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Voice of “usen for Cafe Apres-midi” Crew

2022 Early Summer Selection(5月30日~7月10日)

橋本徹(SUBURBIA)を始めとする
「usen for Cafe Apres-midi」の選曲家17人が
それぞれのセレクトした音楽への思いを綴る
「Voice of “usen for Cafe Apres-midi” Crew」

詳しい放送内容はこちら
D-03 usen for Cafe Apres-midi
http://music.usen.com/channel/d03/



橋本徹(「usen for Cafe Apres-midi」プロデューサー) Toru Hashimoto

新緑の季節から梅雨を抜けて、心待ちにしていた夏へと向かう街の気分や風景を思い描きながら、メロウ&グルーヴィーで心地よい楽曲を中心に、今回も計34時間分を新たに選曲した。
月〜日を通してのTwilight-timeの特集も、引き続き「音楽のある風景〜春から夏へ2022」というテーマで、タイムリーにしてタイムレス、エヴァーグリーンな輝きをたたえた、爽やかな風のように気持ちのよいフィーリングを感じさせてくれる、色彩豊かな音楽を集めている。
その他の時間帯は、ほぼ(9割5分以上)この春にリリースされたニュー・アライヴァルから、惜しげもなくお気に入りをエントリー。とりわけセレクションで重宝した40作のジャケットを掲載しておくので、その中身の素晴らしさにも触れていただけたら嬉しい。
No.1アルバムは文句なしに、内容的にも聴いた回数でも圧倒的だったケンドリック・ラマーの『Mr. Morale & The Big Steppers』。内省的なダブル・アルバムとなった今作は、ライミングのフロウやリリックのストーリーテリングの魅力が健在なのはもちろんだが、ピアノ・サウンドの比重が大きく増していること、そしてプロダクションに英国のジャズ・ピアニスト/サウンド・アーティストのデュヴァル・ティモシーが重用されていることも、「usen for Cafe Apres-midi」的には重要なトピック。フィーチャリング・ヴォーカルにベス・ギボンズ(ポーティスヘッド)やサンファを迎えていることも含め、UK勢の活躍はケンドリックの慧眼の証左だと思う。
曲単位で考えても、彼が『Mr. Morale & The Big Steppers』リリースに1週間先立って発表した、全編マーヴィン・ゲイ「I Want You」を下敷きにした絶品「The Heart Part 5」(アルバムには未収録)がベスト・シングルだろうか。個人的には、サバービア〜カフェ・アプレミディのファンはみんな大好きRoberto Nascimento「Morena」をサンプリングした、米カリフォルニア州オークランドのプロデューサー/ビートメイカーMejiwahnによる瀟洒なグルーヴィー・チューン「Lumaby」(女性ヴォーカルhrlumもキュート)や、ブラジル北東部アラゴアス州マセイオの若きSSW/マルチ奏者Bruno Berleの英Far Outからのデビュー曲となる、サイケ・フォーク〜ハイライフ〜アンビエントも内包する白日夢のようなローファイ・メロウMPB「Quero Dizer」(サウンド・プロデュースを手がけるBatata Boyの手腕も光る)も、ぜひ推薦したい。

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Kendrick Lamar『Mr. Morale & The Big Steppers』
Wilma Vritra『Grotto』
Cisco Swank & Luke Titus『Some Things Take Time』
Sault『Air』
Jasdeep Singh Degun 『Anomaly』
Chris Brain『Bound To Rise』
Diatom Deli『Time​~​Lapse Nature』
Lydia Persaud『Moody31』
Corn On My Dinner Plate『Whimsy』
Obongjayar『Some Nights I Dream Of Doors』
Jembaa Groove『Susuma』
Pierre Kwenders『José Louis And The Paradox Of Love』
Sabrina Claudio『Based On A Feeling』
Yaya Bey『Remember Your North Star』
Reuben James『Tunnel Vision』
Satchy『Warm Absence』
PJ Morton『Watch The Sun』
Conor Albert『Collage 2』
Alice Auer『Daydreaming』
Kate Bollinger『Look At It In The Light』
Emma Peters『Dimanche』
Evan J Cartwright『Bit By Bit』
Tomberlin『I Don't Know Who Needs To Hear This...』
Florist『Florist』
Matt Dorrien『Blue Pastoral』
S. Carey『Break Me Open』
Melody Gardot & Philippe Baden Powell『Entre Eux Deux』
Sam Gendel & Antonia Cytrynowicz『Live A Little』
Dexter Story & Carlos Nino『Feel Recordings Volume 1』
N KRAMER『Altered Scenes And Slight Variations』
William Basinski & Janek Schaefer『. . . on reflection』
Alexis Ffrench『Truth』
Avishai Cohen『Shifting Sands』
Joel Ross『The Parable Of The Poet』
John Carroll Kirby『Dance Ancestral』
Shane Cooper & MABUTA『Finish The Sun』
Nduduzo Makhathini『In The Spirit Of Ntu』
Jana Vasconcellos『Vida Em Cordas』
LUAH『Movimento』
Manuel Maio『Sem Olhar Ao Tempo』

Dinner-time 土曜日22:00~24:00
Cafe Apres-minuit 日曜日0:00~10:00
Brunch-time 月曜日10:00~12:00
Brunch-time 火曜日10:00~12:00
Brunch-time 水曜日10:00~12:00
Brunch-time 木曜日10:00~12:00
特集 月曜日16:00~18:00
特集 火曜日16:00~18:00
特集 水曜日16:00~18:00
特集 木曜日16:00~18:00
特集 金曜日16:00~18:00
特集 土曜日16:00~18:00
特集 日曜日16:00~18:00



