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おにぎりボブ

癖毛剛毛多毛なものだから、美容室にはマメに通っている。月に1度、カラー&カット、3~4か月に1度、縮毛矯正といったペースだ。

10代後半からショートヘア⇔ロングヘアのループを繰り返していた。
「会う度に髪型が変わるね」と言ってくる人とは頻繁に会っているということだし、私のことをショートヘアが定番の人、ロングヘアが定番の人、と思っている人もそれぞれいて、その人が抱く、私の髪型のイメージで会う頻度が測れているのもなんだか面白かった。

30代後半くらいから、ショートヘアとロングヘアへの気力がなくなってきて(セットとかケアとか乾かす時間とかね)、前よりもレンジの狭いショートボブ⇔セミロングをループするようになった。
ところがここ1年は、ループすらしなくなって、短めなセミロング?長めなミディアム?といった長さを維持し続けていたので、さすがに飽きて、今回ショートボブにでも…と思い立った。

スマホに切りたいイメージ画像を用意して、いつもの美容室に行った。
こういうとき、いつも困るのが「ショートボブ 40代」などと検索しても
明らかに20代のモデルさんの画像ばかりが出てくることだ。

かといって、40代だとわかっている女優さんやタレントさんの画像を見せるのも、気が進まない。
美容師さんに、私の自己認識が同年代の女優さんレベルだと勘違いしていると思われては困る、私は現実見えてますよ、と伝えたい!と、自意識過剰全開の思いがあふれてくるのだった。

なので、イメージ写真を見せるとき「モデルさんはお若い方なんですけどね、髪型のイメージが近くて…」「綺麗な方だから、この髪型がよく見えちゃうかもしれないけれど、長さのイメージが…」などと言い訳めいた前置きをついついしてしまう。
それで、3パターンくらい画像を見せて、襟足の切り方など細かいすりあわせをしつつ、施術が始まった。

今回、縮毛矯正もカラーのリタッチもする。それから、カット。
美容師さんとおしゃべりしたあと、しばらくタブレットで雑誌を読むのに集中していた。
ふと、鏡を見ると、肩上の長さのボブになっている。このあと、ショートボブに調整するのかな、と思いきや仕上げのアイロンに入っている。

あれれ?これで完成?もっと短いイメージだったのに。
その旨、やんわりとツッコミを入れてみると、いったん毛先を丸めてみて、ケープを外したところをチェックしてみてほしいとのこと。

毛先を丸めたり、ケープを外すと、今見ているイメージよりも短い!と思わる方も多いのだとか。なるほど、そういうことなんですね、といったん引き下がってみるも、気がかりがひとつ。

私がやりたいイメージは、シュークリームみたいな丸いシルエット。ひし形ボブっていうのでしょうか。長さはどうであれ、今、明らかにひし形でも丸でもなく、三角のシルエット、おにぎりシェイプのボブなのであった。

いったん、仕上げてケープをはずしてみて鏡を見ると、やっぱりそこには綺麗に整えられたおにぎり頭が映っていた。
この美容師さんに切ってもらうようになってから、ほとんど長さは変えていなかったので、切りすぎトラブルを避けたかったのかもしれない。

「もう少し短くて大丈夫ですよ、ここのあたりをカットして頂いてもいいですか」と、おにぎりの底辺付近の角のあたりを斜めに挟んで(ここをカットすればきっとひし形になる位置)言ってみた。

美容師さんは嫌な顔せずに、引き受けてくれた。
と、ところが、おにぎりの底辺を水平にカットし始めたではないか。

あああああ!!
これは、もう後戻りできない。おにぎりボブが単に短いおにぎりボブになったのであった。

こ、これはハードルが高いボブだ。
アナ・ウィンターのボブの前髪の厚みを取った感じ。というより、ナタリー・ポートマンが『レオン』のマチルダ役をやった時のボブがいちんば近いか。

これは、いくら縮毛矯正の直後とはいえ、広がりやすい髪質の私にとってかなりハイレベルのスタイルである。正方形よりも横に広がった三角おにぎりを額縁にするには、私の顔は地味すぎるのだ。

かろうじて、笑顔でお店を去り、そのあとは、ウィンドウに移る自分のおにぎり頭を見ては、ため息をつきながら帰った。
その後も髪型が気になってしかたない。


数日悩んだ挙句、別の美容室に行ってみた。
正直に「この写真を見せて、これより長いおにぎりボブになって、もっと短くと言いながら、ここをカットしてひし形にしてもらおうと思ったら、さらに短いおにぎりボブになって……。その場で言えばよかったんですけど、もうこれ以上は切れないんじゃないか、とも思って言えなくて……」
と伝えた。

そうすると、
切ることも可能だけれども、ショートのイメージに近い髪型になりそう。表面のハチの部分だけ丸めるとひし形風にはなると思うので、やってみましょうか、ということになって、アイロンで巻いてくれた。

すると、あら?『ドクターX』のシーズン7のときの米倉涼子さんの髪型に近いシルエットになった!!(結局、同年代の女優さんを例にあげてる私……)
シュークリームとまではいかないけれど、やや低めの位置に角があるひし形。ああ、これなら「アリ」な髪型かも!

全体を丸めてしまうと、横に広がりが出てしまうのだとか。確かにカットしてもらった美容室では、全体を丸めたあとにさらに短くカットしたから、おにぎり度合いが高まってしまったようだ。

カットするべきか、このままでもよさそうか、揺れる私の前でその美容師さんは言った。
「少しこれでやってみて、どうにも扱いづらかったら、また後日カットすることもできますよ。しばらくこの髪型を楽しんでから、やっぱり切りたくなったら、その時ショートボブにするのもいいですし」
無理してカットしないことを提案してくれたのだった。

「せめて、シャンプー&ブローでも」
と私が言うと
「いいですよ、よかったら、今度来てくださいね」
と返してくれた。

さらには、「よかったら、これ使ってください」と、シャンプー&トリートメントのサンプルもくれた。
「せっかく、階段を登ってきてくれたから……。」って。

そう、この美容室に行くには、エレベーターに乗る前に2階までの階段を登らないといけない。そのせいもあって、近所にあるこの美容室の存在に気づいたのはつい最近のことだ。

ああ、女神のような美容師さん。
次回はここに来なくっちゃ!

でも、カットしてくれた美容師さんも何も悪くはないと思う。
私が変な自意識のために、ごにょごにょと余計な前置きなんかしないで、明確に「シュークリーム頭にしてください。おにぎりではなく!」
とはっきりと言えばよかったのだ。とほほ。


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