見出し画像

米財務省とFRB:内戦の始まり(2)

こんにちは。アメリカ株式義塾です。

今回の連載「必読!米財務省とFRBの関係からみる2024年の見通し」では、大局観に基づき、マクロ経済などの動向を徹底解説します。

第2回では、米財務省とFRBの綱引きの動向を追っていきます。

第一回はこちらから


2024年の勝者はどちらに決まったのでしょうか?そもそも、この綱引きって、勝者と敗者は存在するものなのでしょうか?

勝者を決めるためには上のチャートを確認する必要があります。
最初に、この青色で示される「Central bank liquidity impacts」はFRBのバランスシートを表します。

要するに、FRBが「流動性供給」と「流動性吸収」のどちらを採用しているかを明らかにしている資料です。2020年から2021年にかけて、量的緩和を実施した時期に青色が膨張していることを見るとすぐ理解できます。

次に、赤色の「Fiscal policy liquidity impacts」は米国政府が供給する流動性を意味します。言い換えると、米国政府があっちこっちにお金をバラ撒いたり、または民間部門の資金調達のために国債を発行すれば赤色の領域が膨らみます。逆に、債務を返済したり、無駄使いをなくせば赤色の領域は縮まります。

歴史的に、青色の領域と赤色の領域は長い時間をかけて互いに反対方向に動きながらバランスを保ってきました。しかし、2023年からは赤色の領域が増える一方で、青色の領域は続けざまに減少してきたのです。

一見すると縄張り争いのようにも見えますよね。それぞれの領域を比較してみると、どちらが優位にあるかが分かります。

上のチャートで一番右、すなわち「現時点」を見ると、赤色の領域が青色よりも大きいことがわかります。米国政府とFRBとの間の綱引きを単純化して考えるなら、この領域の大きさを競う競技だと言っても過言ではないでしょう。つまり、流動性を供給しようとしている米国政府と、流動性を吸収しようとするFRBの間で、勝者は米国政府であると言えます。

ちょっと時間を巻き戻して、2023年の3月に起きたシリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻を取り上げたいと思います。量的引き締め政策を進めていたFRBに危機感をもたらしたのが、まさにこの破綻です。

この時期に米国政府とFRBは真逆のスタンスから市場に関わっていました。このような状況の中で、シリコンバレー銀行があっという間に破綻してしまったんです。ここで、ちょっと想像力を働かせてみましょう。当時、全くゆずる気がなさそうなFRBと米国政府の間では、おそらく以下のような会話が交わされたのではないでしょうか。


FRB:バカ言え!9%あまりのCPIをやっと5%まで取り戻せたのだ!歯を食いしばって引き締めルートまっしぐらで行く!

米財務省:余裕かましてる場合じゃないだろ!銀行の連鎖破綻なんて、尋常ではない。もう一筋縄じゃいかないのだ。わからないのか。

とはいえ、金融政策を仕切るFRBは目下の急務が何なのかわかっていました。米財務省との駆け引きに勝つことは、もはやFRBにとって重要ではありませんでした。2007年の、サブプライム住宅ローン危機を発端として、銀行破綻が相次ぎ、世界的な金融不安が広がった歴史を繰り返すわけにはいかなかったからです。

FRB:二度目は起こさせないぞ。

シリコンバレー銀行の倒産に危機感を抱いたFRBは、米財務省と手を組み、「死ぬ寸前」の状態にある銀行を復活させるため、預金保険を提供するFDICの保護上限を引き上げたり、金融機関への追加的な流動性の提供など、いくつかの緊急措置を取りました。

つまり、FRBが米財務省との綱引きを終え、一時的に勝利を譲り、財務省の望む通りにしたということです。シリコンバレー銀行破綻の事例で、FRBが妥協しないと最悪のシナリオが現実化してしまうということが明らかになりました。

米財務省もFRBも、どちらもアメリカの国益のために存在しており、世界的な権威を持つ機関です。ただし、両者の中から勝者を決めるとしたら、その勝者が財務省でなければならないと、米国株の投資家たちはこの時一斉に悟りを開いたのです。



それでは、もう一つのグラフを見てみましょう。青色と赤色を比べてみると分かりやすいです。青色で示された「Bank loan and corporate bond annual growth」は、民間債務の増加を表しています。

そして、赤色で示された「Annual fiscal deficit」は、政府債務の増加を示しています。分かりやすいですね?

