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誠実さで製品を選ぶ

使用する製品(サービス、ツール、ソフトウェア)を選ぶ際の指標みたいなものとして、私の場合は製品そのものや作っている人々の「誠実さ」を特に重視しています。人によってはこの指標が「価格」だとか「機能性」だとかに重きが置かれることがあると思いますが、私には価格の安さやポイント還元率よりもこれらが優先されます。

ITサービスなら、まずプライバシーへの姿勢を強く重視します。どんなに価格が安くポイント還元率が高かろうと、自身のプライバシーを損なうサービスはなるべく利用したくありません。裏でユーザーの行動を追跡しているとか、許可なくプライベート情報にアクセスしようとしているとか、誤操作・誤認識を狙ったようなUI(ダークパターンに該当するUI)を意図的に盛り込んでいるとか、そのようなサービスには自らの何かを預ける気には到底なれないのです。

プライバシーの扱いが誠実かどうか

私はプライバシーは基本的人権だと考えています。デジタル空間では当たり前のように基本的人権が脅かされていますが、だからこそ私はその人権意識が高く、誠実な製品を選びたい。そう考えています。

私は普段からApple製品を愛用していますが、その理由の一つは、彼らはGAFAで唯一プライバシーというところに真っ当で誠実なデザインを行なっている企業だと考えているからです。Apple製品が好みであるという点を除いても、彼らの製品を選択する理由にはこの「誠実さ」が関わってくることに間違いありません。彼らはシステムの低層からその思想を取り入れ、プラットフォームに強く反映しようと努めています。

ここで「デザイン」という言葉を用いると、一部の人々からは見た目の話だと勘違いされてしまいそうですが、ソフトウェアやサービスのシステム設計にプライバシー保護のための仕組みを盛り込むことも「デザイン」だと考えられます。近頃日本でもようやくダークパターンのデザインが注目され始めましたが、あのようなパターンの実現にはUIの表現にとどまらず、システム設計の低層からよこしまな発想を持たなければなし得ないようなものもあります。私はダークパターンを盛り込んだデザインを受け入れるのではなく、ダークパターンを積極的に排除する、ユーザーや社会に不幸をもたらさないデザインを志向している製品を選択していきたいです。

“Evil by Design”という言葉がありますが、デザインが人々に対して悪鬼のように振舞ってはならないと思います。そうでなくとも、例えば「ポイント還元率」や「安さ」「無料」というところを強く推しているようなサービスにはどうしても悪鬼の形相がチラついて見えてしまい、到底使う気になれないのです……。

罰点チェックリスト

・電話番号を収集しようとする
・意図不明瞭なまま性別や生年月日を収集しようとする
・連絡先の情報を丸ごと吸い上げようとする
・行動履歴を吸い上げようとする
・カメラやマイクから盗聴しようとする
・カメラやマイクが勝手に有効化する
・マウスカーソルの動きを追跡する
・キー入力を監視する(キーロガー)
・常駐アプリケーション(スパイウェア)で監視しようとする
・退会動線が隠されている、或いは存在しない
・登録したクレジットカード情報を消せない
・望まないダイレクトメールが送られてくる
・ログインしなければメール購読を解除できない
・アカウント作成(+規約同意)しなければメール購読を解除できない
・メール購読を一切解除できない
・SNS認証をやたらと勧めてくる
・SNS認証の際に取得しようとする権限が不必要に強すぎる
・プライバシー関係の設定が基本的にオプトアウトである、初期設定で有効になっている
・趣味や嗜好が判断できる情報が無断で公にされてしまう
・見えない広告を跳ねさせて誤操作を狙う
・広告によるモーダルビューを挟み込む
・広告を消すためのボタンがあまりにも小さい
・数秒待たないと広告を消せない
・そもそも文脈の無関係な広告を差し込んでいる
・プライバシーポリシー、利用規約を確認できない動線パターンが存在する
・プライバシー保護の宣言が実際は虚偽だった
・ユーザーの個人情報が漏洩していた
・ユーザーが利用規約に同意しているので、どのような挙動も問題ないと開き直っている
・姿勢として、製品の普及や収益化が最優先になっており、ユーザーのプライバシーは二の次になっている

