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統一地方選挙に思うこと① -ネット、タウンミーティングにおける参加型民主主義-

 東京新聞に掲載された「まちかどの民主主義」の中から地方自治、政治参加の在り方に関する記事について考察して参ります。1回目の今回は栃木県塩谷町における参加型民主主義の在り方について2023年1月5日東京新聞に掲載された記事を中心に考察します。

原発事故廃棄物処理場候補地への危機

 栃木県塩谷町は2015年より、中学生以上の町民を対象にオンラインを通じて町政に関する選択式の意識調査に回答する「塩谷町民全体会議」を導入し、町政に活かすようにしている。(※1)背景にあるのは福島第一原発事故で発生した指定廃棄物処理場の候補地となったこと、深刻な人口減による町の将来性に対する危機感があったとある。

 指定廃棄物処理場の候補地として高原山の国有林が選ばれたが、同候補地は川や水源に近く安全性への保管ができないとして町長の見方和久は計画への反対を表明した。見方は町民とともに廃棄処分場設置の反対運動に取り組んだが、町政への意見を聴く集会などに若者の姿がないことに見方は懸念した。以上の経緯から見方は町の幅広い課題について、若者を含めた町民全体の意見を反映させる必要性を感じたという。

若年層の政治参加を促す姿勢

オンライン会議「塩谷町民全員会議」

 「塩谷町民全員会議」1回目のオンライン会議で、町の抱える「最大の課題」について町民に問い合わせたところ、回答の大半が廃棄物処分場の問題とした一方、10代では人口減が最多を占めた。また、中学生は約60%が町を好きと回答したものの、住み続けたいとの回答は12%に留まったという。中学生からは町における移動の不便性を訴える意見が数多く寄せられた。町は路線バスの運営委託と交渉して、路線バスのダイヤを鉄道から乗り換えやすいダイヤにするように変更することとした。

 「塩谷町民全員会議」について、慶應義塾大学SFC研究所上席所員、起業家の岩田崇は

「意思表示」を行いやすくし、かつ回答結果をくり返しすり合わせることで、多人数、広域の戦略的な意思決定を促すもの(※2)

として、町民による政治参加と合意形成に役立っているとの見解を示している。

旧住民・新住民同士の対話の場の設置

 また、2022年度からは20代から40代の町への移住者、町の出身者による新旧住民による継続的な対話の場を設けた。「塩谷町民全員会議」での全町民からの意見を聴く姿勢同様、参加者を偏らせることなく、移住者の意見が町政に反映されやすくなることで、移住者の定住基盤を確立することを試みたものと言える。

 地方自治を活かすには自分の周りの身近な問題について、住民が積極的に参加し、住民の意見を反映するための仕組みをどう確立するかが課題となる。ただ、塩谷町の方式は制度面もあるだろうが、町自体の姿勢が町民の意見を反映することに積極的であることが町民の参加型民主主義を促進させていると言える。この全員参加町政に対して町民の一人は「未来への責任を考える機運が生まれた」と評価している。(※3)

市区町村議会・市区町村長と住民の意思疎通の在り方

 共同通信は今回の統一地方選挙を踏まえ、市区町村議会の議長に関する調査を行った。(※4)私は、市区町村議会議長のアンケートからは全体として地方議会が物事に後ろ向きな傾向があるのではと懸念している。地方議会が後ろ向きになる理由としては、地方議会自体が中高年男性中心で構成される傾向にあるため、特定層の意見を代表しがちになり、議論が低迷して地域の活性化に対する障害になる傾向にあることが考えられる。

 私は、地方議会が人々の様々な意見を反映させることを通じて地方政治のあるべき姿を決める場であるにもかかわらず、本来の役割が果たされていない傾向にあることを懸念している。仮に形式的にクオータ(quata=割合)制によって一定程度女性、若年層を割り当てることを義務付ける制度を設けたとしても、それらの制度が申し訳程度の位置づけに留まるのであれば、地方議会は特定層の利害を代表する旧態依然とした後ろ向きな存在に留まる可能性が高い。

 地方議会の保守的体質を打破するために求められるのは、地方自治法に定められた直接請求権(※5)に留まらない住民の地方政治に対する意見、要望を反映するための仕組みであろう。今回東京新聞が取材した塩谷町の事例はひとり塩谷町住民の意見、要望を塩谷町政に反映させる意義のみならず、地方議会の保守的体質に刺激を与え、議員が自身の役割を積極的に果たし、地方政治を活性化する一例となろう。ただ、塩谷町の事例は他の自治体がそのまま採用するというだけに留まるべきではなく、各自治体も地域住民が自治体の政治に参加するための制度、提言を積極的に行うべきだし、また私たち一人ひとりも地方政治に自身の要望、意見を反映させるための仕組みを提言することに尽力するべきであろう。

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 いかがだったでしょうか。次回は杉並区における児童館再編問題をめぐる住民運動の動きについて東京新聞の記事より考察する予定です。


私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。

脚注

(※1) 2023年1月5日 東京新聞 朝刊 2面

(※2)

民主主義を機能させられないメディア 必要なのは“マスコミ”の新発明?(THE PAGE) - Yahoo!ニュース

(※3) 2023年1月5日 東京新聞 朝刊 2面

(※4) 2023年1月29日 東京新聞 朝刊 1面,22面
2023年2月5日 東京新聞 朝刊1面,2面
2023年2月26日 東京新聞 朝刊 20面

なお、アンケート調査に関する考察は別途このシリーズで掲載する予定である。

(※5)

総務省|地方自治制度|直接請求制度 (soumu.go.jp)

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