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統一地方選挙に思うこと② -杉並区下高井戸児童館廃止計画にみる住民運動-

 今月行われる統一地方選挙を踏まえ、東京新聞に掲載された「まちかどの民主主義」の中から地方自治、政治参加の在り方に関する記事について考察してまいります。前回は、栃木県塩原町におけるネットとタウンミーティングによる参加型民主主義について考察しました。(※1)2回目の今回は、2023年1月9日に東京新聞に掲載された杉並区の下高井戸児童館廃止計画の記事に関する考察です。なお、杉並区の児童館再編については、note記事においても児童館の存続を願う住民運動を行っている団体の記事があるので、詳細はそちらをご覧いただけたらと思います。(※2)

児童館再編についての概略

 杉並区は当初児童館再編について、児童館を廃止し、児童館内にあった学童保育を小学校に移して民間委託をすることを検討していた。児童館の存続を求める保護者は、児童館が、① 他の自治体の学童保育が小学生に限定しているのに対し、児童館は0歳から18歳までの青少年が利用できること、② 学童クラブと異なり学校と分離されているため、不登校などの理由で学校が苦手な青少年が利用しやすいうえ、学校の人間関係に拘束されない環境にあること、③ 児童厚生員というプロの職員が対応をしており、彼らは学校の教師と生徒という上下関係とは異なる関係で子どもに接しているなどとして、児童館が児童福祉施設として子ども主体で運用されていると主張してきた。(※3)また、学童保育は、児童館とは対照的に、定員枠が120名であり、学童保育の職員が対応できている状況にはなく、職員は子どもへの対応が威圧的であるなどとして、杉並区の学童保育には問題があるとも主張している。(※4)

 日本の子ども関連の福祉予算(以下「子ども関連予算」)はGDP比で2020年度で2%と、フランスの2.85%(2018年度)、スウェーデンの3.40%(2017年度)と比較しても少ない。(※5)近年、少子化による経済規模縮小、少子化と反比例する形での高齢化社会による社会全体の低迷が危惧されることから、子ども関連予算の増額の必要性が指摘され、政府も当該予算を増額する意向にはある。ただし、政府主導の子ども関連予算は少子高齢化による経済力の衰退を懸念する観点からの傾向が強いため、当事者である子どもの立場に立った視点、具体的には子どもに対する精神的ケア、貧困の問題といったことへの言及が少ない。

 杉並区の児童館は公的機関によって子どもに対するケアが行われているという点で、先進的であり本来の子どもを対象とした福祉の理念に沿ったものである。当初杉並区が試みた、公費の節減、効率化、民間委託を優先する新自由主義的な観点からの児童館統廃合は、昨今言われている少子化対策が大人目線のものでしかなく、子どもの立場に立っていないことの表れの一つと言えよう。

児童館再編はどのような経緯をたどったのか

 児童館再編は、昨年6月19日に行われた杉並区長選挙で争点となり、児童館再編の見直しを公約に掲げた岸本聡子が現職の田中良を僅差で破って当選した。(※6)しかし、杉並区は既に設計費が予算に措置されているとして下高井戸の児童館については廃止の条例案を提出することとなった。児童館の存続を求める保護者は児童館存続を求めて区への要望書の署名活動を行ったが、12月6日に区議会で廃止が決定された。廃止決定後、住民説明会で区長は、下高井戸の児童館は廃止するものの下高井戸における学校、家庭と異なる子どもの居場所をどうするかを皆さん(住民)と考えたいと語った。(※7)

 下高井戸児童館に子どもが通っていることから、児童館の存続を求めていた井上恵は廃止の理由が明確ではないことは残念であるとして納得がいかないと東京新聞の取材に語っている。と同時に井上は選挙で投票するだけが市民の政治参加ではないとして次のように語る。

 「選挙で投票して終わりでなく、区政を監視し、おかしいと思うことはその都度声をあげていかないと、自分が当事者だと気づいたときに手遅れになってしまう」(※8)

選挙の投票においてはともすると、政党や候補者を支持する団体や支持者は、自分たちの支持する政党ないしは候補をいかに勝たせるかということだけに目が行きがちである。そのため、自身の政党、陣営が支持した候補が当選して公約を翻した場合でも、自分たちが支持をした政党、陣営の候補だからと支持団体や支持者が目をつぶるということをよく耳にする。しかし、政策を巡って対立したにもかかわらず、当選後に公約を破った政治家を従来の政治家とは異なるから、前の政治とは違うタイプだからと黙認するほど、有権者、世論は甘くないことを理解するべきだろう。

 杉並区の児童館をめぐる争点からもわかる通り、自分たちにとって一番身近な存在である市区町村の選挙は、民主主義とは何か、政治に参加すること、あるべき政策を考察することは何かについて「民主主義の学校」として私たちが学ぶ基本中の基本と言える。であるがゆえに、市区町村という基礎自治体における選挙にこそ、政策の争点が議論されやすい環境が確立されることを切に望みたい。

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 いかがだったでしょうか。次回も同じく杉並区について、同区選挙管理委員会が試みたボートマッチの是非について東京新聞の記事から考察します。

私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。

(※1)

統一地方選挙に思うこと① -ネット、タウンミーティングにおける参加型民主主義-|宴は終わったが|note

(※2) 杉並の児童館存続を願う保護者連絡会|note

西荻北児童館の存続を願う保護者の会|note

(※3) 杉並の公立学童クラブが危機的状況!|西荻北児童館の存続を願う保護者の会|note

(※4) (※3)同

(※5) 2023年2月16日 東京新聞 朝刊 2面

(※6) 令和4年6月19日執行 杉並区長選挙・区議会議員補欠選挙 開票結果|杉並区公式ホームページ (city.suginami.tokyo.jp)

2023年1月9日 東京新聞 2面

(※7) 「私に批判的であってほしい」新人区長が意外な呼びかけをした真意 東京・杉並区長の岸本聡子さん、意見が異なる住民も期待感(47NEWS) - Yahoo!ニュース

2023年1月9日 東京新聞 2面

(※8) 2023年1月9日 東京新聞 2面

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