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『反転授業』は子どもが学校に行けない今こそ教育者が読むべき本

感染症という脅威で子どもが学校に行けないという今こそ、「学校」を学習環境としての装置の一つに過ぎないということを認識し、他の学習環境とコラボを考えて社会の学びをアップデートしようという機運が高めたい!!

というわけで、今回はそんな今こそぜひ読みたい本を紹介します。2014年に出版された翻訳本『反転学習』です。

反転学習とは?

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執筆者のバークマン氏とサムズ氏はもともとは高校化学の教員。2007年に講義を動画撮影して、授業を欠席した生徒に視聴させることで「講義を受けること」そのものを宿題にしました(だから「反転」)。そして、学校の授業では探究学習やプロジェクト学習(PBL)を行ったところ、生徒の学びが深まりました。

YouTubeのサービスが始まったのは1年前の2006年。当時YouTuberという言葉もまだなかった時代に授業のやり方をひっくり返すという発想と実行力は、今読んでも驚愕です。まさに元祖・教育系YouTuberな訳です。

監修者の一人である山内洋平氏は学習環境デザインの研究者で、この反転学習を日本に広めた一人者です。日本ではドコモが提供しているeラーニングに「gacco」がありますが、動画視聴で講義を見て、希望者にリアルのディスカッションに参加してもらうスタイルはこの反転学習からきています。

オンラインコンテンツの視聴だけでは学びは深まらない

ところで、新型コロナウイルス感染対策として2020年3月頭から全国大半の小中・高等学校の臨時休校が始まり、それを皮切りに様々な教育系オンラインコンテンツの無料配信が始まったことで、今まさにオンラインを学習環境が注目されています(ただし、本当に子どもに届いているかどうかはまた別の問題として横たわっているわけですが・・・)。

オンラインの学習教材は、動画視聴の他にもゲーミフィケーションを取り入れた飽きにくい教材やAIを謳った学習コンテンツなど様々あります。一つひとつ確かに工夫されていて、適材適所に利用すれば学習効果はあると思います。

ただ、ちょっと立ち止まって考えたいのは、それって本当に「深い学び」になっているかどうかというところなんです。

オンライン学習にしろ、通信教育にしろ、子どもにしろ大人にしろ、自主学習で最も問題になるのは学習意欲の持続です。先述したゲーミフィケーション教材は、普段あまり学習習慣のない子どもはゲーム感覚にできるので学習が継続します。ただしあくまで外発的な動機づけ、ゲームの報酬を目的としているに過ぎません。ゲーム形式ではない学習にジャンプするためには工夫が必要です。逆にもともと学習習慣のある子どもにそのような教材が渡っても興醒めしてしまいます。

いわゆるAIによる子ども一人ひとりに最適化された学習コンテンツも、1950年代に生まれた項目反応理論という正答確率モデルを自動化したものが多く、ざっくり言ってしまえば「すごく高機能な公文式」、つまりドリル学習の進化系です

小学校高学年くらいになると公文をやめて学習塾に鞍替えする人は一般的に多いですよね。ドリル学習は確かに基礎基本となる知識や技能(漢字や四則計算、単語の暗記など)には優れた学習方法ですが、高度な思考力の育成には不向きですので、学習方法を変えるのは理にかなっているわけです。

ところが、保護者の中には、知識をたくさん覚えることが勉強だと今でも信じている人がいます。これはある程度仕方のないことです。今の小学生の親はまだギリギリ詰め込み教育を受けた世代なので、学習観がアップデートされていないと、とにかくドリルをやらせたり塾に行かせればいいんだという発想に陥ります。ここにドリル系のオンラインコンテンツが被さると、かえってその信念が強化されてしまうという人がいても不思議ではありません。

教育者はオンライン学習コンテンツをどう活かす?

ただし、オンラインコンテンツを私は否定したいわけではありません。オンラインコンテンツのメリットとデメリットを正しく理解し、うまく利用すればいいだけの話なのです。

同様に、リアルな学習環境、つまり学校にもメリットとデメリットはあります。冒頭のバークマン氏とサムズ氏は欠席で学校に来れない生徒の存在が反転学習誕生のきっかけになりました。

日本も今、学校という装置が役に立たない状態です。子どもの保護という観点でニュースでは小学生や中学生の方が取り上げられやすいですが、高校生は今何をしているのでしょう。自ら学んでいるでしょうか? もし学んでいないと見えるとしたら、そこが日本の学校という装置の現場の課題でしょう。

現在起こっているオンラインコンテンツによる学習素材は、エデュケーターが学習環境の認識を拡張させる上で絶好のチャンスです。どうやったら学校の外にいるときも子どもの持つ時間を学習に生かせるのか、考えてみませんか?

・・・というわけで、今回は『反転学習』という本を紹介しました。詳しい中身はほとんど紹介しませんでしたが、エッセンスだけでも伝わったら幸いです。

社会構成主義アプローチと反転学習をセットにしよう

最後に、もう一つ本取り上げます。合わせて読むと「学習とは何か?」の理解が深まる本として、『アクティブラーニングのための心理学』を紹介します。

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冒頭で反転学習の原著者たちが「学校の授業では探究学習やプロジェクト学習(PBL)を行った」という話をしましたが、反転学習で生徒の学びが深まった直接的な理由はコチラにあると考えられます。

なぜ探究学習やプロジェクト学習が良いのか。それをより深く理解するためには社会的学習理論や社会的構成主義アプローチと呼ばれるものを関連づけてインプットすると良いでしょう。

ちなみにこの本をおすすめするのは、結構コンパクトで短時間でも読めるから、という利便性から来るものです。全体をまず俯瞰するには最適です。参考文献もしっかり載っていますので、もっと詳しく知りたい方は参照してみてください。

最後まで読んでくださってありがとうございます!