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学校の広報をアップデートする #2 情報の主体は受け手にあることを自覚する

この記事では、元学校教員だった私が、学校の広報をよりよくするために考えたことをシェアします。

前回は「#1 情報が届かない現状を知る」というサブタイトルで、学校から発信される情報はとても届きにくくなっているという話を長々と書きました。

今回からは、もう少し実務的な面から、事例をもとに学校の広報をより良く見せる(魅せる)ためのポイントを考えてみます

第2回は「情報の主体は学校ではなく受け手にあることを自覚する」こと。

学校から発信される情報は外の人にはどう見えるのかを意識するだけで、全く同じ内容を発信するとしても、受けた印象が大きく改善できます

では早速、見てみましょう。

あなたはどう見る? 学校の連絡

まずは下記の画像をご覧ください。これは新型コロナ対応に関するある小学校で実際に送られてきた連絡です(我が子が通う学校からきたものです)。配信方法はメールとLINEで、内容は同じです。

まずはこちらをみて、あなたが保護者だったらどんな印象を持つか、想像してみましょう。次に、その印象は何が原因なのか、思いつく限り挙げてみてください。

画像の次に、考察を書きました。ある程度頭に思い浮かんだところで、次を読んでみてください。

20200505_学校連絡01

20200505_学校連絡02

受け手は情報の「印象」に注意を払う

どうでしたか?

ちなみに、私がこの連絡を受けて瞬間的に思ったことは、

「あー・・・、ハイハイ、5/8(金)まで学校休みなのね」

でした。それ以上でも、それ以下でもありません。少なくとも伝達内容はしっかりと伝わりました。ただ、人によってはそれ以上の情報を受けていることと思います。

我が家は子供を学童保育に預けることができる状況なので、学校がなくても子どもは建物としての学校には行きます。でも、もし子どもが自宅にいて仕事ができない働くお母さんの立場だったらどうでしょう。学校に対して冷たい印象を感じたり、腹が立ってきたりもすると思います。「だから公務員は……」と罵りたくなる人が出てきても不思議ではないでしょう。

以上、様々な印象を受けると思いますが、共通点を挙げるなら、この連絡には学校への信頼感が増す要素が微塵も感じられないところが一致します。

改めて先ほどの連絡文章を見てみましょう。今度は私が気になった部分に印を入れました。

20200505_学校連絡03

私がもし連絡文を書く人間だったら、絶対に書かない!と思う単語が1つあります。

冒頭の「通常連絡」です。

新型コロナウイルス感染拡大という未曾有の状況下であることを考えたら、各家庭で様々な困難を抱えているだろうということは容易に想像できます。全くもって「通常」でないのだから、この言葉を読んだ瞬間、「はぁ!?」と思われても文句が言えません。

おそらくこの「通常連絡」という言葉は、台風接近や地震発生といった「緊急連絡」と区別するためにあると推察されます。が、その区分は学校が定めた区分であって、読み手の文脈とは全く関係ありません。

次に「学校ホームページにアップしましたので、ご確認ください」のフレーズです。

本当に確認して欲しければ、URLを付ければよいのに、なぜかそれをしていません。ここから受ける印象は「私たちはちゃんとやることをやっている」という言い訳です。伝えたい情報があるのに、その導線を用意しないのは、伝える気が本当にあるのか疑う余裕を作ってしまいます。

そして最後は「質問を受け付けない」という言葉です。このメールには、家庭で困りごとがあるときに学校へ連絡する術がどこにも書いていません(その代わり、連絡をちゃんとみたことをフィードバックするためのURLや連絡先が書いてあるだけです)。

ちなみにLINEには電話番号も書いていません。既読を確認すれば済むから記載しなかったのでしょう。

とどのつまり、この連絡は一方通行な情報連絡なわけです。学校にとって重要なのは、ちゃんと届いて読んでもらったかどうかだけ。少なくともこの連絡からは、家庭の保護者や子供がどういう状況なのかを知ろうという姿勢が全く見えないのです。

私の教員経験から言うと、学校との連絡の取り合いは、実際のところ「超」がつくほど大変です。子供にとっては先生は1人だけど、先生から見たら30〜40名と保護者ですし、中には様々な理由で何度も根気よく連絡を取り合わなければならない家庭も存在します。精神的には、授業をやるより何十倍も大変です。

ですが、家庭との信頼関係を築く上では、今回のような特殊なケースの場合には、最低でも「いつでもコミュニケーションは取れますよ!」と言う姿勢だけでも見せておくほうが、保護者から見たら安心につながります。コロナ影響が年度始めと重なったこともあり、家庭の状況を十分に把握できていない学校が多いと思います。だからこそ信頼関係の構築は今まで以上に重要になるでしょう。そういった姿勢が連絡からは感じ取れないのは残念なことです。

