Voice of “usen for Cafe Apres-midi” Crew
2022 Autumn Selection(10月10日~11月30日)
橋本徹(SUBURBIA)を始めとする
「usen for Cafe Apres-midi」の選曲家17人が
それぞれのセレクトした音楽への思いを綴る
「Voice of “usen for Cafe Apres-midi” Crew」
詳しい放送内容はこちら
D-03 usen for Cafe Apres-midi
http://music.usen.com/channel/d03/
橋本徹(「usen for Cafe Apres-midi」プロデューサー) Toru Hashimoto
深まりゆく秋の街並みや、そこに描かれる心象風景を、素敵な音楽で色づかせることができたらと、心からの思いをこめて、今回もメロウ&グルーヴィーで心地よい楽曲を中心に、計34時間分を新たに選曲した。
月〜日を通してのTwilight-timeの特集は、前回に続き、僕が選んだ2022年上半期のベスト・トラック425曲(曲目リストはベスト・アルバム55作とともにこちらに掲載されています)をシャッフル・プレイ放送で。その中でもよくセレクトしていた選りすぐりの42曲を集めたダイジェスト・プレイリスト「2022 First Half Best Tracks 42/425 selected by Toru Hashimoto (SUBURBIA)」もSpotifyで聴けるので、ぜひお楽しみいただけたらと思う。
実は僕は9/6に左足首を骨折してしまい、スタジオに行けず渾身のリモート選曲だったこともあり、その他の時間帯の99%は、夏の終わりから秋の初めにかけてのニュー・アライヴァルのお気に入りを惜しげもなく投入した、100%全力セレクション。夜中から早朝に至るまで、いつも以上に丁寧に曲順を組めたので、日常に余裕のある方は、ぜひ通して聴いてみていただけたら嬉しい。
今期のNo.1アルバムを挙げるなら、活況を呈する現行シカゴ・ジャズの主役のひとり、敏腕ドラマーにして屈指のビート・サイエンティスト、マカヤ・マクレイヴンの『In These Times』だろうか。旧録音ながら、そのマカヤへの影響もうかがえる同じシカゴの名プロデューサー/アレンジャー、チャールズ・ステップニーの貴重な発掘音源集『Step On Step』や、やはり僕が愛してやまないブラジルの女性シンガー・ソングライター、ジョイスが1977年に名匠クラウス・オガーマンのプロデュースでNY録音するもお蔵入りになっていた、待望の一枚『Natureza』も推薦したい。
LAの名手ふたりによる肩の力の抜けたチルでソフト・サイケなアンビエント・ジャズが心地よいサム・ウィルクス&ジェイコブ・マン、カリブのリズムとラテン・ソウル〜ネオ・ソウル〜アフロ〜エキゾ〜フューチャー・ファンク〜ヒップホップが混ざり合うカラフルなビートの万華鏡のようなドミニカ出身NY拠点の気鋭プロデューサーKansado、洗練されたブラジリアン×ソフト・ロック×ライブラリー・ジャズ×映画音楽といったテイストでブラジルのSessaやロシアのKate NVとの共演も素晴らしいベラルーシのコレクティヴСОЮЗ(SOYUZ)あたりも、次点として特筆しておきたいが、セレクトする際に特に活躍してくれた24作のジャケット写真を掲載しておくので、その中身に触れていただくきっかけになればありがたい。
週末の深夜0時は、選曲期間中に訃報が届いたファラオ・サンダースを追悼して「Moon Child」。彼への思い入れは、簡単には語り尽くせないが、僕が精神的にいわゆる鬱気味の状態だった2010年前後、毎晩のようにこの曲を繰り返し聴いて救われた(心の安寧を保つことができた)。ご冥福をお祈りするとともに、心より感謝いたします。
Pharoah Sanders『Moon Child』
Charles Stepney『Step On Step』
Makaya McCraven『In These Times』
Sam Wilkes & Jacob Mann『Perform The Compositions Of Sam Wilkes & Jacob Mann』
Sudan Archives『Natural Brown Prom Queen』
Kansado『Guaguansoul』
Kenny Beats『Louie』
СОЮЗ (SOYUZ)『Force Of The Wind』
George Riley『Running In Waves』
