Voice of “usen for Cafe Apres-midi” Crew
2024 Autumn Selection
(10月14日~11月30日)
橋本徹(SUBURBIA)を始めとする
「usen for Cafe Apres-midi」の選曲家17人が
それぞれのセレクトした音楽への思いを綴る
「Voice of “usen for Cafe Apres-midi” Crew」
詳しい放送内容はこちら
D-03 usen for Cafe Apres-midi
https://music.usen.com/ch/D03/
長く続いた残暑もようやく和らぎ、秋らしい爽やかな風を感じながら、深まりゆく紅葉の季節の街並みや、そこに描かれる心象風景を素敵な音楽で色づかせることができたらと、今回もメロウ&グルーヴィーで心地よい楽曲を中心に、計34時間分を新たに選曲しました。
月〜日を通してのTwilight-timeの特集は引き続き、この夏リリースされた30周年記念コンピ2タイトルともども大好評ということで、その収録曲もすべてフィーチャーされたスペシャル企画「Free Soul 30th Anniversary」。30年間“Groovy & Mellow Lifestyle”を共に歩んでくれた、思い入れ強く思い出深い名作の数々を、この機会にとことんお楽しみください。「Free Soulが人気を博した時代背景やその本質と功績を解き明かした柴崎祐二による橋本徹インタヴュー」や「Suburbia黎明期からFree Soul前夜にフォーカスしながら90年代の東京の熱気と輝きに迫った橋本徹×高橋晋一郎の対談」も、とても充実した内容ですので、ぜひお読みいただければ嬉しいです。
その他の時間帯は、夕暮れにチルアウトしながら心地よい風を感じるようなとっておきの快適音楽を集めた、僕の最新コンピ『Sunset Chillout Breeze』や、25周年を迎えるカフェ・アプレミディと“音楽のある生活”をテーマに共同で家具やインテリア小物を開発・制作している、BAYCREW'Sのインテリア・ブランドACME Furnitureとのダブルネーム・コンピとして来月リリース予定の『Interior Music ~ Cafe Apres-midi meets ACME Furniture』に、厳選セレクトしている名品もまじえつつ、その90%以上は晩夏から初秋のニュー・アライヴァルのお気に入りを惜しげもなく投入して構成しました。
シングルなら締め切り待ったなしのタイミングでリリースされて、当日セレクションに加えたEddie Chacon feat. John Carroll Kirby「Empire」が印象深いですが、敢えて特筆したいのは、夏休みに2LPを手に入れて最も愛聴していた、カナダ・トロントの男性シンガー・ソングライターLuka Kuplowskyの『How Can I Possibly Sleep When There Is Music』。歴史上の世界各地の詩人にインスパイアされ、讃辞を贈るべく制作されたスピリチュアルなフォーク×ジャズ・アルバムで、とりわけライナー・マリア・リルケに捧げられたエンディング曲「Fugitive Song」は絶品です。
夏の終わりから秋の始まりにかけての新譜マイ・ベスト5をアーティストABC順に挙げるなら、どれも本当に素晴らしいMagalí Datzira〜Mustafa〜Nala Sinephro〜Scott Orr〜Tiganá Santanaとなるでしょうか。今回のセレクションで活躍してくれた計60作(いずれも3曲以上エントリー)のジャケットを掲載しておきますので、その中身にも触れてみていただけたらと思います。
V.A.『Interior Music ~ Cafe Apres-midi meets ACME Furniture』
V.A.『Sunset Chillout Breeze』
V.A.『Legendary Free Soul ~ Supreme』
V.A.『Legendary Free Soul ~ Premium』
Luka Kuplowsky & The Ryōkan Band『How Can I Possibly Sleep When There Is Music』
Magalí Datzira『La Salut I La Bellesa』
Mustafa『Dunya』
Nala Sinephro『Endlessness』
Scott Orr『Miracle Body』
Tiganá Santana『Caçada Noturna』
Andrea Superstein『Oh Mother』
Andrew Bird & Madison Cunningham『Cunningham Bird』
batata boy『pode ligar (foi bom com vc)』
Becca Stevens『Maple To Paper』
Cesar Precio『La Suite Logique Des Choses』
Claude Fontaine『La Mer』
Delia Fischer『Delia Fischer: Beyond Bossa』
Demae『Deliver Me』
