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令和4年の20枚

その声はあたり一帯、谷中に響き渡り、
やがてひまわり畑にまで届こうとしていたので。
12年目、2022年の音楽。

レフトフィールド寄りで万人が聴いて楽しいというタイプの音楽ではないかもしれません。冒頭の2枚こそ明確な歌詞があるものですが、基本的にはコンテンポラリーな室内楽、アンビエントやドローンをよく聴きます。下はさっと流せるプレイリスト。

BANKS - Serpentina (AWAL)

カリフォルニア出身のSSW、BANKSによる4枚目のアルバム。手堅いサウンドデザインで間違いがない。
#Electronic, Contemporary R&B | Apple / Spotify / Amazon

Sevdaliza - Raving Dahlia - EP (Self-released)

傑作『Shabrang』に続く新作EP。出産を控えて発表された本作には新曲5曲とリミックス1曲を収録。新曲はこれまでの前衛性をやや抑えた雰囲気になっているが、マタニティ姿でMVに登場するなど、彼女の人間的なパワフルさとアートに対する高い志向が伺える。出産後は精力的なライブ活動やルーツであるイランの反スカーフデモに呼応する新曲の発表を行っており、2023年以降の活躍にも期待が高まる。
#Trip Hop, Experimental, Downtempo | bandcamp / Apple / Spotify / Amazon

Marina Herlop - Pripyat (PAN)

バルセロナ在住のピアニストMarina Herlopによる、南インドのカーナティック音楽やボイスパーカッション「コナッコル」にインスパイアを受けた作品。呪術的なボイスとメランコリックなピアノ、パーカッションなどが複雑なプログラミングによって見事に組み立てられている。
#Electronic,  Abstract | bandcamp / Apple / Spotify / Amazon

Michiel de Malsche - The Discomfort of Evening (Meakusma)

2020年の国際ブッカー賞を受賞したMarieke Lucas Rijneveldの小説『The Discomfort of Evening』にインスパイアされ制作されたベルギーの作曲家Michiel de Malscheによるサウンドトラック的作品。敬虔なクリスチャンの家庭に育った少女が悲劇的な事故をきっかけに不穏な儀式や空想にのめり込んでいくという物語を見事に表現している。
#Experimental | bandcamp / Apple / Spotify / Amazon

KMRU - Temporary Stored (Self-released)

ナイロビ出身の電子音楽家KMRUが2021年に欧州から中央アフリカ王立博物館に返還された植民地時代のサウンド・アーカイブに向き合うアンビエント作品。アルバムタイトルの『一時保管』の通り、何か答えを提示するというよりは聴く側にどう感じるかを委ねているようだ。前作のようなフロア向けのダンスミュージック志向は鳴りを潜めている。
#Ambient, Experimental, Field Recording | bandcamp

Romance& Dean Hurley - In Every Dream Home A Heartache (Ecstatic)

初期のYouTubeでエンコードされたアメリカのメロドラマの音源をサンプリングしコラージュしたアンビエント作品。2000年代のYouTubeはエンコーダの質が悪く、エンコードを回避するために趣向を凝らした覚えがある。20年近く経てばそんな事もノスタルジーになる。
#Ambient | bandcamp / Apple / Spotify / Amazon

Stefano Pilia - Spiralis Aurea (Die Schachtel)

チェロ四重奏やホルン四重奏、オルガンなど様々な形式で演奏されるスピリチュアルなドローンや室内楽。Apple musicにないのが残念だが他のサービスで是非聴いてほしい。今年一番の圧倒的美しさ。
#Contemporary Classical | bandcamp / Spotify / Amazon

MANSUR - OSCURAS FLORES (Denovali)

Jason Kohnen (The Kilimanjaro Darkjazz Ensemble)によるプロジェクトMansur。インドの哲学者ヴァンダナ・シヴァの作品に着想を得た、オーガニックへの回帰と地球とのより健全な共生のための音楽。
#Ambient, Dark Jazz, Experimental | bandcamp / Apple / Spotify / Amazon

Orson Hentschel - Heavy Light (Denovali)

ベルリンに拠点を置くドイツ人電子音楽家Orson Hentschelによる重厚なエレクトロニックサウンド。
#Electronic, Industrial | bandcamp / Apple / Spotify / Amazon

Safa – Ibtihalat (UIQ)

Lee Gamble主宰レーベルUIQよりロンドンとベイルートを拠点に活動するMhamad Safaのデビューアルバム。アフリカやアラビア半島の伝統音楽の儀式的でポリリズミックなパーカッションと現代のダンスミュージックとの類似性を描き出している。
#Experimental | bandcamp / Apple / Spotify / Amazon

Jacob David - Lille fugl [Single] (Moderna Records)

シンプルで儚いピアノピース。
#Piano, Classical | bandcamp / Apple / Spotify / Amazon

36 - Colours in the Dark (3six Recordings)

この年末リストでは常連の36ことDennis Huddlestonは2022年初頭より鬱病のため音楽活動を一時休止。本作が復帰作となる。フィードバックによるアンビエントドローンなどを軸としたスタイルは今までと変わりないが、今までになく個人的で力強さを感じさせる作品になっている。
#Ambient, Drone | bandcamp / Apple / Spotify / Amazon

Metal Preyers - Shadow Swamps (Nyege Nyege Tapes)