Beth Orton『Weather Alive』
Alex Siegel『Courage』
Flanafi『Follow It Back』
Bitchin Bajas『Bajascillators』
Lou Turner『Microcosmos』
The Silver Panda『Freak Scene』
El Pájaro Pez『Latitú』
Pierre-Gérard Verny & Graffiti Groupe Vocal『Les demoiselles swinguent à Rochefort』
Emil Otto『Ain't Love A Beautiful Thing』
Yosef Gutman Levitt『Upside Down Mountain』
Nicolás Pauls『De Otros, 3』
Joyce『Natureza』
Beatriz Azevedo & Moreno Veloso feat. Jaques Morelenbaum & Marcelo Costa『Rede』
Maglore『V』
Asake『Mr. Money With The Vibe』
本多義明(「usen for Cafe Apres-midi」ディレクター) Yoshiaki Honda
「usen for Cafe Apres-midi」の2022 Autumn Selectionの選曲を行う中で、新作を聴きながら秋の佇まいを感じる曲を探していると、まったく知らないアーティストMark Whalen & Niko Bokosの『Hey How Are You, Good To See You!』に出会った。わずかに知ったアーティスト情報では、Mark Whalenがギター、ベース、ドラム、バッキング・ヴォーカルもこなすマルチ・プレイヤー、Niko Bokosがメイン・ヴォーカルのようで、現代の洗練されたソフト・ロックといったサウンドとハーモニーが秋のそよ風のように心地よい。都会的な雰囲気も好みなインディー・ポップです。
もう一枚、こちらも現代ソフト・ロックで70sなFonteyn『Trip The Light Fantasitic』も忘れてはならない。ようやくCDもリリースされたが、これはLPもCDも思わず手が伸びてしまいそうなほどの名盤の予感がするアルバム。SSWのFonteynは今後も大注目ですね。秋のティータイムや夜長に聴いてほしいおすすめの2枚でした。
Mark Whalen & Niko Bokos 『Hey How Are You, Good To See You!』
Fonteyn『Trip The Light Fantasitic』
中村智昭 Tomoaki Nakamura
2022年9月24日、敬愛するアメリカのジャズ・サックス奏者ファラオ・サンダースが天国へと向かいました。僕にとっては音楽の深渕とその楽しさを、美しいメロディーと唯一無二のブロウで教えてくれた恩人。今回のオータム・セレクションで真夜中にリスナーの皆さんと一緒に聴きたいのは、こうした音楽に夢中になり始めた頃に毎日のように繰り返していた「You’ve Got To Have Freedom」「The Creator Has A Master Plan」「Love Is Everywhere」といったクラシックではなく、1977年にIndia Navigationからリリースされた『Pharoah』収録の、20分にも及ぶ大作「Harvest Time」。一切の無駄を削ぎ落としたうえで圧倒的なオリジナリティーがあり、さらにここまで強固に完成された楽曲は他にちょっと思い当たらない真の名演、いや、あえて、"深の名演"とでも言うべきでしょうか。本当に、本当にありがとうと言いたい。安らかに。
Pharoah Sanders『Pharoah』
Dinner-time 月曜日18:00~24:00
Cafe Apres-minuit 火曜日0:00~2:00
添田和幸 Kazuyuki Soeta
アコースティックでメロウな響きを大切に、実り豊かな秋の風を思い描いて24枚選出。曲単位ではカリフォルニア州サンタモニカを中心に活動するシンガー・ソングライター、Alex Siegelの新作EPから「Charlie」を繰り返し聴いていました。秋の爽やかな風を運んでくれる心地よい一曲。今年の夏に本人から届けられたアナログ盤には、日本語で「ありがとう!」と書かれたメモ書きと、インナー・スリーヴにはちょっとした落書き?(笑)とサインがあって嬉しかったですね。
Alex Siegel『Courage』
