見出し画像

なぜ社会学を選んだかー「当たり前」に疑問を持ってー

大ヒット中の漫画「ミステリという勿れ」。主人公の久能整に対して、ある女性がかけた言葉に、このようなものがあります。

「当たり前にそこにあるもの、ある言葉、なぜそうなのか、
誰が決めたのか、いっぱい考えてみるといいよ」

田村由美「ミステリという勿れ」第5巻より引用

実は、この言葉には社会学のエッセンスがぎゅっと詰まっているのです。

私は、東京大学 教養学部 教養学科 総合社会科学分科 相関社会科学コース(長い😇)に在籍しています。この学科では、社会学を軸にしつつ、政治学・経済学・法学を融合させながら、自分の好きなテーマについて勉強することができます。

本記事では、私がなぜ社会学に軸足を置くことに決めたのか、この言葉の意味を紐解きながらお話ししたいと思います。

1. 校則を守るのは「当たり前」?

私が世にはびこる「当たり前」について考え始めたのは、中学生の頃でした。

私が通っていた中学校には、「防寒具は黒・グレー・紺・茶のみとする」「通学カバンは指定のもの。ストラップなどの飾りはつけてはならない」という謎の校則がいくつもありました。やんちゃな生徒が多い公立中学校、もちろん校則を破ってくる人もいます。その生徒に対して、ある先生がこんなことを言っていました。

「規則なんやから、ダメなものはダメや」

私はこの教員の言い分に、強烈な違和感を覚えました。彼は、「規則は守るべきである」ということを前提にしています。しかし、私は「自分が決めたわけでもない規則にどうして従わないといけないんだろう」「そもそも校則って誰がどうやって決めたんだろう」と考えたのです。

2. 世の中にはびこる「当たり前」

それから私は、世の中で「当たり前」とされているさまざまなことが目につくようになりました。


①私の友達は4人姉弟で、末っ子だけ男の子。家業を継ぐのはその子だと親に決められている。どうして私の友達は家業を継ぐことができないんだろう?

②私が通っていた地元の公立中学に比べて、その後に入学した進学校には金銭的に余裕のある人が多かった。努力すれば「誰でも」偏差値が高い学校に行けるって本当?

③テレビでは、時々「ホームレス」の人たちを目にする。「自己責任」ってよく言われるけど、本当にその人たちが悪いの?

そして、このような疑問に対して、考え方の補助線を与えてくれる学問に出会いました。それが「社会学」です。

3. 「当たり前」を問い直す社会学

私は、大学に入ってから「社会学」という学問に出会いました。高校時代は政治に興味を持っていたので、社会学のことなんて気にもとめていなかったのです。

社会学はとても守備範囲の広い学問です。(私自身も把握しきれていません...)

しかし、社会学をあえて一言で表すとすれば、

「当たり前」を問い直す学問

だと私は思います。

たとえば、先ほど説明した私の疑問は、全て社会学で研究されている分野です。

⓪規則には従うべき
・規則はどうやってできる?
・法律って絶対に正しいの?必ず従わないといけないの?
→法社会学(倫理学も絡んできます)

①後継ぎは男性であるべき
・そもそも「後継ぎ」という概念はなぜ生まれたの?
・男尊女卑の思想はなぜ生まれたの?
・男女平等を達成するにはどうしたらいい?
→家族社会学・ジェンダー論

②努力すればより偏差値が高い学校に行ける
・進路選択に関係するのは「学力」だけ?
・家庭の金銭的余裕は進路に影響する?
・そもそも「学力」って何?
→教育社会学・文化社会学

③貧困は自己責任
・貧困にはどんな要素が関わってくるの?
・本人が悪いの?環境的要因は?
→経済社会学・社会階層論

社会学は、目の前にある現実を鵜呑みにせず、「なぜそうなるのか?」を繰り返し問い続けます。それが、その現実をより深く理解することにつながるからです。

そう、社会学とはまさに、「当たり前にそこにあるもの、ある言葉、なぜそうなのか、誰が決めたのか、いっぱい考えてみる」ことなのです。

4. 社会学の醍醐味

私は、いま自分が生きている社会に、たくさんの疑問を持っています。「なんで?」「おかしくない?」と思うことがそこらじゅうに転がっています。

その中でも、私が一番問い直したいと思っているのは、社会に「当たり前」に存在する「貧困」です。日本では、貧困が「自己責任」だと言われることがいまだに多くあります。それが貧困に陥る人々を苦しめることもあります。しかし、貧困は、その人の社会経済的環境やジェンダー、政策や社会制度などいくつもの要因が複雑に絡み合って起こるものです。まだ学部2年生の私にはその全貌は見えていません。だからこそ、これからの学生生活(もしかしたら人生になるかもしれませんが)をかけて、その問題に取り組みたいと考えています。

