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京都好きな母と、グダグダふたり旅。ーおでかけがしたい。⑯ー


旅や散歩にまつわるエッセイ+写真のシリーズ『おでかけがしたい。』第16回。

今回は、京都好きな母と桜咲く・春の日帰り旅。
仲の良い母と私だけれど、ふたりきりで旅行するのは、ある理由から今回が初めての経験だった。

早朝、母と新幹線に乗る。名古屋から京都まではすぐなので、発車前から駅弁をひろげだすふたり。
「いつもと違うとこで買ったけど、これおいしい」と隣で春限定弁当を食べながら母が言う。
「お父さんはね、いつも『天下とり』っていうおっきなお弁当が好きで、名駅めいえきで必ずそれを買ったの。で、京都に着くころにはおなかいっぱいなのに、着いたらまたチーズトーストとか食べてた」
「へえ~」

先日父が亡くなった。
ここ数年は病との戦いで、「そろそろ疲れたわ」とでも言うような、唐突だけれどどこか安堵したような亡くなり方だった。葬儀後、母のために、私は大荷物と猫2匹を抱えて実家へ引っ越した。父なきあとの七面倒くさい手続きを母とふたりで協力し合い、生活を整えて色んなバタバタがようやくおさまって来たころ出かけたのが、今回の京都というわけである。

京都は昔から父と母が頻繁に訪れていたお気に入りの旅先だった。私も子ども時代含め幾度か同行したことがあるけれど、そのときは家族全員だったり、父母私の3人で。
昔からどんなときも父と母はセット。従って「母と私のふたりで外出」という機会そのものがほぼなく、入院などで父が不在がちになって以降ようやくそういうシチュエーションが増えた。

「これだけ始終京都行っているんだから、今回はぜんぶ任せよう」と、母の行きたい場所へ盲目的についていくことを決めていた私は、事前の下調べを一切せず京都駅に辿り着いた。

「まずコーヒー飲もう」と母に腕を引かれ、連れていかれたのは京都駅に直結している地下街。ずんずん進みながら、母。「ドトールにする?スタバにする?」

ドトール…?スタバ…?

いや、もちろんおいしいし全然いいけれど、京都ならではのお店じゃなくていいの?と思った。が、どうやら父ともいつもそうだったらしいので、席の空いていたスタバに入る。
「ああ、おいしい」と、スターバックス ラテを飲み干す母。
「じゃ、行こうか」。

京都駅は平日にも関わらずものすごい人混み。バス停にも長い長い列が出来ている。「いつもバスの1日乗車券を買うの」という母の指示どおり、1日乗車券を2枚購入し、バスに乗った。
母の予定では「とりあえず北野天満宮行って、それから仁和寺」らしいので、北野天満宮方面のバスに乗る。
ところが、なんだか、全然辿り着かない。
「お母さん、このバスでほんとに合ってる?」
「あってるよ、けっこう遠いの」とのんびり母は車窓からの景色を眺めて「こうやって京都の街を見ているだけでも楽しい」。
まあいいか。
しかし、「北野中学前」「北野白梅町」と、北野天満宮リーチみたいな駅名が続いたので、そろそろ!と期待してからさらに数個のバス停を見送った。
「え?なんか知らない道に入っていくね」とようやく異変に気づく母。
「やっぱり違うんじゃないのこれ?さっきの北野白梅町で降りないといけなかったんじゃない?」とこちらも今更路線図を広げる私。
そうこうしているうちに、2ヶ所目に訪れるつもりだった仁和寺にバスが着いてしまったので「降りよう」と、あわててバスを降りた。
「まあいっか、先に仁和寺でもね」
とおおらかに母が言うので私も付いていく。
どこも桜がきれいに咲いており、庭園がとても立派だった。

仁和寺からバスで、今度こそ北野天満宮へ。
お参りの前に「ここは必ず行く」と母が宣言していた粟餅やさんに入る。できたてで、おもちがほんのりあたたかい。

北野天満宮は前回、父母と3人で京都に来たときも訪れた。「あれは何年前だっけね?」すでにマスクをしていた気がするから、2年前くらいか。去年は父の体調が安定せず、いちども京都に行っていないという。晩年はテレビで京都が映ると
「ほら、お父さん京都だよ」って母が教えても、
「どうせもう行けないから見たくない」
と言っていたという父。

前回父とふたりで写真を撮った、北野天満宮の「撫牛」前で母に写真を撮ってもらった。父と私は丑年仲間。おみくじをひいたら大吉で、かわいい牛が付いていたので、帰ったら父の写真の前に置いてあげよう。

行き当たりばったりな行程が祟り、お昼ごはんを食べたらもう帰りの電車まで2時間しかなかった。
ちなみにお昼も、京都の名店「東洋亭」が激混みだったので伊勢丹の上階にある、地元のショッピングモールでも行ける全国チェーンのとんかつ屋に入った。けれど母いわく、そこも父とよく来ていた店。
「いつもはあのへんの席によく座った」。
その後は清水寺に行くという案も出たが、帰りに551の豚まんを買いたいという私の希望を叶えるためには並ぶ時間も考慮して、結局、父の好物だった河原町の「ロンドン焼」を買いに行っただけで再び京都駅に戻り、無事豚まんをゲットしたあとの時間はミスタードーナツでお茶をした。こんなところにミスドがあるんだ、というような場所で、もちろんここも「帰りにお父さんとよく寄ってた」。

旅先でも臆することなく全国チェーンを利用できるって、家族や親しい関係ならではだよなあとあらためて思う。

しかし、ずっと行きたがっていた京都なのに、仁和寺と北野天満宮とロンドン焼だけで終わってしまって母はほんとに良かったのかな?
そう思いながら名古屋に帰り、バス停からてくてく家まで歩いていると

「ああ、楽しい旅行だった」

と母がつぶやいたので、「そうだね。また行こうね」と私も答えた。





今週もお読みいただきありがとうございました。
先週配信した直後の予告とは違う内容になってしまいましたが、今回のお話を桜の時期のあいだに載せたかったので、何卒ご容赦ください。
皆さんは、ご家族とどんな旅行をしますか?

◆次回予告◆
元葬儀屋の娘、父の葬儀を手配する。

それではまた、次の月曜に。


*宇佐江みつこのおでかけは、浅くて深い。


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