Healing Potpourri『Paradise』
Charles Stepney『Step On Step』
Rodrigo Carazo『Tres interiores: Ep1. Subceleste』
Maglore『V』
Ardhito Pramono『Wijayakusuma』
Victoria Victoria & Charlie Hunter『To The Wayside』
Laufey『Everything I Know About Love』
Noah Richardson『Dead To Me』
Johanna Linnea Jakobsson『Alone Together』
Djavan『D』
Natália Matos『Sempre Que Chover, Lembra de Mim』
Claudia Masika『Rafiki』
Nomfundo Moh『Amagama』
Silly Walks Discotheque『Forward』
Cosmic Link『Metaphysical EP』
Akemi Fox『You're My Favourite Day』
George Riley『Running In Waves』
Moonga K.『IV』
Ohma『Between All Things』
cktrl『yield EP』
Lean Year『Sides』
Sofie Birch & Antonina Nowacka『Languoria』
Surya Botofasina『Everyone's Children』
Dinner-time 火曜日18:00~24:00
Cafe Apres-minuit 水曜日0:00~2:00
中上修作 Shusaku Nakagami
ジャズ・サックス奏者であり、シンガー・ソングライターとしても活躍するデンマークの才女、ヨハンナ・リネア・ヤコブソンのファースト・アルバムが届きました。自作曲はもちろん旧きドイツのスタンダード・ナンバーからビートルズまで自在に唄い、サックスをブロウする彼女のスタイルは「ダルファーに憧れたイモ姉ちゃん」のようになってしまう危うさを秘めていますが、洗練されたテクニックと爽やかなヴィジュアル、知的な編曲でまずその心配はなさそうです。まずは「She’s Leaving Home」の疾走するワルツタイムにのせてクールに歌いあげる、彼女のトリコになってしまってください。Amp Music & Recordsのアルバムはオーナーの美意識が統一されていて、2020年代を象徴する北欧ジャズのレーベルになりそう。
秋がきました。みなさまも御機嫌よくお過ごしください。
Johanna Linnea Jakobsson『Alone Together』
Dinner-time 水曜日18:00~24:00
Cafe Apres-minuit 木曜日0:00~2:00
高木慶太 Keita Takagi
秋の夜長とメロウ・ソウルの相性の良さには抗えず、一年で最も琥珀色なラインナップになるのがこのオータム・セレクション。コク旨一辺倒になるのも芸がないと思い、スッと忍ばせたシールやトニー・リッチが隠し味。
The Tony Rich Project『Words』
Dinner-time 木曜日18:00~24:00
Cafe Apres-minuit 金曜日0:00~2:00
FAT MASA
このアルバムは1994年リリース『Amizade』から2曲リミックスされ、Mondo Grossoがリミックスした「Skindo-Le-Le」も収録されたEPですが、今回セレクトした「More And More〜Latino Mixture」はSadeの楽曲に似た落ち着いた雰囲気で、楽曲はイヴァン・リンス作曲でデュエットまでされております。当時背伸びして高校時代にバンドでコピーした思い入れがある曲で、校内で一番歌が上手い同級生を起用して、ドラムとデュエットの男性ヴォーカルは私が担当しました(笑)。
リミキサーの黒羽康司は、Mondo Grosso、Kyoto Jazz Massive、Cosmic Villageなどで活躍したプログラマー、キーボーディスト、編曲家。
別テイクでは、ブラジリアン・フュージョンのアレンジで、こちらはクラブ・イヴェントで重宝しました。
ちなみにアルバム・タイトル曲の「Chameleon」はDJ Krushが担当していて、内容充実で当時からアナログ盤リリースが期待された一枚であります。
ビクターの方、何とぞアナログ・リリースお願いいたします!