本多義明(「usen for Cafe Apres-midi」ディレクター) Yoshiaki Honda

リイシュー作品を久しぶりに選びました。ワンネス・オブ・ジュジュの1977年の名盤『Bush Brothers & Space Rangers』がまた6月にレコードで再発されるようです。「usen for Cafe Apres-midi」で初夏にセレクトするのは、やはりあの「Breezin'」のナイス・カヴァーになります。ワンネス・オブ・ジュジュは、1976年の『Space Jungle Luv』に収録の「Love's Messengers」もよく選曲していましたので、今回も「Breezin'」と共にセレクトしています。同じジャッキー・エカ・エテというヴォーカリストが歌っているのでしょうか。雨のシーズンにも心地よく聴ける2曲です。

2022esummer_本多

Oneness Of Juju『Bush Brothers & Space Rangers』

Lunch-time~Tea-time 木曜日12:00~16:00
Lunch-time~Tea-time 金曜日12:00~16:00
Lunch-time~Tea-time 土曜日12:00~16:00
Lunch-time~Tea-time 日曜日12:00~16:00



中村智昭 Tomoaki Nakamura

2022年4月2日、「usen for Cafe Apres-midi」のプロデューサーである橋本徹さんと、奥様である美穂さんの結婚披露宴が表参道の素敵な式場で行われ、僕はその場で人生初のスピーチをしました。想いあふれて──それはとにかく要領を得ないものとなってしまい、当日ご一緒した全ての方々に直接頭を下げてまわりたいほどに申し訳ない気持ちでいっぱいなのですが、それでも橋本さんから「あのときのスピーチ原稿は残っていたら取っておいて」と後日言っていただいたので、この場をお借りしてお話したことを整理し、改めてその一部を記しておきたいと思います。

1990年代の前半を地方都市で暮らした音楽ファンにとって、サバービア主宰でフリー・ソウル・ムーヴメントのまさに主役であり、タワーレコードのフリー・マガジン「bounce」の編集長であった橋本徹さんは、とにかく雲の上の人。高校を卒業した僕は1996年に上京し、誰からも評価されることのない活動を地道に続けていた中で、その人に「DJいいじゃん!」と、ブースを降りた直後に暗がりのダンスフロアで背中を強く叩かれました。そして後のある夏の終わりの日に、「カフェをやろうと思うんだけど手伝ってもらえないかな? 中村の部屋みたいな雰囲気で、俺たちが好きな曲ばかりがずっとかかっているようなカフェをさ」と声をかけていただいたのです。

そうして「カフェ・アプレミディ」は、1999年の11月19日に渋谷の公園通りでスタートしました。橋本さんが信頼する音楽仲間が集ったオープニング・スタッフの中に飲食業のエキスパートはごく一部で、毎日がドタバタの連続でしたが、それでも僕たちは橋本さんの「こういう場所にしたい」という強い思いに向けて試行錯誤を繰り返しました。その中で感じていたのは「これはつまり、編集作業なんだな」ということでした。誌面を作り上げるためにライター、カメラマン、デザイナーを選ぶのと同じように、カフェにおいてもインテリア、接客、ドリンク、料理、音楽などそれぞれを担当する誰かを、どのように配置し組み合わせて創り上げるかということを、リアルに体現していたのです。そうして当時の複数の人気雑誌のカフェ・グランプリで、全国ランキングの第1位に選ばれるという快挙もありました。音楽のことを評価する訳ではない、一般誌における飲食店としての評価であったことの意味は大きく、いま憶えばそれは「高校野球において無名のチームが甲子園で優勝する」のにも似た夢物語のようです。

やはり話が長くなってしまいました。つまり、何を言いたいのかというと、「天才」という言葉は、僕の中では橋本さんのような人を指すのです。サバービアの成功〜フリー・ソウル・コンピレイションの大ヒットを経て、「bounce」の編集長となったのが29歳で、カフェ・アプレミディ創業から本USENチャンネルのスタート……。幼い頃から記憶力がよくて神童と呼ばれていたことを聞いたこともありますが、違う角度からもその「天才」ぶりを皆さんにもわかるように伝えるならば、携帯電話がない時代から現在に至るまで手帳を持たず、数百件の電話番号を全て暗記しているという何とも稀有な能力の持ち主でもあるのです。信じられますか? それはどう考えても、常軌を逸しています……。そんな人がその飛び抜けて優れた知力を一般的なビジネスや政治の世界ではなく、音楽の素晴らしさを編集という手法を通じて伝え広めることに注力し続けているということは、もはや尊いとさえ思えてくるのです。例えばイチローや大谷翔平に皆が憧れ子供たちが野球を始めるように、類稀な魅力で数多くの人々を惹きつけ、自身の明確なヴィジョンを提示し、何者でもない僕のような人間をもそこへ連れて行ってくれる──橋本さんが教えてくれたのは、音楽を好きで生きてゆくことへの希望や、そうして暮らしてゆくことへの勇気。あの日披露宴に出席した皆さんそれぞれに、またはこのページをこうして読んでいる貴方にも、25年前の僕が突如背中を強く叩かれたようなエピソードがきっとあるのではないでしょうか。もし僕のことを少しでも慕ってくれるような後輩がいるならば、同じようにああして接していけたらと日々思っていますが、凡人は理想に遠く及ばず時間だけが過ぎてゆきます。僕にとっての人生最初で、おそらく最後となる上司が、橋本徹さんという唯一無二で最高の編集者であったことは、本当に幸運であったと思っています。

そして、奥様の美穂さんへ。天才ゆえの代償なのか、橋本さんに結婚のようなものって縁遠いのかなと長年本気で思っていたんです。けれど貴女に初めてお会いしたときに、「これはもしかすると」と、何というか、直感みたいなものがはたらきました。以来、美穂さんがいらしているDJプレイの際には名曲「Golden Lady」の様々なカヴァーをお贈りしてきましたが、本アーリー・サマー・セレクションでは改めてスティーヴィー・ワンダーのオリジナル・ヴァージョンをその歌詞と共に。貴女は橋本さんにとってのみならず、橋本さんを慕う僕たちにとっても、“Golden Lady”そのものなのです。

「君の瞳の中の天国。僕は目を閉じ期待する。そこはそう遠くない。無上の美と愛のためなら恐れはしない。君は素晴らしい女性。雨と太陽が花を育て大輪の笑顔を咲かせる。僕にとって君が夢そのもの。そこに行くよ」

