🇫🇮 等身大のフィンランド vol.11 アヌさんと辿る冬戦争の記録（10）

アヌ・カーリナさんの祖父アルヴィさんは、ソ連が宣戦布告なしでフィンランドを国境を越えて攻撃し、１９３９年１１月３０日に始まった「冬戦争」の時代を生きました。

等身大のフィンランド第１１回は、アヌさんが追いかけたアルヴィさんの足跡を一緒に辿ってみたいと思います。

今回は第１０話を紹介します。

前回（１９３９年１２月９日）のお話はこちら

アヌさんの記録から
1939.12.10

『冬戦争の記録』１３３４ページを読むと、祖父アルヴィの部隊には、朝はゆっくりとお茶を飲む時間があったようです。ところが、午前９時頃、弾薬や器材を積んだ宿舎への集中砲火がすさまじく破壊的だったという記録が残っています。１頭の馬が殺され、２頭が負傷しました。この集中砲火は1時間半ほど続き、隊員たちはどうにかダメージに耐えました。

弾薬や器材などの貨物は指揮所近くの森へ移されました。その直後、元の貨物エリアに再び新たな集中砲撃がありました。

敵の部隊が第４中隊のいる場所（前哨基地）を横断しようとしたので、彼らは後退しなければなりませんでしたが、その日遅くに、再び基地を奪還しました。

祖父アルヴィの部隊のリーダー、ウィリアム・トイヴィアイネンが、日頃からこうした「防衛」にどれほど手慣れていたかについて、情報官パロランピの本に「小競り合いが起こったときや、鎧を身につけて戦う場面において、彼らはいつも落ち着いて対処していた」と記録されています。

それぞれがテントで、ランタンの明かりのもとで作業をしたり、装備を磨いたり、眠ったりして過ごしました。しかしながら警報が鳴ると、彼らは素早く、落ち着いて前進しました。ある人は眠りから目が覚めたばかり、ある人はサンドウィッチを口の中にほうりこみました。

情報官パロランピの記憶では、コッラの音の世界は次のように描かれています。

「雷鳴、根元から裂けた木々の轟きと軋み。石が地面や小道にぶつかり、何かの欠片が生き物の鳴き声のように高い音や低い音を響かせている」

埃と雪、大気中を舞う砂を通して差し込む太陽の光は薄暗かったそうです。

Anu KaarinaさんのInstagramを翻訳

視覚や聴覚による記録に触れると、当時の描写に一歩近づけるような気がします。

カハヴィタウコじゃないの？

さて、アヌさんの記録には、これまでにも度々「teetauko」という表現が登場しました。フィンランド語でteeはお茶、taukoは休憩を意味します。

フィンランドといえば、一人当たりのコーヒー消費量が世界トップクラス。目覚めの一杯といえば当然「kahvitauko」じゃないのかしら？と思い調べたところ、冬戦争の間、砂糖とコーヒーは規制の対象とされていたことがわかりました。

百瀬宏さんが監訳なさった『世界史のなかのフィンランドの歴史』（明石書店）によると、戦時中のフィンランドでは、「規制」と「不況」がお馴染みとなっていたそうです。特に冬戦争が行われた１９３９年から１９４０年にかけては、第二次世界大戦の真っ只中だったこともあり、外国からの輸入が難しく、国内の工場では軍需品が生産されていたので、食料の他にも様々な物資が不足していました。

１９３９年９月に、食糧不足を解決するための組織が設立され、市民には食料やその他の生活物資を購入するためのチケット「ostokortti」が配布されました。

例えば、以下のサイトにある写真は１９４０年代に発行された女性向けのチケットです。主に衣料品と交換されました。

Valtion ostokortti | Vahvike

こうしたチケットで、フィンランドでは１９５３年頃までコーヒーの購入が制限されていました。国は一人が購入できるコーヒーの量を決定し、各市の役人がチケットの配布や管理を任されていました。いよいよ新鮮なコーヒーが不足した１９４２年には、穀物・チコリ・砂糖大根からできたコーヒーの代用品が店に登場し、それさえもチケットで管理されたのだそうです。

お金さえあれば
全てを手に入れることができた

戦争が続くとチケットの数は少なくなり、合法的に物資を入手する方法には物々交換がありましたが、一方で闇取引の店が増加しました。

Salakuljettaja muistelee

この動画は、2011年にフィンランドの国営テレビyleが、当時闇取引をしていた男性をインタビューしたものです。

男性によれば、闇取引で売れ行きが伸びたのが、お酒やタバコ、お肉、バター、穀物類だったそうです。「お金さえあれば全てを手に入れることができた」、それはつまり、お金をもっている人たちだけがわずかな富を享受していたということですが、だからと言って誰が彼らを責められるでしょうか。

次回に続きます。

戦争博物館の記録から
1939.12.10

１２月１０日の写真は前回の投稿でご紹介したので、今回は貴重な一杯を楽しむ人々の一枚を共有します。

O.T.K:n ompelimon naiset kahvitunnilla.
Helsinki 1940.01.25　【SA- kuva-arkisto】

１９２０年にフィンランドに設立された協同組合卸売、Osuustukkukauppaで針仕事をしている女性たちのカハヴィタウコです。１９４０年の１月にヘルシンキで撮影されました。カップに注がれるコーヒーに向けられた表情に、どれほど貴重な一杯だったかが伝わってきます。