阿川泰子『Chameleon (RE-MIX)』
三谷昌平 Shohei Mitani
秋になると聴きたくなるアーティスト。僕にとって、そんなアーティストの一人がマシュー・ハルソールだ。マンチェスターを拠点に活動するトランペット奏者で、2009年の『Colour Yes』で初めて彼のサウンドを聴いて以降ずっと追い続けているから、その付き合いは13年以上にもなる。そんな彼がこの夏、最新EP『The Temple Within』を届けてくれた。本作は2020年に発表されたフル・アルバム『Salute To The Sun』 の後、イングランド北部で地元ミュージシャンを起用し行われたセッションをベースに制作されたもので、タイトル曲「The Temple Within」はアリス・コルトレーンの言葉(本当の神殿は建物ではなく、自分の中にある)から取ったものだそうだ。今回のオータム・セレクションでは本曲をオープニングに配し、先日お亡くなりになったテナー・サックス奏者、ファラオ・サンダースとも親交の深いヴォーカリスト、ドゥワイト・トリブルがハルソールを迎えたナンバー「What The World Needs Now Is Love」(2017年作『Inspirations』収録)に繋げた。スピリチュアルな雰囲気で始まる本セレクション、皆様にぜひ聴いていただきたいと思う。
Matthew Halsall『The Temple Within』
Dwight Trible with Matthew Halsall『Inspirations』
渡辺裕介 Yusuke Watanabe
夏と秋の変わり目の台風が過ぎ去ったあと懐かしい感覚の秋を体感できるような涼しさと肌寒さ。
こうやって季節を感じながら選曲できる喜びを噛みしめながら深い秋の夜選曲を今年も無事終了。
あらゆる国の音楽を聴きまわりながら日々過ごしていると「えっ、そんなアルバムでてたんや」の衝撃が多々。
今さらな作品もあるかもしれませんが、独自な感覚で選び抜いていく感覚と同時に運命的な出逢いを大切に選び抜いた深秋金曜夜。
Bobby Caldwellが「風のシルエット~What You Won't Do For Love (After Dark)」をジャズ・ビッグ・バンドを率いて歌う優雅な空間からスタートします。2000年リリースの深みを増したドイツのサバービアンManfred Krugが歌う「Copacabana」の渋すぎるボサノヴァ・ヴァージョンから、90年代にわくわくしながら、財布と相談しながら、デート代を浮かしながら買ったサバービアなジャズやソウルのレコードをあらためて選曲。眠らせてしまっていた名曲を蘇らせる難しさなど考えることもなく、名曲は不思議とどんな時代にも違和感なく蘇るんだということに気づかされました。
まったく知らなかった昨年リリースされていたPrimal Screamの未発表曲集『Demodelica』は、青春の一曲「Come Together」のStudio Monitor Mixの素晴らしさよ。上げすぎず下げすぎず心地よい繊細な素晴らしいヴァージョン。
と、知らなかったリリースものにも翻弄されながら、また新たな音楽の出会いを求めて旅立つのでありました。
Bobby Caldwell『After Dark』
Manfred Krug『Schlafstörung』
Primal Scream『Demodelica』
Dinner-time 金曜日22:00~24:00
Cafe Apres-minuit 土曜日0:00~2:00
富永珠梨 Juri Tominaga
イスラエルのSSW、Aviv PeckのデビューEP『אוסף ראשון』が夢のように素晴らしく、Chris Brain『Bound To Rise』に続いて、2022年のマイ・ベストと言いきってしまいたくなるような傑作です。イノセントな透明感をたたえながらも、ときに力強く、ときに母性的なふくよかさも感じさせる、しみじみと味わい深いその歌声は、聴けば聴くほど心に残ります。全6曲のEP盤ですが、歌声同様、様々な表情を持つ、きらめきに満ちた名曲の数々が収められています。弦楽四重奏や管楽器、アコースティック・ギターやエレピなど、ジャンルや形式などにとらわれず、楽曲ごとに軽やかに伸びやかに演奏されているような印象を受けました。それでいて綿密で重厚なアレンジが施されているので、ジャズを基調としながらも、アルゼンチンのネオ・フォルクローレのようなナチュラルでアコースティックな瑞々しい楽曲や、現代的で最高にキャッチーな極上のポップス、ブルージーなギター・ソロが印象的なグッとくるナンバーなど、彼女の類稀なる才能と豊かな音楽性を十二分に味わえる、ほんとうに素晴らしい作品です。今回選曲した「כמה קשה」は、牧歌的でどこか切ないメロディーが、美しい秋の風景によく似合う名曲です。
Aviv Peck『אוסף ראשון』
小林恭 Takashi Kobayashi
すっかり秋の気配が深まり、快適な季節になりました。それに合わせて選曲もしっとり穏やかな曲が増える中、新譜を中心にメロウで軽快な曲を織り交ぜて構成しています。
