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2022年参議院選各党公約考察(後編)

 来たる7月10日に行われる参議院選挙の各党の公約に関する考察になります。争点となっている公約よりも、大切ではあるけれどあまり注目されていない公約と私が考えるものを中心に考察したいと思います。前編は財政・税制、経済について考察しました。後編の今回は社会保障を中心に考察をして参ります。

3.社会保障について

3-1 年金

3-1 社会保障(年金)

 日本の年金制度は老齢、障害、遺族の3種類について年金を支給する制度となっているが、選挙の主たる争点は老齢年金の支給とそれに対する負担額についてが多い。そのため、ここでは老齢年金を中心に各党間の公約について比較検討をしたい。

3-1-a 年金の将来設計のあり方

 将来的な年金のあり方について言及をしているのは自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党である。但し、「若者の給付水準の確保等を図るための制度改革に取り組み、若者も高齢者も安心できる持続可能な年金制度を確立」(自民)(※1)、「人生100年時代を見据え、働き方の多様化に対応す
るため、本人の希望による年金受給開始年齢の多様化や、高齢者の就労を進めるための在職老齢年金制度の見直し、被用者年金のさらなる適用拡大など、年金制度改正の円滑な施行」(公明)(※2)、「世代間公平とともに最低保証機能を強化した新しい基礎年金制度への移行を検討」(国民民主)(※3)と自民党、公明党、国民民主党は抽象的な表現にとどまっている。

 このうち新自由主義的な方向による年金制度を試みるという意味で独自の政策を主張しているのが日本維新の会である。日本維新の会は、「ベーシックインカムまたは給付付き税額控除を基軸とした再分配の最適化・統合化を本格的に検討し、年金等を含めた社会保障全体の改革を推進」する、「現行の公的年金を継続する場合は賦課方式から積立方式に移行し、原則として同一世代の勘定区分内で 一生涯を通じた受益と負担をバランスさせる」とあり、ベーシックインカムを導入することを条件に、積立方式への変更も含め、年金制度自体を最低保障の給付制度に留めることへの含みを持たせる内容になっている。

3-1-b 給付と負担のあり方について

 年金問題は少子高齢化による給付と負担のバランスの問題が尤も顕著に表れやすい。年金保険料の負担については、「社会保険料は標準報酬に上限があるため、企業役員など高所得者の負担が低くなっており、上限を引き上げるなど応能負担の改革を行」う(共産)(※4)、「モデル世帯前提の議論を止め、第3号被保険者や配偶者控除の見直し」(国民民主)(※3)、といった意見も見られるが、基本的にはさらなる社会保険料の新たな負担への言及は少ない。

3-1-c 障害年金受給者への言及

 老齢年金受給者に目がいきがちだが、障害年金受給者は保険制度においてその生活保障に対して特に意識すべき層であろう。障害年金受給者を意識した政策提言としては、「障害年金専用相談窓口を設置」(公明)(※5)がある。

3-2 医療

3-2 社会保障(医療)

 医療については医療費のあり方と「地域医療構想」を中心に取り上げたい。

3-2-a 医療費のあり方について

 医療費については社会保険料のあり方、窓口での負担についてどのように考えるかという点が争点となる。前者の社会保険料のあり方に言及をしているのは、日本維新の会である。前者は「医療保険に保険料割引制度を導入し」、「定期的な検診受診者や健康リスクの低い被保険者などの保険料を値引きする」とあり、(※6)民間保険会社の医療保険同様の疾病発生リスクを加味した社会保険料制度の導入を示唆する内容を提言している。日本維新の会は医療保険においても新自由主義的な傾向が表れていると言えよう。

 新自由主義的な傾向の日本維新の会と逆に、疾病リスクの高い高齢者について2割負担から1割負担に戻すことを提言しているのが立憲民主党と、日本共産党である。また、公明党、日本共産党は子どもの医療費の無料化を提言している。

 なお、国民民主党は「医療、介護、障害福祉等にかかる自己負担の合計額に上限を設ける総合合算制度を導入する」(※7)として、一定の自己負担限度額を超えた医療費を返還する現行の高額療養費制度(※8)に介護なども含めた形での自己限度額を設定する制度の導入を提言している。また、れいわ新選組は社会保険料の負担軽減を主張している。

3-2-b 地域医療構想の見直し

 現行の「地域医療構想」について、公立・公的病院の統廃合、病床削減の中止に言及をしているのが立憲民主党と日本共産党である。特に日本共産党は病床拡充の他、救急・救命医療への国の予算を倍にするほか、医師の数を増やすなどにより、日本の医療と公衆衛生の弱体化を改めるとしている。(※9)

3-3 介護

3-3 社会保障(介護)