doohickey cubicle『Super Smeller』
Ezra Collective『Dance, No One's Watching』
Fairground Attraction『Beautiful Happening』
Fousheé『Pointy Heights』
Frankie June『Songs I Wrote On My Period』
Galliano『Halfway Somewhere』
h. pruz『No Glory』
Hayden Pedigo『Live In Amarillo, Texas』
Jaubi『A Sound Heart』
Jonah Yano『Jonah Yano & The Heavy Loop』
Juana Luna『Canciones En Blanco Y Negro』
Kate Bollinger『Songs From A Thousand Frames Of Mind』
Kolumbo『Sandy Legs』
Lady Blackbird『Slang Spirituals』
Late Bloomers & Omega Nova『Late Bloomers & Omega Nova』
Lucia Fumero『Folklore I』
Lynda Dawn『11th Hour』
Marcos Valle『Túnel Acústico』
Marquis Hill『Composers Collective: Beyond The Jukebox』
Masayoshi Fujita『Migratory』
Masok『challenge accepted』
Mericia『PAPA GOIABA』
Michael Benedikt『We All Belong To Someone』
MICHELLE『Songs About You Specifically』
Narkis Raam『אחיזה אחרת』
National Aliens (Frederico Heliodoro & Leonardo Marques) 『Broadcast 1.』
Natty Reeves『Mist Over Water』
Nicolas Geraldi『Em Outro Lugar Do Céu』
Nicole Mitchell & Ballaké Sissoko『Bamako*Chicago Sound System』
Nubya Garcia『Odyssey』
Orion Sun『Orion』
Pearl & The Oysters『Planet Pearl』
Peel Dream Magazine『Rose Main Reading Room』
POSY『The Garden』
REBBY『note to self』
Samara Joy『Portrait』
The Softies『The Bed I Made』
Sonic Løland『Lightning Strikes The Bride』
Sreya & Cilon『Atenção com Coração』
Tristan de Liège『Searching』
Yasmin Williams『Acadia』
Zé Manoel『CORAL』
ドジャースの大谷翔平選手のセンセーショナルな記録達成日だった日本時間9/20にリリースされた、派手さとは対照的で、とても晩秋らしいなと思った作品。Orion Sunの『Orion』は、深まる秋や冬に近づく頃の人々に寄り添うかのような、どこかフォーキーに感じる切なげなニュー・アルバム。ジャケットのアートワークが不思議で、どんなメッセージが込められているのかは私には読み取れないが、LPやカセットでもリリースされたので、ぜひ自宅でも聴いてみてください。
Orion Sun『Orion』
ウガンダにルーツを持つイギリス人フォーク・アー ティスト。穏やかなメロディーが際立つタイトル曲「King Of Misery」は即ダウンロードして選曲、今年のはじめにLPが到着してからは毎夜欠かさず渋谷・Bar Musicでもプレイしてきた新たなる定盤。いよいよ秋深まるこの時期にこそ、よりフィットするはずです。本セレクションには特に気に入っているB面から「Annihilation」と、深夜帯に「I Am Grateful For My Friends」をそっと置いておきましたが、ジェイムス・ブレイクばりの強力な低音が鳴る「Hymn」(すでに夏季にお届けしました)こそがこのアルバムの肝だとも思っています。ぜひ大きな音で鳴らしてみてください。
Daudi Matsiko『The King Of Misery』
Dinner-time 月曜日18:00~24:00
Cafe Apres-minuit 火曜日0:00~2:00
前作『Urban Driftwood』が素晴らしい出来だったヴァージニア州出身のギタリスト、Yasmin Williamsのニュー・アルバムから先行でリリースされた「Virga」をピックアップ。美しいハープ・ギターの音色が広大な地平線を想わせる、どこまでも美しい秋空に染みわたる一枚です。
Yasmin Williams『Acadia』
Scott Orr『Miracle Body』
Michael Scott Dawson『The Tinnitus Chorus』