まずは、Sam Wilkes & Jacob Mannのアルバムから。選曲した「Siri, How Do I Know If I Have Commitment Issues?」は二人の個性が表れたジャジーでメロウ、アンビエントなサウンド。独自の即興性とインテリジェンスの融合が素晴らしいアルバムは、秋の夜長に似合う素晴らしい内容で、早くレコードで聴きたいです。
そして、先日ホームタウンの吉祥寺で素敵なライヴを披露してくれたSen Morimoto。セカンド・アルバムは聴いていたのですが、ライヴを観てからハマってしまった「Symbols, Tokens」を選曲しました。ジャズ、ヒップホップ、ポスト・ロックなどが融合し、ジャンルから解放された自由奔放なサウンドは、秋に聴くのが心地よく感じられます。
みなさまもぜひ耳を傾けてみてください。
Sam Wilkes & Jacob Mann『Perform The Compositions Of Sam Wilkes & Jacob Mann』
haruka nakamura『Light Years』
Dal「Control」
Jasmine Myra『Horizons』
Allison Wheeler『Winterspring』
Chrystelle Alour『Un arbre sur la lune (Chrystelle Alour chante pour les enfants)』
KingKlavé『KingKlavé』
Cruel Santino『Subaru Boys : FINAL HEAVEN』
Grimm Lynn『Sweet Heat』
J.Lamotta Suzume『ככה שמעתי』
Marxist Love Disco Ensemble『MLDE』
Sen Morimoto『Sen Morimoto』
ヒロチカーノ hirochikano
2022年もあっという間に時が過ぎ去り、今シーズンも最後のレギュラー選曲ということで、ここまでストックしておいた“Saudosismo”を感じるナンバーを中心にお贈りします。そんな中から、一度聴いたらきっと忘れられない名曲として紹介したいのがLaufeyの「Beautiful Stranger」。まるで名画の中の回想シーンのように、美しさと切なさが交錯する情感が浮かんでくるその奇跡のメロディーと唄声に、誰もが心を奪われることでしょう。
Laufey『Everything I Know About Love』
吉本宏 Hiroshi Yoshimoto
スロウなビートとまろやかなベース・ラインにメロウな歌声が重なると、都会の夜景を潤ませるようなドリーミーな空気が漂う。かつて、オランダのアムステルダムで一緒にバンドを結成していたこともあるシンガーのYana Liza WattimenaとプロデューサーKunukuことOlivier de Jongは、新たなプロジェクトとして、Yana Liza & Kunukuでのデビュー・シングル「The Dreamer」をリリース。続くセカンド・シングル「Fearless Mind」では、さらにソウルフルな歌を聴かせる。
Yana Liza & Kunuku「The Dreamer」
高橋孝治 Koji Takahashi
もう秋です。秋と言えば芥川龍之介の作品の中に『秋』という短編小説があります。これは幼馴染の従兄をめぐる姉と妹の三角関係の愛と葛藤を描いた物語ですが、愛と葛藤の三角関係を描いた作品としては、1970年に制作され日本でも大ヒットを記録したイタリア映画、『ひまわり』があります。この映画が撮影された場所というのが、ウクライナ中部にあるチャルネーチー・ヤール村です。ロシアによるウクライナ侵攻が続いている中、今再びこの作品が注目され、全国各地で再上映されました。スクリーンに映し出された広大な土地に広がるひまわり畑は、この地に眠る無数の兵士や市民たちの墓標です。実は撮影場所がウクライナ中部にあるチャルネーチー・ヤール村だという事実が判明したのは、つい最近のことなのです。興味のある方は「ひまわり」「ウクライナ」「ソビエト」などのキーワードで検索してみてください。改めて戦争について考えさせられると思います。
さて、秋選曲ですが、まずはシカゴのアーティスト、Blaseの7月にリリースされたニュー・アルバム『Vertigo Valley』収録の「Unknown Getaway」をピックアップしてスタートしましたが、夏の暑さがやわらぎ過ごしやすい季節になったこの時期にピッタリの爽やかな作品ですね。続くニューヨークはブルックリンのアーティスト、Emmett Kaiの「Nature's Voice Is A Cry」も清涼なネオアコ感をもった秋に聴くにはぴったりの作品です。そして最近トム・トム・クラブの再評価がマイ・ブームなので、そのサウンドを彷彿させるオーストラリアはメルボルンを拠点にしているインディー・ポップ・バンド、クール・サウンドの「6 Or 7 More」にはやられました。