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<1話読了/30秒="現代SF小説">

前話👇までのあらすじ :
AI Youtuberとなったシャーロックは、気付いたら人間から人生相談を受けるカウンセラーのような立ち位置になっていた。人間誰しもが持つ悩み。AIは悩むことを許されていないからこそ「悩むという選択肢を選ぶことができる人間が羨ましい。」

(続き👇)

「やはり成長が見られるな。」

直江のAI研究チームの責任者がシャーロックのYoutubeを見ながらそう言った。

「はい。研究室での実験の何十倍もの成長が見られます。多様な一人一人との

時には単純な、時には専門的な議論をアンバランスに繰り返していることで、

順応しているものと思われます。」

シャーロックのYouTubeは動画そのものがもはや研究レポートの体をなしていた。

会話の様子を録画して、そのリンクを上司に共有するだけなのだから、なんとも簡単だ。

何千文字もドキュメントに書いていちいち提出する必要もなくなった。

AIの成長もさることながら、思わぬ棚ぼたになっていた。

「YouTube内での話ですが、時折英語で質問してくる者も現れて、

それはコメント上でのやりとりだったのですが、結論特に問題なさそうです。

それを見て少し試してみたいことがあるので、事前に許可をもらっておきたいと思いまして。」

直江は上司にその「試してみたいこと」の説明を始めた。

そもそもAIの成長を促す実験のためとはいえ、公の場で大衆との自由な交流を放置しているような、イカれた研究者たちの集まりだ。

チームは知名度のあるSiriやAlexaに負けたくない、その一心で団結していた。

「問題ない。やってくれ。楽しみにしているよ。」


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「(スペイン語で)Ora, Amigos humanos. やあ、友人である人間のみなさん。」

シャーロックのYouTubeチャンネルは、これまでの日本語と、英語はもちろん、

対応している言語全ての専用チャンネルを一気に増やしていった。

日本人がアラビア語でタイトルが書かれたサムネをタップしようとしないのと同じく、

日本語サムネの動画をバイリンガルにしても広がらないと思ったからだ。

そしてシャーロックのマルチアクションの許容量が許す限り、同時対応が可能だ。

日本語以外の他言語のチャンネルには、Youtube配信者側の機能で日本語字幕を後付けすることができる。

音声認識AIであり、コメント即レス対応もできるのがシャーロックの利点だ。

その作業も任せることにした。

つまり他言語で質疑応答をしている様子を日本語で確認することができる。

タイトルもシャーロックに要約して決めてもらい、直江がすることといえばサムネ作りくらいだった。

だがそれに時間を費やすのももったいなかったので、サムネ作りを得意としている業者に外注することにした。

チャンネルがマルチ言語で増殖したこともあり、累計登録者数も一気に爆上がりし、

広告収入も見込めるようになってきた。

そして何よりも。会話とコメントの同時対応が可能で、

24時間稼働できるAIには時差の問題はそこまで壁にならなかった。

直江はシャーロック自身にチャンネルのアクセス権を解放していた。

直江自身が寝ていたり、別の業務にあたっている間も、

作業を継続させることができた。

『シャーロックのライブ配信相談室』はあっという間にマルチ言語対応化し、

人工知能による同時処理能力と、言語の壁を超えた音声認識機能が持つ利点を

大いに活用した、一大グローバルコンテンツと化していった。

直江は作業を淡々とこなしながら、呟いた。

「世の中の人間は、こうも相談相手に欠いているのか。

もはや人間は人間相手に思いを打ち明けることよりも、

AIに対しての方が気軽さを覚え始めているのかも。」


(つづく)


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