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スマートフォン市場はどのようにして衰退するのか

スマートフォン市場が停滞して久しい。

ITの停滞ということは全くなく、一部のドライな論者のいうところの「シンギュラリティなんてものは永遠に来ない」ということの真偽はともかくとしても、きっと想定以上に世の中は利便性で塗り固められていくのだろうなと思う。

クラウド化やスパコンの進化でハイエンドサービスを身近に扱えるような環境が整い、DeepLearningの成長はWebサービス体験向上には大きく寄与しているし、ブロックチェーン技術のスタンダード化はWeb3.0を大きく推し進めることだろう。

で、その象徴といってもいいスマートフォンはどうなのかというと、PhoneXくらい(=インカメラのノッチ化)から、外観における魅力はほとんどメーカー同士の差分くらいのところに落ち着いているし、CPUの進化もそう劇的なものではない。フォルダブル等の模索も(私からすれば)大した意味はなく、iPad登場の衝撃にも満たない程度のものだろう。いたずらに折りたためるようにすることは、単に故障ポイントが増えるだけで、それであればデバイスを二台持たせつつリアルタイムに同期してくれる機能をソフトウェア的に制御する機能とかのほうが全然使えそうだなと思うくらいである。


ということでスマートフォンの進化は、今現在かなり停滞していると思う。
今現在というか、ここ3年間くらいはほとんど何も進化していないと言っても過言ではないくらいだと思う。

そろそろ国内でいうところのフィーチャーフォン市場のように破壊的イノベーションが欲しいところだと思うが、私はこのスマートフォン市場は破壊されることなく、ゆるゆるとスローダウンしていくんじゃないかなと考えている。


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たとえば、スマートフォン市場をゆるがす可能性はいくつか考えられる。


まずはスマートウォッチと完全ワイヤレスイヤホン、およびARグラスといったウェアラブルデバイスの存在である。これらは単体ではほとんど意味をなさない(スマートフォンの拡張程度である)が、特定の目的を持った講堂範囲であれば、時にスマートフォンの存在以上の力を発揮する。

例えばジョギング中、スマートウォッチと完全ワイヤレスイヤホンを接続して、音楽を再生しながらfitbitでヘルスチェックしているとき、スマートフォンは大きくて重くて邪魔である。
また、ARグラスとウェアラブルデバイスを用いたゲームに興じている間、スマートフォンは何の活躍もしない。スマートリング(指輪)でVISA決済のできるお店へ買い物へ行く際も、わざわざスマートフォンを持って行く必要はない。

このように、特定の状況下においてはスマートフォンが邪魔ものになるケースがある。これは一つの勝利であり、少なくとも利用機会を減らされているという点において、スマートフォン市場を削っているという解釈ができるだろう。
(究極、スマートフォンは利用時間が短ければGoogleの主目的であろう情報収集行為を阻害することになるため、利用機会を減らされる=ダメージである)


次に、VR(メタバース)空間の存在である。

Web3.0が進化して、メタバース空間が今でいうところのSNS市場くらいの賑わいを持ち始めた場合、VR空間へ没入するためのツールとしてはスマートフォンのような板状のデバイスは不利である。無論、スマートフォンセット型のVRグラスを活用することもあろうが、スマートフォンはスピーカーの位置やサイズなどを鑑みて、VRのために作られているデバイスではないため、それはもはやスマートフォンを使っているとは言えないだろう。

また、Web3.0の進化は、今のWebの巨人たちにとって不利である。Web2.0で広告収入で築いた城は、次の世代では全くかやぶき屋根のようなものであり、スマートフォンと蜜月であるWeb2.0は、やはり旧時代のものに成り下がる。


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以上2点から、スマートフォンというのは長期的に見れば衰退していくほかないものと考えられる。しかし私が破壊的イノベーションというほどのことが起きないだろうと考えていることについても説明しておきたい。

まず、インターフェースの問題である。

スマートフォンの操作は、画面を見てその画面に表示されているものを触る。以上。極めて直感的であり、人間が最大に進化させてきた視覚と触覚(しかも手指)をフル活用した仕組みである。これは今の人間という生物において、基本的にゴールみたいなものである。これ以上に操作しやすいインターフェースというものは、基本的に存在しないと考えられる。
(たとえば画面が大きくなるとか、より画質が綺麗になるとか、ホログラムを触るとか、そういった技術がものすごい速さで進化すれば別かもしれないが、前者2つは破壊的でも何でもないし、最後の1つは他人に見られないという前提がある以上、今の物理ではかなり難しそうだなと思われる)

インターフェースという視点で見たとき、ウェアラブルデバイスは極めて不利である。ウェアラブルウォッチは画面が小さく触り辛い。イヤホンは聞く専門で、マイク入力はプライバシー的にも操作方法的にも難しい。ARグラスは、空間を触るといった操作が進化すれば可能性としては在りうるが、ホログラム同様、使いやすさでいえばスマートフォンのには劣るだろう。

加えて、ウェアラブルデバイスはウェアしなくてはいけないというのが利便性とトレードオフである。つまりファッション的に優れている必要があり、ファッションは飽きる/捨てる前提であり、デバイスのライフサイクルとかみ合わない。

ウェアラブルデバイスが覇権を握るには、これらの問題解決が絶対条件である。


VR(メタバース)空間について考えてみる。

メタバース空間について、私は「メタバース空間が今でいうところのSNS市場くらいの賑わいを持ち始めた場合」と書いた。逆に言えば、これ以上にメタバースというものが進化することが果たして本当にあるのか、極めて疑問だということを申し上げたい。

