ネット広告のプロダクトを作る会社が見ている広告の未来(2019年版)
昨年に続いて今年も懲りずに。フリークアウトのグループ総会で話したことをベースに加筆したのは今年も変わらず。
https://www.nippon.com/ja/japan-data/h00405/
2019年頭に出た日本の広告費の内訳推移では、いよいよインターネット広告費がテレビ広告に肉薄することになり、このままでは早ければ今年2019年は、いよいよインターネット広告がテレビを追い抜くのではないかという勢いだ。過去に日本でトップメディアが入れ替わったのは、新聞がテレビに抜かされた1975年のことなので、45年ぶりくらいの大変動となる。
戦後のテレビが新聞を抜くまで(歴史の話)
1950年にシェア70%超の最大メディアだった新聞が、ラジオ広告が始まって切り崩され、更にそれに続くテレビ広告によって、1964年の東京オリンピックの時点では、ほぼテレビと新聞は均衡するまでに。そこからはオリンピック後の景気後退もあり、更に10年ほどかかって、ゆるやかに新聞を追い抜いて、1975年にテレビがトップ媒体となる。
この25年(1950-1975)における日本の第一次メディア大戦の間、広告業を営んでいた今で言う広告代理店の仕事も、大きく変化していくこととなった。
新聞が主流だった頃、広告業の仕事とは、単に新聞広告枠を横流するブローカーでしかなく、枠の中の広告クリエイティブも、広告主が自分で作るのが当たり前であった。
広告会社としては、この古いブローカー体質から脱却し、文字通り広告エージェンシーへの転換を目指していたが、それをラジオやテレビの民間放送化のタイミングに託す形で成し遂げたのが、現在もあるような総合代理店であった。
新聞広告なら、まだかろうじて広告主自らクリエイティブを作ることも出来たかもしれないが、ラジオやテレビとなると、さすがにプロの仕事が必要となる。主力メディアの変化にうまく乗じて、顧客の仕事の変化を捉え、顧客から預かる仕事そのものを変えていったというわけだ。
こういった業界の歴史から学べることとして
・先に広告主の仕事が変わり、それにより広告事業社の仕事も変わる。
・その変化が大きすぎて、旧メディア特化体質の組織では対応できない。
・広告業は、より顧客の中に入り、より本質的な課題解決が求められる。
50年前に起きたこれらの変化は、今回のトップメディア入れ替えでも再現されるのだろうか?
コンサル会社の躍進
すでにグローバルにおいては、この日本の50年前と同じようなことが起き始めている。代表的なのは、コンサル会社の広告業界進出。
言うだけで何もしないコンサルが通用しなくなり、より顧客の中に入り込んで、具体的なアクションが求められるようになった。そこでコンサル会社が目をつけたのが、インターネットが主力メディアになる広告業界だ。コンサルにとってデジタル広告が都合がよいのは、データが取れるので大変扱いやすい。実際にコンサル会社が、いくつか広告会社を買収したら、どうなったか?その結果、特にこの2年が顕著だが、世界トップの広告代理店WPPの株価は下がる一方で、アクセンチュアのようなコンサルファームは好調が続いている。
だが、こういったグローバルで今起きている変化に比べて、日本の総合代理店の株価などを始め、そこまでの大きな影響は見られない。
それは日本特有の高齢化などの問題もあって、デジタル広告の伸びが米国などよりも遅れていることもあるが、それらは「まだ」起きていない理由なだけあり、今後は他国のような変化が何かしら起きることは、グローバルで今現在起きている事実からだけでなく、日本で過去に起きたことからも、明らかではなかろうかと考えるわけだ。
新たなブランドの出現
より顧客の中に入り、より本質的な顧客課題の解決が求められる。
と、書いたので、顧客となる広告主の変化も見ていこう。
今まさに現在進行形で起きていることだが、アマゾンのようなプラットフォーマーへの対抗策として、小売トップのウォルマートなどによるデジタルへの投資額が急激に伸び始め、一定の効果を出し始めている。2018年のIT投資額でウォルマートはアマゾン、アルファベットに続いて世界第3位。GAFAとの企業価値の差を考慮するとウォルマートの攻め方は凄まじい。
その投資内訳も、数年前は新規店舗開拓が半分を占めていたのが、現在それらは殆ど行われず、大半がデジタル分野への投資となった。更にこのデジタル投資の内訳を見ると、ITインフラ以外にも、新たなブランドの買収にも相当費やしている。新ブランドの買収が、なぜデジタル投資にあたるのだろう?
