そっけない帯

お祭りに誘われたのが、嬉しかった。
メンツの中には、憧れのあの人もいる。

ちょっとでも可愛い格好をしなくちゃ。
でも、私はスタイルも悪いしTシャツも似合わない。そもそも洋服が似合わない。

そうだ、浴衣を着よう。
和服が似合うねって、よく褒めてもらえるもの。


母に尋ねてみたら、紺色に花柄の浴衣を箪笥から出してきてくれた。
亡くなったおばあちゃんが縫ったもので、ほとんど着てないんだって。

帯も、草履も箪笥の奥から見つけてもらった。
あとは、実際に着てみるだけ。

ああでも私、着付けがものすごく苦手だった。
学校の授業で習ったのだけど、どうしてもうまく着られなくて、文化祭でクラスのみんなと浴衣で踊った時も、見かねて保健室の先生が直してくれたのだった。

練習しよう。
真っ直ぐ本屋さんに向かって、着付けの本を買ってきた。

お祭りの日まで、一生懸命練習をした。
何となく、着られるようになった気がする。
そうだ、きっと大丈夫だ。


お祭りの日がやって来た。
何時間も前から、お風呂に入って、軽く化粧をして、準備をした。
大丈夫、きっとうまく着られる。


…どうしてなんだろう。
どうして何度やっても、帯が崩れてきちゃうんだろう。

しっかり締めたと思っても、ずるずると落ちてくる帯。
崩れていく浴衣の形。
時計の針は知らんふりしてカチカチと進んでいく。

泣きたくなってきた。
気が付いたら汗だくで、汗なのか涙なのかわからないものが頬を流れていった。

携帯がぶるぶる震える。
しまった、もう時間がない。
こんなに汗だくなのに、もうお風呂に入り直す余裕もない。
悔しくて泣きながら、クローゼットをあさって、適当なワンピースを頭からかぶった。


汗まみれで、髪も崩れて、この世の終わりみたいな顔をしながら待ち合わせの場所に遅刻して現れた私を、憧れのあの人は眉をひそめて見ていた。
日が落ちて街が暗くなっていくように、私の心も沈んでいく。

あんなに楽しみにしていたお祭りなのに。
盛り上がるみんなの後ろを、とぼとぼと歩いた。
美味しそうなたこ焼きの匂いに、泣きたくなった。

あの人とはもう、話をすることもなかった。
遅刻したのはもちろん私が悪いけど、冷たい眼差しに、気付いてしまったから。
一緒にお祭りに行った誰かと付き合い始めたって聞いた時は少しだけチクッとしたけれど、それっきり、もう心に風は吹かなかった。


なんだ、バカだなあ。着付けなら俺が教えてやるよ。
俺、日本舞踊も茶道も習ってたからさ。着付けならお手のものなんだ。
だって一生懸命だったんだろ?不器用なのは仕方がないよ。誰だって苦手なものくらいあるんだし。
ほら、よく似合う。天国のおばあちゃん、喜んでるぜ。

そう言って笑う君に逢えたんだから、あの苦い夏の日だって、あって良かったんだと今は思うんだ。


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