そのダンサブルなテイストの流れを持続するのに、やはりジンジャー・ルート作品は使い勝手がよく(笑)、今回は新曲「Holly Hell」をセレクト。ニューヨークのアーティスト、JW Francisの10月リリース予定のニュー・アルバム『Dream House』より先行シングルとしてリリースされた「Casino」も、コミカルな要素のあるダンス・ナンバーで聴いていると笑顔がこぼれますね。ディナータイム選曲前半は、他にも大好きなバンドTOPSの鍵盤奏者であるMarta CikojevicがMarci名義でリリースした「Terminal」や、カナダはヴァンクーヴァーのアーティスト、Lentra の「So Simple」、ロサンゼルスのアーティスト、Peel Dream Magazineの「Pad」、Toro y Moiや、U.S. Girlsなどのバンドにパーカッショニストとして参加するBrijean MurphyによるプロジェクトBrijeanの「Caldwell's Way」などなど、今回も良曲が盛りだくさんです。
ディナータイム後半は、スペイン第3の都市であるヴァレンシアを拠点に活動するBÜNNIの哀愁漂う「Favorite Place」をピックアップしてスタート。続けてイギリスのアーティスト、Aabergが8月にリリースしたニュー・アルバム『Lacewing』からキラキラと輝くアルペジオの調べが美しい「Irving」や、カナダはケベック州の都市モントリオール出身のアーティスト、Jordannのメロウなスムース・ダンサー「Disco Cosmos」、透き通った空気感がネオアコ感を醸し出すシアトルのティーンエイジャーによって結成されたビーチ・ヴァケイションの「All For Me」、詳細が不明の(スウェーデン出身?)アーティスト、ファントム・ユースのセンティメンタルな響きを放つ「Country Roads」、カナダのオンタリオ州の州都トロント出身の女性アーティストMandaworldのニュー・ウェイブ+メロウ・ファンクといった趣の「Love Is All I Needed」などを続けてセレクト。後半に配置したイギリスはサウスイーストで活動する女性アーティストPinkpirateの「Daisy」や、ニューヨークはブルックリンを拠点に活動しているインディー・ポップ・デュオToledoの「Flake」、そしてサンフランシスコの女性シンガー・ソングライターNashaの「Somebody New」なども、メロウでスウィートな良質のポップ・ソングでとても気に入っています。
24時からのミッドナイト選曲、まずはカナダのヴァンクーヴァーを拠点に活動するNoble Oakの2020年リリースのアルバム『Horizon』収録曲、「Morning」をピックアップしてスタート。この清々しいまでに爽やかな作品は2年前にリリースされていたのですが、自分が知ったのはここ最近のことです。それに続くのはオーストラリアはシドニーで活動する男女デュオ、Micraのエレクトリック・ドリーム・ポップ「Love Child」。他にはアイルランドはダブリンの5人組インディー・バンド、Insideawaveの「This Kind Of Pattern」、ニューヨークのドリーム・ポップ・トリオ、トライアスロンが8月にリリースしたニュー・アルバム『Spin』収録曲「Won’t Let You Go」、新曲が出るたびに選曲に取り入れているミシガン州出身のConnor WrightとKendall Wrightによる兄弟デュオCal In Redの新作「With Your Hands」、フィリピンはイロイロ出身のシンガー、ビーバデュービーのニュー・アルバム『Beatopia』収録のどこかトレイシー・チャップマンの名曲「Fast Car」を感じる「Sunny Day」、オランダはロッテルダムの女性シンガー・ソングライター、ロビン・ケスターの「Cat 13」などの、しっとりとしたメロウな楽曲をセレクトしています。ダンス寄りのナンバーは、フランスはパリで活動する男性3人組トリオ、Polycoolの「Something Between Us」や、アメリカの5人組インディー・バンド、フリップターンの「Sad Disco」、イギリスの男性デュオ、Goodvibes Soundの「Wasting Time」、イギリスはブリストルの男性アーティスト、Tuff Bearの「Wake Up」を、後半に繋げて選曲してみました。
