人とのつながりを大切に ー 創作料理居酒屋「きつねのぼたん」
「地域全体が心地よくなるような空気づくりを仲間と共に発信していきたい」
そう話すのは、創作料理居酒屋「きつねのぼたん」を経営する加島誠也さんと加島愛さんご夫妻。
広島県と愛媛県を結ぶ海の道、瀬戸内しまなみ海道でつながる、愛媛県今治市の「大三島(おおみしま)」。大三島は日本総鎮守と尊称された、「大山祇神社(おおやまづみじんじゃ)」が鎮座していることから、「神の島」とも呼ばれています。
神の島として呼ばれる所以となった、大山祇神社の参道に、創作料理居酒屋「きつねのぼたん」があります。
創作料理居酒屋「きつねのぼたん」の経営のほかに、大三島の未来のため、島にひとつしかない高校「愛媛県立今治北高等学校 大三島分校」の存続活動を行う、加島ご夫妻。お店や、大三島の振興についてお話を伺いました。
「地元である大三島に戻りたい」
愛さんは、大三島出身で高校までの18年間を島で過ごし、Uターン。一方、誠也さんは広島県出身で、Iターンをしています。
愛さん「正直、一度島を出てみるまでは島の良さは分かりませんでした。でも、進学や就職で大三島を出てみて、人と人との繋がりの強さや自然の素晴らしさ、そして大切な友達や家族の近くにいたいと気づき、大三島に戻りたいと思うようになりました。
でも、大三島に戻りたいという気持ちはあったけど、当初はお店を出すことまでは考えていなかったんです」
ご結婚される前は、愛さんはブライダル関連、誠也さんは飲食関連の仕事にそれぞれ従事していたというご夫妻。愛さんの結婚の条件は、「大三島に一緒に来てくれる人」だったそうです。それを聞いた誠也さんは、全く違和感なく「その条件でいいなら」と、2人で大三島に行く準備を進めていき、2016年11月に創作料理居酒屋「きつねのぼたん」をオープンしました。
誠也さん「自分は料理人で手に職があったので、それを新天地で活かせたらいいなと思って開業しました」
愛さん「結婚の挨拶に行った際に、私の父が大三島で空き家関係のNPOをやっていたことから、空き家物件を活用して飲食店をしなよと言われたこともきっかけのひとつです」
愛さんは「地元」、誠也さんは「移住者」という組み合わせは島では珍しく、やりやすいこともあれば、大変に感じることもあったといいます。
愛さん「現在、大三島に存在する飲食店の中では開業が早い方だったので、地元の人との繋がりが1番大切だと考えていたものの、どうすれば同じ志を持つ人と繋がることができるのか、手探りの状態だったので大変でした。
ですが、私たちが開業してから7年経った今では、当時と違ってIターンで開業する人も増えてきたので、同世代の地元の人や仲間も作りやすく、本当に恵まれたタイミングだったと思うようになりました」
創作料理居酒屋「きつねのぼたん」の新しいチャレンジ
2023年の今年でオープンから7年目を迎え、新しいチャレンジとして5月からは手打ち蕎麦の提供を始めています。
愛さん「今は、手打ち蕎麦に力を入れていきたい」
「きつねのぼたん」では、都心にも引けを取らないクオリティの料理やお酒を、手頃な価格で提供することで勝負をしてきました。
誠也さん「今も続いている物価の高騰に対応し続けるには、限界が近づいてきています。そのため、店の形やコンセプトは変えずに魅力を増やしていくために、武器を増やしていく必要があると感じていました。
そんな時、素敵な出会いがあり、新しく蕎麦メニューの提供を始めることにしました。時代に合わせながら、何かしらの新しい武器を増やしていくことは、お店を続けていくためにも、継続して行う必要があると考えています」
大三島でたったひとつの高校の統合
愛さんと誠也さんが住む大三島は、高校がひとつだけ。
大三島唯一の高校「愛媛県立今治北高等学校 大三島分校」は、愛媛県の規定により、3年連続で新入生の入学が30名以下になると募集停止の検討を始めることになっています。
そのため、加島ご夫妻は大三島に腰を据えてから、高校を残すために活動を始めました。愛さんは現在、高校を残すために活動している「大三島分校振興対策協議会」の会長を勤めています。しかし、活動当初は高校を存続させたいという想いを持った人たちが、個々で活動していたといいます。
愛さん「最初は、『何とかしたい』『私たちも何か関わりを持ちたいよね』と、高校を存続させたいという想いを持った人たちが皆、バラバラで動いていて、その内の1人に学校へクラウドファンディングを提案する方がいました。
そういう人達と、大三島分校振興対策協議会の下部組織、『魅力化推進グループ』を立ち上げ、クラウドファンディングをはじめ、様々な活動を学校とコミュニケーションを取りながら進めていきました」
