA-levelを受験するというシステムになっています。

前置きが長くなりましたがここから記事内容に入っていきましょう。
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GCSEとA-levelが中止されることになったためイングランドの教師たちは、もし試験が行われていたならば生徒たちが取ったであろう点数を評価するよう通達されました。
これはイングランドの資格や試験を統括する政府機関Ofqualによる代替案です。

Ofqualの最高責任者であるサリー・コリエは、公平であり誰かが不利益を被ることがないようにすることが最大の目的であると述べています。また全国校長協会(the National Association of Head Teachers)の代表は完璧な解決策はないと見解を示しています。

しかしサットントラスト社会流動性チャリティ(the Sutton Trust social mobility charity)の設立者ピーター・ランプル卿は教師の評価が無意識のうちに低所得者階級の生徒たちに不利益を被るようにしてしまうと警鐘を鳴らしています。

教師の予想評価は過去の試験結果やテスト、授業での課題、宿題、模試そして一般的な成長(general progress)に基づくことになっており、このようにして教師たちは自身の判断で点数を付けます。

またその点数はランク付けされます。これは教師の評価が高すぎる・低すぎる場合にも、全国的な点数分布が例年通りになるよう調整するためです。(*3)

学校側は試験委員会に提出した点数や順位を学生側に伝えてはいけないことになっています。
もし生徒たちが自分に付けられた点数より良い点数を取れると思っている場合は秋にある代替試験に志願することができます。

しかしこの代替措置では今年に大学に入学しようとする学生にとっては遅すぎるかもしれません。(*4)
また結果に異議申し立てする方法や家庭学習の生徒たちの点数の付け方など不透明な部分が残ったままとなっています。

イングランドの教育大臣であるギャビン・ウィリアムソンは試験中止はコロナウイルス拡散防止のために必要な施策であったと述べました。とはいえ今回のOfqualの計画は学生の能力を正確に反映するものあるため学生・親御さんたち・学校側を安心させるだろう、とも述べました。
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以上が記事の内容でした。
最後に、これは少し古い記事だったので、後日談も少し紹介しておきます。

この代替案では学生側からすると腑に落ちないところが多いかもしれません。実際にA-levelを控える17歳の生徒が試験結果へのロックダウンの影響を心配するあまり自殺してしまうという悲しいニュースもありました。

またコロナによる教育界への混乱は来年の夏の統一試験にも影響があるのではないか、という報道も既にいくつかなされています。教育大臣のギャビン・ウィリアムソンは来年のイングランドでの統一試験が授業時間を確保するために例年より遅い日程で開催されるかもしれない、と述べたそうです。


そして先日ついに試験結果が公開されましたが、FFT教育データ研究所の報告によれば例年よりも点数が高くなっているようです。この報告のデータ分析によると2019年と今年度2020年の成績を比べてみると下の表のようになりました。

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(出典:Nye and Thomson 2020

教師たちも人間ですので生徒たちが不利にならないよう優しく採点したのかもしれません。

日本同様にイギリスでも教育界でかなりの混乱があったことが分かりました。私見ですが責任ある立場の人々は制度改革を声高に叫ぶのではなく、まずは不安でいっぱいの学生たちを安心させるような発言、行動をすべきだったのではないでしょうか?難しい状況が続きますが、「最善」が望まれます。

(文責:D)

参考文献
P. Nye and D. Thomson, 2020, “GCSE results 2020: A look at the grades proposed by schools”, 6月20日アクセス:<https://ffteducationdatalab.org.uk/2020/06/gcse-results-2020-a-look-at-the-grades-proposed-by-schools/>.

*1: ご存知のようにイギリスはイングランド、スコットランド、北アイルランド、ウェールズの4つに分けることができます。昨年のラグビーW杯で日本代表がスコットランド代表と闘ったのは記憶に新しいですね。イギリス代表ではなくイングランド代表など地域別の代表でした。
*2: GCSEはGeneral Certificate of Secondary Education、A-levelはAdvanced Level General Certificate of Educationの略語です。
*3: ランク付けとはイメージとして、優・良・可のような分類のことです。これが具体的にどう調整に使われるのかは書かれていませんでした。
*4: イギリスは秋入学なので秋に受験する場合は次の2021-22年度から入学することになってしまいます。


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