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【読書】『神秘の島上下』~どこにいっても生き抜く強さ~

 福音館古典童話シリーズより、ジュール・ヴェルヌの『神秘の島上下』を読みました。『二年間の休暇(十五少年漂流記)』と聞くと、思い当たる方も多いかもしれませんね。質が高く、ページ数も多い作品は、とても、童話とは思えません。

 『神秘の島』では、嵐の中を、5人の男と1匹の犬が気球に乗って、奮闘するシーンから始まります。彼らは、アメリカの南北戦争の際、南側の捕虜として南軍の基地にいました。南軍は北軍に包囲されていましたが、気球を使って外部と連絡を取る手段を試みます。嵐が近づくある日、優秀な技師のサイラス、水夫のペンクロフ、記者のスピレット、少年のハーバート、サイラスの忠実な召使のナブ、それからサイラスの忠犬トップが、この気球を奪って逃げだします。下巻では、エアトンとオラウータンのジュップが加わります。

 無謀ともとれる彼らの行動ですが、予期せぬ方向に気球は流され、地図に載っていない島へと不時着しました。

 上巻では、彼らが島の内部を調べ上げ、彼らの知識と技術を終結させ、島を住み心地の良い場所へと変化させていきます。島には豊富な木々や動物がいるため、食事に事欠きません。さらに、サイラスの知識を使い、ヒツジから衣服を作ったり、下巻では船をつくって近くの島まで走らせたりします。

 自らを遭難者ではなく、開拓者だと豪語して、いずれは島を出て、祖国アメリカの領土にするのだと話し合っていました。

 さて、『神秘の島』には、『海底二万海里』のラストで消息不明となっていたネモ艦長が活躍します。ただし、姿は見せず、遭難したサイラスたちを陰から守る守護者のような存在です。上巻では謎がばらまかれ、下巻でついにネモ艦長が姿を現します。そのときに、正体不明であったネモ艦長のこともすっきりとわかります。

 孤独を選び、海の底を唯一の行き場としたネモ艦長が、サイラスたちに手を貸し、彼らと会話する姿を見て安心しました。知識が豊富、最高の技術を持つ、それなのに、陸地とは縁を切り、孤独を選ばざるを得なかったネモ艦長です。ほんのひとときでも、サイラスたちの仲間の輪に触れたことが、長い憎しみと復讐心の怒りを癒してくれたのではと思いながら読みました。

 神秘の島は、リンカーン島と名付けられ、島にある川や湖や森に、名前が付けられました。大きな船をつくって、リンカーン島を脱出し、いずれは戻ってくる予定でした。

 ですが、人間が立てる予定に、やさしく付き合ってくれる島ではありませんでした。島が崩壊する危機を迎え、とうとう、知恵も勇気も技術も、一切が役に立たない事態が訪れます。

 未知なる島で生き抜くだけでなく、人間のもつドラマも面白く、ページをくる手が止まりませんでした。特に下巻では、ツキが離れたかのように災難が訪れるので、彼らが必死で乗り越えていく姿に応援したくなります。



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