自動販売機は社会を映す鏡?──自動販売機マニア・石田健三郎さんに聞く、「自動販売機」と「まち」
まちを歩いていて多くの自動販売機を見かけるのは日本ならではの風景です。
日本は自動販売機の設置台数の多さが世界でも有数の国。さらに、屋外に設置されている割合は群を抜いているそうです。
災害時には備蓄倉庫や一種の電源として扱われたり、子どもや高齢者を見守るカメラやネットワーク機能を備えたものがあるなど「まちなかに溢れている」という特性を活かした、一種のインフラとして扱われるようにもなっています。
そのようにまちと密接な関係を持つにもかかわらず、当たり前の存在だと思われているが故に、私たちが自動販売機について考える機会は少ないように思います。
そこで今回は、長年まちを歩き回り多種多様な自動販売機を追い続けてきた、自動販売機マニアの石田健三郎さんにお話を伺います。
自動販売機を見つけるためにまちを歩く石田さんの視点では、まちの姿がまた違って見えているのではないでしょうか。多くの自動販売機を見てきた石田さんに自動販売機が持つ価値や役割を伺うことで、自動販売機とまちの関係を考えるきっかけとなればと思います。
日本の「おもてなし精神」が詰まったのが自動販売機
──自動販売機に興味を持ったきっかけはなんだったのでしょうか?
大学の卒業論文がきっかけです。当時、ポーランドから来ていた留学生の友人から「日本に来ていちばん驚いたことはまちなかに自動販売機が溢れてる姿だ」と聞いたんです。
ちょうど日本文化史のゼミで卒業論文のテーマを考えていた時で、その話を聞いて「自動販売機は日本独自の文化だな」と理解して「じゃあ、自動販売機をテーマとして取り上げて卒業論文を書こう」と思ったのが、最初のきっかけです。
──なるほど。そこから長い間、自動販売機を追い続けていると思うのですが、その原動力は何なのでしょうか?
日本人のおもてなしの心や技術が詰まったものが自動販売機ではないかと考えていて、それがいちばん面白いと思いますし、その面白さが原動力になっています。
おもてなしを象徴する例としては「ひとつの自動販売機の中で冷たいものと温かいものが売られてるのは日本だけである」ことが挙げられます。
また、海外の自動販売機を利用したことがある方はよく分かると思うのですが、海外では「お金を入れても出てこない」とか「壊れた商品が出てくる」が日常茶飯事なんです。
一方で日本は、炭酸飲料が吹き出さないように垂直落下せずに出てくるようにしたり、中に緩衝材がたくさん入ってたり、取り出し口の扉の奥に扉がついていて、その扉で衝撃を吸収して受け止めてから商品を出している、というふうにひとつの商品を買うだけでも、色々なおもてなしの技術が詰まっているんです。
──確かに日本の自動販売機の技術は世界的にも類を見ないと聞いたことがあります。
ホット&コールド自動販売機は有名ですが、最近、興味深いと思った自動販売機はありますか?
最近注目してるのは、渋谷にある「SALAD STAND」という自動販売機です。
この自動販売機にはAIカメラが搭載されていて、利用者の性別や年齢を分析して、ビッグデータとして蓄積し、天候や気温等の客観的なデータと組み合わせて、商品の供給量やメニューの構成の検討のための材料にしているんです。
こうした技術の発展は、これまでとは別視点のおもてなしに繋がるのではないかと思っています。
──やはり新しい技術もどんどん取り入れられているのですね。
地方ならではの自動販売機はあるのでしょうか。
たくさんあります。
ぱっと思いつくのは、奈良県の大和郡山市の金魚の自動販売機で、金魚を袋詰めしてロッカー型の自販機で売っています。あと、温泉の名産地では温泉の自動販売機というのがあって、 自分でポリバケツを持っていって購入するんです。
──え、湯の花などではなくてお湯なんですか。
そうですね。
源泉を家に持って帰って湯船に入れてお湯と混ぜると自宅で温泉が楽しめるというコンセプトの自動販売機ですね。広島だと牡蠣の自動販売機とか、地域に根差したものはたくさんありますね。
──なるほど。聞けば聞くほど自動販売機は奥が深そうですね……
「自動販売機ってこういうところに注目するとより楽しいですよ」という石田さんのおすすめの視点があれば教えてください。
自動販売機を利用する際に「手で触れる場所」に着目してほしいなと思います。
自動販売機を見ると、どうしても見た目とか売ってるものとかに注目して「商品を買うときの ボタンをどのように押すか」「取り出し口がどうなってるのか」を気にしていない方が多いです。
だけど、私はそういった細かい部分におもてなしが詰まっていると考えていて、そういう部分こそ気にしてくださいと思っています。
自動販売機がまちを歩く面白さを引き出してくれた
──日本では、まちなかのどこにでも自動販売機があるのが、ひとつの特徴になっています。