それは、それらのブランドはD2C(Direct to Consumer)と呼ばれているところで、これはインターネットで顧客とダイレクトにつながっているブランドだからデジタル投資という分類になるそうだ。
ダイレクトというと中抜きのようなイメージをもつかもしれないが、中抜きかどうかは大して意味はなく、D2Cを別の言い方で、DNVB(Digitally Native Vertical Brand)という呼び方をすることもあるが、こちらの方が彼らをわかりやすく表している。つまり「(テレビなどでなく)インターネットで熱心なファンである顧客とダイレクトに繋がっていているブランド」なのだ。
グローバルブランドの変化
一方で、ウォルマートのような小売でなく、グローバルブランド企業(ユニリーバ、P&Gなど)の動きだが、こちらもD2C買収の目利きが評価を分ける展開になっている。オールドメディアの影響力が下がっているというのに、従前から保有しているオールドメディア依存ブランドばかりに自分たちのブランドポートフォリオが偏る限り、どうしてもそのブランド維持に広告費がかかることが経営効率を悪くするため、D2C(ネット発の新たなブランド)を手に入れる必要に迫られる。
この現象を語る上で代表的な消費財カテゴリの1つが、男性用ひげそり。Gillette(P&G)が圧倒的なシェアを誇っていたが、これに対して、新たなD2Cブランドが急速に攻めこんでいったのが、この5年くらいだ。
YouTube上で、Gilletteへの批判的なメッセージ(「5枚刃とか、あんなに刃物の数いらねぇ、あいつら数増やして儲けたいだけ」みたいな)など含む、過激な動画をCEO自らが出演して発していた、D2Cの雄とでもいうべきDollar Shave Clubは、創業からわずか4年で、2016年にユニリーバーが1000億超で買収。この期間と金額は驚きだが、ユニリーバーは元々男性ひげそりのカテゴリーに進出できていなかったこともあり、戦略的にはわからなくもない動きではあった。
だがその後も、D2Cブランドが躍進を続けたことで、ついに2017年にはGilletteのシェアは半分に下がる。こうなるとP&Gも、出遅れたことを認め、ついにP&G自身が、傘下Gilletteの競合でもあったはずの「アフリカ系アメリカ人男性用のひげ剃り」Bevelを2018年末に買収。アフリカ系アメリカ人向けなので、ニッチというほどではないが、まさにバーティカル。特定とはいえ十分なマーケットサイズがあり、その特定層を狙い撃ちしたブランドだ。
また別のD2Cひげ剃りHarry'sも、2019年5月なんと1500億円でSchickの親会社に買収される。
マーケットシェア1,2位を締めていたブランドを持つ企業が、いずれもその単一ブランド戦略を諦め、D2Cを積極的に手に入れて、それらを含めたブランドポートフォリオを最適化する戦略に切り替えていくことが明確になったのが、2019年最新のトレンドなのだ。
驚くべきは、高価格帯商品ならば、このように拘って購入したいという消費者の気持ちはわかるのだが、米国ではすでにこのような、ひげ剃り程度の単価の商品であっても、グローバル企業が、保有ブランドを組みなおす事態になっているのだ。
まさに「トップメディアが変わると、まず広告主の仕事が変わる。」
少なくともブランド広告主にとっては、(既存ブランドをインターネット向けにリブランディングするのでなく)新たなD2Cブランドを買収してゼロからスタートしなければならないほどの変化が起きている。
では、なぜリブランディングではだめなのか?なぜD2Cはここまで高評価なのか?