2022esummer_中村

Stevie Wonder『Innervisions』

Dinner-time 月曜日18:00~24:00
Cafe Apres-minuit 火曜日0:00~2:00



添田和幸 Kazuyuki Soeta

今回のセレクションを製作中、最も繰り返し聴いたのは、来日公演が楽しみなJohn Carroll Kirbyの新作。Laraaji(LAのブランド、Online Ceramicsとのコラボも最高でした)が参加した、いかにも彼らしいイントロで幕を開けるアルバムの構成も見事。天上から降り注ぐシンセの音色に包まれる素晴らしい一枚です。ここに挙げた以外にも良作目白押しなので、選曲リストもぜひチェックしてみてください。

2022esummer_添田

John Carroll Kirby『Dance Ancestral』
Copenema『Copenema Presents Sha Plays Getz & Pessoa Sings Gilberto』
Emmanuelle Parrenin『Targala, la maison qui n'en est pas une』
Two Another『Back To Us』
Jerry Paper『Free Time』
Carla Chanelle『Sur nos joues』
Max Ruano『Acuchillame en la kitchenette』
Folly Tree『Remedies』
Cam Maclean『Secret Verses』
Forward Back『Volume 1』
Jembaa Groove『Susuma』
Amine Mesnaoui & Labelle『African Prayers』
Mamas Gun『Cure The Jones』
Beau Diako『Nylon』
Tim Atlas『Quota』
Sunni Colón『JúJú & The Flowerbug』
Budjerah『Conversations』
Omar Apollo『Ivory』
Reginald Omas Mamode IV『Stand Strong』
Alex Isley『Marigold』
Shin Sasakubo『Venus Penguin』
Byard Lancaster『Soul Unity』
Anne Paceo『S.H.A.M.A.N.E.S』
Forgiveness『Next Time Could Be Your Last Time』
Hior Chronik『Haze』
V.A.『Viento Sur. Experimental Music & Fusion Music From Argentina』
Rosa Beach Mason & Sean Conrad『Wake』
Dino Rubino『Gesuè』

Dinner-time 火曜日18:00~24:00
Cafe Apres-minuit 水曜日0:00~2:00



中上修作 Shusaku Nakagami

こちらの耳をふさがない限りは、常に息の詰まるような出来事や不安な事件がニュースで流れてくる昨今、まるで砂漠にふる雨のように爽快な瞬間に立ち会えました。今日はそのあたりの話を。

長い冬も去り、木もれ陽が気持ちのよい道を選びつつ仕事場へと向かう途上、とつぜん携帯電話が鳴り響きました。電話の主が「ビッグ・ニュースな慶事」の本人であることもあり、また久々にお話した声も相変わらず若々しく、ある約束を交わして電話を切りました。

その約束の日。私はたまたま同じ都市で仕事があり残念ながら「ビッグ・ニュースな慶事」には参加できなかったのですが、一日の終わりにご本人とお会いできることになり、都市の中心部を環状に走る電車の車窓から一瞬みえる雑居ビルへと足を進めました。スクランブルになった交差点に群がる人混みを抜けて、ウソのように静かな空間にたたずむ雑居ビル。一見古いが丁寧にメンテナンスされたエレヴェイターのボタンを押すと、エレヴェイターの箱がまるでタイムマシンのように、ビューンと時間も記憶もさかのぼって目的の階に着くときには、僕も少し若返ったような気がしました。

狭い空間にあつまった人混みに少々気後れしながら、マスクを正しい位置に調整して、いざ身を投じたその瞬間。ほんとうに懐かしい顔、カオ、豹。気持ちを温めてくれる音の洪水を浴びながら、ひとりひとりに声をかけて再開をなつかしむ。涙なんか枯れたように思えていた毎日が、恥ずかしくなるほどの感情が溢れてきたとき、いよいよ「慶事」のご本人にようやく遭遇!

再会をよろこべる、この瞬間。懐かしい人に会うことができる約束の電話。それらすべての喜びと高まる感情がこの1枚のCDに詰まっているような気がします。あの日、選曲にたずさわるすべての人にはお会いできなかったけれど、そんなの「この音」を聴けば時空や記憶を軽々と超えてくれるもの。

いよいよ季節はすすみます。夏をいつくしみ、愛する人と過ごす時間にこのCDが傍にありますように。橋本さん、ご結婚おめでとうございます! そして選曲チームのみなさま、USENスタッフのかたがた、ほんとうにいつもありがとう。

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V.A.『音楽のある風景〜ソー・リマインディング・ミー』

Dinner-time 水曜日18:00~24:00
Cafe Apres-minuit 木曜日0:00~2:00



高木慶太 Keita Takagi

この時期に決まってアントニオ・カルロス・ジョビンが聴きたくなる。微熱とともに。初夏こそジョビンの季節と信じて疑わない。時に緊張感すら孕む完全無欠な美しさが新緑の光線に照らされて、ふと人間味を帯びる瞬間がある。そのたびにエコロジストでもあったジョビンの横顔を思い浮かべずにはいられない。

2022esummer_高木

MORELENBAUM2/SAKAMOTO『CASA』

Dinner-time 木曜日18:00~24:00
Cafe Apres-minuit 金曜日0:00~2:00



FAT MASA

僕の住む釧路は、ようやっと桜舞い散る季節、本格的な春を迎えます。ただ気持ちは初夏です。夏が短いため、気分出していきたいところであります。
今年20年ぶりにリリースされたブライアン・ジャクソンのアルバムからの先行シングル「All Talk」が素晴らしい。オリジナル・テイクは、ギル・スコット・ヘロンとの共演「Bottle」を彷彿させるような雰囲気で、真夏のクラブで汗だくになりながら聴きたくなる。
セレクトしたのはOpolopoによるアーバンなブギー・アレンジのリミックス。
コンバーチブルの幌を全開にして海沿いをドライヴしたくなる気分です。
僕の住む街にはギル・スコット・ヘロンとブライアン・ジャクソンがいます。気になる方はぜひ釧路へ遊びに来てください(笑)。

