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去年できなかった結婚式を、今年は。


私たちは去年の7月29日に結婚した。
しかし、結婚式はできなかった。

私がプロポーズされたのは一昨年の7月29日だ。
それから一年かけ、翌年の7月29日にむけて結婚の準備をしていた。
「プロポーズされたらゼクシィ」というCMに乗っかって、ゼクシィも購入した。
ゼクシィに書いてあるようには事が進まず、二人で結婚の難しさに笑っていた。

そうして去年の1月。

「そろそろ結婚式場の見学に行こうか」


7月29日前後に合わせて結婚式をするために、私たちは結婚式場のホームページを漁りはじめた。
せっかく結婚式をするなら、いろんな結婚式場を見ておこう。
そんな時間も、結婚前の夫婦の楽しい時間だと思っていた。


2月になり、結婚式場へ見学の申し込みをするメールを送った。
大好きな人と、素敵な場所で愛を誓える。
そんな素晴らしい時がもうすぐなのだと思うと、私はとても嬉しくて、だけど自分が結婚式を挙げるなんて実感があまりなくて、ふわふわした気持ちだった。


しかし、何度か式場とやり取りを重ねている間に、不穏な足音が聞こえはじめた。


コロナウイルスだ。


世界へ広がりはじめたコロナの足音は、私たち夫婦の笑い声を踏み消した。


3月。私たちは7月29日前後に結婚式をすることを諦めた。


急がなくてもいい、コロナさえ収まれば結婚式もできる。
収まったころには新婚旅行にも行こう。
新婚旅行はどこに行こうか。
そんな話しをあのころはまだ、なんとかすることができていた。


4月、5月と過ぎていき、6月から7月に変わるころには指輪もできあがった。
しかし次第に私たちは新婚旅行の話もしなくなっていた。
終わりの見えない混沌に、お互い希望を抱くことに疲れてしまったのだろう。


私は「せめて結婚した記念に、婚姻届を出したあと思い出の場所で指輪を交換して、夜景の見えるホテルのレストランでディナーをしたい」と言った。
それくらいの記念日らしさは許されると思ったのだ。


私たちは名古屋市内で、夜景が楽しめるレストランを探した。
口コミサイトやホームページを見て回ったが、時短営業になっていたり、ディナーを中止していたり、条件にあうところがなかなか見つからなかった。
時を同じくして、名古屋の中心部でコロナの感染拡大が爆発。


私たちは、ディナーも諦めた。


7月29日。
私たちは役所へ行った後、足早に思い出の場所へ行き、少し懐かしい話しをして指輪を交換した。そのまま急いで立ち去り、家へ帰った。


いろんなことが、思うようにならなかった。
ままならない現実が辛かった。
街頭インタビューで「コロナは怖いけど、遊びたいし」と言って夜の街に消えていった女の子たちの笑顔が頭から離れなかった。
悲しくて悲しくて、旦那さんと一緒に泣いた。


月日は流れ、ワクチンの知らせが聞こえはじめ、周囲からは「そろそろ結婚式について考えてもいいのでは」と言ってもらえるようになった。


つい先日のことだ。


私たちは、一年以上たってようやく式場見学に行くことができた。


初めて足を踏み入れた結婚式場は、とても美しかった。
結ばれた二人をひたすら祝福する空間は、神聖なものに見えた。


式場のスタッフさんたちは感染拡大防止対策を徹底していて、あちこちに消毒用アルコールが置いてあり、換気もしっかりと行って、人とすれ違うことはほとんどなかった。


その日は偶然にも式を挙げている夫婦がいた。
屋外の明るく風通しの良い場所で、何人もの家族や友人に囲まれ、祝福されていた。
幸せそうな、たくさんの笑顔で溢れていた。
私たちは遠目からその光景を見ていた。


私だって、たくさんの友人に祝福されたかった。


遠方の友人も招待して、懐かしい友人にも声をかけて、「おめでとう」と言われたかった。
私はブーケを、旦那さんにはブロッコリーを投げてもらいたかった。
私たちを大切だと思ってくれている人たちの前で、世界で一番大好きな人と愛を誓いたかった。
愛しいこの人と一緒に幸せになるのだと宣言したかった。


私はたまらず、顔を背けた。うらやましくて泣いてしまいそうになったから。
大丈夫、次は私たちが祝福される番。
そう自分に言い聞かせて、ばれないようにマスクの下で唇を噛んだ。


私たちは、今年の7月30日に結婚式を挙げることにした。


まだ日にちしか決まっていない。
これからの雲行き次第では、また結婚式を挙げられないかもしれない。
そのときは仕方ないと思う。命に代えられるものはない。そう思いながら、私たちはまた泣くのだろう。



終わりに。


今後、いただいたサポートは皆様からのお祝いだと思って、結婚式の資金にしようと思います。
そして、7月30日以降にはどんな結婚式になったのか書きたいと考えています。

きっと私たち以外にも、コロナに邪魔をされた夫婦はいると思います。
私たちと一緒で、たくさん泣いたと思います。
だけど、幸せになりましょう。
私たちもそれを願っています。


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