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川越らぷそでい

あらすじ
川越に住む平凡だけどちょっとだけ特別な能力がある男子高校生。
ある日、いつものように教室に入ると突然の睡魔に襲われ眠ってしまう。
目覚めるとそこには羽根のある女子高生とボロボロになっている女性が対峙していた。この2人は何者か‥そしてこの男子高校生の運命は‥
埼玉県川越市を舞台に人ならざる者をめぐる物語。



第1話

妖魔や妖怪、幽霊‥それは人ならざる者‥もしくは誰かの心の中の空想の生物。
実在するという科学的根拠もなく、この現代においては存在を否定されている。
ただそれは現代の科学力が追いついていないだけなのかもしれない。
‥表向きには。

埼玉県川越市某所

今日、僕は珍しく遅刻していた。
なんだか早く起きてはいけない気がしていたんだ。‥まぁ、こんな感覚誰にも分からないけどね。
ばぁちゃんだけはわかってくれているのか理由を話さなくてもそっとしていてくれる
一言「気をつけて」と言ってくれる。
僕はばぁちゃんが好きだ。
だから勉強に差し支えない為とりあえず一限目には間に合わせようと急いで家を出た。

ここ川越は小江戸と呼ばれ江戸情緒豊かな蔵造りの家が並んでいる。‥っていうイメージだけど、僕の近所は普通の住宅地。
まぁ、でも、お寺とかはあるから少し川越らしさは残ってるかな。
そんな事を考えながら息を切らして僕は走っていく。

5分後‥

不思議な事に高校の生徒と誰とも会わなかった。
遅刻はしているからかも知れないけど‥
まぁ、でも、無事に着いたからいいか。

‥‥?

なんだか違和感が‥見た目はいつもの学校だけど‥何かが違う‥それに‥歌が聞こえる?
嫌な予感がする。
でも教室には行かないとな‥
僕は意を決して教室へと向かった。
教室の前に着くと嫌な予感というよりかは嫌な気配がハッキリと身体に伝わってくる。
頭がグラグラするし意識が朦朧としながらもなんとか教室に入った‥その瞬間強い睡魔に襲われ意識を失った。

‥僕は目覚めると自分のいつもの教室の地面に寝ていた。
確かに教室自体はいつもの教室だ。
だけど僕の目の前には異様な光景が広がっている。

目の前には黒い小さな羽が生えているように見える女子高生と白衣を着た教師らしき女性が対峙している。
なぜか白衣の女性だけはボロボロになっている。
他には誰の姿もない。

「あんたの動きなんて丸見え!諦めが悪いですね、お・ば・さ・ま♡」
女子高生はからかうように話しかけている。

「お、おばさん⁉︎わ、私はまだ20代よ!」
女性は挑発に乗ってしまっている。だけどよく見ると綺麗な人だ。
「きゃは!ごめん、ごめん♡余りにも動きが遅くて全然若く見えなかった!あっ、そうだ!10歳若返る薬あるけど‥いります?」

「えっ⁉︎ほ‥ほし‥い、いらないわよ!」
一瞬彼女は誘惑に負けそうになったが踏ん張った。
「隙あり!」
女性はそういうと女子高生に向かって銃を向け躊躇なく引き金を引いた。

パン!パン!パン!

乾いた音が教室に鳴り響いた。

‥だが、女子高生はひらりとかわして弾は奥の壁にぶつかり白く弾け飛んだ。
それは弾丸だと思ったがどうやら塩か砂糖のようだ。
「ざ〜んねん!」
女子高生はケラケラ笑いながら空を舞っている。
空から舞い降りた女子高生は机にひじをつきニコニコと女性を見ている。
「何度やっても、あなたじゃ無駄よ♡」

