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ものすごくみじかい話

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2022年12月の記事一覧

ものすごくみじかい話 心中失敗

 心中失敗。またしてもふたりとも生き残ってしまう。そもそもそんなに本気で死ぬ気がないんだよな。目を覚ました彼女が石になっているのをぼーっと眺めて頭ががんがんに痛いのを水を飲めば治るだろ水と水を飲んで飲んで耐える。
 半日ぐらいして明るくなってきたので二十四時間営業のラーメン屋さんにいってお腹を下すためだけに食べてるラーメンを二人ですする。スープの表面に浮いてる脂がぎらぎらしててとてもきれい。また半

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ものすごくみじかい話 もう今年も終わってしまうよ

「もう今年も終わってしまうよ~」とじたばたしていると博士が“今年が終わるのを食い止めるボタン”を作ってくれた。押すと今年が終わるのを食い止められるというボタンである。なんだかあやしいが背に腹は代えられないのでボタンを押すと、たちまち今年が終わるのが食い止められる。
「でもこれっていったいぜんたいどうなってるんです?」と尋ねると博士は深い悲しみを湛えた表情でふるふると首を横に振って、「もう時間は流れ

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ものすごくみじかい話 かけっこの得意な

 かけっこの得意なもやしに「足が速いね」と声をかけると「わたしたちには『足が速い』に類する言葉は禁句なんです」とのこと。しまった。配慮が足りなかった。考えた末に「徒競走が得意なんだね」と言い換えるけれども、言葉の意味をかんぐったもやしはどんどんすっぱくなってゆくばかり。

ものすごくみじかい話 悪夢を食べてくれる

 悪夢を食べてくれるという獏に悪夢を食べてもらったけれども、翌朝ずっとトイレからでてこない。「お腹を下しているの?」と聞くと「うん」。かわいそうに。上からも下からも悪夢がでてくるというのでポカリスエットを買ってそっと置いてやる。少し気になったので「それって……おれの?」と尋ねると、獏は言いにくそうに「うん」。なんかごめん。

ものすごくみじかい話 爆発物探知犬が

 爆発物探知犬がぼくの体に顔を寄せてふんふんふんふん臭いを嗅いでいるので「やめろ、ぼくは爆発物じゃない!」と手で追い払うと「わんわんわんわん」と吠え始める。すると犬の声を聞いた爆弾処理班がどんどん近づいてくるではないか。くそっ。逃げるしかない。犬を抱えて走り出すと、犬は楽しそうに尻尾をぱたぱた。

ものすごくみじかい話 恒星間ロケットに

 恒星間ロケットに乗って出発しようとする間際、家のガス栓を閉めたかどうかが不安になる。でも隣の席の同僚いわく「仮に火事になったって戻ってくる頃には何世紀も経ってるんだから今さら気にするこたないよ」と言うので安心して宇宙旅行に出かけた。
 それがあんなことになるなんて……。

ものすごくみじかい話 天井裏に忍んでる忍者が クリスマス編

 天井裏に忍んでる忍者が「そろそろクリスマスでござるなあ」とちょくちょく呟くようになってきたので、「まさかこのうえプレゼントまでほしいと言いだすんじゃないだろうな」と思ったけれども仕方ないから買いに行く。
 忍者ってなにをほしがるんだろうと思いながら忍具店で手裏剣を買って帰ると「わっ、前からほしかったやつでござる。ありがとうでござる」と喜んでくれた。いいことしたなと思っていると、「さっそく試射でご

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ものすごくみじかい話 チューブの先から

 チューブの先からちゅるちゅるーとタンパク質が絞り出されて成型する機械が上からどん! とかぶさってハムスターみたいな生き物が完成。それがベルトコンベアに乗ってどんどん流れていく。
「なんの生き物なんですか?」と尋ねると「わからない。この生き物で世界を埋め尽くせと言われている」と主任。
 そういう終わり方。

ものすごくみじかい話 七個集めると

 七個集めるとなんでも願いが叶うという玉を六個まで集めたのだけれども急になにもかもいやになって通りすがりの人にあげてしまう。
「何のボールですか?」
「なんかのボールです。飾りにどうぞ」と適当に言っておく。もらったほうも「なんかのボールか」とカバンに入れて歩いていく。

ものすごくみじかい話 悪代官に

 悪代官に「お主も悪よのう」と言われるのが嫌なので、モナカの下に小判をいれずに進呈してみると、悪代官はちょっぴりがっかりした顔で「今日はなんにもないの?」と聞いてくる。今日はモナカだけです。

ものすごくみじかい話 ヒッチハイクをしている人を

 ヒッチハイクをしている人を乗せた。彼は殺人犯で恋人を殺して逃げてきたのだけれどもどこへ行けばいいのかもわからないし早晩捕まってしまうだろうとのこと。
 湯河原のあたりまで走って車から降りた。「自首するの?」と聞くと「温泉に入って考えます」とのこと。そっか。ゆっくりしてってね。サイドミラーでいつまでも頭を下げる彼を見ていた。
 それからどうなったのかはわからない。温泉に入って自首したらいいなと思う

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ものすごくみじかい話 ミナミコアリクイに

 ミナミコアリクイに「どうしたらもっと自分を大きく見せられるかな?」と相談を受けてパワードスーツを製作。身の丈2メートルにもなるパワードスーツを装着した感想を尋ねると「あふれるパワーに自分が呑みこまれそうだよ!」とのこと。その後、蟻塚を破壊しまくっていたので、正しい感想。

ものすごくみじかい話 みんなが寝ているか

 みんなが寝ているかどうかを揺さぶって確認するぞ(ゆさゆさ)
 揺さぶるなよ
 早く寝なさい
 それで起きたんだよ
 いいから早く寝なさい(ゆさゆさ)
 ぶっとばすぞ

ものすごくみじかい話 実家に帰ると知らない人

 実家に帰ると知らない人がいて「お前の生き別れの兄さんだよ」と両親から紹介される。「そうなんですか。はじめまして、妹です」と声をかけると、お兄ちゃんはひそひそ声で「いや、わたしはたんに営業に来たセールスマンなんですが、なぜか生き別れの兄だと思われてしまって帰るに帰れないのです」と困った顔でわたしにささやく。そんなことあるんですか? 「うちの両親はまだぼけているわけではないし、本当にあなたがわたしの

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