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ガン患者とサメの肝油サプリ

母と祖母

私の風邪はいつものようにあっさりと治った。

母の体調は万全ではなさそうで、別の病院に行って薬をもらったと言っていた。

病名ははっきりと言わず、薬を飲んでいればすぐ治るものだと言っていた。

その後も私はバイト漬けの日々が続き、いつものように帰りが遅くなると、母は口煩く叱ってきた。前から帰りが遅かったのに今更なんでと思っていた。

季節は秋になり、母から検査入院をすることになったと告げられた。

すごく心配したが、母はただの検査だからと言っていた。

すごく心配したのは理由もあって、その頃私の母方の祖母も入院をしており、なんと母と祖母は同じ病院に入院することになったというのだ。

同じ階ではなさそうなので、母は祖母に自分が入院することは絶対に言わないように言われた。

というのも、母と祖母は長らく不仲が続いていた。

母と祖母の不仲の原因は、思い当たることといえば、姉の高校受験の話しだったと思う。

金銭的な問題から必ず公立に受かってほしいと言われており、受験日目前になっても目標としている高校に偏差値が届いていなかった。

母は学区で上から二番目の偏差値の高校に行って欲しかったそうなのだが、受験目前で急激に偏差値が上がるわけもなく、私から聞いていても無謀なのではと聞き耳を立てていた。

結局姉は学区で普通より少し下の偏差値の高校に合格し、なんとか公立に通えて併願受験の私立には通わなくていいようになった。

これで終わりだと思っていたのだが、入学してからのテストで姉が上位の成績を取ったことを、母が祖母に話したところ祖母は「そんな成績取れるなら元々受験しようとしていた高校になぜ受からなかったんだ」と言ったことに、母はとても怒りそれ以来母と祖母が連絡を取っているのをみたことがない。

祖母もそれがきっかけとわかっているのか祖母から母へ連絡や家に来たりといったこもなくなってしまった。

私は祖母が言ったことも酷いと思うが、母が実の母親でもそんなに怒るのかと、変なショックを受けた。

私は母方の祖父母のことが大好きで、よく家に遊びに行ってはお小遣いをもらったり、一緒に買い物に行ったりと、会えなくてなってしまうのではないかと不安で仕方なくなった。

しかしその後、一人で祖父母の家を訪ねては、できる限り家の様子などを話したり、祖父母と過ごすことにしていた。

その姉の高校の事件があってからというものの、おそらく6年近く母と祖母はお互いに連絡を取らず、近くに住んでいるのに会いもしていなかった。


そこで、母の検査入院だ。

夏頃に母が母の兄から、祖母の具合が悪いらしいと連絡は来ていたそうだが、母は自分で様子は見に行かずに私に祖母の様子を見てくるように頼んだ。

私は二つ返事で祖母の家に行って様子を見て来ると伝えると、祖母の家の下に救急車が停まっていた。

まさかね、と中を覗くと祖母が担架に乗せられている最中だった。

こんな偶然あるのかと思ったが、そのまま祖母は救急車で運ばれて以来、夏から秋口の母の検査入院までずっと入院していた。

祖母は若い頃に腎臓の手術をして、腎臓が一つなかったり、私が物心ついたころには糖尿病で薬をいつもたくさん飲んでいた。

具体的な病状ははっきりと覚えてないが、歳もとっていろいろな不調が併発していたようで、入院期間が長くなるほど痴呆のような症状も進行していて、お見舞いに行って話すのが辛くなることもあった。

人への攻撃的な言い方であったり、母への愚痴だったり。私も頭にくるとすぐに帰ったりしてしまっていた。


母の容態

検査入院といって少しの間入院して無事家に帰ってきた。しかし体調は万全のようには見えなかった。

家でずっと横になっているし、布団から出てきても居間で横になっている。

一度、「そこで横になってるなら布団でちゃんと寝たら?」と言ったら「布団に行っても眠れないんだ!」とピシャリと言われた。

私はだいぶ後にこのことを後悔した。


謎の携帯電話

その頃からよく母の枕元に、母の携帯電話ではない携帯電話が置いてあるのをよく見かけた。

使ってるのを見たことはないが、寒くなるにしたがってその携帯電話で誰かと話しているのを聞くようになった。

何がきっかけだったか、その頃のことはこんがらがっていてよく思い出せないのだが、姉とあの携帯電話何だろうね?という話しをしたのを覚えている。

そして引き出しからカツラのようなウィッグとブラシも見つけ、母が使っているのだろうかなんて話していた。

そして枕元にあった「サメの肝油のサプリ」これを母はよく服用していた。

母の病状はけして快復してそうにみえないし、日に日に調子が悪くなっているようにもみえる。

母がもう一度入院することになってしまったとき、ついに私と姉は父に問いただした。

母の病気

父は母は胆嚢にガンができいて、今年の夏の精密検査でわかったと。ただ思っていた以上に進行しており、姉と私に心配をさせないよう言わないでほしいと言われたらしい。

日に日に弱っていく母を見てもう十分に心配しているし、そんなに進行しているのになぜ黙っていたのかと父を責めた。

引き出しにあったウィッグはガンの放射線治療により髪の毛が抜けてしまったので購入したそうだ。

私は話しを聞きながらどこか空想の話しを聞いてるのではと、現実味が感じられなかった。

だってこんな深刻な状況なんて生まれてこのかた一度もないし、もし病気にかかっても今の医療は発達しているし、きちんと治療を受けていれば完治するものなのでは、と。

しかし、放射線治療からの髪の毛が抜けてしまい、隠れてウィッグをつけていた母という事はどうやら揺るぎない事実で、事態は想像できないほど最悪で悪条件な方向へすごい勢いで進んでいることだけがわかった。

「サメの肝油のサプリ」と「携帯電話」について父に聞いた。

思いもよらぬ返答だった。


どうやら父の話しそのままでいうと、父の会社の同僚がガンの治療に詳しい人がおり、その人が勧めてきたのがこの「サメの肝油のサプリ」だそうで、譲ってもらっているとのこと。

想像するにおそらく父は同僚からこのサプリをけして安くはない金額で購入をしていることは容易く想像ができる。

そしてその当たってほしくない想像はおおかた当たっていて、そのサプリの未開封の瓶はまだ5、6瓶はあるのも発見した。

携帯電話については、唖然とする答えが返ってきた。

謎の携帯電話はいわゆるプリペイド式の携帯電話で、父の同僚と連絡を取るため専用の携帯電話だという。

ここからも更にだいぶおかしな話しなのだが、その携帯電話に父の同僚から電話がかかってきたり、こちらからサメの肝油のサプリについてどのくらい飲めばいいのか聞いたりするのに使っているのだそうだ。

しかもそのプリペイド式の携帯電話も父の会社の同僚が「善意」でくれたものだと言っているが、そんな携帯電話なんか人にたやすく渡すわけがないので嘘だと思うし、その読みはたぶん当たっている。

父に問いただした一日で、母は実は胆嚢の癌ですでに治療で治るステージではないことと、変なサメの肝油のサプリを父は会社の同僚に買わされていること、そのサメの肝油サプリの効果と父の同僚の言うことを両親は完全に信じ切っていることがわかってしまったのだった。



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