以上の指摘は、全て情報の受け手からみた「印象」の話です。学校にしてみれば、指摘したような印象を与えるつもりはまったくなく、短い文章で必要な情報を端的に伝えただけでしょう。しかし、情報の受け手である保護者にはいろんなイメージを彷彿とさせる余裕が、先ほどの連絡にはたっぷりあります。

「そんなことは文章には書いていないのだから、私たちのせいではない」という意見もあるでしょう。論理的には全くもってその通りです。しかし、そのような発想に至る場合は、「そもそもなぜ広報(連絡)をするのか?」という目的に立ち戻ったほうが良いです。決して、ただ無味無臭で情報伝達したいわけではなく、学校広報には保護者や地域との信頼関係を築くという目的があるはずです。

なぜ「印象」が大事なのか?

正しい情報だけを伝えると、「印象」という余計な情報を受け手が自由に解釈できてしまう危険性があります。

しかし、なぜ情報の受け手は印象からいろいろなことを想像してしまうのでしょうか。

これには明確な答えはありませんが、いくつか推論することは可能です。

まず、前回の記事でも紹介したように、私たちは今かつてないほど多くの情報にさらされているという実態があります。自分にとって必要な情報を読み取るために時間をかけることがあまりできません。感染症対策のように、日々情報が新しくなり、先々の不安や悩み、ストレスを抱えている状況下では尚更でしょう。

次に、そのような余裕のない状況下で、人間はより直感的な速い思考モードが強くなります。

行動経済学ではよく、「速い思考」と「遅い思考」という2つの思考モードが取り上げられます。心理学者のキース・スタノヴィッチ氏とリチャード・ウェスト氏が2000年に発表した論文で、論文の中では前者の思考はシステム1、後者の思考はシステム2と呼ばれています。

特に今回注目したいのは「速い思考」です。こちらはより直感的で、無意識に行われる思考(つまり考えていない思考)です。印象を感じ取ったり、連想したりするのには長けています。逆に「遅い思考」は論理的思考を得意としますが、考えるのには注意力が必要になります。

学校連絡の場合、文章を考える側は間違いなく「遅い思考」を使っているはずです。ところが、情報の受け手側は「速い思考」で最初さらっと捉えます。ですから、どこでも書いていないことまで読み取ってしまい、容易にバイアスが生まれてしまいます。

思考と意思決定についてもっと知りたい人は、ダニエル・カーネマン氏の『ファスト&スロー』がおすすめです。

【解決策】 感情に寄り添う言葉を付け加える

情報の受け手の「印象」を意識するだけで、より良い連絡文を考えることも可能になります。

今回の場合は、比較的簡単です。

読み手が一番注意するのは冒頭ですから、悪い印象を与えかねない「通常連絡」は削除します。そして、本文の冒頭に「新型コロナウイルス対策で、保護者の皆様におかれましては、さぞお子様の成長に不安を抱えていることでしょう」と付け加えるのです。

情報の送り手が、受けての感情を先読みして、先出しするのです。こうすることで、他の感情が逆に連想しにくくなります。

さらに付け加えるなら、末尾に「お子様の学習や生活でご心配がございましたら、お手数かけますが担任まで気軽にご連絡ください。学校でできることには限りがありますが、ご家庭に寄り添ってまいります」と付け加え、連絡先を付け加えます。

ポイントは「寄り添う」「なんでもできるわけではない」という2点です。実際に質問するかしないかにかかわらず、家庭のことを心配してくれているんだという気持ちが伝われば十分でしょう。

ちなみに、付け加える連絡方法は、電話やLINEだと時間を拘束されるので、メールフォームに返信方法を指定できるようにしておくとより良いでしょう。文章を書かせる思考は「遅い思考」ですので、電話やLINEよりも冷静に自分の意見をまとめることを促せるという利点もあります。

おわりに:学校広報をコミュニケーション手段として捉える

繰り返しになりますが、今世の中の人は膨大な情報に晒されています。ただ伝えるだけではスルーされたり、全く違う解釈で取られてしまうことが日々あちこちで起こっています。学校も例外ではありません。

特に学校はたくさんの連絡を保護者にしなければならない場面があると思います。その情報を整理したり、整理までとはいかなくても感情に寄り添うだけでも信頼感は生まれます。

特に今後のwithコロナの時代では「直接会って話せば分かる」がいよいよ困難になってきます。オンラインで話すこともできなくはないですが、より重要なのはこれまでの広報のあり方です。

ぜひこの機会に、情報の受け手である保護者や地域から学校がどのように見えているのか客観的に捉え、改善を目指してみましょう。

最後まで読んでくださってありがとうございます!