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Brian Jackson 『All Talk』

Brunch-time 金曜日10:00~12:00



三谷昌平 Shohei Mitani

今春行われた橋本徹さんの結婚披露宴の中盤で流れたロマン・アンドレンの多幸感に満ちたナンバー「Bumblebee」。本作は“スウェーデンのデオダート”の異名を持つキーボーディストであるアンドレンが2008年にリリースしたセカンド・アルバム『Juanita』に収録された作品。もともとは彼が自分の娘のために作った曲ですが、自らを愛する人の周りを飛びまわる蜂に例えて綴った歌詞は優しさに満ちあふれていて、世界中の恋人たちや家族に捧げたい作品となっています。2021年末にはアナログ化もされておりますので、興味のある方はぜひ手に取ってみてください。

僕があなたを愛すとき
空は雲ひとつなく晴れわたる
人生っていつもこうあるべきなんだと知ったんだ
キスを交わせばわかるはず

あなたにひと目会うために
僕は持てる愛をすべて捧げて飛んできた
いま僕は大きな気球のように浮かれてる
愛の喜びで天にも昇る気分だ

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Roman Andren『Juanita』

Dinner-time 金曜日18:00~22:00



渡辺裕介 Yusuke Watanabe

最近、世界のヒット曲やクラブ・ミュージックをじっくり聴き込むとなんだか懐かしい心境に。80年代後半から90年代初期のくぐもったドラムとベース。あまり難しい歴史を言ってもしょうがないというか、当時中学・高校生だった感覚でしか音楽を聴いていなかったあの勝手な好き嫌い。あらゆる音楽がいよいよ楽しめだした大切な時代(あくまで私の見解です)。日本だとやはりフリッパーズ・ギターの『ヘッド博士の世界塔』って凄いアルバムだなあと今でも思います。フリー・ソウル以降あらゆる世界中の音楽に出逢えてからは感動が増強していくばかりでしたが。そんなあの頃の中間テストと期末テストの憂鬱を吹っ飛ばしてくれるような楽曲に出逢える心境。今でも変わらず探し求めています。そんな心境で選び抜いた初夏金曜の夜。Mamas Gunの6枚目となる新作『Cure The Jones』のあの頃のアシッド・ジャズ的な感触ではないSilk Sonicに並ぶ溢れる70s Soul愛。ぜひライヴ・セットを体感したいです。どインディーながらもデビューから私の心掴んで離さないフリー・ソウル・ライブラリー奸悪なニュージャージーの異端児Flamingosisの新作。ヴェイパーウェイヴまではいかないチルポップ? どう考えてもレコ屋好きのオタク。絶対友人になりたい。こんな楽しいアルバム。にやにやしながら製作してるんやろうなあ。あっ最後の最後にとんでもない楽曲が収録されてます。楽曲購入を抑えて曲作りにお金をかけたくなるようなアルバムです。そんな肌ざわりな金曜の夜。ぜひお楽しみください。

2022esummer_渡辺

Mamas Gun『Cure The Jones』
Flamingosis『Daymaker』

Dinner-time 金曜日22:00~24:00
Cafe Apres-minuit 土曜日0:00~2:00



富永珠梨 Juri Tominaga

爽やかな新緑の季節から、瑞々しい光あふれる初夏へ。夏の訪れを心待ちにしながら、今回も新旧問わず、ジャズ、ブラジリアン、R&B、ハワイアンなどを織り交ぜながら、アコースティック・サウンドを中心に軽やかな選曲を心がけました。

今回セレクトした中で、毎年この季節になると、きまって聴きたくなる(選曲に入れたくなる)お気に入りの一曲をご紹介いたします。細野晴臣さんが2013年にリリースしたアルバム『Heavenly Music』から、アン・サリーとのデュエット・ソング「Something Stupid(恋のひとこと)」を初夏の一曲としてピックアップします。この曲は、1967年にフランク・シナトラと愛娘ナンシー・シナトラが歌い、全米で大ヒットしたラヴ・ソングのカヴァーです。「僕はいつもイケてる言葉を探しているんだ でもけっきょく台なしにしてしまうような バカなことを言っちゃうんだ そう『愛してるよ』なんてことを」。素直に「I Love You」が言えないちょっぴり“こじらせ気味”な男の子の心情を描いた、なんとも愛らしい歌詞に思わず胸キュン。個人的には、豪快&ゴージャスなシナトラよりも、照れ屋でひねくれ者なイメージ(もちろん深い敬意を込めて)の細野さんヴァージョンの方が、この歌の主人公っぽくて好きなんですよね。ラテン・フレイヴァー漂うイントロのギター・フレーズや、伸びやかなアコーディオンの音色、ヴィブラフォンの涼やかな響きが、のんびりとした初夏の昼下がりによく似合います。細野さんとアンさんの控えめで穏やかな歌声は、どこか恋人同士のひそひそ話のようで、聴くたびスウィートなムードに包まれます。2003年にリリースされた、竹内まりや&大滝詠一ヴァージョンもとっても素敵なので、そちらもぜひチェックしてみてくださいね。

そして今回特別に、選曲の後半では、先日4月2日に結婚式を挙げられた、我らが橋本徹さんへのお祝いの気持ちを込めて、ケニー・ランキン「Haven't We Met?」をはじめ、ルイ「My Lover」、ミシェル・ルグラン「My Baby」など、「usen for Cafe Apres-midi」クラシックスをセレクトしてみました。実は披露宴に出席したセレクター仲間との間で「次回Early Summer Selectionは、今日結婚式で流れた曲(橋本さん&美穂さんが自ら選曲された最高のウェディングBGM!)の中からセレクトしよう!」というプチ・サプライズ企画が持ち上がっていたのです。ということで、今年のEarly Summer Selectionは、いつも以上にハッピー・ムードあふれる選曲に仕上がっていると思います。エヴァーグリーンな輝きを放つ名曲の数々は、爽やかな初夏の風景にも心地よく馴染みます。

