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子育て 息子のパパである人について

息子を自転車の前かごに乗せて走っていた。
右手には道路。
車が大好きな息子の手には24時間赤い『郵便車』が握られている。
郵便車が好きなのではない。消防車と勘違いしている。消防車は火を消して人を助け、ポストの手紙を家々に届けるマルチな車だと思い違いをしている。と、母は推測している。

「ムームー!ムームー!」
すれ違う全ての車を指差しして教えてくれる。
「ブーブーやな。」
その度に軽く相槌を打つ。もう無意識だ。
「ムームー!」
指先には白い軽貨物車。
「ハイゼットって言うんやで。(君のパパが乗ってた)」
口から飛び出そうになった言葉を飲み込んだ。
何を言い出すのだと、無意識の自分に驚いた。

息子にパパはいない。
でも、息子の半分はハイゼットの彼だ。
今どうしているんだろう。生きているだろうか。
散々私に毒づかれ、別れてからもnoteに毒づかれていた彼。
生きていて欲しいと思う。

彼から貰った手紙を久しぶりに読んだ。2年以上も前のものだ。もし、息子が父親について知りたがった時に渡そうと思って残している。

泣き所も呆れ所も悲しみ所も何もないのに、その手紙を受け取った当時私は狂ったようにキレていた。そもそも彼の子供を妊娠した私が、なぜ彼と結婚しなかったのか。

「産まないって選択肢はないの?」と言われたことも原因の一つだが、それ以前に彼といる時の自分が好きではなかった。自分ひとりでは何も出来なくなっていた。人間関係も途切れて、孤独を実感していたからだった。

父になる事を認識し、私と一緒に子供を育っていく未来も想像できていた彼。
「父になるって決めたんだ」
少し距離を置いて、久しぶりに会った彼は活き活きとした表情で言った。どん底まで落ちて病んでいた私はその言葉がどうしても許せず、狂ったようにキレてしまった。

(ふざけんな。私はこんなに辛くて苦しいのに、お前は将来に希望を抱いている。私の心のケアよりも先に自分の未来を築こうとしている。)

置いていかれた気になったのかもしれない。ただでさえ孤独だったのに、たった一人の味方であった彼にも裏切られた気がして、彼の発する何もかもが私の憎悪に吸収され、どこまでも苦めてやりたいと思った。

「一緒に育てるつもりは一切ない。子どもにも一生会わせない。」
どんな顔をして言ったんだろう。
彼は、どんな気持ちだったんだろう。
私は、どんな気持ちだったんだろう。

もう、時効だ。
郵便車でも消防車でもハイゼットでもない自転車に乗って、私は今日も子育てに全速力だ。

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