 介護保険については介護職員処遇、介護保険料、地域包括ケアシステム(※10)を中心に取り上げたい。

3-3-a 介護職員への処遇

 介護現場における介護職員の賃金の低さをはじめとした重労働の問題は深刻であり、処遇の改善が求められるという点ではどの政党でも共通している。ただ、自民党は「介護人材の確保は、喫緊の課題であることから、他産業との賃金差等も踏まえ、更なる処遇改善を進め」る、日本維新の会は「介護現場で働くすべての方の待遇・職場環境改善を行」うと具体的な内容には踏み込んでいない。公明党は「介護離職ゼロに向け、介護従事者の処遇改善や再就職支援、介護福祉士養成や学生等に対する支援などで必要な人材を確保」すると支援策は打ち出しているが、処遇改善の具体策への言及はない。

 上記以外の政党は介護職員の賃金増額の必要性を指摘している。立憲民主党は「介護・障がい福祉や放課後児童クラブ、保育等のベーシック・サービスの質・量を充実させるため、職員の処遇改善を図」るとして、「政府の処遇改善策からさらに支給対象を拡大、支給額を増額(プラス月額10,000円)」するとしている。日本共産党も「国が基準を定めている介護・福祉・保育職員の賃金を「全産業平均」並みに引き上げ」るとしている。れいわ新選組は介護・保育従事者の賃金を月10万円上げるとしている。国民民主党は「すべての介護職員の賃金を引き上げ」ると具体的な額には言及をしないものの賃金引上げの必要性を説いている。

3-3-b 介護保険料への言及

 介護保険料についてのあり方については自民党、日本共産党、れいわ新選組が言及をしている。

 自民党は「高齢化の進展により、増大が予想される介護保険料の上昇を抑制」するとして、「介護サービスの効率化、重点化を図り、持続可能な介護保険制度を堅持」するとあり、きめ細かい介護サービスよりも費用抑制による合理化を重視する内容となっている。

 日本共産党は自民党とは異なり、大きい政府志向からの介護保険料のあり方について言及をしている。同党は「介護保険料・利用料の減免、保険給付の拡充、特養ホームなど介護施設の拡充」を主張する。れいわ新選組は「国民健康保険料や介護保険料などの、毎月の社会保障費の支払いの負担感を国庫補助の増額で軽減する」(「3-2 医療」の表 ※前掲)としているが介護利用料については言及をしていない。

3-3-c 地域包括ケアシステムへの言及

 冒頭の表でも説明した通り、地域包括ケアシステムについての具体的な言及はあまり見られない。自民党は「在宅・施設サービス等の整備の充実、加速化や、介護人材確保をはじめとした地域における介護サービスの適正な需給調整を実現するための総合的な方策を講じ」、「解消し、セーフティネット機能を充実させ、安心して生活を継続できる地域包括ケア体制を深化・推進」する(※11)としているが、具体的な政策、方策についての言及はない。公明党も「誰もが住み慣れた地域で安心して老後を暮らせるために、医療、介護、予防、住まい、生活支援を地域の中で一体的に受けられる「地域包括ケアシステム」の構築を加速」するという表現に留まる。(※12)

 野党側も同様で立憲民主党が「高齢者も含めた孤独(独居・寡婦等)対策を強化し、社会的包摂を進め」る(※13)、日本維新の会が「在宅医療・在宅介護の質・量を高め、初めて経験する人でも安心して使える地域包括ケアシステムを構築し、医療・リハビリ・介護・福祉の連携によるいのち輝く未来社会を実現」(※14)とある。国民民主党は「かかりつけ医と訪問看護など医療と介護の連携推進、在宅サービスの充実、配食や見守りなどの促進を行い、「地域包括ケアシステム」の取り組みを拡充、強化」すると他の政党と比較するとやや具体的な事例を挙げているが、それらを行うための人員の育成やシステムの構築に関する方策については言及をしていない。日本共産党は「介護保険料・利用料の減免、保険給付の拡充、特養ホームなど介護施設の拡充により、必要な介護が受けられる制度に」するとあり、在宅介護よりも施設での介護に重点を置く姿勢を示しており、他党とは一線を画している。(※15)れいわ新選組は地域包括ケアシステム自体についての言及が見られない。

 以上、年金、医療、介護について各党公約を比較検討した。

3-4 コメント

 税制・財政分野とも関連があるが、社会保障分野は大きい政府志向か小さい政府志向かが出やすい分野であることは、それぞれの項目での各党の政策の場で述べてきた通りである。どちらの立場を選ぶにせよ給付と負担との関係をどのように構築するかという点が大きなポイントとなる。

 負担を軽減すれば当然給付は少なくなるし、給付を多くすれば負担は多くなる。どちらもそれぞれメリット、デメリットがあるのだが、各党とも支持を失うことを恐れてデメリットについてはあまり言及したがらない。ただ、従来のように右肩上がりの成長を前提とした社会モデルができない以上はどのような給付と負担のあり方かを議論することは避けられず、デメリットの部分を有権者に説明することが必要である。各党とも有権者に向き合って理解を求めるべくデメリットの説明をすることが必要であろう。