たくさんの笑顔と素晴らしい音楽に満ちあふれた、ほんとうに素敵な結婚式でした。
橋本さん、あらためましてご結婚おめでとうございます。末永くお幸せに。

2022esummer_ジュリ

細野晴臣『Heavenly Music』
Kenny Rankin『Because Of You』
Lui「Oh, Oh (I Think I'm Fallin' In Love) / My Lover」
Michel Legrand『L'Evenement Le Plus Important Depuis Que L'Homme A Marche Sur La Lune』

Brunch-time 土曜日10:00~12:00



小林恭 Takashi Kobayashi

初夏の過ごしやすい心地よさを感じ、また梅雨時の不快感を一掃させるメロウでグルーヴィーな曲を中心に、今回もオールジャンルで選曲しています。
ここではピックアップしている9枚の中からこの2曲を特にお勧めします。

まずはEthan Gruska & Bon Iverの「So Unimportant」。
コロナでリアルでのレコーディングが実現できず、お互いのリスペクトに支えられながらリモートとメールのやりとりのみで完成させた初のコラボ曲。
この歌声とサウンド&メロディーを聴くとどうしようもなく切ない気持ちになります。
今回選んだ曲の中でも最も心に響いた1曲です。次回作がリアルで実現することを期待します。

もう1曲強く印象に残ったのが、August GreeneやCommonとの共作で素晴らしい作品を提供してきたSamora Pinderhughesのソロ・アルバムからの「Masculinity」。
雨の日の夜に感情の奥深く染み込んでくるような、なんとも形容しづらい独自の美しさと翳りを持った世界観に心が響きました。
同じアルバムに収録された「Grief」も素晴らしい曲です。

この季節に似合う懐の大きなスケールを感じさせるスピリチュアルな楽曲に、ぜひ耳をかたむけてみてください。

2022esummer_小林

Sam Evian『Time To Melt』
Zito Mowa『Text Me When You Get Home』
Tapioca『Voyage』
Sam Gendel & Antonia Cytrynowicz『Live A Little』
Chance The Rapper「Child Of God」
Sunni Colón『JúJú & The Flowerbug』
edbl, Kazuki Isogai & Taura Lamb「Lemon Squeezy」
Ethan Gruska & Bon Iver「So Unimportant」
Samora Pinderhughes『Grief』

Dinner-time 土曜日18:00~22:00



ヒロチカーノ hirochikano

冒頭のベース・ラインとコーラスの入りから文句なしのキラーなソウル・ナンバーに、思わず初めてフリー・ソウルのコンピレイションを聴いたあのときの衝撃が現代によみがえったVividryの「A Million Signs」。この曲との出会いのパッションにあわせて、他にも前半パートから、もう一曲フリー・ソウルのコンピに絶対入っていてもおかしくない、「Soulful Strut」へのオマージュ溢れるキラー・チューンMamas Gunの「Good Love」を紹介します。選曲では、初夏の眩しい陽射しの中で、海を想い浮かべながら、生ビールをグイッと飲みたくなるような、メロウでグルーヴィーな現代進行形の好トラックを集めましたので、日曜日の午前中は、ひと足お先に夏を感じてください。

2022esummer_野村

Vividry『Your Good Lies』
Mamas Gun「Good Love」

Brunch-time 日曜日10:00~12:00



吉本宏 Hiroshi Yoshimoto

初夏の黄昏に漂うように響く甘い歌声。ソウル・フレイヴァーを漂わせるロンドンのシンガー・ソングライターAlice Auerの「Daydreaming」は、“I wanna daydream about you”と夢見心地に歌われるように、すべてが柔らかな揺らぎに包まれている。

追記:
去る4月2日に盛大に催された、わが橋本徹氏の結婚披露宴で、新郎新婦登場の際にかかった1曲は、「usen for Cafe Apres-midi」クラシックのJazzinaria Quartetの「Pippo Non Lo Sa」だった。披露宴の数々の選曲はすべて橋本夫妻の手によるもの。ここ一番でこの曲がかかったことで会場は大いに沸いた。“選曲する”という行為の素晴らしさをあらためて「usen for Cafe Apres-midi」選曲メンバーとも分かち合い、みんなで祝福できた記憶に残る宴の時間だった。

2022esummer_吉本

Alice Auer『Daydreaming』

Dinner-time 日曜日18:00~22:00



高橋孝治 Koji Takahashi

ちょっと前に2022年を迎えたと思ったら、あっという間に時はすぎて季節は初夏。時の流れは速いですが、周りを見渡しても何かが特別変わったと感じることはあまりありません。しかし注意深く周りを見てみると、毎朝出会っていた小学生の子供が、中学生の制服を着て登校していたり、久しぶりに通った道に新しい飲食店がオープンしていたりと、楽しい変化が見られます。悲しく痛ましいニュースを見る日が多いですが、微笑ましい出来事を身近に感じるのは、それがささやかな出来事であっても嬉しいものですね。
 