Peel Dream Magazine『Rose Main Reading Room』
MEROPE『Vėjula』
Orlas『Viver O Mar』
Thauan Darwin『Vozes Cantando Sobre Meu Amor』
PLUMA『Não Leve a Mal』
Sreya & Cilon『Atenção com Coração』
Pale Jay『Low End Love Songs』
Thee Marloes『Perak』
Private Joy『Desire!』
Amaria『Free Fallin'』
Lynda Dawn『11th Hour』
Demae『Deliver Me』
Lee Clarke『Lunar Retreat』
Kinkajous『Nothing Will Disappear』
Tristan de Liège『Searching』
Jaubi『A Sound Heart』
Andy Hay『Polaris』
Big Bend『Last Circle In A Slowdown』
Jackson Mico Milas「Nest/Temple』
Luke Sanger『Dew Point Harmonics』
Nala Sinephro『Endlessness』
YAI『Sky Time』
Masayoshi Fujita『Migratory』
Olli Aarni『Kuvioita』
Ulla & Perila『Jazz Plates』
Dinner-time 火曜日18:00~24:00
Cafe Apres-minuit 水曜日0:00~2:00
今日はイタリアの歌い手について書きましょうか。
涼しい夕暮れにどこからともなく漂う、揚げニンニクの芳薫。馬肥ゆる季節にはたまらなく刺激的なシチュエーションですが、このような「そそる」薫りには、どこかしら懐かしさを秘めながら、記憶回路まで直球で攻めてくる強さがあります。これって人の声にも通じるところがありまして、(私の独断ですが)やはりイタリア系のヴォーカリストが「揚げニンニク」である割合が高いと存じます。つまり「揚げニンニクの薫り=母性」と強引にストーリーを持ってゆきますが、これは女性ヴォーカリストに限ったハナシではなく、例えばジョー・バルビエリやエマヌエル・ベローニなどの男性ヴォーカリストの「人たらし」な声のキャラクターに見えかくれする深部こそ揚げニンニクですし、マヌエラ・シウナのようなヴェテランになりますと存在自体がイタリアの母そのもの、という気がいたします。
その反面、今回ご紹介するオリヴィア・フォスキはイタリア人でありながら揚げニンニクの芳薫は希薄なのですが、そんなに高級な品種ではないが農家搾りたてのオリーヴ油のようなディープな個性に一縷の雑味、苦味とか辛さを内包しておりまして、ただジューシーなだけでない点がイタリア人らしい個性を感じさせます。近い将来ニンニクを加えられ芳薫を漂わせること必至ですが、その前に彼女の「ひと垂らし」の旨味を味わってみてください。
Olivia Foschi『A Window Within』
Dinner-time 水曜日18:00~24:00
Cafe Apres-minuit 木曜日0:00~2:00
「シックであること」がこの秋の選曲テーマ。
時代の振り子が「シック」とは正反対の「映え」のところにしぶとく居着いて久しいからこそ、まずは耳から。静かなるレジスタンス。
Charlie Parker『Charlie Parker With Strings』
Dinner-time 木曜日18:00~24:00
Cafe Apres-minuit 金曜日0:00~2:00
15年前の2009年9月に丸の内・Cotton Clubで橋本さんとご一緒したメイズのライヴが忘れられません。
DJの師匠が行った1994年の札幌・キングムーでのライヴが最高だった話を聞いており、本国アメリカではアリーナ・クラスの会場か音楽フェスのトリでしか観られないほど人気なため、日本で観ることはできないと諦めていただけに、奇跡の来日、喜びもひとしおでした。
1セットだけだったので、あっという間でしたが、ものすごい至近距離で堪能でき、隣のボックス・シートはおそらくメイズ関係者だと思いつつ、褐色の女性と何度も目が合い、盛り上がった曲の終わりにハイタッチしていたら、取り巻きの男性からメイズのポストカードをいただいたので、あの女性はフランキー・ビヴァリーの娘だったんじゃないかと信じています! ブロークン・イングリッシュじゃなきゃナンパしたかったくらいです(笑)。
終演後、隣の隣のボックス・シートに久保田利伸さんが。橋本さんがご挨拶した後に、ちゃっかり僕もご挨拶させてもらったことも良い思い出です。
今年9月に逝去されたフランキー・ビヴァリーを悼み、心からご冥福をお祈りいたします。
Maze featuring Frankie Beverly『Silky Soul』
今回、紹介させていただくのは、先頃、ここ日本でもファースト・アルバム『Empty Hands』がリリースされたカナダのシンガー・ソングライター、Kingo Hallaの新曲2曲。1曲は88JETZとの共作で、もう1曲が今後リリースされる予定のEPからの先行シングル。どちらの曲も彼の持ち味であるヴィンテージ感あふれるサウンドとファルセット・ヴォイスが素晴らしい。いろいろな方がプッシュしているが、本当に将来が楽しみなアーティストだ。チェックしていない方はぜひ聴いてみてもらいたい。