女性「くっ‥!」

2人はまたお互いを牽制しているのか睨み合っている‥正確には女性が一方的に睨んで女子高生はニコニコしている。

僕は今しかないと思い、2人に声をかける事にした。

「あ、あの!」
声の大きさを間違えてしまったのか静寂を切り裂くような叫び声になってしまった。

「えっ⁉︎」

「えぇ⁉︎な、な、なんで⁇に、人間のオスがなんでここに⁉︎」
2人は驚きながらこちらを振り向く。

僕は勇気を出して更にグイグイ行く。
「な、何してるんですか⁉︎え、映画の撮影ですか⁉︎」
女性は驚きながらも状況を把握しようと僕の問いに答える。
「あ、あなた、なんでここに‥?」
「え、えっと‥僕はここの生徒なんですが‥教室に入ったら気を失ってしまったみたいで‥気付いたらお二人がいました‥」

女子高生はさっきまでの笑顔が消え青ざめている。
「そ、そんなあたしの妖力が効かないなんて‥マズイ‥これはマズイ‥逃げなきゃ!」
そういうと女子高生は窓に向かって飛んでいく

「まっ、待て!」
女性は銃を構え女子高生に向かってすばやく引き金を引いた
だが乾いた音が教室に鳴り響いただけだった
「くっ‥逃したか‥」
女性はひどく落胆している

「き、消えた⁉︎」
「な、なんですか!今の⁉︎」
僕は目の前で繰り広げられた事実を理解しようとしたが理解できない‥そんな僕をみた女性は大人の責任を感じたのかため息つきながら僕の問いに答えた。

「あの女は妖魔よ。種族はサキュバス」

「よ、妖魔⁉︎サキュバス⁉︎」
ゲームや本でしか聞いた事がない‥そんなものがいるなんて‥
「まぁ‥いきなり言われても困るわよね。」「それにしてもあなた、よく平気だったわね。普通、男だったら魅力されて操られてたわ」
「あ、操られる‥?」
「そう、生物学上オスだったら誰しも‥のはずだったんだけど‥。しかも、結界を展開してたのに普通に入れるなんてね。驚きだわ。」
なんだか分からないがとても珍しい事のようだ。

僕は少し冷静さを取り戻してきたので僕なりに状況把握をしてみる事にした。
「あの他のみんなは?」
「あぁ、大丈夫よ、安心して。操られて寝ている男子生徒と女子生徒は安全の為、全員体育館で寝てもらっているわ。」
とりあえず安心。だけどなんで僕だけは平気だったのだろうか‥

パスン

ん?なんか変な音がしたな‥
うぅ‥混乱して頭が割れそうだ‥
あれ、また睡魔が‥襲ってきた‥く、くそ‥

ドサッ‥

女性「ごめんなさいね‥こうするしかないのよ」

僕は夢をみた。
いつも見る夢だ。
まだ幼い僕が母親に抱かれている夢。
とても暖かく穏やかな気持ちになる夢。
だけど母親といっても物心ついた時には亡くなっている。母親の顔は写真でしか見た事がない。
だから、本当の記憶なのか脳が作りだした記憶なのか分からない。
ただいつも母は泣いている‥
誰かに助けを求めて泣いている‥
僕を守る為に。

「‥きて。」
誰かの声が聞こえる‥
「ねぇ、起きて。」
「なかなか起きないわね‥しょうがないか‥」

僕は嫌な予感がしたので重い瞼を懸命に開けた
突然の眩しい光。
眩しい光で思わず僕はまた目を閉じた
それからゆっくりと目を開けてみる。
‥ここはどこだ‥?
見慣れない場所にいる。薬品などはないが研究室のようにも見える。

すると眩しい光を遮る様に見覚えのある顔が僕の顔を覗く。

「おはよう。」
ほのかな香水の香りと長い髪が僕を包み込む
あ、あの女性だ‥近くで見るとさらに綺麗だな‥

「お、おはようございます‥」
「うん、おはよう。気分はどう?」
「と、特に問題はないです。」
「そっ、よかった。ほんとに。」
女性はニコッと笑顔を見せて少し離れた場所に座った。
僕は後ろに隠されたハンマーを見逃さなかった。‥起きなかったらアレを使おうとしてたのかな‥まさかね。

