うそつきファントム

貴方の言葉に頷いたなら
あたしは幸せになれたかな

貴方の言葉に頷かなかったのは
巻き込みたくなかったから

あの人のことなんて全然知らない
あの日初めて会ったし、きっともうこの世の終わりまで会うこともない
その人があたしに叫ぶ
心を引き裂く、錆びた刃物

あたしは生まれた時からこうだった
このゴムマスクはあたしにべっとり貼りついて、
剥がそうとしても剥がそうとしても離れてくれないの

あたしだってこのいびつなゴムマスクは大嫌い
こんなもの欲しくなかった
絶対に絶対に、これっぽっちも欲しくなかった
夢みたいにうっとりした、黄金のマスクが欲しかった
狂ってしまいそうなほどに、欲しかった

ねえ、わかる?
あんたなんかにあたしの気持ちがわかるって言うの?
このゴムマスクを大嫌いだって言ってもいいのは、あたしだけだよ

錆びた刃が積み重なる
あの人からもこの人からも
ゴムマスクをあたしに与えた張本人からも
コールタールが溶けた雪みたいに真っ黒
それはあたしのすべてを、壊していく

優しい貴方を
いびつなゴムマスクのあたしを選んでくれた貴方を
このゴムマスクのせいで苦しめるかもしれない
優しい貴方を
あたしのすべてが壊されたみたいに
壊してしまうかもしれない

耐えられない
そんなことには耐えられなかった
今ならまだ、貴方は引き返せる

だから、首を縦に振らなかった
だから、気が付かない振りをした
だから、笑ってごまかした

ねえ、知ってる?
あたし、嘘を吐くのが本当に苦手なんだよ
だけどこの嘘を見抜いた人は、だあれも居なかった
あたしはやっぱり男の子じゃなかったんだね
男の子になりたかったんだよ、このゴムマスクが憎過ぎて
こんなに上手に嘘が吐けるのは、あたしが男じゃなかった証拠

貴方の言葉に頷いたなら
あたしは幸せになれたかな

貴方の言葉に頷く夢を
真っ暗な地下通路に灯す蝋燭の炎で燃やす

冷たい雫が瞳からこぼれて
蝋燭にぽつんと落ちる
真っ暗な地下通路の底の底で
見つけてくださいと叫ぶ声を噛み殺してる

ごめんね、ごめんね
ごめんなさい
好きになったりして、ごめんなさい

また嘘を吐くから
精一杯嘘を吐くから
だから許して

せめて嘘だって気付いて
ほんとうのわたしに気付いて
それが暗い地下通路で燃え尽きていくわたしへの鎮魂の歌


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主にフィギュアスケートの話題を熱く語り続けるブログ「うさぎパイナップル」をはてなブログにて更新しております。2016年9月より1000日間毎日更新しておりましたが、現在は週5、6回ペースで更新中。体験記やイベントレポート、マニアな趣味の話などは基本的にこちらに掲載する予定です。お気軽に遊びに来てくださいね。

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