88JETZ & Kingo Halla「Tidal Waves」
Kingo Halla「Concrete」
真夏の全国フェスから秋も変わらず音楽イヴェントが続く中、そんなときに2000年以降に生まれた音楽ファンの方々とお話する機会がたくさんありました。
20世紀の音楽の話をする際、いろいろなキーワードが登場しますが、特に「スウェディッシュ・ポップ」は、あまり浸透していない様子で。
もちろん「私は知っている!」という方もいらっしゃるとは思いますが...…。
ネオアコ〜ギター・ポップという日本独自の視点は、90年代の偉大なるジャンルおよび思考である「サバービア」ほどのマクロな視点でのワールドワイドな範囲ではありませんが、イギリス・アメリカを中心とするバンド・サウンドで、アコースティックでメロディックでソフトなポップスの自主レーベル発信の音楽。
今考えれば、ウェブなどない時代に、リリースしていたレーベルやレコード屋、英国/米国音楽などのファンジンなど素晴らしい音楽愛の発信で、私に届いていたのであります。
そんな中、デンマークでもノルウェイでもないスウェーデンのギター・ポップ、ネオアコのシーンの音楽。
個人的には、Ray Wonder、Seashells、Lesliesがゴツゴツザラザラしてメロディーも切なくて好きでしたが、共有できるバンドは、Eggstone、Cloudberry Jamそしてその後イギリスでもブレイクするThe Cardigans。
そんな頃に、サバービアやフリー・ソウルが登場、そしてフリッパーズ・ギターの二人がソロでリリースしたり、もう頭の中は音楽のことでいっぱいでした……。
そんなことを考えながら、選曲しました。そんな視点を通過した新譜を含む私なりのネオ・サバービア・スイート・セレクション。
ぜひ選曲リストも眺めながらじっくりお酒をお楽しみください。
あの頃の淡い思い出がよみがえるはず。
そして音楽は素晴らしく、進みつつ回想しつつ名曲がいまだに生まれているのであります。
そんな中、NYブルックリン出身As For The Futureのアルバムは、90年代というかスウェディッシュすぎて笑えません……。
Cloudberry Jam『The Art Of Being Cool』
As For The Future『As For The Future』
Dinner-time 金曜日22:00~24:00
Cafe Apres-minuit 土曜日0:00~2:00
高く澄みわたる空と、爽やかな秋風が心地よいこの季節。深まりゆく秋の街並みや黄金色に染まる美しい風景をイメージしながら、シンガー・ソングライターや、ジャズ・ワルツ、女性ジャズ・ヴォーカルなど、ゆったりと寛げるような柔らかなアコースティック・サウンドを中心にセレクトしました。今回ピックアップするのは、ブラジル人SSW、Paul Bryanが1973年にリリースしたアルバム『Listen Of』。アコースティック・ギターを主軸としたバンド編成で、優美で伸びやかなオーケストレイションや、甘美なノスタルジアを感じさせる口笛の音色、メロウ&ソウルフルなエレピなど、アルバム全体を通して味わい深くも色鮮やかでドラマティックなサウンドに仕上がっています。今回このアルバムの中から「So Long」と「Listen」の2曲をセレクトしました。素朴でどこか切なさを帯びたヴォーカルと、胸を締めつけるような美しく洗練されたメロディーが、深まりゆく秋の風景にしっとりと馴染みます。
Paul Bryan『Listen Of』
暑い終わらない夏が続くなか、さすがに今年は秋を感じる曲を探し求めて、多くの素晴らしい曲とめぐり合い、それらをメインに選曲しています。
その中でも特におすすめは、水のようにゆっくりと流れる音の中を泳いでいるように心地のよいNala Sinephro『Endlessness』や、ゆったりと響くベースと美しいピアノに心安らぐBremer/McCoy『Kosmos』、メロウなグルーヴと優しいメロディーが心に染みるUyama Hiroto『Breath Of Love』、激しさの中にもクールな静けさと哀愁を感じるOrlas『Viver O Mar』、しっとりとしたフォーキー・サウンドに切ないメロディーがささるTiny Habits『All For Something』、身体の奥からゆっくりと静かな興奮が湧き上がるCorker Conboy「In Light Of That Learnt Later (Purelink Remix)」やBaba Stiltz「Stockholm (DJ Python Remix)」もインタールード的に差し込んでいます。
秋の夜長にじっくりとはまる、これらのアルバムにもぜひ耳を傾けてみてください。
Nala Sinephro『Endlessness』
Thembi Dunjana『God Bless iKapa. God Bless Mzantsi.』
Jia*『Yes, No Question』
Phil Smith『Tagebuch』