ということは、普段から多くの自動販売機を追い続けている石田さんは、結果として日常的にまち歩きをしているのではないかと思っています。
通常、自動販売機はまちなかでは背景のように目立たない存在ですが、石田さんのように自動販売機を目的としてまちを見ると、少し視点が変わって見えているのではないかと思うんです。
そうした話を踏まえて石田さんにとって、まちとはどういう存在なのでしょうか。
難しいですね。まちは自動販売機にとって、いわば基礎や基盤であって、切っても切れない関係ではあるなと思ってます。
自動販売機と分類されるものは日本全国に約400万台あり、そのうち6〜7割が屋外に設置されていると言われています。単純に計算すると、2〜300万台ぐらいはまちなかに置いてあるということになりますね。
自動販売機のマニアじゃない方にとっては、自動販売機はまちの中に完全に溶け込んでいて、まったく気にも留めない存在であると思います。一方で、自分は自動販売機を探すことを目的化してるので「自動販売機のためにそのまちに行く」という状態になっています。
『ポケモンGO』というアプリがありますが、私にとって自動販売機を探しに行く行為はあのアプリをプレイしているような感覚です。 珍しい自動販売機を捕まえに行くというか……
──自動販売機にのめり込む前と後では、まちへの見方が変わったのでしょうか?
もちろん変わりました。自動販売機にハマる前は、まちを歩く時間は退屈なものでした。
当時は、まちは「ある場所に行くためだけにただ歩く場所」という認識でしかありませんでした。今は、歩きながら常に自動販売機を探すので、まちを歩くのは宝探しをしているような感覚ですね。
──そう考えると、日本は天国のような場所ですね。
自動販売機の置いてある様子を見て、このロケーションが面白いなと感じられたりするんですか?
よく面白がっています。
例えば、だだっ広い場所に1個だけポツンと置かれているのが割と好きだったりします。あと、商業施設の1番上の階の1番端っこにある、誰も来なさそうな場所にある自動販売機とか、ものすごい好きですね。
──ちょっと分かります。古いビルの屋上が休憩所になっていて、そこに置いてある感じですよね。
誰も来ないのに、24時間365日頑張って動いてる自動販売機の姿は愛おしく、可愛く映るんですよね。
──まちと言っても都心と地方では、人口の密集具合などで自動販売機の設置のされ方も変わってくるのではないかと思います。都市と地方ではまちなかにおける自動販売機の役割が違っているように感じますか。
ぱっと思いつくのは、地方は利便性重視だということですね。自動販売機の特徴のひとつは、いつでもどこでもいろんな商品が買えることで、地方にあるものは、その自動販売機の元々のコンセプトが重視されている面があると思います。
一方で、都市部はエンターテイメント性に特化した自動販売機が増えてきている印象です。
東京だと、コンビニやドラッグストア、スーパーがそこら中にありますし、インターネット販売も普及していますよね。そうなると、いつでもどこでも便利に商品が買えるというメリットだけでは、他の販売チャネルとの差別化は難しくなってきている。そうなると「商品を買う」機能だけでなくプラスアルファの要素がないと、自動販売機を使ってくれなくなる。
──なるほど。
最近まちなかでよく見かける、オレンジジュースを生絞りして提供してくれる自動販売機があるのですが、絞るところがスケルトンになっていて、小さいお子さん連れのお父さんが中を見せながら買っているのを見かけます。
そのように、商品を提供するだけではなくて「商品を提供するまでのプロセス」を含めて楽しませてくれる点が、現在の都市における自動販売機の特徴のひとつなのではないかと思います。
──エンターテイメントの塊みたいな自動販売機がそこら中にあるのが都市部、という状況になってきているんですね。
今はSNSの時代なので、都市部で人が密集するところに置いておくと「珍しい自動販売機があった」「珍しいものが売られていた」とSNSに投稿されてバズるということが起きています。
見つけてSNSにアップロードする側も楽しいですし、企業側にも宣伝的な側面でメリットがあってWin-Winなのではないかと思います。
──そうやって面白い自動販売機を見つけてアップする方が増えてきているという状況があるんですね。
私みたいなのは特殊ですけど、渋谷などのまちでは若い子たちが「こんな珍しいのがあった」「こんな可愛いのがあった」という投稿をしてますね。あと、外国の有名人やインフルエンサーの方って、自動販売機の前で写真を撮る方が結構多いんです。
やっぱりまちなかに自動販売機が置いてあるのが日本の特徴だから、らしいですね。
自動販売機がまちにもたらすメリットは?
