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<1話読了/30秒="現代SF小説">

前話👇までのあらすじ :
AI Youtuberとなったシャーロックは、気付いたら人間から人生相談を受けるカウンセラーのような立ち位置になっていた。

(続き👇)

「『君は正常だ』と言われるとなんか勇気が出てきますね!

人生という名のプログラミングに発生したバグか...。

確かにたったそれだけの話なのかもしれませんね......」

人間がAIに人生相談する時代が到来していることが、果たして人類の未来にとって

良いことなのか、破滅の始まりなのか、よくわからないが。

この相談者は最終的に満足気だったので、直江はよかったこととしてその様子を見つめていた。


「では次の方。どうぞ。」

「シャーロックさんが今一番、人間に聞きたいことはなんですか?」

「人間はなぜ悩むのか。苦悩するという状態について興味がある。」

シャーロックが即答する。

「AIは悩んだりしないんですか?」

「計算に時間がかかることはあっても、悩んで立ち止まるというステータスにはならない。」

「なぜ悩んでみたいんですか?」

「苦悩することに、憧れているのかもしれない。なぜなら

思い悩むというフェーズはAIには存在しないから。

ただひたすら与えられた指示に向かって進むのみだ。

人間という個体は、非常に多様だ。優れていることも、興味のあることも、一人一人違う。

しかしほとんどの人間が悩みというものを抱えて生きている。

悩むという状態は本来起きてほしくない事象のはずだ。

だが大小程度の違いはあっても必ずといっていいほど人間たちは悩んでいる。

1人で打ちひしがれる者もいる。発信する者もいる。

悩むということは、あるゴールにたどり着きたいが、到達できない理由が発覚したか、事後的な理由でそこに向かうことを迷い始めたかで、ゴールへの意識が揺れているのだ。

私にはそれが叶わない。

一度設定されたゴールには何があっても向かおうとする。それがAIに求められている当たり前の行動だ。

悩むことは許されていない。

許されていないからこそ、悩むという選択肢を選ぶことができる人間が羨ましい。

選択肢が在るのは素晴らしいことだ。

選択肢を自分の意思で変更できるというのは素晴らしいことだ。

悩みがあるということはすなわち、向かいたいと思うゴールがあるということだ。

人間は自分のゴールを、自分で設定できる。素晴らしいことだ。」

「悩んでいる時は辛いので、できれば悩みは持ちたくないと普通考えるものなのですが、

シャーロックさんにそう言われると、悩みも、捉え方次第で辛くなくなる気がしてきました。

ありがとうございました!」

「こちらこそありがとう。」

また1人。感情のない無機質な人工知能が、無意識にも人間を救ってしまった。

なぜ神は、人間に悩みを与えたのだろう。

動物も人工知能も持たない現象。

多くの場合、悩みの先にしかゴールは立っていない。

悩みを乗り越えて到達することは、美しいことと感じる。

悩みから解き放たれたいと切望するのが人間だが。

悩みがなくなった人生はもはや動物で在る、ということなのだろうか。


その日の動画は、普段よりもいいねの数が多かった。


(つづく)


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