最後に、東京大学で社会学を研究していた見田宗介先生の一言を引用し、この記事を締めたいと思います。

それがどのような問題であっても、
自分にとってほんとうに大切である問題、
その問題と格闘するために全青春をかけても
悔いないと思える問題を手放すことなく、
どこまでも追求しつづけることの中に、
社会学を学ぶ、社会学を生きるということの<至福>はあります。

見田宗介「社会学入門」岩波新書より引用

5. 社会学を学びたい!と思った人へ

この記事を読んで、社会学に少しでも興味を持ってくださった方がいたらとっても嬉しいです!そんな方に向けて、「おすすめの本」「東大で社会学が学べる場所」を記しました。

《おすすめの本》
村由美「ミステリという勿れ」小学館
冒頭でも引用しました。ミステリー要素もありつつ、「僕は常々思っているんですが...」から始まる久能整の名言に、社会学のエッセンスが詰まっています。

橋爪大三郎「ふしぎな社会」ちくま文庫
社会学がテーマとしているさまざまな問題について、中高生にもわかりやすい言葉で解説しています。

苅谷剛彦「学校って何だろう 教育の社会学入門」ちくま文庫
冒頭で述べたような「校則って何で守らないといけないの?」という疑問に対して、考える道筋を示してくれる本です。

上野千鶴子「女の子はどう生きるか 教えて、上野先生!」岩波ジュニア文庫
女性学の生みの親、上野千鶴子先生が、女子中高生の相談に答える形で「ジェンダー論」を展開していきます。

見田宗介「現代社会の理論」岩波新書
大学で読んで最も面白かった本の1つ。「豊かな社会」の裏側に存在する環境問題やグローバルサウスの問題について華麗に描き切っています。

橋爪大三郎, 大澤真幸, 若林幹夫, 吉見俊哉, 野田潤, 佐藤郁哉「社会学講義」ちくま新書
社会学の雄とも言える豪華な執筆者が、「社会学とは何か」について丁寧に解説してくれます。

富永健一「社会学講義」中公新書
「知の巨人」とも言われる富永健一先生が、理論研究・経験研究・歴史研究を横断して社会学について論じた本。入門書を読み終わり、もう少し深く勉強したい方におすすめです。

《東大で社会学を学ぶには》
東大には、社会学の分野で有名な先生方が揃っています!!ぜひ、皆さんも東大で社会学を学んでみませんか?

▷学部・学科
文学部社会学専修:社会学について最も幅広く学ぶことができる学科です。「学説・理論」、「家族・性・世代」、「地域・都市」、「産業・労働」、「計量・階層」、「社会意識・文化」、「計画・福祉」、「国際・世界」、「技術・環境」、「多文化共生」などのテーマを扱うことができます。

教養学部相関社会科学コース:筆者はこのコースで勉強しています。社会学を軸にして、経済学・政治学など他の社会科学分野にも触れながら自分の興味のあるテーマについて勉強することができます。

教育学部比較教育社会学コース:社会学の中でも、教育社会学に焦点を当てて学習をします。教育格差、校則などなど、教育と社会の繋がりについて考えたい方におすすめです。

▷ゼミ
川人ゼミ:「現場主義」をモットーに、現場に足を運び、その当事者に話を聞いて社会問題を学ぶゼミです。

ーーーーーーーーーーーーーー
ここまで読んでいただきありがとうございました!

UT-BASE for high schoolでは、東大に関心を持っている高校生・大学受験生の皆さんに向けて以下のような情報発信を行っています。

①公式サイト:科類紹介・学部紹介・東大生インタビューなど、東大生の普段の生活や東大内部の情報についてお伝えしています。

公式note:等身大の東大生の思い・考えたことを不定期に発信しています。

公式LINE:おすすめの記事・イベント・プログラムを定期的に紹介します。

ぜひ、他の記事も読んでみてくださいね!LINEへのご登録もお待ちしております。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?