Tiny Habits『All For Something』
Bremer/McCoy『Kosmos』
Corker Conboy「In Light Of That Learnt Later (Purelink Remix)」
Orlas『Viver O Mar』
Wee『You Can Fly On My Aeroplane』
Chance The Rapper「3333」
Pearl & The Oysters『Planet Pearl』
Almost Twins『Hands / Trees』
batata boy「tudo pra agora」
Baba Stiltz「Stockholm (DJ Python Remix)」
Graham Steinman「horizon found me」
Uyama Hiroto『Breath Of Love』
2024年秋選曲からは、ここ最近特に新譜の中でもかなりの高確率で好リリースに出会えるフリー・ソウル系リヴァイヴァル作品の中から、注目株のThee Sacred Soulsの最新アルバムより、マーヴィン・ゲイのへのオマージュあふれる「Live For You」を紹介します。後で知りましたが、何とこのバンドの前作が全世界で1,000万ダウンロードを超えたとのことで、これらのテイストの音楽が、今も現在進行形で聴きたい音楽のトレンドとして、多くの人に求められていることが証明されたようで、何とも嬉しい限りです。後半には、そんなフリー・ソウルへのリスペクトと30年分の想いを込めて、最近出会った好トラックを10曲続けて選びましたので、併せてお愉しみください。
Thee Sacred Souls『Got A Story To Tell』
スウィーテスト・オータム。やわらかなリズムに甘い歌声が重なるさまは、まるで通りの木々の葉が色づくかのよう。ポルトガルのプロデューサーKunukuによるデビュー・アルバムに収められた、Mosaïqをフィーチャーした「Tired」のメロウなサウンドは、グラデーションを描くようにスペインのCarlos Abrilの「Hearts By The Hand」へとまろやかに美しくつながる。
Kunuku『Graça』
私事で申し訳ないのですが、先日まで入院しており前回の初秋コメントを書くことができずご迷惑をおかけしました。20日間ほど入院していたのですが、緊急入院ということもあって、入院の準備が何もできず、(集中治療室生活も長かったので)入院中はほぼスマホを使うことがなく、久しぶりに長期間ネット環境に触れることなく過ごしておりました。最初の2週間はほぼ絶食でしたので、食に関する楽しさもなく、唯一の楽しみは一般病棟に移ってからのTVで観るMLBでの大谷選手の活躍だけでしたが、退院するなり祝砲を上げてくれているかのように1試合で6打数6安打3本塁打、2盗塁、10打点という記録的な成績でMLB史上初の「50本塁打ー50盗塁」を達成してくれたのでした(笑)。
さて秋選曲ですが、こちらも締め切りが退院前だったので、納品が遅れたことにより編集作業に支障をきたし、多くの方にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
しかし今回は、自分に降りかかった数々のトラブルに反し、爽やか度満点の秋風の柔らかな響きを感じる選曲ができあがりました(笑)。それを如実に表す1曲が今回のトップバッターに起用されたニューヨークで活動する女性アーティスト、Vitesse Xのニュー・シングル「Careless」です。この作品はWild NothingのJack Tatumが共同プロデュースし演奏にも参加した楽曲で、青春のネオ・アコースティックを感じる素晴らしい作品です。それに続くオハイオ州シンシナティ出身の女性アーティスト、Dyanの「Midwest」もイントロから秋風を感じる素敵な作品で、その優しい風の流れを引き継ぐようにカナダの男性アーティスト、Stevie Zitaの音楽プロジェクトPhantom Sugarの「Never Alone」や、オーストラリアはメルボルンの男性アーティスト、Aaron Joseph Russoの「Velvet」、イギリスで活動する男性アーティストAabergの「NU」が流れます。ディナータイム前半、他にはデビューしてもう8年が経つという事実に時の流れの速さを感じるHazel Englishの新曲「Hamilton」や、本多くんも絶賛していたTeen Dazeの新曲「Neighbourhood」なども爽快感のある作品ですね。
ディナータイム後半はユタ州パークシティーを拠点に活動する男性アーティスト、Öslaの新曲「Grad School」をピックアップしてスタート。それに続くのはベルリン出身の女性アーティスト、Alice Phoebe Louの煌びやかなギターの音色がこれまた青春のネオアコを強く感じる「The World Above」。そして同じくベルリンの女性アーティスト、World Brainのミニマムでチープなシンセ音に被さる虫の音や小鳥のさえずりが心地よい「Minute papillon」へバトンタッチ。他には、オーストラリアはシドニーの男性アーティスト、Jermango Dreamingの「Project 62」や、ロンドンで活動する男性アーティスト、Caribouの「Volume」といったダンス・ナンバーもセレクト。Caribouの「Volume」でサンプリングされているのは言わずもがなの1987年ビッグ・ヒット・ナンバー、MARRS「Pump Up The Volume」ですね。