1960年代から1990年代にかけて、民間債務の増加(青色)は全体的に流動性の増加の牽引役を果たしていました。なぜでしょうか?その理由は非常に簡単です。民間債務の例としては、自動車ローンやカードローンなどがありますが、当時はまだカードローンなんかはなかったのです。その時代の民間債務は、マイホームを購入したいアメリカ人が手を出す住宅ローンが大半を占めていました。



1930年代から1960年代はベビーブームが頂点を迎えた時期です。1940年代に生まれたアメリカ人の場合、社会人になった1970年代に大多数が住宅ローンを借りていたことでしょう。以上のことから、1970年代には民間債務が急増しました。その後、1985年から1990年にかけて、民間債務は再び大幅に膨らみました。この時期、アメリカ経済が本格的に拡大していたからです。

それでは、もう一つ面白い点を探ってみましょう。灰色で示された部分は、景気が後退していた時期を表しています。不況期には民間債務が急減する一方で、政府債務は大きく増加しました。政府が財政を拡大して景気を回復させようとしていたので、これは当たり前だと言えるでしょう。


そして、1990年代から現在まで見てみると、状況は逆転しています。どういうことなのでしょうか?以前は銀行などといった民間部門が米国経済の牽引役を買って出ていて、政府はサポートする様子が見られました。それとは対照的に、90年代からは政府が流動性の調整に積極的に取り組み、民間部門の方もおとなしく丸め込まれてしまっていることがわかります。

特に、2018年の米中対立をきっかけとした景気後退、2020年コロナ禍以来、米国政府が後押ししたFRBの量的緩和、2022年のサプライチェーン(供給網)の混乱などの影響で、アメリカ政府の役割と権限はますます重みを増しています。そのため、アメリカ政府の影響力がさらに強くなったとも言えますね。それでは、年代順に取りまとめてみましょう。

(1)1960年代~1990年代

民間部門:米国経済も堅調だし、借金しまくったって別にいいじゃないか!銀行だってすんなりと金を貸してくれるしな。
政府:おいおい、調子に乗ってるんじゃないよ!あれ?バブル崩壊?景気後退?ああ、仕方ない、一旦俺がなんとかしてやる。

(2)1990年代~2020年代

政府:いやいや、明らかにハードルが高すぎるだろ。米中対立にせよ、コロナ禍にせよ、ロシアによるウクライナ侵攻にせよ、全部向き合わなきゃならねえ。こっちがリードするから、とにかく任せろよ。
民間部門:一歩引いて、向こうの様子を見てからついていこう!
結果的に、アメリカ全国にお金が出回る流動性供給のスピードを決定する役目は米国政府と財務省が担うようになりました。
ピンと張っていた綱が米財務省の方に引っ張られている!というわけです。


今回のポイント

  • FRBと米財務省の綱引きの勝者は米財務省の方に傾きつつある。

次回予告

「勝利の女神はなぜ米政府に微笑むのか」

当ウェブサイトにおける投資関連コンテンツは、情報提供を目的としており、投資勧誘を目的としたものではございません。当ウェブサイトの情報を基に行われた投資の結果については、いかなる保証も致しかねます。投資は市場の変動により元本が減少するリスクを含みます。投資を行う際には、投資家ご自身の判断で、独自のリサーチや専門家の助言を基に行うことをお勧めします。 また、当ウェブサイトの情報は、最新のものであるとは限らず、予告なく変更されることがあります。当ウェブサイトの情報を利用することによって生じたいかなる損害についても、責任を負いかねます。投資を行う際には、必ず最新の市場情報や財務資料をご確認いただき、ご自身の責任と判断で行ってください。

免責事項

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?