──自動販売機は商品やサービスを売る以外に、災害時の情報発信や緊急用の備蓄としても活用されていると聞いたことがあります。そのように自動販売機が、まちに対して価値を提供することもあり得るのではないかと思います。
色々な自動販売機を見ている中で、自動販売機がまちに寄与するような価値を持つとしたら、どのような観点が考えられそうでしょうか。
今おっしゃったような、災害時の利用はまちに直接的に価値を提供していますね。それ以外だと、例えば、地域のコミュニティの拠点にエンターテイメント性を持った自動販売機があることでコミュニケーションのきっかけになるということもあり得るのではないかと思います。
個人的には、「地方創生」と自動販売機が密接に結びついてると思っていて、それを象徴する事例がふたつあります。
ひとつは「ご当地自動販売機」です。 あるまちの名産物をぎゅっと自動販売機にまとめて都市部に設置するというものですね。これは、アンテナショップに代わって都市部でまちのアピールができる点で地方創生に一役買っているのではないかと思います。
もうひとつは、私が好きな「ふるさと納税の自動販売機」です。その名の通り、その場でその自治体に対してふるさと納税ができる自動販売機なんです。
私がこの自動販売機を好きな理由は「ふるさと納税に対する向き合い方」を変えてくれるものなのではないかと思っているからです。
──どういうことでしょうか?
われわれがふるさと納税する時って、自治体のことを気にしないで返礼品ベースで選ぶじゃないですか。ふるさと納税の自動販売機は、そのアプローチが逆なんです。
例えばどこかのまちに行った時に、そのまちの食べ物や人、観光地を気に入る。そこで「そのまちに貢献したい」という気持ちになった時に、ふるさと納税の自動販売機を使って、そのまちに寄付することができるんです。
要するに、サービス品の返礼品ベースの思考から「そのまちを応援したい」という気持ちにすり替わっているのが、ふるさと納税の自動販売機がもたらす効果なんです。自動販売機を通じてまちを応援することができて、それが地方創生に繋がる。
──なるほど。その話はすごい面白いですね。
現状では、そのまちに行った時に「面白かったから貢献しよう」と考えた時に「色々な特産品を買う」という間接的な行為しかできない。そこで、ふるさと納税の自動販売機が設置されていれば直接的に貢献ができるということですね。「貢献したい」と思う時は、その時の経験が重要になると思うので「その場でできる」は重要ですよね。そこで自動販売機が役立ってるというのは、すごく面白いなと思いました。
ちなみに、石田さんが色々な自動販売機を見られてきた中で「こういう自動販売機があるとヒットしそうだな」と考えることはあるのでしょうか。
それを思いついてれば、自分で起業していますね(笑)
ただ、こんな自動販売機があったらいいなと思っているものはふたつあります。
ひとつは「自分で中身のチョイスができるお弁当の自動販売機」です。
自動販売機のデメリットのひとつは「決められたものしか売れないこと」だと思っていて、「ご飯はこの中か選んでください」「おかずはこの中から選んでください」みたいに自分で選んだメニューのお弁当が出てくる自動販売機があればいいなと思っています。
もうひとつは、コンビニのホットスナックの自動販売機があれば良いなと思います。なぜかというと、 女性はコンビニの唐揚げや肉まんを本当は食べたいのだけれど買うのが恥ずかしいと思ってしまうそうです。だから、有人レジを通さない自動販売機で買うことができれば、絶対女性にウケるはずです。
──「人を介さなくていい」というのは確かに自動販売機ならではですね。
そうなんですよ。有人レジで買うのが嫌だから自動販売機に買いに行ってるという人も結構いるんですよね。なので、それはメリットのひとつとして捉えるべきなのではないかなと思いますね。
──「人を介さなくていい」という話を聞いて思い出したことがあります。以前、大学に勤めてたことがあるのですが、そこにあった自動販売機は大学生協が管理していました。その自動販売機の横にはクリップボードがあって、商品の希望を書いた紙を出すことができたんです。
僕が在籍していた建築学科の学生は夜中に作業する人が多くて、夜食用にカップ焼きそば入れてほしいと希望を出したら、次の週にカップ焼きそばが入っている。そのように自動販売機を通して人とコミュニケーションが取れたらちょっと面白いなと思いました。
確かにそうですね。前にXで見かけたほっこりエピソードなのですが、ある自動販売機で、子どもがずっと飲んでいた飲み物がなくなってしまい「復活させてください」と管理者に伝えたら、その飲み物が復活したみたいなことがあったそうです。
そういうふうに、買う側から「これ置いてほしい」みたいなのを気軽に伝えられる経路があったら確かに良さそうですね。
自動販売機は社会を映す鏡?