さて、今回の選曲はカリフォルニア出身のアーティスト、ティム・マウントの音楽プロジェクト、バマー・デイズの80sニュー・ウェイヴ・テイスト漂う「YKWIM」からスタート。続けてニューヨークで活動する3人組、Couch Printsの3月にリリースされた新曲「Horsepower」や、スウェーデンのストックホルム出身の女性アーティスト、Many Voices Speakの4月にリリースされたセカンド・アルバム『Gestures』収録の「Within Reach」、ブルックリンで活動する男女2人組ユニット、Bloomsdayの6月にリリース予定のデビュー・アルバム『Place To Land』より先行シングルとしてリリースされた「Phase」などの清らかな女性ヴォーカル曲をピックアップして繋げてみました。自分の選曲ではお馴染みとなったミネソタ州の2人組Vansireは新曲「Kind Of A Nice Time」をセレクト。他にはロンドンの2人組Goodvibes Soundのこちらも80sテイストのエレポップ感が心地よい「All My Life」やシアトル出身の女性アーティストSea Lemonの「Turn Away」などもピックアップしていますが、Sea Lemonの作品は爽やかなネオアコ感が清々しい風のようでとても気に入っています。
ディナータイム後半は、ブルックリンを拠点に活動するソングライター兼プロデューサーのバリーが1月にリリースしたセカンド・アルバム『Barbara』の楽曲を毎回選曲で取り上げていますが、今回はアルバムの冒頭を飾る「Jersey」をセレクト。それに繋げたのが、ロサンゼルスで活動するCARRと名乗る女性アーティストの「Sarasota」。この作品も爽やかな初夏を表現するのにぴったりのキュートな楽曲ですね。フィンランドはヘルシンキの女性アーティスト、Pearly Dropsの「Get Well」も同様の雰囲気を持ち、またしても80sのテイストを含み、こちらもお気に入りのナンバーです。他にはボサノヴァの調べが初夏にピッタリのノルウェイの2人組Goofy Geese による「Flor Amarelo (Para Voce)」や、テネシー州ナッシュヴィルで活動するThe Mango Fursの仄かなサイケデリック感のある「Mary Flies Around The Sun」、プリンスを生んだ街、ミネソタ州ミネアポリスのアーティスト、アーリー・アイズのマジカル・ポップな「Big Sigh」、オーストラリアはシドニー出身のToby Anagnostisの音楽プロジェクト、バター・バスの「Anchor In The Clouds」、バリー同様こちらも最近の選曲では皆勤賞のキャロライン・ラヴ・グロウの後期コクトー・トゥインズを連想させる「Foxy」などをピックアップしてみました。さらに続くペンシルヴェニア州ピッツバーグ出身の男女2人組ユニット、Drauveの「Afraid Of Driving」や、カナダはトロントの女性アーティストLuna Liがアジアン・アメリカンであるJay Somをフィーチャリングして制作した「Boring Again」も素晴らしいのですが、カリフォルニアはサンディエゴで活動するムーン・ラグーンの「Maybe You're Right」は、ウィリアム・ディヴォーンの「Be Thankful for What You Got」を感じさせるおじさんキラーなナイスな作品です。
ミッドナイトからの選曲は、アイズレー・ブラザーズのメンバー、アーニー・アイズレーを父に持つ、ロサンゼルス出身のR&Bシンガー、アレックス・アイズレーがJack Dineとコラボしてリリースしたアルバム『Marigold』から、「Under The Moon」をセレクトしてスタート。続けてセレクトしたのは大好きなアーティスト、VansireとMunyaがコラボするという夢のようなユニットがリリースした「Vivienne」です。ウィスパーなささやきフレンチとジェントルな男性ヴォーカルの組み合わせは、昔で言うエル・レーベル系のおしゃれネオアコのど真ん中のテイストを放つ名曲ですね。そしてこちらも自分の選曲ではお馴染みのアーティスト、Stray Fossaの4月に発表された楽曲「Better Late Than...」はメロウなテイストで心地よく、今回もエントリーとなりました。他にはシアトルのアーティスト、Drench Friesの3月にリリースされたミニ・アルバム『Being Silver』収録曲「Out My Window」や、ロサンゼルスで活動する3人組Cannonsの「Strangers」、ベルリンの男女デュオ、Strongboiの「Fool Around」、オーストリアの首都ウィーン出身のアーティスト、グッド・ウィルソンの「Bats From The Buffet」なども初夏にピッタリな涼しげな雰囲気を放つ魅力的な作品です。
ミッドナイト選曲の後半は、ジョージア州アセンズで活動する女性アーティスト、Night Palaceの4月にリリースされたデビュー・アルバム『Diving Rings』より、ジーザス&メリー・チェイン「Just Like Honey」などでお馴染みのロネッツ「Be My Baby」のドラム・パターンを模倣した「Stranger Powers」を皮切りに、イギリスはブリストルの5人組バンド、ポケット・サンの浮遊感のあるシンセサイザーの響きが涼しげな雰囲気を醸し出す「Wake Up」や、カナダはヴァンクーヴァーの4人組Melttによる、印象的なベース・ラインとファルセット・ヴォイスが心地よいミディアム・ダンス・ナンバー「Only In Your Eyes」、アイルランドのリムリック出身の女性アーティスト、Martian Subcultureの「Enter Martian Pedestrian」などをピックアップ。Martian Subcultureの「Enter Martian Pedestrian」はシンセサイザーのミニマルな響きと不協和音のような独特なサウンドが癖になる佳曲ですね。
 
さてここからは恒例となっていますが、誰も興味がないと思うので絶対にスルーされているであろう(泣)映画のお話です。まずはジョン・カサヴェテス監督作品『グロリア』のお話ですが、この作品のブルーレイは日本盤でのリリースはありません。本国アメリカでも長い間ブルーレイでのリリースはなかったのですが、2018年にようやくブルーレイ化されました。しかし限定3,000枚でのリリースであったため、現在はプレミア化してしまい、今では高額商品となってしまいました。自分も未入手だったのですが、今年になってオーストラリア盤でブルーレイ化され、ネットの購入サイトをポチッとクリックしてようやく手に入れることができました。商品が届いたら『グロリア』を徹底的に研究しようと思っていますが、ここ最近は1970年制作のイタリア映画の至宝、ベルナルド・ベルトルッチ監督の『暗殺の森』の研究をしておりました。この映画は自分の中では全てにおいて「完璧」な映画で、これを当時29歳のベルナルド・ベルトルッチがメガホンを握ったということは驚嘆に値します。光と影のコントラスト、色彩の美しいハーモニー、ストーリーの組み立て、そして美しい音楽。これらが重なり合った完璧な作品だと思います。今回久しぶりにこの作品と向き合うことを決めて、まず手始めに所有している2012年に再発されたリマスター版のDVDを鑑賞しました。するとやはりDVDということもあってその画質は不満のあるものでした。商品のカスタマー・レヴューなどを見ると、日本盤ブルーレイでも同様の感想が見られたので、『グロリア』同様に今回思いきって海外盤のブルーレイを入手してみました。そしてその映像を確認すると、これが期待通りの美しい映像でとても感動しました。ぜひこの美しい海外盤の映像を使用した日本盤ブルーレイのリリースを切望しますが、商業的に難しいのですかね? ジョルジュ・ドルリューがスコアを手掛けた美しいサウンドトラックも必聴の作品ですが、このサウンドトラックを大学時代に移転前の渋谷HMVで購入したのは懐かしい思い出です。そして驚くことに、なんとこの作品のTVで放送された激レアな日本語吹き替え版がYouTubeの中に上がっているのです。たぶんテレビ東京系列の番組で放送されたもので、1時間半枠の番組のため50分もカットされていますが、よくぞこの貴重な放送を当時録画して保存していてくれたものだと思います。もし興味のある方はぜひ鑑賞してほしいのですが、ステファニア・サンドレッリとドミニク・サンダの声優を務めた方のお名前がわかったら教えてほしいですね。もしお名前がわかったらぜひYouTubeのコメント欄に書き込んでください(笑)。
 