ミッドナイトからの選曲は、しっとりとしたアコースティックな響きがタイトルに偽りなしの白日夢なまどろみ感をもたらすオーストラリアの5人組バンドDucklakeの「Daydream」をピックアップしてスタート。それに続きドリーミーな響きを放つカナダの女性アーティスト、Daniela Andradeの「Biking」や、黒人の男性アーティストながら女性が歌っていると錯覚してしまったLove Spellsの「Lie」、カリフォルニアの男性アーティストTeenage Priestの、「嫌いな街なのに逃れられない……」と切なく歌われる「Die In LA」などをセレクト。切なさを感じると言えば、女優としても輝かしい活動をする女性アーティスト、Addison Raeの「Diet Pepsi」や、どこかJesus & Mary Chain「Just Like Honey」を彷彿とさせるオーストラリアはメルボルンのデュオGrazerの「Close To This」も素敵なナンバーですね。
そして夜も深まるミッドナイト後半は、シカゴの男性アーティスト、Blaséのベッドルーム・ポップ「No Other」や、ロサンゼルスの女性アーティスト、Jordanaの10月18日にリリースされるニュー・アルバム『Lively Premonition』収録曲で先行シングルとしてリリースされた「Anything For You」、同じくロサンゼルスで活動する男女デュオ、Brijeanの最新アルバム『Macro』収録曲「Counting Sheep」、ニューヨークの6人組、MICHELLEの9月にリリースされたニュー・アルバム『Songs About You Specifically』の冒頭を飾る「Mentos And Coke」、オレゴン州ポートランドの女性デュオ、Shady Coveの「Passenger」、イギリスはブリストルの5人組バンドPocket Sunのニュー・アルバム『Mirror In Blue Light』収録曲「Rip Tide」などをセレクト。どの作品も秋の夜長にぴったりな穏やかな風のようなナンバーです。
さて今回の映画にまつわるお話ですが、初秋コメントが書けなかった分、少し長めに語ってみましょう(笑)。まずはフランシス・フォード・コッポラ監督自身が1億2,000万ドル(約186億円)もの私財をかけて完成させ、ついに9月27日に北米で劇場公開された最新作『メガロポリス』が話題になっていますが、そのコッポラ監督が1969年に制作した傑作ロード・ムーヴィー『雨のなかの女』もついに海外でブルーレイ化されました。この作品の日本盤ソフトは以前オンデマンド(注文を受けてからDVD-Rでプレスして発送)のみでTSUTAYAからDVDが発売されましたが、そのソフトは現在ではかなりのプレミア商品となっています。しかしプレミア価格の作品ですが、収録されていた映像はそれ以前にVHSで販売されていたソフトを基にしたものではないかと思われる画質で、それを裏づけるかのように字幕が焼きつけでオン・オフができないものでした。アメリカでリリースされていたDVDも確認したことがありますが、日本盤ソフトとあまり変わらない画質でしたね。そして今回待望のブルーレイが発売されたとの情報を知り速攻で入手したのですが、なぜか中国盤のみのリリースで、しかもディスクがプレス盤ではなくBD-Rとのこと。もしかして「海賊盤か?」との思いが頭をよぎり、商品が届くまで少し不安でした。しかし届いた商品をプレイヤーに入れ、映像を確認して興奮しました。目の前のモニターには夢にまで見たこの作品の高画質映像が映し出されたのです。映像の終わりには、ちゃんとフランシス・フォード・コッポラとジョージ・ルーカスが設立した映画製作スタジオ「アメリカン・ゾエトロープ」社とワーナーブラザーズによる共同レストアとのクレジットもありました。「海賊盤か?」と疑った自分が恥ずかしくなりましたが、改めてパッケージを見ると今まで観たことがないこの作品の予告編が特典映像として収録とあり、またしても興奮しました。しかし特典映像は何も入っていませんでした……(泣)。
そしてもうひとつ映画の話を。昨年の秋の選曲コメントでチョウ・ユンファ主演の1987年制作の秋をテーマにした香港映画『誰かがあなたを愛してる』(英題 : An Autumn's Tale)について書き、そこでVHSだけに存在する日本語吹き替え版のことに触れました。その時点ではそのレアな日本語吹き替え版を鑑賞したことがなかったのですが、今年になってやっとそのソフトを入手して吹き替え版を鑑賞することができました。吹き替え版の感想ですが、これが期待を上まわる出来で、その理由としてチョウ・ユンファを大塚芳忠、相手役のチェリー・チェンを戸田恵子というVHS版では珍しい豪華声優陣が担当していたからなんですね。チョウ・ユンファがアクションから離れ、珍しく三枚目の男性を演じたこのほろ苦い恋愛映画の吹き替え版は、この豪華な声優陣のおかげでとても魅力的なものになっていました。