女性は少し深呼吸をしてから話しかけてきた。

「こんな事になってごめんなさい。あなたをあのまま放置する事が出来なかったの。」
彼女は本当に申し訳なさそうにしている。
「い、いえ‥」
僕は質問をしようとしたが彼女が話を遮る

「あっ、自己紹介がまだだったわね。私はここの隊員の城崎絢音(シロサキアヤネ)。まだピチピチの29歳!」

‥うん、最後のは触れないでおこう。
それよりも気になる事がある‥けど僕も自己紹介をしないとね。礼儀は大切だから。

「ぼ、僕は越川虎之助(コシカワトラノスケ)17歳です。」
「うん、知ってる。君がのんきに寝ている間にリサーチさせてもらったわ」
「そ、そうなんですね‥」
サラッと怖い事言われた気が‥とりあえず色々聞いてみよう。
「あの質問いいですか?」
彼女はニコッとして頷く
「えっと、まずは一つ目‥ここ何処ですか?」
「ここは川越妖魔特別対策隊本部よ」
当たり前みたいに言われたけど‥どこよ、それ⁉︎
「そ、そうなんですね‥まったく聞いた事ないですが‥。えっと‥まだ理解は出来ませんが現実に妖魔っぽいの見てしまったので妖魔という生物がいる事には納得しました‥。」
絢音さんはニコニコしている。
「うん、物分かりがいい子好きよ。他に質問は?無いなら早速だけど本部長に会ってもらうわ。」
僕は深呼吸をして素直な気持ちを伝える事にした

「質問は色々ありすぎて時間かかるので、とりあえず本部長さんに会いに行きます。僕はまだ未成年ですし、これ理由次第では誘拐なのでキッチリ本部長さんに話を聞かせてもらいます。」
絢音さんは『うわっ、こいつ超絶めんどくさい奴だ』って気持ちを顔全体で表現した

‥そこからは会話がなく、スタスタと2人歩いて行く

この中は都内のビル街のオフィスと変わらない様にみえる。‥テレビでしか見たことないけど。
しばらく歩くと本部長室と書かれたプレートが目に入った。校長室みたいな外観をしている。でも大きな家紋が真ん中に描かれている。多少の異質さに少し緊張してきた‥

コンコンコン
絢音さんはノックをした後に僕に部屋に入るように促す。
「さっ、入って」
「さっきまでの勢いはどうしたの?そんな緊張しなくて大丈夫よ。」
僕は絢音さんに軽く会釈をして扉を開く

ガチャ‥

「失礼します‥」
顔をあげると部屋が一望できた。部屋のあちらこちらに日本刀やら甲冑やらが飾られている‥
その中央の机に初老の男性が座っている。
この人が本部長だな‥オーラがハンパない。

「やぁ、虎之助くん。はじめまして。わしは川越妖魔特別対策本部、本部長の松平信綱だ。」
どこかで聞いた名前だな‥まさか‥⁉︎
「は、初めまして越川虎之助です。いきなり不躾な質問申し訳ないです‥あ、あのもしかして松平家の子孫の方ですか?」
松平さんはニコッとして答える
「おっ、ちゃんと勉強してて偉いな!だが、残念ながら外れだ‥。わしは本物の松平伊豆守信綱だよ。自分で言うのもなんだが『知恵伊豆』なんて呼ばれているよ」
‥‥へっ?
僕はバカにされているのか?
「まぁ、いきなり言われても信じられないよな。要はわしも普通の人間ではないんだ‥何度も蘇ってるんだよ‥大権現様の呪力によってな。」
だ、大権現⁉︎‥って家康の事だよな‥いやもうわけわからん。
「俺の事はさておき、君の事だ、虎之助くん。」
最大の謎がさておかれた‥
「君は特別な力があるみたいだね。あのサキュバスの妖力に勝てるなんてな。生半可な力ではない」
そ、そうなんだ‥
「オスはどんな修行をしてもあやつら種族の妖力には逆らえなかった。わしですら危うかった。まだ未熟なサキュバスだった事を加味しても君はわし達にとって最強の戦力だ」
「戦力って‥まさか‥僕に戦えって事ですか?」
「率直に言うとそうだ。いきなり言われても困ると思う。答えはせかさない。とりあえず、わし達の事を知って欲しい。」
信綱さんはふかぶかと頭を下げた‥
僕は混乱しながらも自分の力が特別だと言われ少し嬉しくなっている。
だけど‥戦うのはちょっと怖い‥
でも話だけでも聞こうかな