ミッドナイト選曲後半は、カリフォルニア州ヴェニスのアーティスト、アレックス・シーゲルの牧歌的なポップ・ナンバー「Charlie」をピックアップして、ロングアイランドの男性デュオ、ロイヤル・オーティスの「Egg Beater」や、ロサンゼルスのシンセ・ポップ・デュオ、CD Ghostの「Nowhere」といった、ゆったりとしたリラクシンなドリーム・ポップを繋げてセレクトしました。さらにニューヨークの女性アーティストFay Liewの音楽プロジェクト、FIGの「Splinter」や、こちらもニューヨークで活動する女性アーティスト、ジュリエッタの「Sundance Happy」、カナダはトロント出身の女性アーティスト、Fleur Electraの「Get To My Head」などのクール・ビューティーな作品を織り込み、インディアナ州サウスバンドのシンガー・ソングライターCardinalがカヴァーしたNicoの(ジャクソン・ブラウン作品)「These Days」をアクセントに、終盤にロンドン在住の女性アーティストbb swayがフランス人ベーシストのBasile Petiteと組んでリリースした「Your Type」や、テキサスの男女デュオ、Soft Velvet Loungeの「Homecoming」といった、とびきりメロウな作品を配置して秋の夜長の選曲は構成しています。
冒頭で映画『ひまわり』について少しお話しましたが、追加でもう少しこの映画についてお話しようと思います。まずこの作品のオリジナル・フィルムは残念ながら現存しておらず、残されたフィルムを本国イタリアでレストアされたものが世界で流通しているようです。そして日本盤ブルーレイは、そのレストア映像をさらに細かく修復したということで、日本盤ブルーレイを手に入れれば、この作品を世界一綺麗な映像で観ることができるのです。それほど日本ではこの映画が愛されているのですね。さらについ先日の2022年8月6日には、関西ローカルですが、テレビ大阪の『土曜シネマスペシャル』という番組で新録の吹き替え版が制作され放送されました。1976年11月8日に『月曜ロードショー』において吹き替え版が制作されましたが、それ以来の新録吹き替え版が制作されたのです。この放送を関西のお友達の力をお借りして録画していただいたのですが、とても素晴らしいものでした。アントニオを演じたマルチェロ・マストロヤンニにおいては、『月曜ロードショー』と同じ羽佐間道夫さんを起用するなど、関西ローカルにも関わらず(失礼・笑)丁寧な仕事をしており、それならばとこの放送版を徹底的に調べてみたら、シーンをカットしている個所が『月曜ロードショー』版と全く一緒だったのには驚きました。それはたった数秒のシーンにおいても全て一緒なのです。『月曜ロードショー』版の吹き替えはソフト化されていないので、当時の録画ヴィデオをお持ちのマニアの方以外には検証不可能なお話ですが、テレビ大阪の愛のある番組作りには、とても感動した次第です。
Blase『Vertigo Valley』
Emmett Kai「Nature’s Voice Is A Cry」
Cool Sounds「6 Or 7 More」
JW Francis『Dream House』
Marci『Marci』
Lentra「So Simple」
Peel Dream Magazine「Pad」
Brijean『Angelo』
BÜNNI「Favorite Place」
Aaberg『Lacewing』
Jordann「Disco Cosmos」
Beach Vacation「All For Me」
Phantom Youth「Country Roads」
Mandaworld「Love Is All I Needed」
Pinkpirate「Daisy」
Nasha「Somebody New」
Noble Oak『Holizon』
Micra「Love Child」
Insideawave「This Kind Of Pattern」
Cal in Red「With Your Hands」
Alex Siegel「Charlie」
Royel Otis『Bar N Grill』
FIG「Splinter」
BB Sway & Basile Petite「Your Type」
Dinner-time 日曜日22:00~24:00
Cafe Apres-minuit 月曜日0:00~2:00
山本勇樹 Yuuki Yamamoto
厳しい残暑も和らぎ、やっと街並みも色づきはじめました。ここ数年、すっかり貴重になってしまった“秋の季節”を存分に楽しみたいと思います。さて、そんな心地よい季節に聴きたい音楽ということで、最近の個人的ヘヴィー・ローテイションの中から、これぞというものを厳選してみました。ティータイム~ランチタイムにぴったりのサロン・ジャズから、メロウなシンガー・ソングライターまで、温かいミルクティーが似合いそうな、ハートウォーミングな傑作が並んでいます。そんな中、特に推したいのが、アルゼンチンの新星デルフィーナ・マンカルドです。個人的にも今年のベストに挙げたいくらい気に入っていまして、この選曲の中でもひと際輝いていますが、ふと街中で流れてきても、その魅力が十分に伝わるのではと思います。また、この曲が収録されたアルバム『Octante』は、11月にParaphernalia RecordsよりCD化が決定されていて、僭越ながらライナーノーツを担当しましたので、機会があればそちらもチェックしてみてください。
Delfina Mancardo『Octante』
Lunch-time~Tea-time 月曜日12:00~16:00
武田誠 Makoto Takeda