一つに、先程も、インターネットで形成された熱心なブランドファンとの良好な関係の維持は、テレビ依存のブランドよりも、ブランド維持費のコスト面で有利と書いたが、それともう一つ何よりも重要なのがことが
「顧客データを直接取れて、ML(機械学習)でマーケ施策改善が出来る」
こちらの方が、その真髄のようなものだったりする。
つまり、D2Cの「ダイレクト」とは中抜きの意味ではないとは書いたが、その真意はデータに「直接」触れているという意味。言うなれば、Direct to (Customer Data)。だからこそ、アマゾンみたいなところに依存した販売方法は、たとえインターネットで形成されたブランドファンであっても、それはブランドがデータをダイレクトに触れていないから、ホンモノのD2Cじゃないと。
そして直接触れるデータというのは生データなので、当然膨大な量となり、いわゆるビッグデータの領域。これを解析するのは機械の仕事となる。マーケティング施策を、人間任せじゃなく、機械に託せる状態にもっていけてるか、もしくはそのポテンシャルを持っているかという評価がなされるべきものであり、実際、そのポテンシャルをもったD2Cブランドこそが高い価値を認められ、ユニリーバのようなところに1000億を超える金額で買収されているのだ。
D2C買収後のオンライン・オフラインデータ統合
そして買収後はさらなる課題が待っている。インターネット販売主体だったD2Cブランドが、ウォールマートのような小売大手に買収されると、販売チャネルがネットとリテールの両方となる。D2Cの販売がインターネットだけなら容易に取得できた自社の顧客の購買データが、買収されてリテールでの販売を開始しようとしても、販売データが消費者単位で取れないようでは、データを機械に投げ、マーケサイクルの最適解を得るのが困難になってしまい、(高額で)買収した意味が薄れてしまう。
こういったことを見越して、オンラインとオフラインのデータを統合してみられるようにするための投資というのが、先程のウォルマート設備投資の大半を締める、D2Cブランド買収とITインフラ整備にあたるのだ。
またウォールマートはP&Gのようなブランドともデータ連携を開始しており、まさに業界をまたいで、小売とブランドが一緒になって、プラットフォーマーと戦う準備を進めているということになる。
テレビの影響力がいよいよ落ちてきた中で、GAFAが触れられない独自データによって自社のビジネスを伸ばすという判断は、グローバルブランドや小売トップがとった極めて現実的な解ではなかろうか。
ブランドがインターネットに合わせる時代(主従逆転)
かつては、ブランドと相性が悪いと言われることも多かったインターネットだが、その立場が圧倒的になると、インターネットと相性が悪いブランドの方が問題となりだした。そしてブランド企業の方が、インターネットというメディアに対し、自分たちの保有するブランドを合わせなければならなくなったのだ。いわば主従の逆転ともいえるが、これは消費者の行動変化を考えれば、当たり前の話でもある。
一方で販売チャネルという点においては、新ブランドにとって初期はインターネットによるファン形成を兼ねオンラインでの販売が有効であろうが、被買収後などある程度のサイズになると、小売店舗での販売も重要になるので、
「販売チャネルを小売店舗に広げても、オンライン同様にデータを取得できるようにしたい」
というのが、これから現れる新しいブランドから発生する要求となる。
ブランドの要求に応えていくことが広告業の役割とした時、はたしてこれから生まれるこのような新ブランドの要望に対し、既存の広告業者は応えていけるのだろうか。
少なくとも、テレビ在りきの広告キャンペーンのあまり予算をインターネットに回す程度に最適化された組織では、この要望に応えられると思えない。
ネット発ブランドを愛する、いわゆるミレニアル世代というのは、
・情報はスマホで取得。
・カスタマーサポートも電話よりもメールよりもチャットを好む。
・購買はネットもあれば、店舗でも購入する。(スマホ決済で)
このような消費行動をもつことから、広告業者は彼らの消費行動に即したコミュニケーション接点をデータとして押さえる必要がある。
これら消費行動データ(広告、販売、カスタマーサービス)を消費者一人ひとりの粒度単位で押さえ、それを元にリサーチを行い、そこから製造、価格、パッケージング、配送に対し最適化を起こすような順序、つまりデータによるマーケティングサイクル高速改善の手助けをどこまで出来るかが、次世代ブランドが求める次の広告業と考える。
左半分の消費者一人一人の接点に直接的に関与し、それらのデータから、右半分から求められる改善提案を出せる立場が理想ではないか。
これを新しい広告業の目指す形とした場合、それはテレビ時代ありきの広告業とは、まったくもって似て非なるものではあるが、グローバルを見た時、コンサル会社の方がブランドに評価される時代になっていることからも、目指すべき業態は、既存の業界の有り様から考えるべきでない。
ブランドがゼロから始まろうとしているのなら、「かつて広告と呼ばれた何か」を作り出すくらいのつもりの覚悟が、広告業には求められる時代にきた。
〜ここから採用メッセージ〜
「人に人らしい仕事を」というミッションを掲げるフリークアウトでは、これから広告業界で始まろうとしている大変動に対し、主体的に仕掛ける側に回って、次なる広告業は何かを定義していくような仕事を一緒に取り組んでいける仲間を探しています。
文章の中では、広告業とは、戦後まもなくは新聞の広告枠を横流しするだけのブローカーであったと書きました。更に戦前にまで遡ると、彼らの仕事は、当時広告は不要と考える新聞記者も多かったことから、新聞記者の袖の下に賄賂を渡して行灯記事を書いてもらうようなことも横行していたため、企業の受付には「広告屋は裏口から、広告屋お断り」という張り紙がされているような、蔑まれる仕事でもありました。そのような扱いから始まった広告業は、変化を重ねながらも、より「人らしい仕事」へ向かうそのベクトルの方向は変わらぬままです。次は一体どんなものになるのかを、45年ぶりに訪れる大チャンスのタイミングで、一緒に考えてみませんか?
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