そして最近同じくチョウ・ユンファとチェリー・チェンが共演し、これもVHSでしか存在しない『いつの日かこの愛を』という作品の吹き替え版を入手したのですが、なんとこちらもチョウ・ユンファの声を声優界のレジェンドのひとり、津嘉山正種が担当しておりビックリしました。さらに驚いたのが映画のエンディング、車の中でチョウ・ユンファがチェリー・チェンにかける言葉が、「元気出せよ、カー・レースでもするか?」という二人が結ばれたかどうかわからない謎めいたセリフがオリジナルの広東語版なのに対し、日本語吹き替え版は「どうしたんだ? これからは一緒だ」というハッピーエンドになっていたことでした。これはファンの方々には「まかしとき~」で有名な映画『ゾンビ』の「サスペリア版」と同じパターンじゃないですか(笑)。勝手にハッピーエンドにしてしまうのはいかがなものかと言われそうですが、『ゾンビ』の「サスペリア版」同様にこれはこれでありだと思いました(笑)。
Vitesse X「Careless」
Dyan「Midwest」
Phantom Sugar「Never Alone」
Aaron Joseph Russo「Velvet」
Aaberg『Wishing Well』
Hazel English『Real Life』
Teen Daze「Neighbourhood」
Ösla「Grad School」
Alice Phoebe Lou「The World Above」
World Brain『Open Source』
Jermango Dreaming「Project 62」
Caribou「Volume」
Ducklake「Daydream」
Daniela Andrade「Biking」
Love Spells「Lie」
Teenage Priest「Die In LA」
Addison Rae「Diet Pepsi」
Grazer「Close To This」
Blasé「No Other」
Jordana『Lively Premonition』
Brijean『Macro』
MICHELLE『Songs About You Specifically』
Shady Cove「Passenger」
Pocket Sun『Mirror In Blue Light』
Dinner-time 日曜日22:00~24:00
Cafe Apres-minuit 月曜日0:00~2:00
長い残暑でした。前回のコメントで「残暑も落ちつき」なんて書いてしまいましたが、実は10月に入ってからも衣替えができなかったのが現実です。とはいえ、さすがに10月です。やっと長袖シャツの出番で、ちょっとした羽織ものも必要になる気温になりました。ですので、ドリンクもアイスからホットへ変わるのを意識して、僕の担当するランチタイム~ティータイムの選曲は、ぐっと秋らしい雰囲気にしようと、ジャズを中心としたラインナップを組んでみました。そんな中、特に気に入って、個人的にも最近よく聴いているのが、スウェーデンのヴォーカリスト、エレン・アンダーソンがProphoneレーベルに吹き込んだビル・エヴァンス集より、「My Bells」と「Children's Play Song」のメドレー・カヴァーです。心地よく揺れるワルツ・リズムと、舌足らずのキュートな歌声が相性抜群で、美味しい秋の食材を囲んだパーティーのBGMにも似合うかもしれません。優しい笑顔があふれる、そんな素敵な音楽です。
Ellen Andersson『Impressions Of Evans』
Lunch-time~Tea-time 月曜日12:00~16:00
今年のEarly Summer Selectionでファースト・シングルの「Amanhecer」を使わせてもらっていたスイス・チューリッヒの男女デュオSreya & Cilon。その曲は、アンニュイな女性ヴォーカルを従えた初期アンテナなどクレプスキュール・レーベル的欧州産インディー・ボサが醸しだす気怠さのようなものが感じられ、ちょっとしたお気に入りでした。そんなSreya & Cilonから晩夏に届けられたデビュー・アルバムは、まさにそのテイストの延長にある多彩なナンバーが繰り広げられ、狂言まわし、というのもなんですが、秋の選曲にふさわしい心地よい翳りのある収録曲のほとんどを要所に配置して、アルバム全編フルに活用させていただきました。
以前も説明したことがあると思いますが、ここに掲載している8枚のジャケットは、毎回この4時間のセレクションを特徴づけている作品(季節的な雰囲気が感じられる絵柄も少し考慮して……)をピックアップして、時系列で並べたもの。今回、そんな自分に課したしばりからはなれて最後に並べた4枚は、陽が翳りはじめる頃合いの最後の4曲そのままと重なります。過去も現在も時間を超えてゆくかけがえのない秋の風景を、ここに少しでも感じてもらえたらと思って。
Sreya & Cilon『Atenção com Coração』
Haley Heynderickx『Seed Of A Seed』
Alan Hsiao「And If I'm Fine」
Homer『Ensatina』
Pete Jolly『Seasons』