まったくその経歴など知らずに耳にした、Young Poetからの最初のシングル曲「Infinity」に深く心打たれたHohnen Ford。ピアノの弾き語りだけでその魅惑的な声色と共に歌い紡がれるメロディーは、英国フォーク的? カンタベリー的? と、その出自が気になってしょうがなくなるような要素が感じられる、とてもよく練りこまれたもの。英国王立音楽院でジャズを学んだという彼女は、SNSを通して様々なカヴァー曲動画を公開していたりもしますが、自らが手がけた曲の素晴らしさは格別としか言いようがありません。そんな彼女の楽曲は、今回のAutumn Selectionでうまく描きだされていたらいいなと思う、空気も街並みも秋色に染まってゆく風景に美しく溶けこんでくれていて、なんだかもう泣いちゃいそうでした。
Gabriel da Rosa「Jasmim Parte 1」
Ricewine『In Valley』
Market『The Consistent Brutal Bullshit Gong』
iogi & Rejoicer『Too Much Too Soon』
Shabason & Krgovich『At Scaramouche』
JayWood『Slingshot』
Hohnen Ford『Close To Your Heart』
СОЮЗ (SOYUZ)『Force Of The Wind』
Lunch-time~Tea-time 火曜日12:00~16:00
waltzanova
今回の選曲期間は訃報の多い時期でした。中でもラムゼイ・ルイス、ジャン=リュック・ゴダール、ウィリアム・クラインの死去の知らせが一日のうちに舞い込んできたときは、少なからずショックを受けたのを覚えています。このコメントを書く前にはファラオ・サンダースが亡くなったという知らせもあり、橋本徹さんも「時代の変わり目だと感じるね」とおっしゃっていました。
毎年、僕のAutumn Selectionは“秋のシンガー・ソングライターまつり”といった様相を呈すのですが(居酒屋で言うところの「季節のおすすめ」という感じです)、それに加えて今年50周年を迎えるアルバムからの選曲も昨年に引き続き行ってみました。1972年特集ですね。キャロル・キング『Rhymes & Reasons』、ルー・リード『Transformer』やトッド・ラングレン『Something/Anything?』、ピーター・ゴールウェイの初ソロ作などがそうです。もう半世紀も昔の音楽なんだと思うと、不思議な感慨を覚えるとともに、この時期のレコードには僕の好きな作品が多いと改めて感じます。多くは学生時代に出会い、僕の血肉となっているものばかりです。そもそも、「Suburbia Suite」では60〜70年代のレコードが取り上げられることが多かったですし、年に一度くらいはこういった“バック・トゥ・ザ・ルーツ”的な色彩の濃い選曲も意味があるのではないかと思っています。やはり秋の風景や空気感にしっかりフィットするんですよね。チェックのシャツを着て、公園にピクニックに出かけたくなります。
ラムゼイ・ルイスやミニー・リパートン、モーリス・ホワイト、テリー・キャリアーらと親交が深く、彼らのプロデュースも手がけているチャールズ・ステップニーの未発表音源『Step On Step』からも多くのインスパイアを受けました。エディー・チャコンやジョン・キャロル・カービーといった現在形のローファイなソウル/ジャズ的なサウンドとの共通性が深く、この時代にこそリリースされることの意義を感じます。限定のゴールド・ヴァイナルを購入したのですが、DJブースの前に彼の関連作と並べて飾っています。
セレクションのラストはステップニー作の「Close Your Eyes And Remember」。ミニー・リパートンの『Come To My Garden』でも取り上げられていますが、ここは追悼の意味合いも込めてラムゼイ・ルイス版を取り上げました。タイトルや曲想もラストにふさわしく、感涙のエンディングになったと自賛しています(笑)。
内田光子 & The Cleveland Orchestra『Mozart: Piano Concertos No. 20, K466 & No. 27, K595』
Carole King『Rhymes & Reasons』
Lou Reed『Transformer』
Todd Rundgren『Something/Anything?』
Peter Gallway『Peter Gallway』
Chris Brain『Bound To Rise』
João Donato『Serotonina』
Rodrigo Carazo『Tres interiores: Ep1. Subceleste』
Joshua Redman, Brad Mehldau, Christian McBride & Brian Blade『LongGone』
Eddie Chacon「Holy Hell」
Charles Stepney『Step On Step』
Ramsey Lewis『The Piano Player』