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東京と云う街

ある日の東京。
お昼どき、まえから行ってみたかったカフェが近くにあったので寄ってみたらものすごい行列で、時間の都合もあり、仕方なく断念し適当な店に入った。

そこはガレットの専門店だった。そば粉を使った、クレープのようなフランス料理である。「東京の人はさすが洒落たもの食べてるなあ~」と思いながらレジに並び(先に注文してから席に着くスタイル)、メニューがいまいちよくわからないので、前の人の注文をまんまパクって「ランチガレット」なるものを頼んだ。
小さなテーブルにつくと、セットの枝豆ポタージュが先に運ばれてきた。
しかしスプーンがない。
皿ではなくカップに入っていたので、珈琲みたいに直接口をつけて飲むタイプ?いやしかし、クルトンが浮いている。これはいったいどうやって掬えば…と悩んでいると、隣の席の子がスプーンで飲んでいるのが目に入った。あ、やはり、忘れられている。
店員さんを呼んだ。
「あの、スプーンを…」と控えめに申し出ると、驚くことになんの返事もせずスプーンをいきなり無言で渡された。
東京のシャレオツな店、怖い…。すっかり縮こまるおのぼり。食べづらいことこの上ないガレットは、具の部分はまだいいが、薄くのばされた生地の端部分はナイフを駆使して折り重ねても、フォークがうまく刺さらない。力の入れすぎでフォークを持つ左手の第一関節が激しく痛んだ。

窓際席にはカップルがいた。「なにかの収録?」と勘ぐってしまうような、ものすごくわかりやすい「お金を持っていそうなスマートなおじさんときれいな女子大生風」カップル。モデルさんのようにすらりと伸びた手脚とふんわり巻いたロングヘアで、高く、甘やかな声でもってまったく中身のない話(聴きたくなくても耳に入る)を延々と繰り広げている。ワンピースも期待を裏切らない小花柄。
「あざとい女子」って言葉は知っていたけれど、そんなの実在しないだろう。と思っていたが、東京にはまじでいるんだな……。つくづくすごい街である。
そんなふうに人間観察をしながらランチを終えた。

はじめて東京に行った日のことを覚えている。
高校2年のとき、友人Rと、当時ふたりが夢中になっていた某インディーズバンドが新宿コマ劇場公演をやるので観に来たのだった。ついでに、できて間もない頃の三鷹の森ジブリ美術館や、東京の美大見学にも行った。

私にとって、それは親と一緒ではない初めての旅行だった。東京のキラキラした飲食店に気後れし、滞在中の食事はもっぱら、マクドナルドばかり行った。新宿は先入観もありちょっと怖かった。ゲームセンターで記念にプリクラを撮っていたら、外国人のグループに話しかけられた。本能的に逃げ腰の私に対し、友人Rはフレンドリーに応対していて、そんなささいな感覚の違いから大喧嘩になりせっかく楽しみにしていたライブの前にも関わらず、気分は最悪。お互い「こんな奴と一分一秒一緒にいたくない」と思っていたはずだが、かといって単独行動をする勇気もなく、雨の降る薄暗い新宿の街を、微妙な距離をあけてふたり無言でとぼとぼ歩いた。数時間後には、喧嘩のことなどすっかり忘れてキャーキャー手を取り合ってライブを楽しんだのだけれど。

今ではなんだかんだ、年に1、2度は東京に来る。しかし新幹線が品川にさしかかるあたりで急に大きくなるビル群には、今でもビビる。色々な刺激をもらえて楽しいし、美術・博物館がたくさんあるのはすごく羨ましいけれど、「ここには住めないなあ~」とも毎回思う。

ちなみに、あのとき新宿の街で大喧嘩した友人Rは、東京の会社に転職して、もう5年以上この街に住んでいる。
尊敬である。
「あの時はごめん」と、今度会ったら謝ろう。


(トップ画像は、上野公園で雀が砂遊びしているところ。)




今週もお読みいただきありがとうございました。
皆さんも、東京にまつわる思い出はありますか?

◆次回予告◆
『ArtとTalk㉝』最近行った展覧会の話

それではまた、次の月曜に。


*宇佐江みつこのいろいろよみきり。その他はこちら↓



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