追記:
なんとステファニア・サンドレッリとドミニク・サンダの声優を務めた方のお名前がわかりました。ステファニア・サンドレッリが北島マヤさんで、ドミニク・サンダが宗形智子さんだそうです。声優の研究をされている方を紹介してもらい判明したのですが、世の中には本当に凄い方がおられますね。感激しました。

2022esummer_高橋

Bummer Daze「YKWIM」
Couch Prints「Horsepower」
Many Voices Speak『Gestures』
Bloomsday『Place To Land』
Goodvibes Sound「All My Life」
CARR「Sarasota」
Pearly Drops「Get Well」
Goofy Geese「Flor Amarelo (Para Voce)」
The Mango Furs「Mary Flies Around The Sun」
Butter Bath「Anchor In The Clouds」
Drauve「Afraid Of Driving」
Moon Lagoon「Maybe You're Right」
Alex Isley『Marigold』
Vansire & Munya「Vivienne」
Drench Fries『Being Silver』
Good Wilson「Bats From The Buffet」
Night Palace『Diving Rings』
Pocket Sun「Wake Up」
Meltt「Only In Your Eyes」
Martian Subculture『Martian Subculture』

Dinner-time 日曜日22:00~24:00
Cafe Apres-minuit 月曜日0:00~2:00



山本勇樹 Yuuki Yamamoto

今年の春に『World Standard for Quiet Corner』というCDを選曲しました。これは鈴木惣一朗さんのプロジェクト、通称“ワルスタ”の楽曲をあつめたものです。昨年の秋、このオファーを受けてじっくりと制作しました。惣一朗さんからは「僕は口を出さない。全部、山本くんにまかせるから」と、一言だけコメントをいただき、ちょっとしたプレッシャーを感じながらも、楽しみながら制作できたような気がします。学生の頃から、ワルスタの音楽に親しみ、惣一朗さんが書いた本を読みふけった自分にとって、このCDのリリースは、とても感慨深いものがありました。そしてあらためてワルスタの色彩豊かな音楽性の魅力を再確認しています。爽やかな陽光を浴びながら聴いていると、嫌なことなど忘れて、なんだか幸せな気分に浸れるのです。皆さんにも、そんな気分になっていただきたいと、今回の選曲リストにも、このCDからいくつか入れています。ぜひ、お楽しみください。

2022esummer_山本

ワールドスタンダード『World Standard for Quiet Corner』

Lunch-time~Tea-time 月曜日12:00~16:00



武田誠 Makoto Takeda

タッピング奏法も織り交ぜたしなやかなフィンガーピッキングから紡ぎだされるジャジーなコード・プログレッションで、メロウなアンビエント・ソウル的空間を作りだす新世代技巧派ギタリストでありソングライター/トラックメイカーのBeau Diako。当時のガールフレンドと組んでいたZoologyというデュオの2018年のEPから「100°」という曲を以前セレクトさせてもらっていましたが、ソロ名義でのシングル、EPのリリースを経てフル・アルバムが遂に登場。Zoologyのときからのシンガーを立ててのコラボ、という制作スタイルは一貫していますが、そのきらびやかで繊細なギターと絶妙なビート・トラックによって描きだされるより多彩となった楽曲の数々は、柔らかな浮遊感にあふれていて新緑を濡らす初夏の雨の風景に淡く溶けこんでいくよう。ちなみに今回のEarly Summer Selectionでは、Beau Diakoのファミリー・ネーム(彼のフル・ネームはBeau Diakowicz)のルーツであるというウクライナはキーウの大河、ドニエプル川河岸の彷徨をテーマにしたであろう、『Memoir Collections III - Coastal Wander』というコンピに収められたアンビエント・チューンも、平和への祈りをこめ冒頭に配置しました。
6月の雨の日であれば街歩きもこの時季ならではの風景や匂いを楽しめたりするので、そんなに面倒を感じない人も少なくないのではないでしょうか。そしてそんな雨の日に出かけたことで気持ちが少しメランコリックになるのか、映画館で観た映画のことや古本屋で出会った本のこと、そして中古盤屋で見つけたレコードのこと(あと、窓が開け放たれた居酒屋で雨音を聞きながらお酒を飲んだこととか……ははは)が雨の風景と共に大切な記憶として刻まれていたりもします。このEarly Summer Selectionも、そんな記憶に残るような音楽との出会いへの導きとなればと願っています。

2022esummer_武田

Charles Stepney「Step On Step」
Leonardo Marques『Flea Market Music』
Resinald Omas Mamode IV『Stand Strong』
Beau Diako『Nylon』
Sam Evian, Mild High Club & Hannah Cohen「Sold Me A Dream (Terry Tracksuit Edit)」
Still Woozy & Remi Wolf「Pool」
Renata Zeiguer『Picnic In The Dark』
Green-House『Solar Editions』

