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【自分語り】祖母と破船

自分語りというか、私のおばあちゃんの話というか。
私のおばあちゃんは本当に本が大好きな人でした。
そんなおばあちゃんとある「小説」について今回お話しします。 

おばあちゃんは晴耕雨読を実行しており、晴れている時はどんなに暑くても畑仕事、雨の日は読書や編み物。
死ぬまでボケもせず、徒然草の冒頭部分や石川啄木の短歌などすらすらと出てくるような人でした。

私も読書が人並みに好きであったので、
おばあちゃんと馬が合い本の話だけでなく色々な話に花を咲かせていました。


そんな中、よくおばあちゃんが言っていました。
「久米正雄の『破船』を、死ぬまでにもう一度読みたい。」

もう何回も何回も言われたので、これは探すっきゃない!と思い探し始めました。

久米正雄とは小説家・俳人で、芥川龍之介や菊池寛等と文芸雑誌を敢行した方だそうです。
そして『破船』は私小説で、久米正雄と、恩師夏目漱石の娘との破談騒動を描いた話だそうです。

おばあちゃんは10代の頃に『破船』を読み、もうそれはそれは素晴らしい本だったよ、と語っていました。

破船はもう絶版になっていたので古本屋に行ったり、Amazonやら楽天やらヤフオクやらメルカリでもう必死になって探しました。
1年くらい探したところでやっと購入できました。

喜びを全身で表す人でしたが、それはそれはおばあちゃんは今までにないくらい喜んでいました。

畑に出るのも必要最低限にいそいそと読書をしている姿は、きっと10代の乙女が恋愛小説にハマっているようなそんな姿でした。

おばあちゃんは、少女の頃本が大好きで電車でもトイレでもどこでも読んでいたそうで、「あなたは本が体の一部ね」なんて言われていたそう。
10代の頃もこんな姿だったんだろうな、少女時代のおばあちゃんに会いたいななんて思っていました。

数日後、おばあちゃんは本を閉じ私に言いました。

「思っていたのと違う。10代の時に思っていたより、そんなにいい話じゃなかった」

あれれれれ?

あんなに夢中だったのに、あれれれ?レレレのレ?


おばあちゃんが言うには、破船を読んでから70年も生きて色々と経験したから、感性も変わって素晴らしい作品と思えなかったそう。
まぁ内容は久米正雄の婚約破談の話だしね。

でも、おばあちゃんは
「死ぬ前に読めて良かった。素晴らしい作品だったなぁと思って最後読めなくて死ぬより、なーんだこんな話かって気づけたから良かった」
と言っていました。

おばあちゃんは破船を読んだ翌年、亡くなりました。

娘から妻、妻から母親と人生での役割が変わっていく中、人生経験を重ねると色々と物の見方って変わっていきます。悲しいことに。

10代の頃素晴らしいと思えていた音楽や小説、映画等を再度確かめてみると、「あれ??こんなものに良いと感じていたの私???」なんて感性が変わっていきます。悲しいことに。

でも、おばあちゃんは悲しいなんて言っていなくて、良かったと言っていました。すごいな〜

感性の変化をまだまだ受け入れられない20代後半の思春期ですが、死ぬ前に若い頃に読んでいた本を読み返したいな。
そして、そのコンテンツを素晴らしいと思えても思えなくても、読めて良かった〜なんて孫に言えるといいな。なんて

最後まで読んでいただきありがとうございました。
チャンチャンッ

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