──「人を介さない」という点に注目すると、現在、無人店舗が増えているようです。無人店舗は自動販売機と機能的には近いと思うのですが、両者の関係性についてどう見られていますか。
私の中では、両者はライバル的な存在というよりは、戦う分野が違っていて共存していくのではないかと思っています。
無人店舗のメリットは自動販売機よりたくさんの商品が売れるという点だと思います。商品をじっくり選びたい人は無人店舗に行くし、とにかく手っ取り早く特定の商品だけを買いたい人は自動販売機に行くかたちで住み分けがされていって、それぞれの分野で発展していくのではないでしょうか。
──接触時間の長さによって提供されるものも変わってくるので、競合しないということですね。
多くの商品を持つ無人店舗とは異なる自動販売機の特徴のひとつとして、用意できる商品の数が少ないからこそ、厳選されたものが並ぶこともあるのではないかと思いました。
それによって自動販売機のラインナップから地域の文化が見えるみたいなことはあるかもしれません。
確かにそういう一面はあると思います。
高校の近くだと炭酸飲料がよく売れるとか、女子大の近くだとお茶や水がたくさんラインナップされてるなどの事例はよく聞きますね。巣鴨ではエナジードリンクがいちばんラインナップされているそうです。巣鴨はおじいちゃん、おばあちゃん世代のイメージが強いまちなので、お茶などがよく売れそうと思ってしまいますが、実は山手線沿線の中でも家賃が安くて、色々なビジネスパーソンが住んでるまちらしく、そういった方々が通勤の時にエナジードリンクをよく買うそうなんです。
──なるほど。売られているものでその地域の属性が見えてくるんですね。石田さんは、自動販売機を見る時に商品のラインナップまで見られるんですか。
見ますね。
「そこで売られてるものはなんだろう」「何が売り切れてるんだろう」とか。
──観察していると、今おっしゃったように場所によってラインナップは変わるのでしょうか。
面白いことに変わるんですよ。今度、駅に行った時にホームに置いてある自動販売機を見てもらいたいのですが、女性専用車両の近くに置いてある自動販売機は、水や常温の飲み物が多いですね。
──常温の飲み物というのがあるんですね。
昔からあったのですが、最近増えてますね。女性が「体を冷やしたくない」という理由で常温の飲み物を好むというのと、最近は中国人のインバウンドが増えたというのが大きな理由のひとつです。中国の人って冷たい飲み物を好まないらしいんですよ。
──なるほど。そこでも、そうした社会の動きが見えたりするんですね。
直近で言うとコロナ禍によって非接触という文脈で自動販売機が注目されるようになったと感じています。実際、店先に自動販売機を構えるタイプのお店も増えてきたと感じるのですが、石田さんはその辺りの流れをどう見られてますか。
コロナ禍によって自動販売機がより活用されるようになったので、自動販売機にとってはある意味プラスの側面があったのではないかなと思っています。冷凍食品の自動販売機はその筆頭格ですね。
コロナ禍で、飲食店は時短営業や営業自粛で商品が売れなくなってしまった。消費者側も、非接触が求められているから外食を避けて、家で過ごす時間が長くなってしまった状況でしたよね。
そうした状況ではあるものの、飲食店は商品を売りたいし、消費者もお店の商品を食べたい、とお互いに困っていた時に需要と供給が一致するところにあったのが「冷凍食品の自動販売機」でした。
冷凍食品の自動販売機を店先に置いて商品を売ることができれば、当然お店側は売り上げを補填できるし、消費者側は、人に接触せずにそのお店の商品をうちに持ち帰って食べることができる。こうした需要と供給の一致によって冷凍食品の自動販売機は急速に普及していったのだと思います。
正確に言うと、冷凍食品の自動販売機はコロナ禍だから開発されたものではないのですが、 コロナ禍によって爆発的にヒットしたのです。
──自動販売機の技術の進化を考える時に、災害をきっかけにして変化してきたと色々な文献で書かれているのですが、今もそうした流れはあるのでしょうか。
直近だと省エネですね。東日本大震災の時に「日本全国で電力消費を軽減しましょう」という話があったじゃないですか。その時、電力を浪費するものとして槍玉に挙げられたのがパチンコ屋と自動販売機でした。
これも変な話ですけど、そのおかげで自動販売機の消費電力は各社の努力によってものすごく減少しました。
──自動販売機も登場してかなりの年月が経つと思うのですが、社会の変化の動きを受けながら、技術的に進化してきているのは興味深いなと思いました。