「わかりました、お話だけ聞かせていただきます。」
信綱さんは頭を上げ満面の笑みを浮かべた
物凄く子どもみたいなキラキラした笑顔だ
「そうか、そうか!ありがとう!早速、案内しよう!」
「ま、まだやるとは決めてないですからね‥」
僕は信綱さんに引っ張られ部屋を出て行った。
絢音さんは‥携帯いじってる。なんなん‥

僕は信綱さんに連れられて大きな道場まで辿り着いた

「虎之助くん!ここはね、わが対策本部の隊員達が訓練する所。汗と涙の結晶が詰まっている場所だよ!」

「それじゃあ、次!」
「ここは図書館!みんなが勉強する所。わしは文武両道を信条としてるからここも大事!」
「それじゃあ、次!」
‥‥こうして休むいとまもなく施設を紹介されていく。カフェやら本屋やらゲームセンターやら何故かお土産ショップもある。‥誰がお土産を買うんだ‥?
「さぁ、今日はここが最後!妖魔ルーム!妖魔について知るにはここが1番!それじゃあ、中に入ってみよう!」
グイグイ引っ張られ、僕は部屋に入っていった。

「な、なんだ‥ここは‥」
僕の目の前には‥アニメでみた妖怪やら悪魔がお祭りの屋台を出したり踊ったりしている

「ふふ、ここはわしの理想郷だよ‥」
「り、理想郷‥?妖魔は敵なんじゃないんですか?」
「敵か‥敵ってなんだろうな」
2人で話していると子どもが近寄ってきた
昔話でよく見た帽子を被っていて服装も和装だ。
「信綱のオッチャン、こんちわ!」
「おう、元気か?」
「うん!」
子どもは返事とともに顔を上げた
‥僕は息を呑む‥顔には大きな目が一つだけ‥
それを察したのか子どもは僕に話しかけてきた
「あんちゃん、初めてみる顔だね。オイラは一つ目小僧種の『たきち』ってんだ、宜しくな」
「う、うん‥」
「あんちゃん、優しいな。初めて見ると大体の人間は叫ぶか逃げるかだもん。あんちゃんならもしかすると‥」
「たー坊、今はよせ」
「う、うん、ごめん、おっちゃん‥」
「大丈夫、優しいなたきちは。ありがとうな」
「うん!じゃあ、またね、おっちゃんに、あんちゃん!」
そういうと、たきちは奥に消えていった

「ここはな、妖怪や魔族が暮らす部屋だ。部屋っていっても初雁球場ぐらいの広さはある。」
「結構広いんですね‥」
「あぁ、まだまだ増築可能だ。」
「妖怪ってほんとにいるんですね。でも、ここは妖怪を退治する場所かと思ってました」
「人間にもいい奴、悪い奴がいるだろ?妖怪も一緒だ。わしらはそういった妖怪や魔族の保護もしている。現代は人間の心がすさんだせいで悪い妖魔がはびこり心優しい妖魔が殺されていっているんだよ。わしはこの部屋が普通になって人間も妖魔も笑える世界になって欲しいと願っている」
‥僕は未知の世界の出来事を理解しようとしているが頭が追いつかない。
だけど、信綱さんの言っている事は心で感じられた。
「さぁ、戻ろうか」
「はい」
僕達は本部長室に戻ることにした。

部屋に着くなり絢音さんが慌てて部屋に入ってきた。
「どうした、そんな慌てて?」
「た、大変です!これを見てください!」

第2話へ続く
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