Metal Preyers2作目のアルバム。グレムリン、赤い豚、クレーターの生き物を避けながら、父と娘が沼地を旅するという童話のサウンドトラックだそうだ。前作を引き継ぐ実験的なニューウェーブ、インダストリアルサウンド。アルバムを順に聴くことで一本のストーリーが浮かび上がってくる。
#Abstract, Experimental | bandcamp / Apple / Spotify / Amazon

Tarotplane - The Ektachrome Dawn (Tonight's Dream Records)

ボルチモアを拠点とするギタリストTarotplane。サイケデリックなギターに透明感のあるアンビエントサウンド、地下を這うようなダウンテンポのテクスチャが見事。
#Ambient, Leftfield | bandcamp / Apple / Spotify / Amazon

Maxime Denuc - Nachthorn (Vlek)

MIDIで制御したオルガンによる演奏。実際の演奏の映像を観ていただくのが早い。オルガンはシンセサイザーとなり大きなうねりを持ったダブテクノを奏でる。演奏が止まった時の残響もまた良い。
#Dub Techno, Contemporary | bandcamp / Apple / Spotify / Amazon

Jockstrap - I Love You Jennifer B (Rough Trade)

天才が大真面目にふざけたらこうなると言えばいいのだろうか。いつもJockstrapをどう形容すればいいのか苦慮する。名門ギルドホール音楽演劇学校で出会ったというジョージア・エラリーとテイラー・スカイのデュオJockstrap、一聴すれば両者の音楽的才能を確信できるが、常軌を逸した展開や処理を畳み掛けてくるので聴く側は戸惑う。クセが強く捉えどころのないプログラミングと、それを補って余りあるジョージア・エラリーの圧倒的なボーカル。歌が上手いだけでは生き残れないという側面もあるかもしれないが、戦略としては非常にクレバーである。
#Indie Pop | bandcamp / Apple / Spotify / Amazon

Akusmi - Fleeting Future (Tonal Union/p*dis)

フランス出身で現在はロンドンに拠点を置くマルチインストゥルメンタリストAkusmiの作品。インドネシアで触れたガムランとゴング、コズミックジャズやミニマリズムへのリスペクト、何よりも暗い話題の多い現代で、楽観的ともいえる未来への希望が作品を唯一無二のものに仕立てあげている。『Neo Tokyo』は大友克洋の『AKIRA』、『Yurikamome』はYouTubeで観た日本への情景にインスパイアされたものだそうだ。
#Experimental, Contemporary Jazz | bandcamp / Apple / Spotify / Amazon

Kardemimmit - Sisko muistatko? (Self-released)

フィンランドの民族楽器カンテレとコーラスの四人組ユニット。2019年には無印良品の『BGM 24』にも参加。2022年はコロナ禍による中止を経て2017年以来となる来日ツアーが行われた。12/6の西国分寺での公演はフィンランドの独立記念日を祝してシベリウスのフィンランディア賛歌も披露された。
#Folk, World, Country | bandcamp / Apple / Spotify / Amazon

METAFIVE - METAATEM (Warner Music Japan)

延期の末2022年9月にようやく一般発売された2ndにして最後のアルバム。1stやミニアルバムに見られる先進的サウンドをさらに突き詰めて恐るべきクオリティを誇るが、最後の2曲は病気療養中の高橋幸宏氏の私的なメッセージのようでとても切ない。幸宏氏やCorneliusを欠いたライブもあったが、やはり誰ひとり欠けてもMETAFIVE足り得ない。砂原良徳とLEO今井のTESTSETにも注目しつつ、今は幸宏氏の闘病を応援したい。
#Post Rock, Techno, IDM | Apple / Spotify / Amazon

佐野元春 & THE COYOTE BAND - 今、何処 (DaisyMusic)

通算19作目、コヨーテバンドとしては6作目のアルバム。元春はかねてより「ソングライターは炭鉱のカナリアのようなもの。時代の変化をいち早く察知して平和な時代にこそ危機を訴え、世の中が閉塞している時には人々に寄り添い希望を歌う」と述べていて、本作では難しい現実を諦観しつつも個の幸せの希求をある時は優しく、ある時は力強く肯定してくれている。アルバムの骨となる『銀の月』は「日は暮れて」と「君は少し笑った」のコントラストが美しい。『クロエ』は珠玉のシティポップ。『斜陽』のストレートなメッセージには心を動かされる。また、コヨーテバンドの強みはシングル曲にある。サブスクの浸透で人に音楽を勧めやすくなったとはいえアルバム一枚を聴いてもらうにはややハードルがある。そんな中でも『エンタテイメント!』『銀の月』『クロエ』は自信を持って人に勧められる。『エンタテイメント!』は本作に先駆けて配信されたアルバム『ENTERTAINMENT!』に収録。『今、何処』のアウトテイクも含まれているのでアルバム制作のプロセスを俯瞰するリソースとしてぜひ参照したい。
元春がかつてのメンターたる大瀧詠一氏の年齢を追い越し、コヨーテバンドの活動期間もハートランドやホーボーキングバンドに並ぶという時の流れに戸惑いを覚えるが、コヨーテバンドはまだまだ進化の余地を残している。アルバム発売日の延期の影響で2022年春のツアーがアルバム未発売の状態で開催されてしまったため、今こそ真の『今、何処』ツアーの開催を期待したい。
#Rock | Apple / Spotify / Amazon

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