Ichiko Aoba & Pomme「Seabed Eden (French Version)」
Tamao Koike『TAMAO - Yen Years Selection』
Nala Sinephro『Endlessness』
Lunch-time~Tea-time 火曜日12:00~16:00
今期は季節はずれの海、あるいは平日の公園や午後のリヴィング・ルームといった、ひとりで自分の時間を過ごしている光景をイメージしながら選曲しました。そのインスパイア・ソースであり、今回のベスト・アルバムでもあるのは、昨年リリースされたフレッド・アゲイン&ブライアン・イーノの『Secret Life』です。丘の上から夜景を見下ろしているジャケットが印象的ですよね。ブライアン・イーノ御大のつながりから知ったアルバムで、選曲時期に本当によく聴いていました。
先日遅まきながら鑑賞した映画『ジョン・レノン 失われた週末』も印象的でしたね。当時の秘書であったメイ・パンとのLA、そしてNYでの生活。ニルソンやフィル・スペクターとのハチャメチャなエピソードが強調されがちですが、ジョンなりに充実した時間を過ごしていたようです(特にNYに戻ってからは)。ちょうど『Walls And Bridges』が、前回特集した1974年作品です。一般的なジョンのファンからすると禁じ手かもしれませんが、僕はメロウな「Bless You」が大好きなんですよね。ケン・アッシャーのエレピが最高です。同年にはオノ・ヨーコも『Feeling The Space(邦題:空間の感触)』をリリースしていますね。ヨーコさんというと金切り声でスクリームしているというイメージが強いかもしれませんが、このアルバムは穏やかな曲調のものも多く、聴きやすいです。それこそ『Yoko Ono for Cafe Apres-midi』という気分で「Yellow Girl (Stand By For Life)」を選んでみました。歌詞はなかなかにフェミニズムなんですが、マリンバの入ったサウンドは“午後のコーヒー的なシアワセ”だと思います。
1974年特集の続編は、他にはジョニ・ミッチェル『Court And Spark』、ニック・デカロ『Italian Graffiti』ですね。ジョニはアーカイヴ集から「Just Like This Train」のライヴ・ヴァージョン、名曲揃いの『イタグラ』からは秋の午後に合いそうなスティーヴィー・ワンダー・カヴァー「Happier Than Morning Sun」をチョイスしました。来年は1975年、いよいよマリーナ・ショウ『Who Is This Bitch, Anyway?』、ボブ・ディラン『Blood On The Tracks』の登場です。
レオン・ミシェルズの手腕が冴えていたクレイロ、細野晴臣プロデュースの幻のアルバムが再発されたリンダ・キャリエール、28年ぶりの新譜となったガリアーノ、ジンジャー・ルート、レオン・トーマスなどなど、今期も素晴らしい作品がたくさんでしたね。Uyama Hirmtoの『Breath Of Love』も良かったです。ファラオ・サンダース~ジョン・コルトレーンを思わせるスピリチュアルなバラード・アルバムで、長く愛聴できそうですね。ソング・オブ・ザ・セレクションはルイス・ヨークの「Puppet Strings」ですかね。PJ・モートンのスティーヴィー・ライクな歌声は敵がないなあと改めて感じます。もちろん橋本徹さんのコンピレイション『Seaside Chillout Breeze』も忘れてはいけません。7インチも出たTAMTAMの「Sweet Cherry」は季節タイミング的にどうかな? とも思ったのですが、記録的な酷暑だった今年は、Autumn Selectionでも十分大丈夫……というか、人も少ない秋の海感がうまく演出できたように思います。
オープニング・クラシックはバッハの無伴奏チェロ・ソナタと並ぶベートーヴェンのチェロ・ソナタにしました。前者が旧約聖書なら、後者は新約聖書に例えられたりします。こちらもロストロポーヴィチ&リヒテルによる歴史的な名演ですね。チェロとピアノの音色で深まりゆく秋をお楽しみください。
Mstislav Rostropovich & Sviatoslav Richter『Beethoven: The Cello Sonatas』
Fred again.. & Brian Eno『Secret Life』
Ginger Root『SHINBANGUMI』
Louis York『Songs With Friends』
Leon Thomas III『MUTT』
Clairo『Charm』
Samara Joy『Portrait』
Nick DeCaro『Italian Graffiti』
Yoko Ono『Feeling The Space』
Gabriela『Gabriela』
Dora Morelenbaum『Pique』
Linda Carriere『Linda Carriere』
Galliano『Halfway Somewhere』
Sam Sanders & Visions『The Gift Of Love』
Uyama Hiroto『Breath Of Love』
V.A.『Seaside Chillout Breeze』