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紙と判子はインフラ未整備組織の命の綱である

1 書く動機

【独自】河野行革相がハンコ使用廃止を要求 「できない場合は今月中に理由を」

※リンク先記事をより適切に変えました
 河野太郎行政改革担当大臣が行政におけるハンコを廃止すると主張されています。世間の人は役所のハンコ文化の死ぬほど面倒なアレコレに苦しめられているのでさっさと廃止しろ、と思っていると思います。ハンコ、死ぬほど面倒なので廃止せえという気持ちはわかります。河野太郎さんは防衛大臣時代も脱ハンコを推し進めていましたね。でも、行政(や資金力のない中小企業)からハンコをなくすのは非常に手間がかかると考えています。結果的に紙とハンコはITインフラ未整備組織たる官公庁が組織として何とか成り立つための命の綱になっているからです。

 元・木っ端官僚からみた理由は3つです。

1 官公庁とITは絶望的に相性が悪い

 (1) 官公庁の仕事の進め方は基本上申・合議です。担当者が上司に大綱を指導受けし、指導受けの内容を本文に反映してもう一度書き直す……ということをやります。紙で。

 (2) なぜ紙でやらなければいけないかというと官僚の間の電子媒体のやり取りはせいぜい官公庁内のメールしかないからです。ノートPCはチェーンで固定されているので持ち運びに難がありますし、クラウドなんてものありません。あと、結局補足説明と指導がメインなので特に地方組織であればあるほど(中央を経験したことはないけども)足がものを言います。足がものをいう世界ならWin7を保証終了直前に無理やりWin10にしたオンボロPCを運ぶより紙で印刷して決裁印をもらった方が早いんです。これは、(テレワークができるくらいには)インフラがしっかり整備された民間企業なら理解できなくても仕方ないと思います。つまり、インフラしっかりせえ! ってことなんですが……。

2 官公庁はなんだかんだ規模が大きいのとお金がない

 官公庁、規模が大きいです(特に防衛省お前やぞ)。規模が大きいのに任務優先なので管理部門にお金は回りません。例えば自衛隊でいえば戦車と戦闘機と護衛艦だけですらお金足りないのに、農水省でいえば農業政策ですらお金が足りないのに(かなり規模の大きい)管理部門に継続的に予算を投入するほど財源は現状この国にないです。財源がないとどうなるかというと、最終的には管理部門をマンパワー(残業)で解決します。それで官僚は残業量が死ぬほど多いわけですが、官僚の負担を減らすためにあなたは増税に同意してくれますか?

3 官公庁は日銀と会計検査院に支えられつ縛られつ

 官公庁の業務に大きくかかわる2つの組織があります。日本銀行と会計検査院です。この2つの組織のおかげで我々国民は事後的検証が容易なのですが。紙とハンコが規則的に必要な理由でもあります。

 (1) 「小平学校視察」河野防衛大臣(当時)のツイートをご覧ください(タイトル画面にも使用させていただいています)。小平学校会計科部(陸上自衛隊の会計の勉強をやるところ)での説明を受けている場面だと思いますが、これ、何やっているかわかりますか? 線引小切手を切っています。令和になっても大真面目に自衛隊は小切手を切らないといけない。大真面目に日銀代理店にもっていくという作業を繰り返しているということがわかります。政府小切手って電子化できないんですかね……?

(例・陸自名寄駐屯地↔日銀名寄代理店。年度末は極寒の中、週に何度もパジェロを飛ばすこととなるだろう)

 支払業務に1時間くらいかかりますね……。

 (2) 国の機関は会計検査院の書類検査を受けることになっています。毎月計算証明書と支払証拠書類を送らなければいけないのですが、支払証拠書類は紙と印鑑の束です。会計検査も電子化の規則はあるんですが、省内ネットにしか接続できないPCで電子化できるとは思えないです。でも、会計検査は必要なのですよ、大事なんです、会計検査。

4 まとめ:脱「ハンコ」は希望だけど前途多難だと思います。

  残業してまで非効率な業務をして人材をすり減らそうとは、みんな思っていません。でも、一見非効率的で前時代的な方法はそのIT環境と規則内では仕方なくともベターな選択であることが多々あるということをご理解していただきたいということと、ハンコがなくなるくらいITインフラが整備されたら官僚の士気向上に本当につながるなぁ……と願いつつこの文章を〆たいと思います。ありがとうございました。

霞ヶ関を「ホワイト化する」若手官僚の士気向上に注力 河野行革担当相

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