✈️ ユハンヌスの魔法
Suomen kesä on todella kaunis.
(フィンランドの夏は本当に美しい)
フィンランド語の学習教材ではおなじみのフレーズ。「 本当に 」の一言で殊更に強調される夏の美しさを、私自身、フィンランドで ユハンヌス(Junannus)と呼ばれるミッドサマーを過ごしたことで実感しました。
年末に仕事を辞めてから、まもなく半年が経とうとしていたある日のこと。私の暮らしぶりをそれまで遠くから見守っていた、フィンランドの知り合いから、突然メッセージが届きました。
「フィンランドのユハンヌスに遊びに来ない?うちに空き部屋があるから使っていいよ」
んっ?このセリフ、どこかで聞いたことが …。
当時の私は失業保険をもらいながら、転職先を探していました。「まだ若いんだから(仕事を)選ばずに、興味がある求人に応募してみたら?」とアドバイスはいただくものの、それまで10年近く正社員として働き、自分のなかで一つのステージをやり遂げた達成感があり、次のステージをもう一度「正社員」で走る体力、気力、なにより意欲がありませんでした。雀の涙ほどの退職金は税金を支払ったらすっからかん、失業保険の支給も終わって貯金も底をつきそう。だけどまだ、この先自分がどうしたいのか全くもって見当がつかない、悶々とした日々をおくっていました。
預金口座にはどうにかフィンランドまでの往復のチケット代と、ふた月分ぐらいの生活費を賄えるぐらいの金額が残っていました。この先まとまったお休みがとれる仕事に就くとは限らないし、どうせ頭を悩ませるなら、同じ暗闇でもフィンランドのトンネルで過ごすほうが何かいいアイディアを授けてくれるかもしれない。
そんなわけで、部屋代も電話代(wi-fi)も、朝ごはんのほかに晩ごはんやデザートまでご馳走になりながら、2015年の夏、私は生まれて初めてのホームステイを体験しました。
日中は知り合いがヘルシンキの屋外マーケットに出店しているテントで気が向いたときにお店番をして、夜はホームサウナに入らせてもらったり、これまでのこと、これからのことを話してみたり。
ユハンヌスは、フィンランドの地域ごとに伝統的な過ごし方があるのですが、ヘルシンキではコッコ(Kokko)と呼ばれる「かがり火」を焚くそうで、セウラサーリという島まで連れて行ってもらい、そこで私は生まれて初めてタンゴを踊りました。
最後の貯金を崩し、ユハンヌスの翌日からは1泊2日で北カレリアの主都ヨエンスーを旅しました。ヘルシンキよりも緯度の高いヨエンスーの町はこの時期、夜遅くまで太陽が沈みません。土地柄なのか、市場では英語やスウェーデン語よりも、ロシア語に触れる機会が多いことも印象に残りました。
ヨエンスーの北に「フィンランドの人たちの心のふるさと」と呼ばれるコリ国立公園があり、そちらにも足を延ばしました。ウッコ・コリの丘の頂上から海みたいに大きなピエリネン湖を眺望し、その美しさにただただ息をのみました。森歩きをして、大きな原っぱに抜け出たとき、一面に群生するすずらんの花畑が現れました。
フィンランドが1年で最も美しく、町や人が活気に溢れる魔法のような時間。ユハンヌスに感受したすべてが、その後の生活の励みになりました。フィンランドのふつうの暮らしを体験できたことも、いまの私に欠かすことのできない経験でした。
フィンランドにつづく道。真っさらだった地図にうっすらと道筋が出来たような手応えは、何が育つかわからないけど、当面はこの道を耕すべきだ、という確信を与えてくれました。その勢いのまま走り続けて、耕し続けて、今に至ります。
このように、私にとっては個人的な事情からユハンヌスが特別な時間として記憶に残っています。フィンランドで暮らす人たちにとっては、どんなイベントでしょうか。
その一部を、次回「等身大のフィンランド」第5回でご紹介したいと思います。
今回綴ったユハンヌスの思い出は、一部始終を言葉にするのが惜しいほど、どの瞬間を切り取っても愛に溢れていて。うっかり魔法の力を信じたくなるような、奇跡の連続でした。いつかご紹介できるタイミングがきたらいいなと思いながら、今はそっと胸のなかにしまっておきます。
Hyvää juhannusta !
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