ものすごくみじかい話 実家に帰ると知らない人

 実家に帰ると知らない人がいて「お前の生き別れの兄さんだよ」と両親から紹介される。「そうなんですか。はじめまして、妹です」と声をかけると、お兄ちゃんはひそひそ声で「いや、わたしはたんに営業に来たセールスマンなんですが、なぜか生き別れの兄だと思われてしまって帰るに帰れないのです」と困った顔でわたしにささやく。そんなことあるんですか? 「うちの両親はまだぼけているわけではないし、本当にあなたがわたしの生き別れのお兄ちゃんだと思った方が早くないですか?」と詰め寄るとお兄ちゃんは「わっ、この人も話が通じないぞ」という顔をして「ちょっとお手洗いを貸して下さい」とリビングから去っていった。
 逃げる気だな、と察したのでトイレの外からがんがんに窓を打ち付けると「わー、開かない!」と悲鳴が聞こえてとぼとぼとリビングに戻ってくるお兄ちゃん。「お兄ちゃん、これでもうずっと一緒だね」と声をかけるとお兄ちゃんはぽろぽろ泣きながら「おうちに返して下さい……」と持っているおこめ券をくれた。