社会の流れは自動販売機に顕著に現れてると思います。
温かいものが売れるようになった自動販売機が登場したのは高度経済成長期に運送業が発展したからです。当時、トラックの運転手の方たちが、夜のサービスエリアで温かいコーヒーを飲みたい時に売店で買おうとすると、行列ができて購入までに時間がかかってしまうという状況だったそうです。それがきっかけで、並ぶことなく購入できるホットの自動販売機が開発されたらしいです。そう考えると、社会情勢を反映する鏡のひとつが自動販売機なのではないかなと思います。
──1960年代に自動販売機が普及するきっかけのひとつとして労働力不足もあったと聞いたこともあります。
国内では労働力不足がずっと問題になっているので、それを考えると自動販売機の普及は、また進んでいく可能性は高そうだなと思いました。
私もそう思います。少子高齢化で労働力不足が叫ばれる中で、自動販売機に頼るのは手段のひとつだと思います。
──最近、自動販売機を自動運転技術と絡ませた実証実験が行われたと聞いたのですが、こうした技術の発展はどのように見られていますか。
自動運転技術との融合は可能性があるのではないかと思っています。
自動販売機のデメリットのひとつは「こっちから出向かないといけない」ことですよね。自動運転技術が組み合わさるとそのデメリットが解消できると思っています。
例えば、何かのアプリから自動販売機を呼ぶと家の下まで来てくれて、降りて買うだけでいいようになるなど、そういった技術が発展すれば、飲み物ひとつ買いに行くのにも車を出さないといけない地方の利便性を向上する方法のひとつになるのではないかと思います。
趣味の活動から社会に関わる原動力へ
──多くの自動販売機を見てきた石田さんの視点から「今後、こういうまちがつくられていくと良い」など、まちづくりに対するメッセージがあればお聞かせください。
抽象的な質問なので抽象的な回答になってしまうのですが、自動販売機と調和したまちづくりができると良いのかなと思っています。
例えば、自動運転技術と自動販売機の融合が進んでいく時に、まちサイドの協力は必要不可欠になると思っています。 ちょっとした段差がある時点で自動運転が成立しなくなってしまうということもあり得るからです。
だから自動販売機が発展するためには、まち側の協力は必須で、まち側と自動販売機側のお互いが「こういうことやりたい」という時にWin-Winの関係になれれば良いのではないかと思います。
──なるほど、ありがとうございます。最初は大学の論文の題材として興味を持ったところから、趣味で自動販売機を追うようになったとのことですが、テレビなどのメディアに出るようになって、そうした活動と社会との関わり方が変わったのではないかと思います。どこかでターニングポイントはあったのでしょうか。
いちばん大きいターニングポイントは『マツコの知らない世界』の出演でした。
自動販売機を収集する活動自体は15年ぐらい続けているのですが、SNSで発信するようになったのは直近3年ぐらいです。
『マツコの知らない世界』から取材を受けたのは1年前の夏で、出演をきっかけに、自分でも色々な発信を積極的に続けていこうと思うようになりました。
元々は「自動販売機で人助けや社会貢献がしたい」が自分の活動のコンセプトにありました。なので、今こうやって色々なメディアに出ている中で、その部分を中心に伝えていこうと考えています。
出演を重ねていく中で、周りから「自分も普段から自動販売機を気にかけるようなった」と言っていただける機会が増えました。実はこのコメントが一番嬉しいです。
前述のコンセプトである「自動販売機で人助けや社会貢献をしたい」を達成するためには、私ひとりのアイデアや活動では限界があります。みなさんひとりひとりが普段から自動販売機を気にかけ、「こんな自動販売機が欲しいな」とか「こんな機能があったら便利だな」ということを考えてくだされば、それだけ自動販売機の可能性が拡がります。
それが最終的には業界全体の発展につながり、よりよい社会を形成していけると信じています。自分自身の活動が、そのきっかけになればこれ程嬉しいことはありません。
──元々の興味がどんどん深くなっていくことが、本人の活動にも良い影響を与え、さらには社会にも良い影響を与えるきっかけに繋がるのは、非常に面白い話だなと思いました。
(2023年10月7日収録)
聞き手:福田晃司、今中啓太・齊藤達郎(NTTアーバンソリューションズ総合研究所)
構成・編集:福田晃司
編集補助:小野寺諒朔、春口滉平
デザイン:綱島卓也