Lunch-time~Tea-time 火曜日12:00~16:00



waltzanova

今期は「時代と場所をこえた音楽旅行」というテーマのセレクションになりました。オープニングはエリック・サティの「Je Te Veux(きみがほしい)」、僕がクラシックに興味を持った大学時代から大好きな曲です。その頃はカセットテープでお気に入りの曲をコンパイルしていたのですが、1曲だけクラシックを入れるという選曲術(?)は当時からときどき使っていました。人間というのはあまり変わらないですね(笑)。続くバーシアの「Third Time Lucky」、当時高感度FMだったJ-WAVEでよくかかっていたのを思い出します。この曲が収録されている『The Sweetest Illusion』はFree Soulがスタートした1994年春のリリースで、同時期に発売されたオリジナル・ラヴ『風の歌を聴け』やシュガー・ベイブ『SONGS』の再発などを聴くと、当時のフレッシュでワクワクした気持ちが蘇りますね。その後はマット・ビアンコ〜『ラ・ラ・ランド』サウンドトラック〜スタイル・カウンシル〜ブルース・ルイス〜パット・メセニー〜モーゼス・タイワ・モレレクワ〜キャット・エドモントン〜ジョン・ピザレリ〜カチア(以下は曲目リストをご参照ください・笑)と流れていくのですが、新旧問わず自分自身にとってのフェイヴァリットを縦横無尽に並べられ、担当の4時間を通して手応えを感じながら選曲をすることができました。16枚並べたアルバム・カヴァーからも、「Suburbia Suite」や橋本徹さんが編んできたコンピレイションの影響が如実に感じられると思います。そうそう、先日行われた橋本徹さんの結婚式の際、披露宴で流されたBGM(もちろん橋本さん&美穂さんの選曲です)の中からも1曲選ばせていただきました。スタイル・カウンシル「Headstart For Happiness」です。式もお二人の人柄が感じられる素敵なもので、友人たちとお祝いできたことを心から幸せに感じました。
 
ラスト1時間の新曲中心コーナーもかなりの充実度なので、紹介させていただきたいと思います。この前久々に耳にして胸がキュンとなった爽快Free Soulクラシック、アンジェラ・ボフィルの「Only Love」に続く、Pastelの「window pain」。Tequishaという女性シンガーのヴォーカルもキュートなボッサ・ナンバーで、自分内では今回のソングス・オブ・ザ・セレクションです。続くKAINA「Golden Mirror」も似た曲調のマジカルな曲。アントニア・チトリノヴィッチという、録音当時11歳だったという少女をフィーチャーしたサム・ゲンデル「Wondering, Waiting」もヤバイですね(笑)。こういう子供声は大好物です。曲調は全然違うのですが、アーチー・シェップの「Quiet Dawn」やDOOPEESを思い出したりもしました。あと、好きなタイプの声ということでは、Anushkaの「Bad Weather」もフェイヴァリットですね。いわゆる“UKソウル”声なのですが、90年代にマッシヴ・アタックにフィーチャーされてブレイクし、「No Government」のスマッシュ・ヒットで知られるニコレットなんかも思い出してしまいます。続くサム・エヴィアン、マイルド・ハイ・クラブ、ハンナ・コーエンのトリプルネームによる「Sold Me A Dream」も素晴らしいですね。“2020年代的AOR〜シティー・ミュージックの決定打!”と言いたくなります。そしてアルバム・オブ・ザ・セレクションのLydia Persaud『Moody 31』から「I Got You」。4月の「dublab.jp suburbia radio」では「Good For Us」が流れていたのですが、ワルツ的にはこの曲がグッときました(と思っていたら5月の放送にエントリーされていました・笑)。ジャケット通りクラシカルなテイストで彩られたフェイ・ウェブスターの新作EPからのタイトル曲「Car Therapy」を挟んで、セレクションのラスト・セクションの訪問先は東京経由アルゼンチンです。鈴木惣一朗さんのプロジェクトであるワールドスタンダードの「満月」、こちらは3月にリリースされた山本勇樹さんの選曲・監修による『World Standard for Quiet Corner – Diamond Days』がインスパイア元になりました。細野晴臣さんもそうですが、惣一朗さんのような音楽家が同じ時代にいてくださることが、僕にとって励みになります。そしてワールドスタンダードにも大きな影響を与えたアルゼンチン・ネオ・フォルクローレ・シーンの精神的支柱、カルロス・アギーレ5重奏団による『Va Siendo Tiempo』からの「Siempre Azul」。アギーレさんのヴォーカルが入ってくる瞬間、ここではない時代や場所に連れていかれたかのような、陶然とした気持ちになりますね。クリバスのピアニスト、フアン・フェルミン・フェラリスの新譜『Jogo』からはオーセンティックなピアノ・トリオの魅力が光る「Driana」を。エンディングには、シルヴィア・イリオンド2018年の名盤『Tierra Sin Mal』の冒頭を飾っていた、「淡水」と題された透明感あふれる曲を選びました。セバスティアン・マッキらのプロジェクト、ルス・デ・アグアの名盤から流れる水脈が感じられます。サティに始まりアルゼンチンに終わる今回のセレクション、この時期ならではのカラフルで爽やかなテイストをたっぷりとお楽しみください。

2022esummer_ワルツ

Pascal Rogé『3 Gymnopédies & Other Piano Works』
Basia『The Sweetest Illusion』
The Style Council『Speak Like A Child』
Catia『Catia Canta Jobim』
Mamas Gun『Cure The Jones』
Emma Noble & Matt Berry「Beatmaker」
Fatima & Joe Armon-Jones『Tinted Shades』
John Carroll Kirby『Dance Ancestral』
Parttime『In Time』
Van Dyke Parks『Discover America』
Greg Yoder『Dreamer Of Life』
Angela Bofill『Something About You』
Pastel feat. Tequisha「window pain」
Sam Gendel & Antonia Cytrynowicz『Live A Little』
Lydia Persaud『Moody31』
Carlos Aguirre Quinteto『Va Siendo Tiempo』

Lunch-time~Tea-time 水曜日12:00~16:00

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