見出し画像

【読書感想文】『狭間の者たちへ』中西智佐乃

新潮新人賞の受賞作一覧を眺めていて、気になったので手に取ってた。
あらすじは読まず、静かだけど力強さを感じるタイトルと表紙が気になってしまった!

「狭間の者たちへ」と「尾を喰う蛇」の中篇2本立てでした。
「尾を喰う蛇」が新人賞受賞作の模様。

どちらも正直読むのがしんどかった・・・が、面白かった。
しんどかったのは、文章が読みづらいとかではなくただただ内容が重たい。

「狭間の者たちへ」は職場にも家庭にも居場所がなく、"元気をもらうため"に、電車でとある女子校生の後ろに立って匂いを嗅いでいる、先行きの見えない40代の男性サラリーマンが主人公。

小説の中にも「上を見たらきりがないし、下を見たら底なし」みたいな感じで書いてあるんだけど、主人公は仕事も家庭もあるわけだし、もっと状況的に苦しい人、主人公よりもさらに底にいる人、はいる。
それでも、八方ふさがりで行き場のない感じがこれでもかというくらい描かれてて、苦しい。

自分だったら、そもそもこんな状況に陥るような選択はしない・・・って思うくらいには自分に自信があるんだけど、その自信はすべて自分の力で手に入れたものではなく、生まれた環境、そこで享受できた経験によって得られた部分も絶対にあるのだよね。

自分が正しいとしか思えない、自分の力で状況を打破できないっていうのは、その人だけの責任なのかというと、そうもいいきれない。

とはいえ、女子高生の後ろに立って匂いを嗅ぐなんていうのは、アウト。触ってないからOKじゃあないよ、おじさん・・・。

「尾を喰う蛇」は介護施設で働く30代独身男性が主人公。
作者は女性のようだけど、2本とも男性主人公の主人公視点で書いているんだよねぇ。どういう経験があって、男性主人公でこういう物語を書こうと思ったのか、気になる。

介護現場の大変さもすごくリアルなんだな・・・。
「仕方ない」って言いたくなること、思っちゃうことはたくさんある。
でも本当の本当に仕方ないのか?って聞かれて、本当に仕方のないことってどのくらいあるんだろう。

絶対にやってはいけないことをやらないのは、どの人の倫理観や人間性の問題なのかな?
「仕方ない状況」に陥った時に、絶対に踏み外さないといえるのか。
その「仕方なさ」をどこに感じるかはひとによって違うけどね。

パートさんとの休日獲得バトルのくだりとか、すごく日本的だなぁと思った。めちゃくちゃよくある光景だね・・・。

2023年6月に発行された本なのだけど、これ、バブルを生きてた当時の人たちに未来の日本はこんな感じの小説が書かれてるよって送ってあげたい(笑)
今の日本の空気感、こうなんだよね。自分が常にその空気の中にいるわけではないけど、ずっと近くに存在している空気感として。

2024年4月23日 読了


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?