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【小説】眠り薬

それは、あの子のような温もりで、やわらかさで、眠れない私の尖った感覚を丸くしていく。

あの子に実際こんなふうに抱きついたら、嫌がって逃げていってしまっただろうな。

私はいつも力を込めすぎる。

ぎゅうー!

やめてやめて! 痛いのやだよ!

一緒に寝たこともないのに、あの子が逃げていく様子はすぐに思いつく。

寒かろうと毛布をかけてあげても、重たいのはやだよとすぐ抜け出して、上に乗ってしまったっけ。

そのくせ寒いと、真っ先にお腹を壊すし、吐くし、呼んでも寒がって毛布のテントから出てこなかった。

くるりと丸まって、しっぽの先で鼻をおおう。ふがーふがーと息をする度に、しっぽの毛がひらひらなびいているのは、面白かったな。

でも、もういない。

あの子の温もりそっくりの塊を抱えて、私はあの時できなかった「ぎゅうー!」を思う存分する。

次第に瞬きや思考が、とろりと溶けるように緩慢になっていく。

毎晩思う。

君は、ここにいたんだ。

私は、ここにいたんだ。

君と、ここにいたんだ。

どんなに強い眠り薬も適わない。

もういない、君の温もり。

寂しいけど、消えない、君の温もり。

もし眠りに落ちた先で、君に会えたなら、もっと幸せなんだけどな。

そしたら、本当に「ぎゅうー!」をするのに。

ーー

山根あきらさんのお題「眠り薬」に参加しました。

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