動悸はあとからやってくる
息子の病気がわかったときや、息子を手術に送り出すとき
医師の説明を聞くとき、決まって言われた言葉がある。
「お母さん、落ち着いてますね。」
落ち着いてるってなんだ?
「落ち着いて」を辞書で引く。
心情などが動揺しておらず、安定しているさまなどを示す表現、とある。
心情なんて外から見ている人にはわからないだろう。
息子の命が危ないのだ。当然、動揺している。
動揺しているからこそ、心と頭を切り離しておかなければならない。
一旦動揺している心は遠くにやってしまうのだ。
体と心も切り離して頭だけになる。
頭はフル回転で、情報を整理し、やるべき行動を列挙しなければならない。
母親というのはそういう場面の連続だ。
で、ことが落ち着いた瞬間に心がすうっと戻ってくる。
せき止めてた心と体が一気につながる。
激しい動機が体に襲い掛かって、冷や汗が背中を伝い
体の芯がさあっと冷えていく。生きた心地がしない。そんな気分になる。
落ち着いてなんかいない。せき止めてるだけだ。
さっき息子が痙攣を起こした。
「あれ?あれ?」と言いながら、息子は万歳した腕が自分では動かせなくなっている。口や両手両足が連動してかくっかくっと動く。
私はスマホで動画を撮りながら声掛けで意識を確認する。
会話は普通にできた。意識ははっきりしている。目の焦点も合っている。
3分ほど経ってようやく震えが収まると一気にごぼぉっと吐いた。
頭を横向きにして嘔吐物が喉に詰まらないようにする。
背中をとんとんしながら、息子の体の強張りが解けているのを確認して
少しほっとした。当の息子は吐いてしまうとすっきりしたようすで、
普段通りぺらぺらおしゃべりしている。
あとは怒涛のお片付け。
息子を着替えさせ、体の汚れを吹いて、シーツを変えて、娘たちを寝せる。
息子は念のためリビングに寝せて、洗濯を進めながら様子を見る。
顔色はだいぶマシだし、静かに寝息を立てていて痙攣の気配はない。
もう1時間以上経つ。
で、動揺してた心が、怒涛の如く押し寄せてきたのが今だ。
怖かった。本当に怖かった。痙攣の3分間がすごく長く感じた。
口の中はからからで、お茶を入れてみたがうまく飲めない。
落ち着くために今、これを書いている。
痙攣の対応をしてる間、どこからか聞こえてきた。
「お母さん、落ち着いてますね。」
声を大にして言いたい。落ち着いてるわけないだろ。
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