「嫌な挙動あるある」を書き出していったら、ダークパターンのまとめのようなものが出来上がってしまいました……。
中でも「連絡先の吸い上げ」などに関しては、ユーザー自身のみにとどまらず、連絡先に収録されているであろう多数の無関係な人々のプライベート情報等までもが犠牲になり得るわけです。一般大衆には個人で情報の流出を防ぐ手立てがなく、社会に悪鬼を放って人々を不幸にしてしまうようなデザインには、強い憤りを感じます。

私たちにできることは、このような製品を極力使わないという選択をすることです。

ユーザーインターフェイスの作りが誠実かどうか

UIの見た目や振る舞いが整っていて、美しい。

…たったそれだけのことなのですが、私にとっては製品を選ぶ重要な指標に成り得ます。UIが汚い製品にはなるべく触れたくありません。日常の中に不快な異物が存在しているとどうしても耐えられなくなってしまう。我慢してその製品を使うくらいなら、触れていて心地のよい製品を選びたい。誠実さが製品やサービスを通じて感じられるものに長く触れていたい、データを託したい、付き合っていきたい。

そのように考えます。

A. 見た目は最近風で、他のまともな製品と同じような方法で操作することができる、躓く点が少なく快適に扱える。

B. 見た目は2000年代のようなUIだが、頑張って操作すれば問題なく機能する。

…この2つの製品があったらそりゃAを選ぶに決まってて、本当にどうしても仕方なくそれを使わざるを得ない場合に限りBで妥協します。Bを選ぶ理由があるとしたら、UIではないよほどの理由でしょう。例えば組織の決定に従わないといけないとか、機能的に代替が効かないとか、Aがあまりにも利用料金が高いとか、そういう極端なものです。

罰点チェックリスト

・UIがネイティブ実装ではない
・UIの作りや操作方法が特殊である(一般的なイディオムに則していない)
・プラットフォームのルールに則していない
・操作の結果を予測しづらい(モードが多用されている)
・特定操作に縛られる場面が多い(モードが多用されている)
・やり直しできない
・GUIの描画結果がデバイスのネイティブ解像度に合っていない
・注意書きの主張が激しい
・動きがぎこちない、不自然
・スクロール、ドラッグ、スワイプ、パンジェスチャの動きがらしくない、独自設計のイージング関数を用いている
・重要情報がわかりにくいビジュアル、レイアウト
・世界観の主張が強すぎるビジュアル
・macOSでバツボタンが右にある
・macOSで肯定ボタンが左/否定ボタンが右にある
・「貼り付け」「ウィンドウ」表記など、正しい日本語ローカライズが行われていない
・他のOS/プラットフォームの表現を流用している
・GUI要素が画像化している
・システムフォントが使われていない
・日本語テキストの中華フォント化
・日本語テキストが正しく描画されていない、不可読(はみ出ている等)
・日付、時間、通貨、尺単位等がローカライズされていない
・見た目が胡散臭い
・確認ダイアログが多い
・エラーが多い
・エラーの原因が不明
・モーダルな操作最中、確認なくいきなり確定する
・仕様上の制約が強く、特殊な操作手順が必要
・すぐセッション切れする(※セキュリティとのバランスもある)
・OSが備えるパスワードの自動入力・補完機能に対応していない
・データポータビリティが低い
・ツールがSaaS化していて、自身のデータが人質に取られがち
・アクセシビリティが低い、キーボード操作できない(人によっては扱えない)

書き出したらキリがなさそうなので一旦やめておきますが、ビジュアルの誠実さだとかローカライズへの姿勢、ユーザビリティ、アクセシビリティ、データポータビリティへの誠実さも検討したいところです。これらが積もり積もってその製品のブランドへの信頼につながってゆくのだろうと考えています。

簡単な話、「汚いUI、使いにくいUIがあると、その製品のことはほとんど何も信頼ができない」ということです。

・・・

ここ最近特に「プライバシー」と「ユーザーインターフェイス」がよくわからない方向に解釈されたり歪められたりしている気がしていて、自らの思想と価値観を改めてはっきりさせようと書いてみたところです。

「どこそこの製品やサービスは使いたくない」……なぜそう思ったのだろうと考えてみたところ、以上の二つの観点が最もしっくりきました。

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