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『1 プロローグ』からの続き。

Siriとのちぐはぐな会話で決意した直江のAI開発に対する情熱は

それから絶えることもなく、

5年もの月日が過ぎた。


AIプログラミングとは言っても、それはひたすらに地道な作業だった。

英語を学ぶ時には、まずはとにかく単語を覚えるように。

直江が開発するAI『シャーロック』には音声認識と言語処理のデータを

優先的に組み込むことにした。

聞き取った言語と、その組み合わせで出来た文章に対する、

シャーロックからの返事が正しいか、誤っているかの相関関係パターンを

人工知能に記憶させていく。

まずは会話を成り立たせることが重要だと考えた。

正誤の判断はその後、会話を通じて理解させていけばいい。

AIプログラマーの手で無数のパターンをコードで打ち込んでいくよりも、

言語でのコミュニケーションさえ成立させることができれば、

あとはオートでシャーロックがそのデータを貯めていけるようになった方が

効率が良いと判断した。


それはまるで、子どもを育てるかのごとく。

日本語か英語かも理解していない赤ちゃんに繰り返し声をかけ続けるように。

父親が仕事から帰って来て「ただいま」と言って玄関に入って来たら、

ついオウム返しで迎えた子どもが「ただいま」と

逆に言ってしまうくらいの年齢の子どもに、

「おかえり、だよ」と教えてあげるように。

言語コミュニケーションの相関関係を成り立たせる事は、

とにかく地道な作業の繰り返しだった。

ただ直江にとっては、愛しい我が子に言葉を教えるようなもので。

その5年の歳月は、苦労はしても、苦ではなかった。


実際に直江は、この研究をなぞるかのようなタイミングで、

1人の娘を授かり、子育ても並行で体験することになった。

赤ちゃんも、幼い子どもも、

その成長の過程で覚えるコミニケーションの正誤の判断は、

言語のキャッチボールのパターンだけではなく、

周りの大人や、友達とのやりとりの中で、

その目でとらえる相手の微妙な表情の違いや、声のトーンの変化に気づき、

相手が喜んでいるか怒っているのかを聞き分けている。

その膨大なデータを、第三者がプログラミングして記憶させるわけでもなく、

自らの脳の中だけでその処理が完結する。

AI研究と、子育ての並行作業という環境下にいたことで、

改めて、人間の認識能力の優秀さを再確認できると言う意味で、

AIと自らの娘の成長過程の対比は、非常に興味深いものだった。


5年を経て、ある程度の会話を成立させられるほどまでに成長したシャーロック。

しかしシャーロックの研究チーム内だけのデータ量だけでは、

Siriよりも高性能なAIを作ることなど到底無理なことだった。

Siriを利用しているユーザーは世界中に何億といるのだ。

しかも他言語で、同時並行に。24時間、出回っているデバイスの数の分だけ。

シャーロックには音声認識と言語処理を優先的に学ばせているだけに、

そのコミュニケーションの整合性には自信があった。

しかし、データ量に関してだけはappleやGoogleには太刀打ちできない。


「このままでは差が開く一方だ...。何か次の手を考えないと。」


圧倒的な他社AIとの格差に思い悩む直江は、この後、

思わぬ形で突破口となるかもしれない小さなキッカケに出会うことになった。

それは娘の運動会に行った時のこと。。


(つづく)


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前作『ARガールフレンド』もよかったらどうぞ。

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