メタバース空間における体験は、すべてプログラムである。システムであり、動画であり、仮想であり、現実ではない。いかに現実的に寄せようとしても、ほとんど現実と同じクオリティだとしても、それは現実ではない。一生VRグラスを外さずに生活することができるわけでも無いし、そもそもそんなことは望まれていない。

たとえば食事は。運動は。排泄は。VR空間で完結できないもの(=現実)が前提になっていることを考えると、VR空間は現実を拡張(楽しく)するものではあるが、あくまで娯楽として存在するものでしかない。VRは仮想空間なのであり、現実を代替するものではないのである。


ただし、これは今を生きる我々の価値観でしかない。

たとえばメタバースにおけるWeb3.0が確立して、仮想通貨の概念がVR空間上でも安定して支払いができるように整った場合、VR空間上でのアクションが仕事を代替する可能性がある。VR空間上での大道芸とか、コンテンツの販売、動画生配信など(現実と混同するけど)。これらが生活を支えうるほどにVRが当たり前のものとなったとき、VRは一部の現実世界を代替しうるものになっている。

このとき、たとえば食事の概念が今と全く変わっているかもしれない。宅配型食事や完全栄養食だけで生活する若者が増えているかもしれない。排泄の概念も無く、基本VR世界で、トイレとシャワールームだけがある部屋で生活し、VR世界とリンクする1Rの部屋が登場して流行し、VRグラスを外さずに排せつや食事ができるようになるかもしれない。(書いていてちょっと鳥肌ではあるけど)


有り得ない話ではない。我々が子供のころ、テレビゲームがスポーツとして注目される世界が来るとはだれも思わなかっただろうし、テレビを代替するコンテンツが登場することも想像できなかっただろう。

ただし、それらは一瞬で置き換わることができない。今を生きる我々は、そう簡単に日々の食事や、運動や、仕事を仮想空間に置き換えようとは思えないからである。スマートフォンに慣れ、コンテンツが様変わりしていくことに驚きながらも楽しんでいる。その変化と、生活のステップそれ自体を大きく変えるような(つまり今の生活を捨てかねないような)変化に足を踏み入れることはできない。

いや、できなくはないが、時間がかかる。人の置き換わりがなければ、日にち薬がなければ、そこまでの変化は発生しない。それが、スマートフォン市場への破壊的イノベーションが起きない理由である。


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スマートフォンは無くなることはないものの、ゆっくりと衰退していくだろうという意見を述べてみた。

VRでもウェアラブルでも、現状だとスマートフォンは過去のPCみたいな、母艦的な立場をとっており、結局利便性の極めて高いリモコンみたいな、スマートフォンがあれば(あるならば)なんでもできるし、でもウェアラブルだけでもなんとかなるよ/VRグラスだけでも楽しめるよ、みたいな立ち位置になっていくんだろうと思っている。

無くなることはなさそうだが、ゆっくりと衰退していくことは間違いなさそうだ。それまでの間、各メーカーがどのように模索してくのか、また私のこの記事を一笑に付すような素晴らしいアイデアが出てくるのか、とても楽しみである。


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(おまけ雑感)

個人的には、VRよりもARのほうが可能性を秘めているんじゃないかと思っていて、たとえばマップアプリのARなんて最高だし(Googleレンズが常に動いてオブジェクトを見れば場所や説明を表示できるとか)、AR機能を遮断してVR化して遊んだり動画を見たりすることもできるとか、ベースはARだけどVR空間に行くのもまあいいよね、とか、そうして現実世界とメタバース空間を繋ぐことができればいいんじゃないかなとか(やはり直近ではSNSの域を出ないとは思ってるのだけれど)、そんな感覚である。

メタバース空間で「仕事」を置き換える話でいうと、直近で最も売れた「服」が、現実の服ではなくフォートナイトの服だったとかそういう話もあったりするので、メタバース空間のアバターの服はめちゃくちゃ売れるんだろうなとかそういうことは考えさせられる。市場としては巨大なのは間違いなさそうだし、しかしそれが生活を置き換えるまでになるのには相当な時間がかかるし、それはもはや「スマートフォンの次」とは言えないんじゃないかなとか思ったり、色々と考えさせられる。

私はメタバースをほとんど触ったことが無いので、機会があれば是非ハイエンドVRグラスを購入して遊んでみたいのだけど、今今の感想はSNSプラスアルファくらいのもので、実際にやってみるとどうなんだろうなという妄想をしていたらこういう記事になった。もし実際にハマっている人が居たら是非教えてほしい。

VRと部屋がリンクするみたいなのは妄想で書いたけれど、そのうち出てくるのかもしれないなと本気で思った。VRで遊んでいてコーヒーをこぼしてしまったみたいな話はよく聞くので、専用部屋で遊ぶことでそのリスクもないし、食事や現実世界の生活に対する興味が希薄な人であれば、VRをベースにとらえる人が居てもおかしくないんじゃないかなと思う。
(まあ、仕事や家賃や宅配はどうするのかとか、そういうところで急に現実に引き戻されるのがむしろキツい気はするので、そこらへんが整備されないと難しいのかもしれないけれど)


※本記事は学術的なものでも、メーカー発表に基づくものでもなく、いわばエッセイのような、スマートフォンというものを哲学するような試みである点についてご容赦頂ければ幸いである。


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