4 子育て・教育関連

4.子育て・教育

 最後に子育て・教育問題について簡単に触れたい。

4-1 子育て費用への助成

 子育て・教育問題については子育て費用への助成、高校授業料無償化について意見が分かれている。子育て費用については、立憲民主党がすべての子どもに「児童手当は、高校卒業年次まで月額15,000円に延長・増額」し、「児童扶養手当は子ども1人当たり月額10,000円を加算し、ふたり親低所得世帯にも月額10,000円を支給」するとしている。また、「子ども・子育て関連予算については積極的な積み上げを行い、結果として対GDP比3%台(現状の倍増)を達成」とあり、子育て予算を積極的に割く方向性が見られる。(※15)国民民主党も「児童手当を18歳まで一律15,000円に拡充」するほか、教育や人づくりに対する支出を「公債発行対象経費とする「教育国債」を創設し」、「毎年5兆円発行」するとしており、立憲民主党同様に積極的に子育て予算を割いている。(※16)

 日本共産党は「子ども手当を、社会全体で子どもを支える原則から全員に支給し、拡充」する(※17)としているほか、れいわ新選組は高校生相当の年齢まで「すべての子どもに毎月3万円を給付」するとしている。

4-2 高校授業料の無償化

 高校授業料の無償化については自民党以外の政党は基本的には賛成の方向である。公明党が所得制限、日本共産党が私立高校の無償化拡充と、これら2党は全面的な無償化ではないが、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、れいわ新選組が全面無償化を唱えている。また、これらの政党は大学などの高等教育への授業料無償化、減免にも言及をしており、立憲民主党、国民民主党が減免、日本維新の会、れいわ新選組が免除を唱えている。

5.さいごに-安倍元総理への凶弾も含めて-

 投票日の2日前の昨日、安倍元総理が選挙演説中に凶弾に倒れました。事件を起こした容疑者の動機がわからないので炯々には論じられませんが、私たち有権者がなすべきは、政治家への暴力によって政治活動、選挙活動が委縮することがあってはならないという意志表示を示すべく、投票所に足を運ぶことを通して政治への暴力行為を断固拒否することでしょう。

 1932年2月9日、元大蔵大臣の井上準之助は安倍元総理同様、選挙演説の会場に到着した際に凶弾に倒れました。しかし、後に同じく5・15事件で凶弾に倒れた政友会総裁で総理大臣の犬養毅は「つまらぬことをするものがあるのは困ったもの」と軽く考えていました。そんな態度は一人政治家のみならず、世論もテロ行為を行った容疑者を表彰する有様であったようで、民政党機関紙は「当局も輿論も何ぞ奮起してかかる直接行動の非異を天下に糾弾せざるや」と憤ったと言います。(※18)

 井上のときと異なり、与野党の政治家、世論とも今回の安倍元総理への凶弾を断固拒否しています。しかし、ごく少数であっても場合によっては暴力に訴えることも容認されるという考えを許したり、事件を他人事のように感じる風潮が起きると、戦前の政党政治家へのテロ活動に見られるように簡単に民主主義が否定されることにつながりかねません。その意味でも事件を面白おかしく語る一部のSNSやそれに乗じるSNSタレント(※19)に対しても本気で相手にしないと、面倒くさがらず、事件を炯々に面白がるべきではないという態度を私達も明確に示すべきでしょう。(※20)

 話を本編に戻します。私がご紹介しました各党の公約比較はごく一部に留まります。余裕がありましたら、以下にあります主要政党各党の公約をそれぞれ目を通されることをお奨めします。明日は投票日です。お一人おひとりがじっくりと考えて政治に責任を持っていただければと存じます。

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自民党

公明党

立憲民主党

日本維新の会

国民民主党

日本共産党

れいわ新選組

皆が集まっているイラスト1

私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。

(※1) 下記HP 「総合政策集2022 J-ファイル」「324 若者も高齢者も安心できる年金制度の確立」より

(※2) 参議院選挙2022政策集「5 感染症に強い日本へ。安心の医療・介護・年金制度の整備」から

(※3) 政策パンフレット「正直な政治をつらぬく」より

(※4) 下記HP「2、物価高騰から生活を守る――弱肉強食の新自由主義を転換して「やさしく強い経済」に――日本共産党の五つの提案>」より

(※5) (※3) 前掲 同

(※6) 「政策提言」 セーフティネット193より

(※7) (※3) 前掲 同

(※8)

(※9) (※4) 前掲 同

(※10) 重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるためのシステム

(※11) (※1) 前掲 「360 地域包括ケアシステムの深化・推進と「介
護離職ゼロ」の実現」

(※12) (※2) 前掲 同

(※13) 

(※14) (※6) セーフティネット194より

(※15)

(※16) (※3) 前掲 「人づくりこそ国づくり」

(※17) (※4) 前掲 (3)年金削減の中止、給食無償化――経済力にふさわしく社会保障と教育を拡充します

(※18) 井上寿一「政友会と民政党」P148~P149

(※19) 以下の堀江貴文のTwitterなど

(※20) 今回の安倍元総理襲撃事件についてはいずれnote記事にできればと考えております。

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