学校は2019年度の入学生から全国募集を始め、県外の生徒の受け入れるにあたり、下宿や寄宿舎の整備をすることになりました。
その資金を集めるため、大三島分校振興対策協議会では、2021年6月1日〜同年7月31日までクラウドファンディングを実施。目標金額の150万円を大幅に超えて、最終的に250万弱の支援がありました。
加島ご夫婦は、同じ想いを持った仲間と共に、大三島分校を守るために活動を続けてきました。しかし、令和8年度から伯方島にある「愛媛県立今治西高等学校 伯方分校」との統合が決定。
愛さん「現在も3年連続で新入生の入学が30名以下になると、募集停止の検討を開始するという規則は生きていますが、2023年度内に2校を統合するにあたっての協議が始まります。
廃校という選択肢はなくなり、大三島と伯方島の両校とも今治市内の分校だったのが、2つで1つの本校になるイメージです」
学校としては本校になるので、ポジティブな話ではあるものの、大三島分校は無くなってしまいます。
大三島唯一の高校「愛媛県立今治北高等学校 大三島分校」は、以前は「愛媛県立大三島高等学校」という本校でした。
愛さん「大三島高校から分校になった際に名前や制服は変わったけど、校舎や校歌は変わらなかった。これが大三島高校の時代と、現在の大三島分校を繋ぐ大きな要因だと考えています」
誠也さん「高校がなくなるということは、歴史や伝統、文化を繋いでいく子供達が少なくなってしまうということが課題です。だからこそ、大三島分校という場所を残したいと強く願っています」
愛さんは、2023年度内に始まる高校統合に関する県や市との協議にも参加します。
愛さん「学校の存続に関して、島民は皆多少なり関心があると思うのですが、実際は、『分校は統合するけど、高校自体は残るんだね〜』くらいの関心レベルの人が、半数以上なんじゃないかなと個人的には思っています。
今は、全国募集自体は続けることになっていますが、これがどんな話に変わっていくのか.......」
大三島に来る生徒のために始めた下宿
高校存続の活動をしていく中で、寄宿舎の部屋の確保が毎年ギリギリだったことから、少しでも足しになればと、2022年4月から自宅で下宿生の受け入れを始めました。
誠也さん「うちの下宿に来たいという生徒の他に、生徒本人の希望と親御さんと話を進めていく中で、学校が少ししんどいと感じている子もサポートできたらなという感覚でいます。だから、うちの下宿では、『学校で出るお昼以外のご飯と寝るところは提供するよ。代わりに、学校はちゃんと自分で行ってね』というのを基本にしています」
愛さん「生徒を全国から募集することには、メリットとデメリットがあると思っています。メリットはいろいろな場所から生徒が集まるので、島の子が、これまで出会うことのなかった子にも関われること。デメリットは、寄宿舎に入って自分で生活をしなきゃいけないことに加えて、学校生活もあること。
全国募集をする中で、中学校生活から心機一転したくて大三島に来る子もいます。頑張りたいけどやり方が分からない子は、先生と話してうちで受け入れられるように、先生とも密に連携を取るようにしています」
大三島の未来に繋げていく
蕎麦の提供・下宿生の受け入れなど、新しいチャレンジが続いているご夫妻。最後に、大三島に向けてやっていきたいことを伺いました。
愛さん「お店のこと、分校のこと、下宿生のこと、今していることをしっかりとやっていきたいです。
お店に関しては、今までもこれからも来ていただいたお客様に、しっかりと楽しんでもらうこと。料理やお酒はあくまでツールだと思っているので、それを通して私たちを知ってもらえる様なお店をつくっていきたいと思っています。
学生の事に関しては、島内・島外は関係なく、大三島分校を選んできてくれた子たちに『実りある3年間だった』と思ってもらえるように微力ながら、全力でサポートしたいと思っていて、これらが結果的に大三島の未来に繋がると思っています」
「きつねのぼたん」から活動・発信を続けている加島ご夫妻は、大三島にしっかり根付き、力強く花を咲かせていると感じましたが、おふたりからすると「まだまだ」だそう。
「移住者が島を変えることはできない。島には島のルールがある。その中で私たちは商売をし、活動をさせていただいている」
インタビューを終えて、加島ご夫妻はこう話しました。
大三島に限らず、地域で活動を続けていくには住民の理解と協力が必要不可欠。加島ご夫妻の活動や発信が地域に広く届き、さらに大きな輪となって大三島の未来に繋がることを願っています。
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