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現実みたいな嘘の話

『人かけら』

中学生時代、自分はあまりにも成績が悪かった。
通知表はいつも2と1が幅を効かせ、それ以外の数字は入る余地がない。
そんな生徒なのだから、教師が自分に愛想を尽かすのは当然だった。
しかし、何故か理科の先生だけは愛想を尽かなかった。
別に、理科が得意な訳ではない。いや理科以外が得意と言った方が良いのか、それほど理科の成績はダントツに悪かった。
普通なら真っ先に見放されるはず
なのに、その先生は優しかった。
どの教師よりも優しく接してくれた。

この時期は絵具で塗ったような見事な紅葉だ。
十月十二日、十時五十分、授業の終わりのチャイムが鳴り。
理科室からは授業を終えた生徒がぞろぞろと自分の教室へと向かった。
授業の終わりのチャイムが鳴ると十分の休みがある『十分休憩』という物だ。
理科室には理科のポッチャリで眼鏡かけている先生だけ残っていた。
暫くしていたら教室のドアから
コンコン!
とノックが聞こえた。
「入っていいよ」
と教室内から返事が聞こえる。
ドアから1人の生徒が入ってきた。
「あれ?君は?」
当然誰が見ても不思議に思う。
学校の生徒なのに私服を着ている生徒が教室に入って来た。
「なんで学ランは?」
男の子はしばらくして喋ってた。
「先生に会いに未来から来ました」
ボソッと喋った。
「あ?何言ってんだぁ?」
「だから、タイムマシンで3年後の未来から来たんですよ」
理科の先生はあまりにも非現実すぎて返す言葉が見つからなかった。
「あまり時間が無いので…先生?」
ため息をつきながら答える。
「ま、少しだから良いだろ」
理科の先生は突然現れた生徒に違和感を覚えながらも、少しだが今の状況を理解出来た。
「でもなんでオレになんだぁ?」
「先生が一番…どんな教師よりも…落ちぶれていた僕を最後まで優しく接してくれたから」
「そうかぁ〜」
「中学校時代は何も疑問が浮かばなかったけど、卒業して高校に入ってから色々な物に対して疑問を持ち始めたんです!」
「疑問を持つ事は大変良い事だ」
「で!宇宙は不思議だな〜って」
「宇宙か」
「先生なら何でも知ってるでしょ!」
「いや、先生だからって何でも知ってる訳では無いぞ…恋とか青春は知らないし…」
「あ、知ってます、別に先生に恋とかの話はしません、断言します!!」
生徒の瞳は星空の様に美しく輝かせ、自信満々の顔て答えた。
「そんなに言わなくても…」
「あ、すみません…」
「でも先生も宇宙には壁があるのか、宇宙の外はどんな物かとか考えたりしている」
「先生も非現実的な事も考えるんですか?」
「あぁ、宇宙は何があるか誰も分からない、もしかしたら特撮の世界が本当にあるのかも知れない」
「本当にあったらいいなー」
男の子は理科の先生に疑問をぶつけるのが嬉しくちょっぴり感動していた。
「先生は少し考えたんだ、この世界は何が起こるか分からない、だからいつか先生も恋が訪れるかも知れないてね」
「ふーん」
「そう言えば、タイムマシンで来たんだろ!どんな原理なんだ!!タイムマシンは空想の物だと思っていた!なぁどんな物なんだ!!」
「え…あ、あの、ブラックホールとか使ったんじゃ無いんですかね…?」
「何で仕組みが分からないんだ」
男の子は少し黙っている。
理科の先生は何故男の子が黙っているのか大体検討は付いていた。
「やっぱ、そうか…」
「ごめんな…さい」
「三年後にタイムマシンが出来たとか無理があるからな」
「でもこれだけは信じて欲しい、僕はこの世界の人間じゃないんだ!」
「昨日、君はオレの授業を受けているから、一晩で身長が大きく変わることは科学的に難しい…けど、違う世界からと言われても、それも難しい」
「科学的根拠は無いけど…僕はさっき…いや何でも無い」
生徒は何故ここに来たか理由は大体把握していた、だが敢えて真実を伝えようとはしなかった。
生徒はそっと心の奥で思った、
『世の中には教える必要の無い物がある…』
そう思ったら突然生徒の瞳に涙が出た。
「オレは理科の教師だが非現実的な事は好きだ、理由など要らん、だが少しだけ聞いていいか?」
「……」
「三年後の世界は楽しいか?」
「……」
「三年後の皆んなは元気か?」
「……」
「三年後の君は満足出来たか?」
「……」
生徒は涙で前が見えなくなり、黙り続けている。
「話す必要は無い…まぁでもその顔は"幸せ"だった事にしておくよ」
生徒はまたいつもの笑顔に戻り、この世界にやり残した事は無くなったかの様に、最後に一言を言った。
「うん!」
楽しかった時間はあっという間に過ぎた。
男の子の中学校時代は内気な性格で友達が誰も居なかった為『十分休憩』という物はいつも長く感じた。
でも男の子は思った、
『これが中学生の時にあったら変わっていただろう』
時間という物は必ず終わりが来る、終わりが来れば必ず次の新しい始まりか来る、人生はその繰り返しだ。

次第に先生の視界からは生徒の姿が煙の様に消えていた。
暫くしたら次に理科室を使う生徒達が足音を廊下に響渡せぞろぞろと入ってきた。

ー次の日ー
理科の先生は授業終わりに"ある生徒"が居る教室に向かった。
「おーい!」
「なんですか?先生…」
「あのさ…」
「はい」
理科の先生は何かを決意したような顔でこう言った。
「非現実は好きか?」

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